
夏に購入した「太陽にほえろ!」1984年版DVDを見終わりました。同番組は1972年から放送が開始され、1986年に放送を終了しました。すでに1972-1983年と1985年版は入手しています。以前にも、「1984年はプレバブル」と
考察ブログ1と
2を書きましたが、今回は改めて「1984年は後のバブル期の変革が始まった時期」であることを確信しました。
今回は、1984年よりも前と後のこの番組が描いていた、世間の違いをまとめてみました。
1.若者の描写の違い(625話、629話)
若者が犯罪に巻き込まれたり、犯人になったりする話が多数あります。特にこの番組が黄金期だった1976-1978年は、「地方から東京に来て、孤独から犯罪に手を染めてしまう」など、孤独や貧困を動機とした事件が多数描かれています。
一方この時期になると、「若者は基本的に概ね裕福か普通に暮らせて」おり、生活の安定から来る自由方便さが犯罪につながるような描写が垣間見えるようになってきました。なお、1980年代初めにいた「ツッパリ」は、かなり減少しています。
2.働く女性の増加(600話、625話)
事件に関連する既婚女性は、それまで主婦業ばかりでした。しかしこの年からは、近所のスーパーなどでパート社員として働く人が増えてきました。また未婚の女性でも、それまでは銀行員や事務員ばかりだったのに対し、都内のおしゃれな喫茶店で働く人も出てきました。
3.人間カースト制度(625話)
学級内で差別されるカースト制度のはるか前、この時期に人を差別する制度が始まっていました。この少し前から、性格や趣味が明るいか暗いかの「ネアカ、ネクラ」で人を区別するようになっていました。
この話では、鉄道を趣味とする男性を交際中だった女性が「ネクラ」と評価して別れた結果、男性は無差別に女性を殺害しました。
4.エアロビクスの伝来(617話)
この年には、ロサンゼルスオリンピックが開催されています。初の商業オリンピックで、当時のCMでは「オリンピック公認」商品のものが多数放送されました。いわゆる「スポーツ」「スポーツ用品」はこの時期に多数導入されています。中でも、レオタードを着てレッグウオーマーを履き、洋楽などの音楽に乗せて踊るエアロビクスは、若い女性のスポーツとして急速に拡大しました。
5.女性大学進学率上昇(629話など)
男性の大学進学率は、1973年の第一次オイルショック以降、伸び悩みます。一方女性の大学進学率は、無関係に上昇していきます。この頃から女子大生ブームが起こり、作品中にも多数登場するようになりました。
特に629話では、「地方の比較的裕福な家に産まれた女性が、「結婚するときにより良い相手と結婚するための箔をつけるために」東京の大学に進学した。」というセリフがありました。
おしゃれや箔や遊ぶなどの理由があったとはいえ、女性の学力向上(?)が進み始めた時期だったようです。
6.不思議ちゃんの台頭(615話)
松田聖子をきっかけとした1980年の「ぶりっ子ブーム」、Drスランプアラレちゃんをきっかけとした「不思議ちゃんブーム」により、この番組にも不思議ちゃんが出てきました。スナックで「アラレ」と名乗っている女性ですが、街中でもアラレ帽子に黒ぶち眼鏡、演技ながら真ん丸にした目ととがらせた口により、アラレちゃんの雰囲気になっています。
当時、漫画のようなしゃべり方をする女子大生やOLが多数いたとかいなかったとか。
7.心の変調と犯罪(604話、621話)
それまでの事件では、貧困や孤独などが動機になっているものが多数を占めていました。しかし、この頃から「ストレス」などの新語が出てきました。604話では戦場専門カメラマンが撮影を続けるうちに頭がおかしくなり、突然無差別殺人を始める様子が、621話では難病にかかった男性が、最期に花を咲かせるために刑事に決闘を挑みます。「心の変調」というものが認識されるようになってきた時期と考えられます。
8.コンピューターの導入
石原良純演じるマイコン刑事が、11月に登場します。事務用としては、当時は、ようやく企業に導入されたかどうかの時期です。
ところがコンピューターの使用方法について、脚本家も監督も俳優自身も、まだまだ分からなかった時期です。例えば、「これまでの同種の事件の犯行場所、時刻、方法」などをコンピューター内に入力すると、コンピューターが画面に「ツギノハンコウゲンバハ、〇〇」と表示するようなものです。
現代のAIでも無理な芸当で、それこそ宇宙戦艦ヤマトに登場するロボットの、「アナライザー」などを意図していたようです。劇中の取り扱いも、マイコン刑事は人間を相手に出来ないような半人前で、成長するにつれてコンピューターに頼らずに捜査を行っていく、というものでした。
余談ですが、コンピューターに対する多くの人の見かたは1990年代末まで続き、「コンピューターに仕事のことを聞いているようだと、まだまだ半人前」という風潮がありました。日本のデジタル化は、このように遅れて行ったのです。
9.女性のおしゃれと「都会化」という価値観
いつの時代も、女性にはおしゃれが重要なテーマです。第一次オイルショック以降後退していたおしゃれについても、この時代に再び進化をしていったようです。
特に主人公側の「マミー刑事(20歳代後半、演じている長谷直美はファッションモデルの経験あり)」は、前年まではまるでおばさん臭い地味なファッションと髪形でした。しかし、ショートヘアにしつつ明らかにシャープな印象となり、むしろ若返った印象になりました。
それまでの時代は、未婚女性がおしゃれをすると「不良化」、既婚女性や再婚を望む女性がおしゃれをすると「男をたぶらかそうとしている」などと評価されたものですが、少しずつ時代が変化してきたのかもしれません。
10.まとめ
当時の記憶を振り返っても、1984年は年の初めと終わりを比較しても、豊かになっていった印象があります。また、「おしゃれ化」「都会化」の価値観がはっきりし、都心と郊外の文化的な差も感じるようになりました。そして来る昭和60年(1985年)代は、間違いなくコンピューター時代になると感じました。
ただし、番組としての太陽にほえろ!は、その他の番組と比較して時代遅れ感が出てきてしまいました。この年と言えば、「うちの子にかぎって」「スクール☆ウォーズ」などが流行り、刑事ものは「古臭くてカッコ悪くてまじめでつまらない」と言われ始めていました。思えば、「女性の発言が優先される時代」の始まりだったと思います。
Posted at 2021/10/24 00:50:31 | |
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