
6月27日、金曜日。
この日は平日休み。以前から行きたいと思っていたお店に、「ダメ元」で電話をしました。すると男声で「14時なら大丈夫ですよ!」との返答。早速「善は急げ」とばかり家を出ました。
どうですか、この佇まい!
住宅地のドンツキに、こんなお洒落な建物が!ボクの地元、入間市にある「ジョンソンタウン」を思わせる、アメリカンな意匠。ハナから期待で胸が躍ります。
案内と料金が掲げられています。
お店の名前は"DOODLIN' BARBER SHOP"。
そう、何を隠そう、此処は「床屋さん」!
こちらの存在は随分前から知っておりました。
都内に通勤していた当時は、会社至近や駅構内にある「廉価で髭も当たらないチェーン店」で済ませていました。また、再就職後は、仕事帰りに立ち寄るスーパーで、同様の店に行ってばかり。値段の安さもありますが、ささっと済ませることが出来るのが理由。
こちらは完全予約制。ウキウキ気分で玄関扉を開けました。
…其処には、想像を超えた空間が展開していました。
全貌を捉えた写真を撮り忘れましたが、言葉で補完すれば「オトコの子のオモチャ箱」そのもの!たくさんのアナログ・レコード、車両のプラモデル、フィギア、楽器やスケートボード、etc...。ボクは思わず「…うおー!」と感嘆の声を上げてしまいました。そんなボクを、この日が初対面のご主人は、満面の微笑みで迎えてくれました。
暫くお店のインテリアについて立ち話をしましたが、やがてご主人が「さあ、お座り下さい」と、こちらに招いてくれました。
どうですか、この「椅子」!
大きさ、デザイン、色合い、全てがアメリカン・テイスト!
何だか、座るのが勿体ないような気持ちになりました。
促されて腰を下ろすと、かなり大柄な人が前提の設計と思いました。でも座り心地は最高!手摺に両腕を預けると肩が開き、まるで「社長気分」!
反対側から。
右の袖には、何と灰皿が設けられています。
嘗てアメリカでは、調髪に訪れたお客さんは、紫煙をくゆらせながら、整って行く自らの姿に微笑んでいたのかも…。
この椅子は、1964年製。
今までに2度、表革を張り直されており、その作業の際に中から経緯を書いた「らく書き」が出て来たそう。何でもアメリカから5台輸入され、そのうちの2個を使い、旧いクルマやバイクの世界で「ニコイチ」と呼ばれるレストアがなされたそうです。ご主人曰く「あと3つ、日本の何処かに今も存在するかもと考えると、夢が広がります」。
ボクも全くの同感でした。
こちらは洗髪に使う椅子。
背後に黒い流し台が見えます。
腰掛けて体を背後に委ねると、ご主人が首の後ろに熱いタオルを挟んでくれました。その心地良さに加え、髪をワシャワシャと洗われる快感に、すっかり耽溺してしまいました。
鏡はこれまた、一般的な床屋さんでは、まずお目にかからないもの。堅牢な木製の枠に、横長の巨大なミラーを嵌め込んだもの。ご主人によると、元は「製図のトレース台」だそう。木枠の材料は硬く、今では輸入されていないものだそう。
写真を撮り忘れましたが、髭を剃って貰っている時。
倒れた椅子の上でふと目を開けると、吹き抜けの天井で巨大なシーリング・ファンが、ゆっくりと回転していました。この建物は店舗兼住宅ですが、店舗側は西日に当たるため、夏場は必需品なのだそうです。
鏡の背後の壁には、ピアニストの大きなパネルが。
理知的な面持ちの彼は、何とホレス・シルバー!
ブルーノートに数々の銘盤を遺した、名高い人物。彼が純粋な黒人ではなく、中米の血が混ざっていることは知っていましたが、この精悍な表情を捉えたショットには驚きました。
このパネルは新宿のジャズ喫茶"DIG"や"DUG"のオーナーで、ジャズ評論家や写真家としても広く知られた中平穂積さんによるもの。ご主人は大のホレス・シルバーのフリーク。開店の際、親交のあった中平さんに「お気に入りのシルバーの曲名を店名にする」旨を伝えると「美容室ではなく床屋さんというのがイイ!」と、直々に譲られたとの逸話を披露して下さりました。
やっぱり、ありました。
店名の"Doodlin'"は、上の青い作品(HORACE SILVER AND THE JAZZ MESSENGERS BLP-1518)に収められています。
一方、反対の壁にはドラムセットに座った黒人少年のフォトが。
ご主人によれば、こちらはごく一般的なものだとか。
この写真の左端にご注目!
何と、The Beach Boysの銘盤 "Pet Sounds"が、さりげなく飾られています。暫くご主人と、亡くなったばかりのブライアン・ウィルソンについて語りました。
奥の壁には、スープの缶詰が並んだポスターが。
このデザインはアンディ・ウォホールかなと思っていたら…
何と、バンクシー!
ご主人によると、まだこんなに高名になる前に購入されたとか。300枚刷られたうちの一枚で、今ではプレミアムものだとか…。
ご主人の仕事道具。
ボクの調髪を終えた直後に撮りましたが、輝きが美しい…。普段からの丁寧なお手入れが窺えます。
この時は、山下達郎さんの "Big Wave" が掛かっていました。
こちらのレジカウンターでお支払いをしました。
帰る直前のこと。
偶然、ボクはカワサキW1のTシャツを着ていたのですが、「常連にいつもスズキのTシャツを着ている『スズキフリーク』の有名人がいらっしゃる」旨をご主人が語り始めました。
…お名前をお聞きし、ボクは『ブッ飛んで!』しまいました。所沢とは全く無縁、北のご出身。絶テクのギタリスト。動画チャンネルでは、「KCのオリジナルに勝るとも劣らぬ演奏」と、世界から称賛されている方。スズキ製のクルマとバイクを一杯持っておられ、保管できる物件をあちこち探し求めた結果、定住してしまったそう。ある音楽雑誌のインタビューを受けた際、ご主人のお店をご指名されたそう。掲載誌を見せて戴きました。
いやー、最後までオドロキの連続!
ホント、良い意味で「ビックリ箱!!」のお店でした。
再訪問決定です。
DOODLIN' BARBER SHOP
埼玉県所沢市三ヶ島2-928-1
070-5554-9281
※椅子は1脚だけの完全予約制。週末はかなり予約は困難なようで、ボクが滞在中に掛かって来た電話に、ご主人が「ごめんなさい」と話していました。狙い目はボクが訪れた金曜日とのこと。「(金曜日が)お休みの職業は少ないのかも」とご主人が仰っていました。この記事でご紹介した世界観に共感された方なら、遠方からでも訪れる価値があると思います。
Posted at 2025/06/29 08:31:27 | |
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