
この1週間ほど前だったか、ディーラーの店の前にカムリの試乗車を見つけました。なかなかカムリを置いてある店が少ないため、この日訪問、試乗したのでした。
カムリの歴史
カムリの初代は「セリカカムリ」として、カローラ店のカローラの上の車種として1980年に登場しました。中身は欧州向けカリーナだそうです。しかし、リヤサスペンションがリジッドアクスルのみであったカリーナに対し、同時に追加になったセリカのリヤ独立懸架仕様と同様の、セミトレーリングアーム仕様が加わっております。CMのキャッチフレーズも、「男30、GTアゲイン」と、大人のスポーツセダンを意識したものになています。エンジンは21R-U、18R-GEUと3T-EU、13T-Uと、コロナに近いラインナップとなっていました。
この後輪駆動期は2年で終了し、昭和57年にはFWD化されて兄弟車ビスタを伴って登場しました。このFWD車は一説によるとコロナやカリーナとして登場するはずだったモデルとも言われています。当時としては幅が広い車型で、国産車拡幅のきっかけ、第二弾となりました。その一方で、当時のトヨタ流に則った、四角四角したボデーとシンプルな車内が冷たい印象を与え、後期にはやや丸みを感じさせるグリル、ライトとなり、温かみも感じさせるようになりました。また、3S-GELUエンジン搭載のハイパワーグレードも追加され、FWD時代の到来を伺わせました。
この反省は次のモデルに生かされ、当時のアウディを思わせる丸みをおぼた空力デザインになりました。当時のトヨタではアウディのデザインテーマ推進中で、その第一弾となったのがカムリ、ビスタでした。このモデルでは、3S-FE「ハイメカツインカムエンジン」搭載第一号となり、DOHCエンジン普及のきっかけとなりました。当時は、シザースギヤでもう一方のカムを駆動する狭角DOHCエンジンは「偽物」などという風潮がありましたが、可変バルブタイミングが一般的になった今日では、むしろ普通のDOHCエンジンとなりました。
モデル途中では、アメリカ向けにV6エンジンを搭載した「プロミネント」が追加され、贅沢志向を強めました。このプロミネントは、後に「ウインダム」や「セプター」、「プロナード」などの基礎となった重要なモデルです。しかし、徳大寺有恒氏をして、「ABCビスケットのようにポンポン作った車。形は違えど、原料も味も同じ。」と言わせました。後のトヨタの車種増大のきっかけにもなっています。
FF2代目の大成功を受け、FF3代目はさらに贅沢志向を強めます。プロミネントはほとんど独立したモデルとなりました。前述の大型FFモデルが登場したのはこの時期です。デザインテーマは、既に登場していたセルシオを小型化したもので、丸みをおぼた伸びやかなモデルでした。
しかし、このモデル登場直後にバブル景気が崩壊、ちょっと無理をしてこの車を買っていた層が無理を削ってきたため、真っ先に影響を受けました。マイナーチェンジ時にGTが廃止されました。通常エンジンのパワーが上昇したから、ということがその理由だそうですが、セダンGTをなくすきっかけを作ってしまいました。
次のFF4代目は、国内専用モデルとしてさらにバブル崩壊後の世相を反映します。モデルは更に削減、内外装デザインも「安っぽい」印象を与えたものになってしまいました。後期モデルこそ、ややその安っぽさを感じさせない努力をしましたが、世相が変わらなかったために、キャラクターも変わりませんでした。
FF5代目は、グラシアのサブネームを伴ってアメリカと共通(?)の3ナンバー仕様となりました。当時のワゴンブームを受けて、ワゴンモデル、そしてその兄弟車のマークⅡワゴンクオリスを追加しました。ゆったりとしたセダン・ワゴンであることが売りでしたが、当時のこの市場はレガシィの独壇場でした。キャラクターが薄いことが災いしてか、そこそこの成績となりました。グラシアのサブネームも印象を薄めるだけになり、後期型セダンは「カムリ」に戻りました。
FF6代目はもう完全にアメリカ仕様でした。基本システムは旧型を利用しています。国内での印象は薄いままでしたが、アメリカでは引き続き大ヒット、当時国内で大ヒットしていたFF初代エスティマのベース車でもあり、国内では印象は薄いものの世界規模で見ると、トヨタで最も重要な車種となっていました。
FF7代目は、登場時期に廃止されたウインダムの位置も兼ねることになりました。日本軽視はさらに進み、海外では3500cc仕様やハイブリッドもありながら国内は2400ccエンジンのみと、自動車メーカー日本軽視の象徴ともなりました。
そして8代目、日本仕様はハイブリッドとなり、セダンのハイブリッド車を求める層の需要を受けることになりました。しかし、同じクラスには「SAI」と「レクサスHS250」もあり、トヨタの戦略が混迷していることが伺えます。その中でカムリは、比較的シンプルでセダンらしいクラシカルなスタイルで登場し、独自の立ち位置となっています。
エンジンとモーター、ハイブリッドシステム
エンジンは、2AR-FXEエンジンを搭載しています。トヨタの2000cc超クラスの新エンジンで、レクサスRXで登場したものです。地味な登場かつ2000cc超クラスの縮小によって、あまり報道されていません。クラウンハイブリッド登場時にようやく話題になったほどです。
エンジン型式から読み取れるように、アトキンソンサイクル方式を採用しています。最高出力は160馬力で、オットーサイクル(普通のエンジン)の2500ccエンジンにも並ぶほどの出力を示しています。高出力、高効率を目標に開発されたエンジンで、一説によるとこのエンジンのクラウン用直噴2AR-FSEは、熱効率が30%台の後半にも達する模様です。
エンジンが効率を重視すると、どうしてもノッキングが発生する限界を求めるため、ジリジリ、ザラザラといった微振動、ないしは騒音が発生します。このエンジンもその例に漏れず、エンジンが始動した瞬間から結構な微振動が伝わってきます。遮音性が良いはずなのに、このエンジン音とタイヤノイズが大きく感じられます。
しかも、トヨタのハイブリッドシステム、THS-Ⅱの特徴でもあり、燃費向上の策でもある、「エンジンが最も効率が良い領域を、車速や加速とは無関係に使う」事がより一層進められています。特に加速時に強く感じられ、エンジン回転は一定なのに車は加速している、という状態が常に発生しています。アクアではこの感覚が弱まっていたことからすると、エンジン出力に余裕があるモデルほど効率が高い領域を使うので、ますますトヨタ方式のハイブリッドらしさが顔を出すのではないでしょうか。
街中では、加速の状態を景色の流れやスピードメーターでしか知ることが出来ず、運転士の操作を運転士自身の感覚に反映させづらくなっています。この傾向は、エンジン出力が大きいTHS-Ⅱに乗って、初めてわかりました。
システムの上では、むしろホンダ方式の方がこの傾向にするように考えられますが、その結果は反対でした。私の感覚では、THS-Ⅱ方式はとてもコントローラブルとは言えず、運転しづらいことこの上ありません。あらゆる乗り物が、「出力の高まりや速度の高まりとともに音が高まる」という傾向のもとに成り立っていますが、THS-Ⅱだけがこれを無視してしまっています。
もちろん急加速をしたりアクセルを全開にすればエンジンは高回転域まで回りますが、あたかもシフトダウンをしたかのように急激に高まります。この運転感覚の違和感は、長い間従来車に親しんできた、カムリの主な客層ほど強く感じられるのではないでしょうか?この車を検討されていて、初めてハイブリッド車をお選びになるような方は、必ず長距離の試乗をして、自身の感覚に合うかどうかお試し下さい。
その他、ハイブリッドとしての基本的なシステムはプリウスと同様です。電池もニッケル水素、駆動系もTHS-Ⅱ動力分割機構となっています。
サスペンション
トヨタのFWD車共通の「フロントストラット、リヤトーションアクスル」でもなければ、オーリスRSで採用した、「フロントストラット、リヤダブルウイッシュボーン」でもなく、カムリ伝統の、「前後ストラット」を採用しています。全くの想像ですが、アメリカ市場を考慮し、シンプルで従来とは変わらない形式を採用したものと考えられます。
ショックアブソーバーのフリクションが大きいのか、突起乗り越え時には、車体が突起に乗り上げてからストロークしているかのような印象で、ストロークが遅れてくるような印象です。かつての、「突起乗り越えにストロークが間に合わず、車体がブルブル上下に震えるだけ」と比べると良くなっていますが、乗り心地が良いとは言えません。
サスペンション自身もやや硬めに調整しているようで、「突っ張った」印象が強いです。耐ロール性にはよく作用するかもしれませんが、前述のとおりショックアブソーバーの動きが悪い印象もあり、突起にはストロークしないものの、曲がり続けるように長い間にはロールしてしまうかもしれません。街中の交差点を曲がる程度の横力では、ほとんどロールしない印象でした。
この印象はオーリスにも近く、コーナーではフロントがしっかり踏ん張りながら曲がるのではないでしょうか。しかし、後述のとおりステアリングインフォメーションがないため、スポーツセダンとして楽しく曲がることは難しいでしょう。
ステアリング
当然のことながら、電動パワーステアリングを採用しています。これまた路面の状態を全く伝えないステアリングで、グリップの加減を伝えないのはもちろんですが、ステアリング中央付近の座りもよくありません。
トヨタの電動パワーステアリングは「アシストマップ」と言って、切れ角ないしはそうだ速度に応じてアシスト量を制御するプログラムが組まれておりますが、これを採用したモデルほど印象が良くありません。新しいことを加えたら、何もしないものよりも悪くなる、というのは一体どうしたことでしょう??
こういった人間の感覚に関わるところは、数値や力の測定でわかるものではありません。微小な事象を体で感じ、その感じを言葉に表し、他人に伝える能力がないと改善できません。トヨタのサプライヤーやメーカー内には、これができる人がいなくなってしまったのでしょうか???
ブレーキ
トヨタのハイブリッド車のブレーキは、回生ブレーキと強調して摩擦ブレーキの作動割合を弱めることができる、「遅れ込め制御付き、電子制御油圧作動式ブレーキ」を採用しています。すなわちブレーキペダルは運転士のブレーキ希望度合いを車に伝えるためのもので、車側は車速やブレーキペダル踏み込み量に応じて回生ブレーキを優先して作動、足りない分を摩擦ブレーキで補っています。
すなわちただのペダルなのですが、操作感を演出するために「ストロークシミュレーター」という、油圧反力室を設けて、運転士が従来の車と比べて違和感を感じることなく、ブレーキペダルを踏めるように配慮していま。
しかし、特に軽いブレーキング時にペダルが吸い込まれるような違和感があるのは皆さんもご経験の通りで、なめらかに停車することが難しくなってしまっています。この試乗車は特にその傾向が強く、試乗中になめらかに停車することは不可能でした。ブレーキペダルから足を離した時のペダルの戻りも非常に悪く、床か足にガムでもこびりついているのか、と思うほどでした。
微小なブレーキング時には、ソレノイドバルブを短い時間で開閉してホイールシリンダーへの送油量を調整しているのがわかるほどで、およそコントローラブルとは言えませんでした。
ボデー
サスペンションのところでも書いたとおり、フロントにはしっかりした印象を持てました。しかし、近頃急速に剛性が高まっている他社の同クラスの車両と比較するとやや落ちる印象です。ダッシュボードややや震える印象です。
リヤはもっと剛性が落ちる印象で、突起乗り越え時は明らかにブルブルと震えます。ショックアブソーバーの印象やトランクスルー機能がついていることも影響しているでしょうが、遮音が行き届いてエンジン音も小さいこの車では、より一層音が目立ってしまいます。スタイルや車の大きさから「高級車」をイメージして乗り込んだのですが、この音を聞いてすっかり気分が消沈してしまいました。
外装は、旧型カローラアクシオと同じデザインテーマで、スポーツセダンらしい構えた顔立ちになっています。私が個人的に気に入ったのは、Aピラーとエンジンフードの線の交点が、フロントドアの前端と交わっていることです。なんでも少し前までのセダンは、フロントドアの前端が、この交点よりも後ろにあって、キャビンフォワード感、ないしはビッグキャビン感を演出するのだそうですが、なんとなく前のめりな印象や、全体的に寸づまりな印象になるため、私は嫌いです。
このとおり、スタイル上の流行は、買う人の都合とは全く無関係にスタイル設計者が世界の流行を作り出して演出しています。こういう不満は、いったい誰にぶつければ良いのでしょうか???
色も秀逸で、白や水色系のメタリック、ブラックからだんだん薄くなるグレーメタリックまでの何色か、最近のトヨタに多い、赤系のメタリックが設定されているほか、グリーン系のメタリックとスチールメタリックとでも言う、なかなか個性的な色が設定されています。最後のこの二色は、非常に良い色だと思います。
内装は、抑えたマークX調とでも言いましょうか、銀色がほどよく採用されていて、好ましい印象です。ダッシュボードはやや高く、前方の視界をやや悪くしています。
その他のピラーは、クオーターピラーがやや太いかな、と思う程度で、視界はまあまあです。しかし、室内は黒一色で、なんだか寒々とした印象です。グレーは営業車と言われ、ベージュはジジババ臭いと言われ、青は消滅してしまい、黒しかないのも分かるのですが、もうちょっとデザインが欲しいように思います。
まとめ
当初は、スポーティーで高級感あふれるスポーツセダンを予想して乗り込んだのですが、アメリカでのカムリの性格が強く出ていて、どちらかというと大きなカローラという印象です。スタイルは若干没個性かもしれませんが、車らしいスタイルでもありますので、気になる人は多いと思います。
しかし、車全体としては全く面白くなく、スポーティーで運転士に訴えかけるような性能もチューニングもありません。乗り心地も、
アリオンや
SAIと比べても明らかに落ちるため、この車の特徴というとエンジンが新しい型式だけ、となってしまいます。
ラージ、ないしはミドルセダンは、
アコードや
アテンザ、ちょっと古くなってきたもののレガシィなどが非常に高い品質を前面に押し出しているため、この車が入り込む場所は全くと言って良いほどありません。ああ、ハイブリッドというところがありましたね。
「車は見栄えがそこそこよければ、あとは燃費よく動けば良い」という人は、アメリカでは特に、日本でも一定数以上います。しかし、そう言う人は確実にダウンサイジングを進め、もはやこのクラスの車を選ぶことも少なくなっていると思います。
また、車に楽しみを求める人はもちろんながら、車が好きでない人も、上記の車の違いははっきりと分かることでしょう。
そんなことから、カムリを選ぶ理由は、「車らしいスタイルが好き」「立派に見える4ドアセダンが欲しく、燃費が良ければあとのことは気にしない。」という人だけでではないか、と思います。かく言う私もこの車のスタイルは結構好きで、非常に期待をしていたのですが、あまりの操縦感覚の悪さに、その気持ちは吹き飛んでしまいました。車に興味がない人も、せひ、ライバル車を試乗してからこの車を検討しましょう。その違いは、興味がない人でもはっきりと分かるものです。
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