
それは1本の電話から始まった。
「もしもし、私、BMWの請買車(中国語の仮名。Google翻訳などで日本語にしてみてください)と申します。いつもサービス工場のご利用、有難うございます。年末セールをしておりますので、一度ショールームへお越し頂けないでしょうか?」
先日試乗したディーラーからではなく、昔からサービスでお世話になっているディーラーからの電話だ。
以前にも書いたが、悪い虫が起きないように、新車のショールームには近づかないようにしているが、このディーラーは幸いなことにサービス工場が別の場所にあり、新車を見て目の毒になり、悶え苦しむことはない。
それにしても、もう30年以上前から沢山の輸入車ディーラーに出入りしているが、売り込みの電話をもらったのは初めてだ。
もっとも、冷やかしだといつも見破られている為かもしれないが。。。
余程BMWが売りゆき不振かと思って販売実績を調べたら、昨年よりずっと好調ではないか。
なんで? どうして? という疑問は残るものの、320dの試乗をもう一度やらねばなるまいと思っていたところなので、ショールームへ行くことにした。
先日試乗した320dは、おろしたててエンジンが固く、ちょっと酷評し過ぎたかもしれないと感じており、当たりの付いたエンジンで再度評価をしたかったところだ。
というのは、先日の320dの試乗記のPVが凄いことになっており、一時期Googleで“320d 試乗”というキーワードでトップに登場したこともあったほど。
これは、パーソナライズ検索を無効にして調べた結果なので間違いなく、未だに毎日沢山の方があの試乗記を見ておられ、これは迂闊なことは書けないぞ、と肝に銘じた次第。
さて、試乗当時の日曜日、ショールームへ行こうと駐車場でエンジンをかけたら、エライことになっているではないか。
バラバラというエンジン音に、凄い振動。インパネには警告灯がしっかりと点灯。
あっちゃ~っ! 今までエンジンは調子良かったのに、なんちゅうこっちゃ!!!
状況から見て、どこか一つの気筒が死んでいるのは間違いない。
プラグがいきなりイカれることはないので、イグニッションコイルがヤラれたか、ケーブルが切れたか、はたまた。。。
しばし呆然とするも、気を取り直して取扱説明書を見たら、さっさとサービス工場へ向かえとの記載。
そこで少し迷ったが、「請買車」氏との約束もあるし、ショールームへ向かう。
ほどなくして到着し、事情を説明して段取りを相談し、取り急ぎサービス工場へ移動。
すぐさまコンピュータ診断が開始され、椅子に座って出された珈琲を啜りつつ、頭の中は札束が飛び交う。
もし、修理代が、30万や50万と言われたらどうしよう。。。
そんなに掛かるなら、買い替えるしかないのではないか。。。
しかし、そんなに急に言われても。。。
と、頭の中は札束で一杯。
いつものように雑誌に手を伸ばす気にもなれず、呆然と座っていたのだった。
やがて「請買車」氏がサービス工場へ試乗車とともに現れ、すぐさま試乗することに。
車は先日他のディーラーで試乗したのと同じ、320dのMスポ。色は黒。
気を取り直して走り出してまず気付いたことは、エンジンの振動。
ディーゼル特有の音はまだ我慢できるレベルだが、振動の方はどうにも気になる。
フロアからもステアリングからもブルブルと振動が伝わり、あのウルトラスムーズなBMWの駆動系の素晴らしさを消し去ってしまっている気がする。
今度の試乗車は前回よりも距離を伸ばしており、といっても500km足らずだが、前が空いたところでスロットルの半分くらい踏み込んでみる。
0.5秒くらいのタイムラグを置いてキックダウンが利き、グワッというかなり強烈な加速度が背中に。
これはもう320iの加速度より一枚も二枚も上手。
速度も60kmくらいになると路面からの振動が多くなり、ブルブルという振動が誤魔化されて気にならなくなるが、速度が落ちるとやっぱり気になる。
それから、前回は絶賛した乗り心地が良くなく、結構硬いなあ、と感じた。
ギャップに来ると、E90と同じくらいハーシュネスを感じる。
タイヤの空気圧をチェックするのを忘れたが、前回とは走ったコースが全く異なるので、その違いかもしれない。
だとすると、路面状態の良い時はスムーズだが、荒れた路面ではMスポの弱点が露呈したのかもしれない。
やがてサービス工場へ戻ると、どうも修理が終わっている様子。
やっぱり4気筒目のイグニッションコイルがイカれてしまった模様。
交換費用23,000円也で完治。
ああよかった、買い替えを迫られる羽目に陥るようなことにならなくって。。。
さて、自分の車に乗り換え、ショールームに向かう。
「請買車」氏が試乗車で後ろを追う。
乗った途端に感じたのは、エンジンも駆動系もスムーズで振動も無い。
やっぱりBMWはこれでないと、このスムーズさが無いと、と思ううちに、ショールームへ到着。
さて、買う気も無いのに、電話をもらってからネットのカタログを見て気になっていたことが1つ。
万一買うなら(といっても買う気はないが)、外装色はA89 インペリアル・ブルー・ブリリアント・エフェクトで決まり。内装はLuxuryで、シートはオプションのダコタレザー、色はサドル・ブラウン。
これはカタログを見ると標準設定になっているが、インテリアが黒で、シートがブラウンという記載。
じゃあ、ドアのインナーは革?色は?というのが疑問。
そこで、ショールームの大きなTVに映し出されるビデオカタログで確認したら、ドアのインナーも革でブラウン。
よしよし、それならイメージ通りだと納得したが、残念ながらそんなモデルは日本には今ほとんど入ってきていないとのこと。
以前、328iでは少しあったそうで、CGの長期テスト車もそのはず。
売れ筋は圧倒的に白色だそうで、昔を知る者にとっては、BMWのカラーは花紺に限るんだけどなあ。。。
ということで、なあんだと残念ではあったが、疑問点は解消し、帰宅しようとしたが、「請買車」氏が返してくれない。
“今月は決算セールで会社のノルマ達成がかかっており、特選車もご用意しております。”
“ちょうどA89 インペリアル・ブルー・ブリリアント・エフェクトの特選車があり、何とか御検討願えないでしょうか!!!”
と、ショールーム中央にデンと展示してある320iを指し示す。冒頭の写真の車がそれ。
そういやあ、そうであったと近づいてみると、320iのSport。
どんな内装かと覗いてみると、スポーツシートに太巻のスポーツステアリング。
いわゆる、E90のMスポの内装とほぼ同じ。
スポーツシートは何度も試乗したことがあるが、脚の長い!?小生にとって、太もものサポート部を引き出せるのが有難いし、サイドサポートも腰痛に良さそう。
内装が黒で今の車と変わり映えしないし、革内装でもないけど、太巻のステアリングは握り心地も良くて、けっこうSportも良いではないか!
小生の微妙な顔色の変化に気付いたのか、「請買車」氏が盛んに320iの良さやSportモデルの良さを吠えまくる。
おいおい、さっきまで320dを褒めちぎっていたくせに。。。
“展示車ですが、隅々までピカピカに磨き上げ、在庫車と全く変わらない状態で納車させて頂きます!”
えっ、そんなの当たり前やんか。。。
「請買車」氏は、それからも盛んに喋っておられたが、よくは覚えておらず。
結局、今のE90を査定してもらい、後日見積をもらうことにして、無罪放免。
査定が直ぐ出ないのは、複数業者に問合せし、最も高いところの金額を採用するからとのこと。
今の車の状態なら、BMW認定中古車で相当高く売れるが、場合によってはびっくりするくらい高値で買う業者もあるらしい。
これはきっと、320i Hi-Line仕様の極上車を探している客が付いている業者のケースで、よくある話だ。
さて、後日と言っても、万が一買うなら、ホント万一の話だが、14か15日には契約しないと年内に納車が出来ず、ディーラーのノルマに貢献出来ない為、それまでに見積書を自宅の郵便箱に投函してもらうことにした。
あのねえ、そもそも乗換なんて全く考えてなかったし、320dに興味があったけど、サドル・ブラウンのレザー内装のLuxuryでもないし、320iだし、全く期待しないでよ。
と、言い捨ててショールームを後にしたが、「請買車」氏は直立不動の姿勢で、“期待しています!!!”と絶叫していた。
( つづく )