昨日、母をショート・ステイにお預けして帰宅すると、当然ながら母の姿はなし。いつもは「ギャンギャン」けたたましく鳴いて迎えてくれる駄犬・ぶれいきーは黙ったまま。考えてみれば、彼にとり母のいない家での一日は初めて。ずっと玄関を見つめて悲しそうに小さく鳴いていました。
バーボンの水割りを飲みながらレコードを聴き、とりとめもなく一日を反芻していたら、あることを思い出しました。
二階の自室の書棚で、それはボクを待ってくれていました。
文学や小説の世界は、音楽などと比べ多岐に及び、人それぞれ嗜好が異なるもの。ボクの好みをご紹介しても有難迷惑になるとの思いから、取り上げるのを避けておりました。今回、この本の存在を、母を巡る一連の出来事で思い出しました。母、ボク、それに皆様の人生に、必ず符合する大傑作。敢えてご紹介します。
コロンビアを代表する大作家、ガルシア・マルケスの「百年の孤独」。
ボクが学生だった1982年、ノーベル文学賞を受賞しました。
映画や文学の内容を詳細に語るのはタブー、最小限に止めます。
未開の森林に一握りの人間が入植、開拓が始まります。
やがて集落が形成され、村から町、都市へと発展します。
しかし「退廃」も進展、犯罪や暴力がはびこります。
そして衰退が…。
母は「男・男・女・男」の、唯一の女。他の男三人は、既に他界しています。
ボクは結婚して一人息子を授かりましたが、妻は既に他界。現在60歳、晩年に足が入りました。
人は誰でも、誕生・成長期・青年期・壮年期・晩年・死のプロセスを辿ります。死を迎えた時、誕生から始まった一つの物語が終焉を迎え、同時に「原点へ回帰」します。それを象徴する描写がマイルストーンのように、冒頭とラストに埋め込まれています。
キリスト教的価値観とラテンアメリカ特有の開拓史を土壌に、そこに生きる人々、都市の誕生と隆盛、運命的な衰退が、あたかも蜃気楼の如く描かれます。「雨が100年降り続いた」との描写や、幽霊が一人の人格を持った存在として(しかも、それが全く「不自然」ではなく、いつの間にか読者が無意識のまま、登場が当然のキャラクターとして受け容れている「人物」として)登場するなど、人間的スケールを遥かに超えた幻想ワールド。自己の人生と照合しながら読み進むプロット展開、いつの間にかディープな深淵に惹き込まれます。
難点は、登場人物が矢鱈と多く、しかも似たような名前が多いこと。ボクは登場人物の注釈メモをとり、一族については系図を書きながら読みました。また、この新潮出版の鼓直さんによる翻訳は文体が固くて読みにくいことが挙げられます。最初の30ページを読めば氏の文体に免疫が造成され、最後まで一気に読むことが出来ると思います(訳については当初から難物との指摘がなされたため、後年もっと読み易いものが出ています)。
ボクは大学生当時に、この本を読みました。
あれから40年が過ぎましたが、ボクにとりこの本は今も「最高傑作」!
文学好きな方には、絶対のお薦めです。
Posted at 2021/07/04 12:49:56 | |
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