2011年08月14日
スパークプラグを考える
スパークプラグの進化は、接地電極に鋭利な白金電極を溶接した、「DFEタイプ」が最終進化型かと思っていました。
しかし今回、「ルテニウム中心電極、接地電極はL字プロジェクトに白金棒を横に寝かせて溶接」型が登場したことを受け、再び「理想的なスパークプラグ」について考えてみました。
そもそもスパークプラグは、燃焼室の中で火花放電を発生させ、混合気に火種を作ることが目的です。電極の形状は出来るだけ尖っているほうが良いのですが、尖ると電極の断面積が小さくなるため、放電時に電極が磨耗し、電極が太い場合と比べて寿命が短くなります。
そのため材質に普通鋼しか選べなかった頃は、中心電極にV溝を切った「グリーンプラグ」や、接地電極にU溝を切った「ワイドU」があり、電極の角を増やして寿命を延ばしていました。
その後、電極に白金チップを溶接出来る技術が出来てからは寿命が10万kmに伸びました。白金は希少金属であることや、さらに細い電極にしても同じ寿命を得ることを目的として、「イリジウム電極」が登場しました。このイリジウムも希少金属であるため、その他の材質が求められることに変わりはありません。
一方、中心電極と接地電極の隙間が狭いほど放電しやすいのですが、出来る火種は小さくなります。だからと言って隙間を広げると、放電しにくくなりますが、火種が大きくなります。火種が早く大きくなると、その分だけ燃焼時期が前のほうにずれ、シリンダー内の圧力が高まり、エンジンが発生するトルクが増大します。しかし、点火コイルの変圧能力を超えて隙間を広げると、失火(火種が出来ない=燃焼しない)しやすくなったり点火コイルの寿命が縮まったりします。
そのバランスから、標準プラグは隙間を0.8mm、ワイドプラグは1.1~1.3mmとしています。点火コイルの能力を超えない限り隙間は広いほうがよいので、一部の製品は1.6mmとしているものもあります。(疑問を唱える人はいます。)
その隙間の、燃焼室内における位置はなるべく燃焼室の中央にあることが良く、中には「突き出し型」といって、中心電極の長さが1cmほどあるものもあります。18R-GEUの最終型は、この突き出しプラグ「BRE527Y-11(?)」を採用しています。しかしプラグを突き出すと、その分ピストンハイトが低くなるために、圧縮圧力が低下、エンジンの効率が低下してしまいますので、これもバランスですね。
デンソー品番で、FK16PR11とFK16R11とあった場合、この「P」は、上記突き出しプラグほどではないものの、電極が突き出した位置にあります。
また、吸気バルブと排気バルブをはさんだ、中央の位置にプラグがあることが望ましいのですが、これはプラグの問題ではなく、エンジンの問題ですね。かつての「二点点火方式」は、2バルブエンジンでこの問題を解消しようとした対策で、こんにちのエンジンでは全く放棄された考えになっています。
スパークプラグの電極間で発生する火花放電は、「電気」であるため、+と-が必要です。このため中心電極のほかに接地電極が必要になります。ところがいったん「火種」が出来て火炎が燃え広がると、この接地電極が火炎が燃え広がる邪魔になります。そのため究極のスパークプラグは、「火種が出来る直前まで接地電極があり、火種が出来た後に接地電極がなくなるスパークプラグ」なのだそうです。実現不能。。。
その「実現不能」を、なるべく理想に近づける手段が
「接地電極をテーパー状にカットし、火炎の成長を接地電極の角が阻害しないようにする」
「針状に尖った接地電極を採用し、接地電極のL字金具(プロジェクト)と火種の距離を離すとともに、火炎の成長を接地電極が阻害しないようにする」
でした。
それらの基本事項を考えながら、各社高級スパークプラグを出しています。
各車製品の考察
NGK
http://www.ngk-sparkplugs.jp/products/sparkplugs/rx/index.html
今回、「中心電極ルテニウム(材質名)0.6mm、接地電極のL字プロジェクトを短くし、先端に白金の棒を寝かせて溶接」したプラグを採用しました。白金棒はL字プロジェクトよりも細いため、中心電極と白金棒の間で発生した火種は、L字プロジェクトにあまり阻害されることなく成長します。
NGKは、この前に「接地電極をテーパー状にカットした上で白金棒を立てて溶接した、針針プラグ(DFEプラグ)」を発売、あまり宣伝することなく販売していましたが、メーカーの方曰く、「このルテニウムプラグのほうが高性能」だそうです。
このプラグは、すでに現行レガシィなどで純正採用されています。
デンソー
http://www.denso.co.jp/ja/products/aftermarket/repair_parts/plug/news/2011/02-1.html
デンソーは、NGKで言うところの針針型が最も高性能品となっています。ただし中心電極はNGKよりも細い0.4mmとなっています。一方で、接地電極のL字プロジェクトはテーパーカットされていません。デンソーの方曰く、「もはやイリジウム電極と接地電極の位置からは遠すぎて、テーパーカットする意味がない」のだそうです。
このプラグは、シエンタ2WD以降のトヨタの多くのエンジン、マツダZY-VEエンジン、三菱のエコカー減税対象エンジンなどに採用されています。
チャンピオン
http://www.federal-mogul.co.jp/after/iridium.html
日本法人(日本総代理店)の活躍が目立たないチャンピオンですが、高性能プラグをラインナップしています。中心電極はNGKよりも太い0.7mm、接地電極はテーパーカットしていますが、白金は針状になっておらず、「パッド」にとどまっています。
ボッシュ
http://www.bosch.co.jp/jp/aa/products/group.asp?id=PlatinumIrFusion
ボッシュは日本勢とは全く異なるアプローチで、中心電極は碍子(白い瀬戸物の中)に隠し、接地電極はL字をやめた上で四本設け、隙間を1.6mmにしています。四本設けても四区間に放電が同時に発生するわけではなく、そのときに最も良い放電条件の区間で、1回だけ起こります。
隙間が1.6mmなので火種は大きくなりますが、火炎が成長する過程でその他の電極は、成長を阻害します。
スプリットファイヤー(ベルー)
http://www.sf-j.co.jp/splitfire/product/sparkplug/index.html
接地電極の先端をY字に曲げ?さらに白金チップを溶接、中心電極を白金とした「トリプルプラチナプラグ」がありました。これもボッシュの製品と同じ効果を狙ったものです。Y時の「股」の部分からも火炎が成長し、火炎の広がりが早い、というのが売りです。見かけなくなったな。。。
東亜システムクリエイト
http://www.toa-corp.co.jp/jp/360x3/multispark/index.html
接地電極を完全に廃止した製品があります。中心電極は特に白金やイリジウムなどの貴金属を採用していないようです。中心電極と接地電極となるねじ部先端との間で、その間のブリッジを介して放電するのだそうです。ギャップが大きくなるため、火炎の成長が期待できます。
しかし、追従するメーカーは皆無です。
ブリスク
http://www.abracadabra-toda.com/brisk.html
中心電極を「銀」とした上で、細径化するのではなく、大径化しています。接地電極は形状こそ違うものの、ボッシュのように4点式としています。銀の導電性が、スパークプラグの機能として最善とのことです。
まとめ
スパークプラグの役目は、燃焼室内で火種を作ることです。火種が出来てからは、燃焼室内の桐生の乱れによって火炎が燃え広がり、燃焼室内の混合気を燃やし尽くします。
これまでも歴史に残るような火災はいくつかありました。明暦の大火や酒田の大火災です。これらの火災は、風などで火があおられ、あっという間に燃え広がったのだそうです。明暦の大火の原因は、女性の振袖に付いたひだとか?
スパークプラグの役目は、この「女性の振袖に火をつける」ことと同じです。したがってあくまでもきっかけであり、その後の「燃焼」には余り大きな影響はありません。
しかし、早い時期に「火花放電」から「火種」に成長させられると、燃焼期間が早く(速く、ではない)なり、燃焼する時期がその分前倒しとなります。すると、燃焼室内で発生する燃焼圧力が高くなります。(燃焼期間が遅くなると、極端な話、ピストンが下降しているときに最大圧力なるため、その圧力の最大値は「早い」場合よりも低くなります。スパークプラグメーカーのサイトで、「普通のプラグと比べて、こんなに早く燃えるんですよ」と訴えているのは、この効果があるからです。
各車の製品の特徴とこの原理をまとめると、私の意見は以下のようになります。
ブリスク
銀の導電性がよいとしても、スパークプラグは多くの電流を流すことで高性能になるわけではないので、ちょっと違うような気がします。
東亜システムクリエイト
放電が多段階に起こるようなので、もしそれが本当であれば火種が複数個所になり、効果が高いように感じられます。しかし、中心電極も接地電極も尖っていないことから、火花放電の起こりやすさやその後の火炎の成長には、ちょっと疑問があります。ぜひ使ってみたい製品です。
スプリットファイヤー
これはコロナに使いました。1999年12月、那須エクスプローラーサーキットでの走行会のときに装着しました。熱価が合わないのかかぶり気味でした。このプラグの前には、ボッシュのブループラチナプラグ(中心白金、接地テーパーカット、白金パッドなし)を、後には今も使っているNGKのイリジウムタフLPG用を使っていますが、NGKの方がエンジンのかかりも良いです。あまり良い印象はなかったなあ。
ボッシュ
実はこの製品、コロナ用としてすでに購入しています。なかなか交換する気がわかないので交換していなかったのですが、自動車関連のショーのときにある会社の方に質問すると、
「国内メーカーでも複数接地電極を設けた製品があります。しかしこれは、筒内噴射エンジンなど着火が難しいエンジンでも失火させないために仕方なく設けたものです。火炎の燃え広がりに疑問があるので、今のスパークプラグ(NGK)のままの方がよいのではないでしょうか?」
とおっしゃっていました。なおこの方は、NGKの方ではありません。
デンソー
中心電極0.4mmは魅力ですね。これに対抗してか、NGKのサイトでは「0.6mmよりも細径化しても着火性能は上がらない」ことを説明したグラフが出ています。接地電極を針状に尖らせたのも、いかにも良く火花放電が起きそうに見えます。NGKと違って接地電極プロジェクトがテーパーカットではないことは、仮に性能に影響がないとしてもちょっと気になります。
時計は、500円の時計でも何百万円もするものでも同じ時刻を示しますが、防水とか貴金属を採用しているとか秒針が滑らかに動くとか、そういう「本来の機能とは無関係なところに力を注ぐことで高級感を演出」しているので、スパークプラグも、仮に実際には高性能にならなくとも、高性能になるような機構は採用して欲しいです。
NGK
針針がいかにも放電しそうであるのに対し、ルテニウムの接地電極はちょっと放電性能で劣るようにも見えます。白金接地電極棒の細さは、火炎の成長には有利であることは想像できますが、火種の生成に本当に有利なのでしょうか?
そんなことに疑問を持ちながらですが、針針&接地テーパーカットのDFEを中断(?)してでもこの製品を発売したことから、きっと高性能なのでしょう。
で、私はどうしたかというと、、、。
ブルーバードシルフィ用として、昨夏デミオ用のマツダ純正、デンソーの針針型を装着しました。しかし、新しいものは試さねばなりません。早速ルテニウムプラグを注文しました。たぶん装着は9月だろうなあ。
コロナ用としては、ボッシュ製品は持っているものの、どうも装着する気力が失せてしまいました。レーシングプラグに、ルテニウムプラグとほぼ同様に、白金棒のみを付けたものがあるため、これにしようかなあ。まあ、ボッシュのものも試してみますよ。しかし、三菱4G63エンジン(非VVT)も同様のサイズを採用しているため、アフターパーツメーカーがルテニウムプラグを作って(もちろんOEM)くれないか、ひそかに期待しています。
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車のメンテナンス | クルマ
Posted at
2011/08/15 20:44:55
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