
この日はいろいろありましたが、空き時間にトヨタに行き、試乗をしてきました。
トヨタコンパクトミニバンの系譜と現状
ミニバンが一般化してくると、誰しも企画として思いつくものは「より大型のミニ(?)バン」「それほど室内は大きくなくても、高級なミニ(?)バン」「コンパクトカーのミニバン」です。
何だかしかし、この「ミニバン」という呼び方も、そろそろおかしくなってきていますよね。C23バネットセレナが登場した頃は、キャンプ道具等を積んで家族で遊びに行く車として、クロスカントリー車とともに「RV」と言われていたのですから、これまたおかしなものでした。「モノボックス車」などはいかがでしょうか?
その中でもポルテとスペイドは最もコンパクトなミニバンを担うと共に、パッソセッテの仇討とラウムの後継、モノボックス軽乗用車からのステップアップ対象車、他社にはないジャンルの車として、乳幼児やお年寄り、そして女性をも満足させなければならない、と、大きな期待がかかった車です。
立ち位置は意外に難しく、下にはそれぞれ会社生命を背負っているタントやパレットが、やや上には「これ一台で済ませられる」ソリオにデリカD2があります。最大のライバルは、軽自動車といえるでしょう。
旧型ではファニーフェイスのポルテのみでしたが、男性も乗れる車として、ノアに対するヴォクシーとしての「スペイド」を伴って、フルモデルチェンジとなりました。
エンジン
ポルテとスペイドには、1300ccの1NR-FEと1500ccの1NZ-FEの二種類が設定されています。その中でも今回は、1500ccエンジン搭載車に乗りました。1NZ-FEは初代プリウスに搭載された1NZ-FXEを先祖としています。もう15年も使い続けているエンジンで、トヨタのエンジンの歴史の中でも長寿命であり、他社に同時期に登場したエンジンもそろそろ主力を退いているところです。
その歴史の中では、二回大きな変更を受けています。1回目はシエンタ登場時に「ローラーロッカーアーム」が採用、そして今回は、アクアなどで受けた変更を取り入れ、70%の部品を新設計した、というものなのだそうです。運動部分を大きく変えたのでしょう。
エンジンの最高出力は、109馬力とこれまでとほとんど変わりません。しかしエンジン音などは大きく変わり、これまでのエンジンが加速時に発していた、「ウニョー」という唸り音はほぼ解消されています。後述するCVTの変速様式の変更を含め、低速トルクが強まった印象があります。
全車エコモードのみのアクセルペダル設定で、モードオンオフスイッチはありません。アクセルペダルの踏み加減によって、丁寧に踏んでいれば自動的にエコモード、大きく踏めばノーマルモードになるようです。
アクセルペダル操作に対してのエンジン出力の立ち上がりはやや鈍く、加速初期にほんの一瞬かったるさを感じます。そのかったるさの後に本格的な加速が始まります。
これまでのトヨタCVTですと、定速走行時にいたずらに高い変速比にされてしまいました。高い変速比であるために加速が鈍く、エンジンの力が不足したり運転士がアクセルを踏みましたりするのに対応し、CVTが変速比を素早く低めることで対処していました。エンジンの低速トルクも不足していたのだと思います。
一方、この車では、なるべく変速比を変えないようにして加速をします。低速トルクも改善されたのでしょう。余裕こそありませんが、エンジンの力で加速をしていきます。
気になるとすれば、上記のアクセルレスポンスの鈍さです。これまでのトヨタの車には無い鈍さです。運転士がこれに慣れないと、むしろアクセルペダルを大きく踏んでしまうのではないでしょうか?アクセルペダルを踏む足を固定できない人がいることは知っていますし、その無駄なアクセル操作を無視することで燃費が向上することも理解していますが、せめてエコモードスイッチはつける必要があると、私は思います。
車両重量に対するエンジン出力は、この1500ccでも「まあ走れる」程度です。1NR-FEエンジンはこの1NZ-FEよりも新しいために低速トルクはより期待できますし、エンジンも活発ではあるのですが、ちょっとパワー不足を感じるのではないか、と思います。
エンジンが静かになった上、遮音性も良好であるため、安価なコンパクトモノボックス車とは思えない静粛性が得られます。
アイドルストップについて
ヴィッツやラクティスの頃は、1300ccの1NR-FEエンジンに「常時噛み合い式スターターモーター」によるアイドルストップ機構しかありませんでしたが、1NZ-FEも大改良と共にアイドルストップ機構が加わりました。詳細は不明ですが、クランキング時の音が「ダイレクトドライブ式スターターモーター」の音であること、エンジンスタートは0.35秒よりかかっている印象から、ピニオン飛び出し式スターターモーターかもしれません。
結構頻繁にアイドルストップを行います。マツダのものは、「なぜ今アイドルストップをしないのか?」と思うほどにアイドルストップが行われないことがありますが、この車はそうではありません。外気温度32℃程度、エアコン温度設定23℃であっても、冷たい風が出てくる間はアイドルストップが行われます。そして風がぬるくなったかな?というころには、再びエンジンがかかります。
トランスミッション
もはや当然のごとく、ベルト式CVTが採用されています。前述のごとく、
ラクティス辺りからそれまでのトヨタ車とは変速パターンを変えているようです。すなわち、「
定速走行中、いたずらに変速比を高めたりしない。変速比は頻繁に変えず、エンジンの力によって加速させる」という方針です。
変速比があまり変わらないため、運転士としては加速の程度を見積もりやすくなるため、運転が楽になります。その一方で、「エンジンの最適燃費曲線を生かした変速制御」を一部放棄することになるため、燃費には最善ではないかもしれません。
各社のCVTも、当初はエンジンの力を有効に引き出す変速制御をしていましたが、変更の度に「有段変速的変速パターン」に近づけていきました。運転する人が主役、という考え方には賛成できます。
ただし、この改善されたCVTは、エンジンのスロットル制御のおかげで良さが完全には引き出されていません。
サスペンション
乗り心地は、柔らかくてしなやかです。この種のボデーで気になる「コーナーでのロール」は、ロールスピードが抑えられているためか、決して深くは感じません。初期ロールが遅く、じんわりロールしていくような印象です。しかし、隣に乗っていた営業マンの方は結構傾いていたため、絶対的なロール角は深そうです。
乗り心地は悪くないのですが、バネ下のホイールが若干ばたつくのか、それともサスペンションの前後コンプライアンスが過大なのか、荒れた路面での振動がやや大きいような印象がありました。
かといって、この種の車は乳幼児やお年寄りが乗ることも多く、硬さと柔らかさのバランスの設定は難しいでしょう。はじめの一歩の設定としては、結構良い仕上がりになっていると感じました。もう少しダンピングを強めても良いかもしれません。
ただ、、、今回初めてポルテとスペイドに分けたのですから、スペイドにはハード仕様があっても悪くないのではないかな、と思います。
ステアリング
現行ヴィッツが発売されて以降、みんカラ内の一部の方や自動車ジャーナリストの方の中に、「真っ直ぐ走らない」と言っている人が出てきました。私は
ヴィッツに乗り、「トヨタらしい、何時間乗っても疲れを感じない、適度にダルなステアリングの切れ味だなあ。」と感じていたのですが、この「真っ直ぐ走らない」評論には、若干違和感を感じたものです。
そもそも、「車がまっすぐ走らない」というのは、「バイアスタイヤがよれて、タイヤの接地面形状が定まらない」「横風に弱いボデー」「サスペンションのアライメント変化により、アクスルステアが起こる」のどれかなので、そのどれも感じられなかったことから、「一体何を言っているのだろうか?」と疑問に思っていたところでした。
私のコロナは直進性があまり良くなく、高速道路などでも微妙なステア修正が必要になります。トヨタの最近のこれらの車は、そんなこと必要なかったのになあ?というのがこの車に乗るまでの印象でした。
ところが、確かに「真っ直ぐ走らない」かのような印象がありました。真っ直ぐ走らない車に乗っている私には、この原因がわかりました。
この印象は、「ステアリングホイール中央付近で感じる、おそらくパワーステアリング系統の抵抗」です。その抵抗がモーターとステアリングシャフトの間のギヤによって起こされているのか、それともモーターの磁気抵抗か、あるいはラックギヤとピニオンギヤ、ステアリングロッド、サスペンションのボールジョイントで起こされているのかは不明ですが、油圧パワーステアリング車では決して感じられることのない「抵抗感」です。
すなわち、カーブや曲がり角から直進へ戻る際、ステアリングホイールを少し切った状態あたりで直進に戻ってしまい、車はまっすぐ走っているのにステアリングは少し切れているかのような状態になります。そこから真っ直ぐの位置に戻すことは可能なのですが、妙な抵抗を感じてしまうのです。
また、直進道路でも路面の凹凸やうねりで車の向きがやや変わることはありますが、今までの車ですと「車任せにアクセルを踏んでいれば、ステアリングは自然に真っ直ぐを向く」はずだったのが、そこで抵抗感を感じるために、運転士としては、そこで本能的に混乱が起こるのでしょうね。センターの位置も定まらず、センターに戻すにも抵抗感がある印象、、、疲れます。
路面のインフォメーションも少なく、基本的にはタイヤ任せで走っているように感じます。
17時間連続ドライブなどもしている私は、適度にダルなステアリングの方が、長時間運転するのには疲れないことは、重々承知しています。某社の「乗ってすぐに楽しさがわかる、シャープな切れ味のステアリング」は、楽しく感じるのはせいぜい6時間、あとはシャープすぎて疲れを増長させるものです。
そんな適度なダルさを評価していたトヨタのステアリングが、ややおかしな方向にむいてきているような印象を得ました。
なお、背が高いボデーの車は、ステアリングギヤ比をクイックにしすぎると同乗者が車酔いをする傾向になるのですが、ギヤ比の点では適切だと思いました。
ブレーキ
ブレーキペダルを強く踏めない女性やお年寄りを対象に、10年ほど前に「ブレーキを素早く踏むと、バキュームサーボを強く作動させてABS作動領域まで軽く踏めるよう、補助をする」アシスト機構が組み込まれるようになりました。採用当初の車のブレーキペダルは、操作量と制動力の立ち上がりがリニアでなく、ブレーキング時には気を使ったものでした。
この車は、女性やお年寄り対象とは言いながらも、その中では比較的まともな効き具合のブレーキでした。
ホンダと
マツダの中間から、ややマツダ寄り印象でした。
ボデー
子供を持つ親にとって、左側ドアがスライド式であるというのは、気持ちの点で楽なのだそうですね。私も小さい頃、ドアを開けるときには隣の車や障害物に気をつけるよう、毎回親に注意された覚えがあります。うーむ、親の点からは気を揉まなくて済むのでしょうが、子供の点から見ると「ドアの開け方について、教育を受ける機会が奪われている」とも言えますので、良い点ばかりではないと思います。
しかし、大きなスライドドアです。後席への乗り込みはラクラクです。かつてセンターピラーレスで売った「ラウム」を、事実上統合したこともうなずけます。「ある技術を進化させていっても、ある時突然全く新しい技術に取って代わられる」事実を目にしたような気分になりました。
このスライドドア、機能性では十分なのですが、大きく重いために旧型ではリリースモ・・・(以下自粛)。耐久性が上がっていることを、期待しています。
室内空間は、広大です。フロアパネルがフラットであることは当然ながら、後席に人が乗っても荷物室は空いていますので、大人4人とその荷物を積んだり、乳母車を積んだり、という使い方は楽でしょう。助手席が倒れてテーブルになるあたりは、乳児のオムツを車内で変えたり、体が不自由になったお年寄りに、食事をさせたりすることにも使えることでしょう。
しかし、仮に出来たとしても、本当に車内でオムツを交換したり、食事をしたりとするのでしょうか?一見便利に思えたとしても、実際にはしないことなのではないか、と思います。前者は車が臭くなるし、後者はいくらモウロクしたところで、食事を車の中ではしたくないでしょう。
車内から見る車外の視界は良好です。
アクアで感じた狭苦しさが全くありません。頭上空間は広大で、車内で立てそうです。頭上空間があると車は広く感じられますが、ここまでなくても、というくらいあります。これでロールが深ければ「無駄に車高が高い」と書いたでしょうが、ロールの少なさゆえ、欠点にはなりません。
内装は、チョコレート色が主体となっています。
ヴィッツや
パッソで現れたチョコレート色ですが、私も含めて色々な人が批判をしていた「縦溝のシボ」はやめ、「蛇のウロコ状?」の模様?となりました。素材は安っぽいですが、このシボなら悪くないと感じます。製造や素材のコスト低減、素材リサイクル性の向上ゆえに仕方がないとはいえ、寂しいものです。
シートの座り心地は柔らかいもので、短時間は快適、長時間は疲れるものと思われます。しかし、乳児やお年寄りを連れて長時間連続運転もないでしょうから、目的に合っていると思います。あれ?室内でオムツや食事、、、と考えているはずなのに、撥水生地シートではありません。汚れてもさっと拭き取れることこそ、重要ではないでしょうか?もしそのような使い方をする人がいるのでしたら、追加をした方がよいでしょう。
ボデー剛性は、ものすごくは高くなく、さりとて低くはない、という程度のものです。大きなスライドドア開口部ゆえ、決して高くはないでしょう。
ところで、後席右側ヒンジドアは必要でしょうか?頭上空間の点と、大きなスライドドアゆえ、いっそのこと右後席ドアは廃止してしまっても良いのではないか、と思います。おっと、元気な車椅子の方のことを忘れていました。こういう方は、車椅子で車の脇に乗りつけ、自分が運転席に座ってから車椅子を後席にしまうのだそうです。そのため、後席左右ドアがスライドドアのスズキパレットは、そんな方々に好評、という声を聞いたことがあります。難しい選択ですが、シエンタがあるならこの車は3ドアにしてしまってもよかったことでしょう。
ボデースタイルは、全くの好みです。ただし、後部形状がバンパーを除いて丸いため、ポルテの方がバランスが良いようにも感じます。しかし、自動車スタイリングの世界では、「ママくさい車は売れない」が定石となっているため、それに対応したスペイドを買っても悪くありません。
まとめ
試乗会場には、見に来た方の車として
ダイハツタントなども置いてありました。モノボックス系自動車オーナーには、買い替え対象として気になることでしょう。この車にあって、同形状他車にない魅力は、左側スライドドアと後席へのアクセス性でしょう。子供が二人までなら、
ノアやヴォクシーを買う必要はありません。この車で十分間に合います。
ただし、ヴォクシーを買う人は用途でクルマを買うのではなく、ある種の記号性としてクルマを買う一面もあるのでしょうから、そういう人に対しては、スペイドはまだまだアピール不足です。スペイドカスタムないしは煌を登場させてくるのではないか、とも思いますので、それを待っても悪くないとは思います。
もっと根本のところですが、「車に乗って、車に乗ることや移動すること以外に、飲んだり食ったり汚れものを扱ったりということを、本当にするの?」ということを考えてみましょう。それがない人はむしろ乗用車として真っ当な
ラクティスをおすすめしますし、「それが便利!」「もう一台、スポーツカーないしは高級車があるから」という人には、この車をおすすめします。
外寸の割にスペースが広大であることは、見に行く価値があります。が、必ず試乗をしましょう。運転したときの車側の反応に、全体的に正確性を感じないことがお勧めしきれない点なのです。
参照
パッソ
ヴィッツ
フィットシャトルハイブリッド
フリードハイブリッド
ラクティス1300cc
ラクティス1500cc
カローラルミオン
キューブ
ノート