2022年07月16日
「羊の皮を被った狼」という言葉を知らない車好きがいるだろうか?
この言葉は自動車評論家の三本和彦さんが、当時の「プリンス・スカイライン」を評した言葉である。
今となっては、雑誌やネット記事でも引用される言葉である。またフランス車の足回りを「猫足」と評したり、トランクや室内の寸法を測るのも三本さんがテレビで昔から「ぶっしつけ棒」をつかってやっていたことだ。また、「こぶしで何個」という表現をしていたのも三本さんだ。
だから、ファミリカーの多くはこのことに影響を受けてリアシートとフロントシートの広さを考慮して設計したり、ゴルフバッグが何個乗るとか、室内にいくつの収納があるか?などメーカーが考えたのではないだろうか?
特にラジオのショートアンテナが中央ではなく、リアの後方に設置するようになったのは三本さんのアイデアだったと聞いたことがある。ショートアンテナが中央だと手が届かない女性もいるから、片側に設置すれば、だれでもショートアンテナの向きを変えられると進言をしたようだ。つまり、メーカーも三本さんに開発時から意見を聞くということもあったようだ。
(8分辺りから)
私が三本さんを知ったのは、昭和63年に発刊された「クルマあぶない常識(日本実業出版社)」を読んでからだ。当時、どの車にもリアスポイラーを装着するのがとても流行していて、セダンでリアスポイラーがないのはかっこ悪いと思われた時代だ。
(8分38秒辺り)
そのとき、スポイラーについて「一般公道では、エアロパーツがの能書きどおりに効くほどのスピードは出せない。(~P74 より~)」としている。エクステリアでとても魅力的だった自分には衝撃的な言葉に大変驚いたことを覚えている。また、信号待ちでこの頃、ヘッドライトを消灯するのも流行したものだが、点灯と消灯の繰り返しでかえってヘッドライトの寿命を縮めるともあった。
また、昨今ハザードランプで「サンキューハザード」で話題になるが、本来のハザードランプの使用方法と意味を著したのも、三本さんだけだったと思う。「公道上で、自分の車が‟障害物”になるおそれのあるときに素早く点灯するのがハザードランプ。」であると著してあった。しかし、どれだけのドライバーがこの意味を知っているだろうか?ハザードとは人やモノなどに対して危害や損害を与える可能性のある現象もしくは行為の意味があるのだそうだが、それをきちんと使えるドライバーはそう多くはないだろう。
そんな意味でも、自動車の歴史について、あるいは自動車の使い方について、運転の仕方について教えてもらったのが三本さんだったと思っている。
昨今では、三本さんが出演されていた「新車情報」が動画サイトでも見ることができるが、その中でもメーカーの主査にズバッと辛口の評価や質問をすることが普通であった。今や動画サイトで新車のインプレの動画があるが、メーカーもそういう質問を嫌がることもあってそういう場面はあまり見かけなくなった。
私が車に興味を持つ頃は、徳大寺有恒さんがとても脚光を浴びていた時代だったが、三本さんは徳大寺さんよりさらに車の本質を一般の人に広めたのではないかと思う。徳大寺さんは輸入車と国産車の比較といった面での評価、三本さんは実用面での国産車の評価というイメージが私にはある。前述の「新車情報」でもまず、高速道路で大まかな自動車の紹介をして高速道路で100㎞のエンジンの回転数や乗り味や操舵性、さらにそれだけではなく、「いつもの山坂道に持ってきました」といって一般公道での車に負荷のかかるワインディングでのインプレと両方を評価していた。それも専門用語ではなく、車に無知の人にもわかりやすい説明だったのは印象的だった。
(9分辺り)
自動車雑誌が衰退の道を歩み始めていく一方で、動画サイトでの自動車の情報やインプレッションはかなり普及し始めた。しかし、私には動画サイトの多くは三本さんが広めた方法がとても多いように思う。でも、三本さんのようにわかりやすい言葉で、できるだけ多くの人にその車の魅力を伝える人はそう多くはないと思うし、またそれだけメーカーに進言できる人も少ないのではないだろうか。車の性能や操縦性については詳細に伝えることができても、実用的な普通の生活の目線でその車について評論できる人が、段々といなくなっているような気がする
91歳だったという。奇しくも16代目クラウンの発表の翌日である。新型クラウンを見て三本さんはなんと言ったのだろう?あのべらんめえ調の三本節でどう評価したのだろう…。ご冥福をお祈り申し上げます。
Posted at 2022/07/16 20:31:43 | |
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