
アルバイトの記憶 スペード社シリーズ
前回のお話しでは、野比さんや三田村さんがお嫁さん枠を選ばなかったことや、家具屋さんが一般職の道を選ばざるを得なかったことを書きました。今回は話を少し前に戻し、秋から冬にかけての、私に近い部分の変化を話します。
1シーズン目にいた人たちを見ると、多くは学校のサークルやゼミ、あるいは友達同士、中には親族同士で応募をして勤務をしていました。とはいえ仕事場ですから、「友達とおしゃべりをしながら共同作業」となることはほとんどありませんでしたので、勤務し始めの障壁を下げるためにそうしていたのでしょう。公募で応募した私は一人で勤務をはじめ、仕事中も一人で行い、繁忙期終了まで勤め上げました。
以前にも書いたように、勤務はじめは詰め所に人が多すぎ、立って仕事を待つほどでしたが、勤務終了頃には椅子が少し余るほどとなり、職場も自然減に任せている様子がうかがえました。勤務初期はそれでも人が足りず、どんどん雇ってはどんどん人が辞めていくという、まるで「穴が開いた風呂に水をためる」職場の様相を呈していたのです。
そんな職場でしたから、公募とは別に紹介でも人を採用してくれるのではないかと思い、夏頃に私はまず監督社員へ許可を取りました。
「監督さん、毎年人が不足しているようですが、友達を呼んでも良いですか?」
と聞くと、
「おお、良いよ。ぜひそうしてくれるかな。」
と、快諾してくれたのです。
まず、通っている学校の掃除部の周りの人に聞きました。同じ授業をよく受けている岸部さんと羊さんに聞くと、
「え~?その場所は遠いよ。それに、知らないおじさんと話す必要があるんでしょ?そんなのめんどうくさくて、嫌だよ。」
と、つれない様子です。さらにイソップさんにも声をかけたのですが、彼は学校の近くで他の人たちとシフト制で働いているようなので、これまたダメでした。
次に、私が掃除部の上級生たちに声を掛けます。古漬さんとブレッドさんは、やはり家から遠いことと知らないおじさんと話すのは嫌ということで却下、トンネルさんは家業を手伝うという理由でこれまた却下、松梅井さんという方は、「そんな合わなさそうな人と働くのは嫌だ。」とすら言いました。全滅です。
方針を変えて高校の同級生に声を掛けますが、つながる手段が希薄な当時故、この時点でのつながりは、コマンダーさんだけでした。コマンダーさんは快諾、さらに私とはつながりがなかったものの、コマンダーさんと当時親しかった王様さんも来るとのことになりました。
私の知り合いが増え、既存の職場の人たちとも親しくなれるような「甘っちょろい」期待をしていた私ですが、急速に事情が変わっていきます。
時は流れて冬休み期間になりました。秋の時点では快諾してくれていた監督社員さんに、念のためもう一度
「友達をアルバイトとして呼ぶ場合には、ここに直接連れてくればよいですか?」
と聞くと、
「ああ、そうして。コマンダーさんと王様さん?そんな人たちが来たら、僕たちの方が使われそうだなあ。ハッハッハ。」
と、何とも穏やかな雰囲気の返事です。
そして年が変わり、確か1月20日前後の朝に、コマンダーさんと王様さんを連れて職場へ行きます。監督社員さんのところに紹介に行くと、まるで「なんとまた勝手なことをしてくれたんだ。」とでも言いたげな憮然とした表情になり、別の部署へ彼らの使い道がないか聞きに行くという状況になりました。
そしてコマンダーさんも王様さんも、約1週間ほど別の部署の手伝いをすることになったのですが、その後採用はなかったことになってしまったのです。私はコマンダーさんや王様さんに何と言ってよいのやら、すまない気持ちになってしまいました。
アルバイトとはいえ、働くことにはお金が伴いますし、この手の話はあるのかもしれません。以後、私がアルバイトとして働く際には友達を関与させず、必ず一人で行動することにしました。
と、長い間考えていたのですが、もしかしたらこれは労働市場の悪化が急速に起こったためではないか、と考えるようになりました。
まず、わずか1か月ほどの間で監督社員さんが私からのお願いを忘れるとは思えません。
次に、公募も行われたのですが、予想以上に応募が来たこと、1月20日の時点でもう自然減の傾向が薄れていたことが考えられます。
さらに、会社がこの年度のアルバイト数を減らそうとしていたことも考えられます。
以上のことから、監督社員さんは当初コマンダーさんも王様さんも採用するつもりだったところが、うそをついてまでも雇えなかったのかもしれません。景気悪化は、人の心すら変えてしまったのです。
この出来事はだいぶ古くなり、覚えている人も少なくなってしまいました。しかし、職場の人と掃除部の人、あるいはコマンダーさんや王様さんと会話が繰り広げられたら、また違った展開になっていたかもしれないな、と思うのです。なお、コマンダーさんとはその後もつながりを維持できましたが、王様さんとはそれっきしになってしまいました。
Posted at 2025/03/11 20:51:26 | |
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