
研究開発棟の玄関前、喫煙所の前に置かれていた量産試作車に、仕事そっちのけでしげしげと見とれてから、早や4ヶ月。
各ディーラーへの試乗車の配備も前倒しとなったので一刻も早く試乗に行きたかったのですが、あいにく慶事が続いてしまい、ようやく実現の運びとなりました。
オープンカーの経験といえば、かつてZ3を2度ほど試乗したことがありますが、派手なスカットルシェイクと、不自然なステアリングの重さしか記憶にありません。
そして、今のC5を試乗する前の日に乗ったボクスター。
刺激ビンビンな排気音、巌のような剛性感、強いハーシュネスに、ヒョコヒョコと落ち着きのないピッチング。
そして、試乗後に愛車E90BMWに乗った途端、なんとソフトなセダンだと感嘆した記憶が鮮明です。
さあ、このハイドロ沼に浸りきり、鈍りきった身体でロードスター、しかもMTに試乗すれば何を感じるのでしょうか、どうなってしまうのでしょうか。壮大なる実験であります(って大層な。。。)
ハイドロのC5は、現行の量産車種ではおそらく最も安楽な車でしょうし、刺激ビンビンなMTのロードスターとなると、これは真逆な取り合わせ。
こういった極端に振幅の激しい車に強く興味を惹かれるのは、「車欲しい病」の重症患者の典型的な症状なんでしょう。
今回の試乗の大きなポイントは2つ。ドライビングポジションと、刺激の強さであります。
まずドライビングポジションですが、テレスコピックが装備されていないことを懸念しており、果たして最適なポジションが取れるのか否か。
一方、刺激の強さの方ですが、乗り心地や振動、さらにはサウンドが、この鈍りきった体に致命的な衝撃を与えないのか否かという心配です。
ちょうど運良く(運悪く)、金曜日に持病の「ぎっくり背中」を発症したところでして、かなりマシにはなっていますが、完全な体調ではありません。
さて、ディーラーに到着してセールス氏に出迎えられ、まずは商談コーナーに案内されます。
既にYoutubeには試乗された方の映像が沢山アップされており、さぞかし人気沸騰で試乗も大混雑と思いきや、意外にも受注数が予想外に少ないそうな。
S660の初期受注は凄い事になっているのですが、ロードスターはどうも価格・米国向け2リッターの存在・あまりにも引っ張りすぎ、ということが原因ではないかとウェブに載っていました。
ロードスターの試乗には相当幅広い顧客層がやってくるだろう、というメーカーの読みが公表されていましたが、おそらくハイドロ乗りなんてのは殆ど想定外の変わり者。
セールス氏の笑顔の裏には猜疑心が見え隠れしていますが、ユーノスはシトロエンを売っていたではないか、という昔話を持ち出してなんとか牽制。
ま、いずれにしても冷やかし丸出しの状況で、そそくさと試乗車へ乗り込みます。
1、ドライビングポジション
けっこう高さがあってしっかりとしたサイドシルを乗り越え、シートに座りましたが、まず最も懸念したのがこのポジションです。
シートの高低調整は出来ませんが前端を上げることが出来ますので、そこをちょっと上げ、シートを後ろへスライドさせ、背面をやや寝かせ気味の好みの角度にしたところ、ステアリングへの距離は今のC5とほぼ同様。
本当はもう少し近づけたいところですが、これなら問題ありません。OKでしょう。よかったよかった。
2、内装の設え
記憶に残るRX-8よりも低いシートに座ると、目に飛び込んでくるのがこの3連メーターです。
古臭いと言われようが、やっぱりタコメーターを真ん中にした3連メーカーは、アドレナリンを沸々とわき起こしますね。
ただ、走り始めてから試乗を終えるまで、結局1回もメーターを見なかったのですが、その理由は後述します。
視線を左に移すと、空調などの操作部が見えます。
ダッシュボードの質感はRX-8よりもずいぶん向上しており、ガッカリすることはないでしょう。
ただ、空調のダイアルをちょっと触った限りでは、操作感が軽すぎて高級感には欠けます。
ネットで何かとかまびすしいナビも表示を見たかったのですが、これも走り出した途端、すっかり忘れてしまいました。理由は後述。
さて、これも気になる物入れのことです。
これがシート間の背面にある物入れですが、ここはまあ車検証入れですね。
シートの背面にも同じような容量の物入れがありますが、小さなバッグでも入れることは難しいでしょう。
結局、愛用の小さなショルダーバッグはトランクに入れることになりましたが、このトランクは充分広い。
写真では大きさが把握し辛いと思いますが、2人が2~3泊するための荷物は充分に入ります。
3、操作性
さあ、いよいよエンジンをかけ、出発することにします。
適度に太くて握りやすいステアリングを左に切り、道路に出ます。
ステアリングの剛性感は充分ありますが、操舵力はとても軽い。
クラッチの重さですが、おそらくRX-8よりもやや軽め。
そしてなにより、RX-8のように低速トルクが少なくないため、ほぼ10年ぶりのMTでしたが極めてスムーズにクラッチをつなぐことが出来、幸いにして1回もエンストをせずに済みました。
4、駆動系の出来、駆け抜ける喜び
道路に出て、晴れ渡った日光を全身に浴びながら1速から2速へとシフトアップし、速度を上げていきます。
ああっ、気持ちイイ!!!
なんという素晴らしい爽快さ、気持ちよさ。
もうこの瞬間から、頭がすっかりワープしてしまい、チェックする項目なんて、完全にふき飛んでしまいました。
まだほとんど新車なんですがシフトはとてもスムーズで、軽い操作でスコスコと決まります。
エンジンはたった1,500ccですが、車体の軽量化が効いてとてもパワフルに感じます。
久々に乗ったNAだったせいもありますが、アクセルレスポンスは素晴らしく、高回転まで一気に駆け上ってくれます。
爽やかな風を浴びながら、FR車らしい極めてスムーズかつ自然なステアリングを駆り、リズミカルなシフトで間髪を入れないアクセルレスポンスを堪能できる「人馬一体感」。
これはもうまさに「駆け抜ける喜び」以外の何物でもありません。
いやあ、こんなに楽しい車に乗ったのは何年ぶりでしょうか。
試乗でこれほど感動したのは、今のC5に試乗した時以来です。
試乗コースはお決まりの街中だけでしたが、その程度の速度でも充分に楽しい、街中でも楽しい、交差点をゆっくり曲がるだけでも充分に楽しい車です。
5、乗り心地、快適性
さて、最も課題としていた乗り心地ですが、結局、全く、全然、硬いとか乗り心地が悪いとか、そんなネガティブな印象を感じませんでした。
きっと冷静に観察することが出来なかったのだと、後になって思うのですが、それほど走り出した途端、アドレナリンが猛烈に噴出してきました。
ただ、かすかに記憶に残るボクスターほどハーシュネスはありませんでしたし、ピッチングも感じませんでした。
このハイドロ沼に浸りきり、鈍りきった身体でも充分に受け付けると思うのですが、これはもっと長時間乗ってみないと何とも言えないでしょう。
乗り心地にはこのネット構造のシートも効いているのかもしれません。
確かにハンモックのように左右からの包まれ感があり、コーナーでもすごく身体が安定します。
タイヤはご覧のとおり、横浜ゴムのアドバンスポーツで、サイズは195/50R16。
無用に幅広&低ハイトのサイズではなく、この車の車重と出力にマッチしています。
オープンということで風の巻き込みが気になりますが、一般道の速度範囲では、窓を開けていてもほぼ全くというほど風が入って来ません。
試しにウインドウを閉めたところ、あまりにも風が入ってこないので炎天下では暑すぎ、すぐに開けてしまったほどです。
6、幌
幌の開閉は大変簡単で、それこそ数秒で出来る程です。
最後に閉めるところでちょっと力が要りますが、動作自体は極めてスムーズ。
締めた状態でも充分に頭上高があり、閉塞感に襲われることはありません。
その状態で後ろを見たらこんな感じで、必要充分な視界は確保されています。
開発者の言によると、この幌は自動洗車機でも大丈夫で、むしろコーティングも施してくれるので、自動洗車機がお奨めだとのこと。
7、結論
想像以上の出来栄えでした。
ネガティブポイントは、走行中のルームミラーが振動で見難いことですが(ドアミラーはもちろん問題なし)、これはオープンカーなら致し方ないことでしょう。
大きなオモチャとして、ちょっとした小旅行のお供として、こんな楽しい車はありません。
車体色はセラミックメタリックが良いので、幌が焦げ茶かワインレッド、内装は米国向けで既に設定されているタンの革が日本でも出たら、2台持ちの維持費を冷静に考えられなくなって、衝動的にハンコをついてしまうかもしれません。。。