
アルバイトの記憶 スペード社シリーズ
3月になって追い込みの時期になると、ちょっと変わった便が出てくるものです。3月初旬だったような気がしますが、ある朝、いつものように午前8時半頃に詰め所に入ろうとすると、監督社員さんが私に声をかけてきました。
「君に頼みたい仕事があるから、声をかけるまで待機しているように。」
私も周囲の人も単なる学生アルバイトであり、私にだけ特別な技術があったとは考えられませんでした。このように言われてしまうと、いったい何をさせられるのか、疑心暗鬼になってしまいます。この日も皆さん、いつものように各方面便を受け取って集配業務に向かっていったのですが、私は確か9時半頃まで待機していました。
そして監督社員さんから、
「東京都青梅市の突発便に行ってほしい。しかも出来るだけ速く行って、昼食も摂らずに速く帰ってきてくれ。」
とのことでした。青梅市など宿泊が必要なところでもなければ特急電車などで行く場所でもなく、「この仕事のどこが私しかできないのだ?」と疑問に思うのでした。しかしどうやらクレーム間際案件だったようで、別のアルバイトで接客をしていた私以外の人が行くとトラブルになりそうなことと、他の多くの人は昼休み分社外で休憩して業務をしていたので時間がかかってしまいそう、というのが理由だったようです。
早速電車を乗り継いて、たぶん11時15分頃に到着したように思います。文句の一言も言われるかと思いきや担当の方はにこやかで、無事品物を受け取りました。そこから早速帰途につきますが、乗り継ぎの都合で立ち食いそば位は食べる時間をとれそうでした。そばのように出汁たっぷりのものは食後に匂いそうなのと、乗り継ぎ時間があったといえど食事をとらないよう指示を受けていたので、バカ正直に駅では何もせずに待って帰りました。
確か帰社したのは14時頃だったと思います。監督社員さんからも職長からも感謝をされましたが、感謝されるほどのことではありません。それよりお腹が空いて空いて。力が入らず倒れそうでしたので、許可を取って弁当でも買いに行こうとしましたら、新宿への突発便が発生したとの連絡を受けます。矢崎さんと私の二人しかいない詰め所でしたが、矢崎さんは
「ああ、これは〇〇ビルの近くだね。」
というだけで、椅子に根が生えてしまったのか動こうとしません。
私は、
「では私が行きますよ。新宿駅で寄り道をして立ち食いそばでも食べてきます。」
と、出発しようとしたのですが、矢崎さんは、
「それが良いよ」
と言うだけでした。本当に椅子に根が生えていたのです。こちらは空腹で仕事から帰ってきたというのに、相当なふざけっぷりです。
新宿駅に着きましたが、やはりそばつゆは匂いが残りそうなのでそのまま指示先へ向かいました。指示先は初めての取引先なのか、責任者の方は部下に、
「おい〇〇君、商品を渡しただけだと理解してもらえないだろうから、色々説明してくれないか?」
と部下に指示、その部下の方は私を担当正社員だと思い、丁寧に説明してくれました。説明されても私はどこにも伝える手段がないので、申し訳ない気持ちでした。しかもそのビルにある喫茶店でお茶をご馳走してくれるという丁寧ぶりです。ケーキセットでも頼んでくれるかと思いきや、お茶のみでした。それにしても、空きっ腹にレモンティーは、さらに空腹感を強めてくれるものです。1時間弱ほどしてようやく解放してくれましたが、思わずその会社の社員食堂で食べていこうかと思ったほどですが、やめておきました。
そして多分16時近くになって帰社したのではないでしょうか。詰め所には矢崎さんと髪もじゃ男さんが、経済談義をしていました。すると職長がつかつかとやってきて、
矢崎さんを怒鳴りつけたのです。
Posted at 2025/04/02 23:59:59 | |
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