
3月下旬のこと。
帰宅すると、郵便受けに封書が届いていました。
安曇野のギャラリー・シュタイネから。
この春の開館は、3月から4月に延期されていました。しかも、企画展の案内は毎回、カラー印刷の私製ハガキ。訝しい気分で開封しました。
お客様 各位
春爛漫の候、みなさま、おかわりなく、お元気にお過ごしでしょうか。
当館は昨年、開館20周年の節目の年を迎え、7つの企画展と2つの特別展を無事に開催することができました。お陰様で、たくさんの方々に作品をご覧いただくことが叶い、ご贔屓くださるお客様方のご厚意と、傑作を出展した作家の尽力に、心より感謝申し上げます。
ギャラリーシュタイネ「閉館」のご挨拶
卒爾ながら、ギャラリーシュタイネは、2025年3月31日をもちまして閉館(廃業)しましたことを、茲に謹んでお知らせ申し上げます。
当館は、作家とその作品を介して、生きる勇気や希望、ささやかな幸福感や安心感など、お客様の生き方や暮らしに共感を届けられる存在、謂わば「劇場のようなギャラリー」を理念に掲げて粛々と企画展を開催して参りました。しかし近年、館主もスタッフも老境に入り、日々感じている身体の老化と感性の鈍化は思っていた以上で、既に企画立案や展示演出、接遇など、様々な場面で影響が表れています。このまま頑なに続けても、数年後に理念は形骸化し、お客様にドラマチックな企画展をご覧いただけなくなることは確実です。そこで私たちは冬期休館中に進退を熟慮した結果、20周年を終えたことに深く感謝し、今こそ「シュタイネ劇場の幕を閉じる好機」という結論に至りました。今後はギャラリーシュタイネを超越した方々のクリエイティブな事業の場として、有意義に活用されることが期待されます。突然の閉館をお詫びいたしますと共に、これまでのご愛顧に暑く御礼申し上げます。
シュタイネ劇場の主役は作家とその作品です。私たちは裏方に徹してきましたので、カーテンコールは致しません。後ろ髪を引かれることなく潔く退きたいと、切に願っております。既にギャラリー店舗と駐車場を閉鎖しましたこと、ご留意ください。本来ならお客様お一人お一人と対面してご挨拶を申し上げるべきところですが、非礼の段、何卒ご容赦くださいませ。
毎々お客様の優しい笑顔をお迎えできたこと、ステキな作家と作品に恵まれたことは誇らしく、ギャラリー冥利に尽きます。ご紹介してきた作家は人品骨柄よろしく、安心してオススメできる作品を制作する方々です。引き続き応援いただければ幸いに存じます。
末筆ながら、みなさまのご健康とご多幸をお祈りして、閉館の挨拶に代えさせていただきます。
万感の思いを胸に 館主・スタッフ一同
何度も読み返してしまいました…。
もう、あの優しさと温もりに満ちた空間に、足を踏み入れることが叶わない現実を咄嗟には理解出来ず、呆然としてしまいました。ただ、「身体の老化と感性の鈍化」が閉館理由との記述に、約半年後に「前期高齢者」を迎える身として、大きく頷きはせずとも、共感を覚えました。
同時に、ある種の羨望を抱きました。
サラリーマンの世界は、人事、給与を筆頭に、数多の権謀と矛盾が横行、大多数の者がそれを甘受し、日々耐えながら生きています。にもかかわらず、定年や再雇用終了によりお役御免を通達されます。
一方、館主さんは長年に渡りギャラリーを運営、そのプロセスにはサラリーマンが想像出来ないような苦労が存在したはず。その甲斐あり作家、顧客の両者から大きな信頼を得たけれども、寄る年波の現実を前に、自ら出処進退の時期を決められたから…。これはボクの想像ですが、「やるだけやり切った」との想いが胸に満ちていらっしゃるような気がします。
この先をどう生きるべきかを、再び考えさせられました。
ハローワークの求人票には明記されていませんでしたが、事実上年金受給者が対象の求人でした。今の仕事は、過去40年間のサラリーマンとしてのキャリアでは未経験。好き好んで選んだ訳でもありません。入社から半年が経ちましたが、今もわからないことだらけ、あちこち頭をぶつけ、たん瘤を作っています。振り返って見れば、総務系管理職として長年のキャリアを積みましたが、それとて自ら好んで選んだ結果ではありません。
「俺にはこれだ!」と心の底から思えること、自分が没頭できることを、能動的に選んだ人生ではありませんでした。収入の有無はともかくとして、残された時間を「何」に「どう」使うべきかを、館主さんからの閉館の挨拶状に触れ、再考させられました。
年金との併走による「ダブルインカム」実現を目指しての再就職でしたが、館主さんが仰る「身体の老化と感性の鈍化」による引退の日が、ボクにも必ず訪れます。それまでの時間を、好きでもない仕事に費やすのは、あまりにも勿体ないと思い始めております…。
Posted at 2025/04/27 07:23:37 | |
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