
この日は、少々理由があって、日産のアトラスに乗ることになりました。なかなか乗る機会がないトラックゆえ、神経を研ぎ澄ませて運転してきました。
日産の小型トラックの歴史
日産は、約2t積載までのトラックを日産自動車で、4t以上を日産ディーゼルで製造していました。日産ではキャブオール、キャブスター、プリンスでは、クリッパーとホーマーと、名前とスタイルを変えて製造していました。昭和50年代初めまでのトラックといえば、フレームシャシーに鉄板を組み合わせたボデー、古くてシンプルなエンジンと、全くの生産財でした。
ところが、映画「トラック野郎」の影響なのか、トラックにもデラックスな仕様が加わるようになりました。そこで日産自動車では、キャブスター、ホーマー、キャブオール、クリッパー、バイソン(寿命わずか1年程度!)を統合し、新たに「アトラス」として再出発、エルフやキャンターに対抗するのでした。
トラックの排ガス規制が強化される直前の1995年頃、アトラスのうち2t以上の積載量のものはいすゞからエルフの供給を受け、日産は代わりにアトラスをエルフとしていすゞに供給することにしました。
時は流れ、日産は三菱と手を組み、エルフの代わりにキャンターの供給を受けるようになりました。積載量が少ないモデルは、引き続き日産で製造されます。
エンジン
ZD30DDTi型コモンレール式ディーゼルエンジンが搭載されています。ZDエンジンは、2000年頃にエルグランドやキャラバンに初搭載されましたが、当時は電子制御分配型噴射ポンプと組み合わせたエンジンでした。ディーゼルエンジンは、エンジン本体型式も重要ですが、燃料噴射系統の構造も重要です。このZDエンジン、エンジン型式としては古いのですが、燃料噴射制御系は最新のものになっています。
排気ガス処理系統は、酸化触媒と連続再生型DPFとを組み合わせ、尿素SCRは用いていません。小型トラックなので、排ガス規制もゆるいためでしょう。
パワーは必要にして十分です、最高出力、最大トルクとも、2400回転で発生します。ディーゼルノックはかなり大きく、乗用車ディーゼルエンジンの「ゴロゴロ」ではなく、「カリカリ」と、いかにもノックしているかのような音質です。このAMTは、ダウンシフト制御をします。すると、なんと「ブリッピング」にも似た?空吹かしをするのですが、その度に耳を刺激するディーゼルノックが聞こえます。エンジン本体は丈夫に作られているでしょうが、ピストンやメタルベアリングが心配になる音質です。
商用車用ディーゼルエンジンゆえ、回転の上がりが鋭いということは皆無です。音、振動を伴うものの、仕事はこなす、というエンジンです。排ガス対策は十分でも、乗用車にそのまま載せられるエンジンではありません。
トランスミッション
AMTとは、「既存のマニュアルトランスミッションのギヤとクラッチをそのままに、シフトセレクト機構とクラッチ断続機構を自動化」したものとして分類されます。従って、トルクコンバーターAT特有の「クリープ現象」はありません。乗用車では、BMWのSMGやトヨタのSMTがこれに該当します。
自動化は、電動モーターによって行われます。シフト動作、セレクト動作、クラッチレリーズ動作は、ポジションセンサーの信号を監視しながら直流モーターを駆動することで行われます。
この、「ポジションセンサー信号値を調べながら」が良くないのか、それともトラック特有の課題、「ショックの軽減」からなのか、シフトセレクト動作ないしはクラッチ動作が遅くて遅くて仕方がありません。特に、交差点を右折するときには非常に危険を感じます。かつてパッソでも同じような印象を持ったことがあります。
反面、常時かみ合いギヤゆえ、トルク伝達容量が大きくなり、トラック向けのトランスミッションと言えます。今や、大型トラックやトラクターヘッド(トレーラーを引いているトラック)は、全て?AMTと聞きました。
また、面白い?装備として、1速やリバースでは、アクセルペダルに対して実になめらかに走行します。かなりクラッチを滑らせている印象はありますが、ベテランが上手に行う半クラッチとアクセル操作を、誰でも実現できます。聞くところによると、トラックはヤードにぴったり寄せる必要があることから、微速で走行することが非常に重要だと聞きました。
なお、他のトラックではフルードカップリング(トルクコンバーターの、ステーターがなくトルク増大作用がないもの)などと組み合わせたものがあり、乗用車のトランスミッションとは違った性能が求められていることがわかります。
変速操作は、レバーを前に倒してシフトアップ、後ろに倒してシフトダウンとなります。シフトレバー操作後、変速完了まで0.8秒はかかっている印象です。
MR-SのSMTもそのような感じでしたが、クラッチ操作と回転の同期に時間がかかるのでしょうね。この種の「オートシフト」方式は、慣れれば良いものの「いつシフト、クラッチ操作が完了するか」がわからないので、自分で操作するMTと比べて運転しづらいのでしょうね。なれてもシフト操作は早くなりませんが、運転士の心の準備はできるようになりますから、乗って乗れないことはありません。
サスペンション
荷物が主役で運転士は脇役ですから、運転士の乗り心地は重要ではないのでしょうね。空荷で乗ったのですが、ピッチングはひどいわ、後輪が突起に乗り上げると車自体が一瞬止まるような動きをするわで、乗り心地というものはありません。あくまでも、2tの荷物を搭載した状態での乗り心地を論じないと意味はないでしょう。それにしても硬い硬い!脳みそがどうにかなりそうですが、
不思議と眼球がゆすられるような乗り心地ではないため、乗り物酔いをすることはないでしょう。
ステアリング
適度な鈍さが有り、直進時は疲れない印象でした。
ブレーキ
これも2tの荷物を積んだ時に止まることが目的のブレーキですが、いわゆる「カックン」と止まるブレーキに近い印象でした。
ボデーとフレーム
乗用車では「ボデー剛性の高さ」が論じられますが、トラックでは「適度にしなやかなシャシー」が求められます。適度にしなって車輪の変位を逃がし、車輪の接地性を良くするとともに、フレームの一部に応力が集中しないようにしています。トラックのシャシーは、応力が集中してフレームにクラックが入ることを最も避けています。
まとめ
トランスミッションの変速性能と乗り心地の悪さばかりが気になってしまいました。当然、トラックは荷物を運ぶ車でありますが、荷物を積んでいったあとは空荷で帰ります。その時の乗り心地が悪い状態で、果たして運転士さんは毎日喜んで働くでしょうか??また、AMTの変速性能の低さも気になりました。いろいろな運転士がいるのでしょうが、少し慣れるだけでMTの方がより上手に運転できることでしょう。
従って、AMT仕様は、運転する人がAT限定しかいない会社、クラッチ操作が下手だけれども、誰も指摘できない人がいる会社、レンタカーなどには良いでしょうが、そうでなければMTの方がおすすめです。
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試乗 | クルマ
Posted at
2012/12/08 21:20:57