
車のイベントが少ない大阪ですが、4月の中旬には大阪のBMW正規ディーラーがなんばに集まり、大試乗会を開催します。去年は事情で乗れなかったのですが、今回は免許とメガネを持って行きましたので、乗ることができました。既に4気筒ガソリンターボエンジンは試乗済みですので、今回は関心を集めている2シリーズ、しかも国際的にも珍しい、直列6気筒エンジン車に乗ってみました。
BMWの概況
直列6気筒エンジンは、二次振動がない完全なバランスを持ったエンジンです。それ故、これまでの多くの高級車が直列6気筒エンジンを搭載していました。
しかし、シリンダーが長くなることによる衝突安全性の確保、排気管の取り回し性と触媒搭載性の観点などから徐々にV6エンジンと置き換えられていきました。
BMWは、滑らかなエンジン回転性から、「シルキーシックス」などと雑誌に評価されていましたが、国際的なエンジン動向から離れることができず、一時は高級車はV8エンジンに移行し、小排気量エンジンは直列4気筒直噴ターボエンジンへとダウンサイジングを進めていました。
しかし、車を商品として捉えた場合、機械的な理想も大切ですが、キャラクターが大切であることが分かってきました。おそらく、アウディのA4が流行した時期辺りに相当議論されたのでしょうね。今回、2シリーズと5シリーズなどに、直列6気筒エンジンが復活しました。しかもターボチャージャーを搭載しています。
2000年始めは、多くの車が「機械的理想性」と「外観のすっきりさ」を競っていたものですが、明らかに違う時代になってきました。
エンジン
前述の通り、直列6気筒筒内噴射ガソリンターボチャージャーエンジンです。BMWお得意のバルブトロニック(スロットルバルブで空気量を調整するのではなく、バルブリフト量で調整する方式)と、連続可変バルブタイミング制御のVANOSを吸排気に備えています。
ターボチャージャーと筒内噴射とバルブトロニックを備えると、これまでのポート噴射では出来なかったようなことができます。バルブを開いて過給した空気でシリンダー内の排気ガスを追い出し、きれいな空気で燃焼させることも可能です。こうなると、アクセルレレスポンスが向上したり、過給開始時に一時的ではありますが点火時期を遅らせず、出力を向上させたりすることです。
最高出力は326馬力、最大トルクは45.9kg・mを発揮します。もちろんこんな出力を公道上、しかもセールスマンを横に乗せての走行で試せるはずもありませんので、私は低アクセル開度での公道走行での評価しかできません。
低速走行域では、意外にアクセルレスポンスが良くありません。カタログ上でも、1500回転以下ではトルクが十分の発揮されない領域が示されています。街中をゆっくり走るときには感じませんし、アクセルペダルを目一杯踏む領域でも、おそらく感じないことでしょう。巡航走行中に、「ちょっと加速したい」という時に、少々反応の鈍さを感じます。
シフトダウンをしてもアクセルレスポンスが悪い時間が短くなるだけで、存在することには変わりありませんでしたので、おそらくターボラグかと思います。ここが国産V6エンジン搭載ハイパワー車(クラウンやスカイラインなど)とは印象が異なる運転性です。
街中ではエンジンの性能はほとんど発揮されないでしょうが、高速道路を走るには1500回転も回っていれば十分巡航できます。加速も、前述の反応が鈍い期間を使うことになりますので、少々余裕時分を見積もって加速を開始する必要があります。
このエンジンが本領を発揮するのは、やはりサーキットなどの遊び場が主体になることでしょう。とはいえ、街中走行ではエンジンの回転をほとんど上げる必要はありませんので、排気量や出力から想像されるよりは、うんと燃費が良くなると考えられます。
エンジンは、出力以外にも色々な愉しめるポイントがあります。排気音は、これが純正かと思えるような重厚な音を立てます。また、エンジンがかかる時にバルブ開度を大きく設定しているのか、「キュキュキュキュ(スターターモーターの音)プワン(エンジンの回転が上がる音)」と、これから始めるドライビングに対し、運転士を煽るような音が発生します。
これは私の前に試乗した人の様子なのですが、運転席にいる人も外で見ていた私も、思わず笑みがこぼれてしまいました。今や、チョーク操作もアクセルペダル操作も不要になったエンジン始動ですが、このような演出が、以外にファンを増やす要素になるかもしれませんよ!?
また、こんな高性能車でも、アイドリングストップ機能が付いています。再始動も普通のスターターモーターが行います。始動時間は、0.35秒級と考えられますが、前述の「始動時の空吹かし」があること、3500ccも排気量があることなどから、再始動からの発進に余裕がない、ということは感じませんでした。
この車に試乗される方は、1500回転域の運転性に注意すると良いでしょう。私は、結構気になりました。手前味噌かもしれませんが、コロナやブルーバードシルフィの方が素早く反応し、出力が素早く立ち上がることから、運転しやすいような感じがしました。もちろん、出力が出てからの力強さは、比較になりません。。。
トランスミッション
電子制御トルクコンバーター式8速ATです。走行開始後、すぐにロックアップする機能が付いているために、トルクコンバーターのスリップは感じられません。また、8段に分割されておりますので、シフトショックは全く感じられません。反面、ショックが抑えられており、いつ変速されたのかがわかりません。欧州でも、ショックが少ないATが好まれるようになってきたのでしょうか。
マニュアルモードも付いており、レバーを前傾するとシフトダウン、後傾するとシフトアップです。レスポンスは素早いのですが、ショックがないために変速はタコメーターでしかわかりません。メーター内に現在の選択段を示していないように感じられ、これが不便に感じました。
実際にはトルコンスリップはないのでしょうが、86のATやスカイアクティブATと比較すると、ちょっとダイレクト感が乏しいように感じられてしまいました。
サスペンション
前輪225/40-R18、後輪245/35-R18と、太い上に扁平しているスポーツタイヤを履いているため、乗り心地は決して良くないように想像していたのですが、全く予想を裏切られました。路面の凹凸や突起にもサスペンションがしなやかに素早く動き、減衰力を発揮します。国産車の燃費重視モデルなどは、タイヤが跳ねてしまったり、ショックアブソーバーがしなやかにストロークしないために、かなり大きなショックを感じてしまう車種が多い中、この乗り心地は意外でした。
今や、スポーツモデルの乗り心地が悪い、などというのは、過去の話になっているのですね。タイヤの性能と相まって、コーナーでの不安は全くありません。ロールも少なく、カーブを安心して曲がれます。
ブレーキ
ブレーキ方式は調べませんでしたが、バルブトロニック故、バキュームポンプでバキュームを発生させ、真空サーボを作動させる、普通の油圧ブレーキを考えられます。
ペダル踏力に対して速やかに、しかもほとんど不感帯がなく制動力が発生し、ペダル反力も重めです。制動力の調整はしやすく、停車時のような場合はショックなく停車ができ、急制動や非常ブレーキの扱いに置いても、正確で信頼できる制動が出来るように感じられます。
ステアリング
電動パワーステアリングです。これ故、白線離脱時にはステアリングホイールを震わせ、運転士に伝達する機能が加えられております。
ステアリングは、やや速度が上がった際にステアリングホイールをこぶし大ほど操作すると、どういうわけか車の反応が鈍い箇所があります。そこから先は、それこそ急に舵が効くような印象で、操作量と舵角が比例しません。舵が効いてからのグリップが大きい分、唐突な印象が拭えません。ラック&ピニオンギヤ方式なのですが、まるでボール循環式ステアリングギヤボックスのようで、ダルな印象になってしまっています。
しかし、舵角が大きいときや低速時には感じられませんでしたので、前述の直線保持電子制御機能が邪魔をしているのではないか、と感じます。
ボデー
大きさがコンパクトで、ホイールベースも短めとあって、剛性は高く感じられます。剛性がうんと高い、というよりは、サスペンションからの入力に対して発生する振動が、速やかに収束しているような印象です。サスペンションの取り付け剛性も高く、突起乗り越え時に車体底部が振動するようなこともありませんでした。
車内は黒くまとめられ、色使いのセンスはそれほど良いとは思えません。しかし、視界に関してはよく工夫されています。Aピラーの、特に内装側の断面は三角にされ、視界と断面積向上が両立されています。Cピラーは外から見るよりも細く、高速道路などでの合流は非常に楽です。視界は安全の基本要素です。
室内は適度にタイトで、広いというほどではありません。4シリーズなどと比較すると、小型2ドアセダン、ないしは、2+2クーペと考えると良いでしょう。かつてあったE30の3シリーズの2ドアセダンなどと同じクラス、と考えられます。1970年代の国産車には、4ドアセダンと2ドアハードトップが設定されていましたが、その2ドアハードトップのようなものです。
追記:ドライブフィーリング
後輪駆動車の試乗をする機会はなかなかなく、しかも今回は高速道路で乗れました。中速でのコーナーリングを試せる、貴重な機会となりました。
前述の、ステアリング操舵量と舵の効きがリニアでないことは気になるものの、前輪が駆動仕事を担っていない事の長所は十分に感じられました。コーナーへの進入を済ませ、出口が見えてきてから加速を始めても、前輪のグリップ力の低下を心配することなく、加速を始めることができます。
もちろん、制限速度内で周囲の車の流れに乗った速度で、タイヤもハイグリップで十分余裕がある領域なのですが、それでも「摩擦円の存在」を感じます。これが前輪駆動車では、加速の開始とともに摩擦円が小さくなり、ステアリングを戻していきながら加速をしないと、横方向に滑り出しそうな印象を得ます。
後輪駆動では、加速とともに前輪に架かる荷重が減少し、摩擦円こそ小さくなるのですが、縦方向のグリップ力に摩擦力を回す必要ながないので、余裕を持って脱出加速ができます。
また、今日の前輪駆動車では「トルクステア」はほとんど感じなくなっているものの、駆動力の変化によるグリップの変化がステアリングホイールに伝わるものです。後輪駆動ではそれがなく、前輪は操舵だけに集中できるので、ステアフィールの変化が少なくなっています。
しかし、このステアリングホイールのグリップは太すぎです。この太さ故、路面の状況が伝わりにくくなってしまっています。
まとめ
車両本体価格が600万円近い車ですので、「この車が気に入った」という人しか買わないことでしょう。しかも、この種の2ドアセダンは他社にはありませんので、ますます「オンリーワン」となっています。おそらく、この4ドアセダンを待っている人は多数いるのではないか、と思います。
また、MTが235iにしか設定がないのも、少々選びにくい点です。220iも4気筒筒内噴射ターボエンジンで、184馬力を発揮します。こちらのエンジン仕様の方が、MTでエンジンから出力を発揮させる楽しみがあります。もっと言うと、2500ccの6気筒自然吸気のMTが400万円で実現されれば、これはおそらく買う人が増えるのではないか、と思います。
この車自身については、快適なスポーティーセダンとして十分に機能していますし、運転する楽しみも付いてきます。気になるのは1500回転域のアクセルペダル操作と加速の関係、ステアリングホイール微小操作時の反応性ですので、そこを注意しましょう。日々使う領域ですから、気になる人は、それこそ靴に小石が入ったかのように気になるでしょうし、気にしない人は気にならないでしょう。
おまけ
ブルーバードシルフィは車体を色々補強していますが、この車と比較しても決して劣らないどころか、むしろ高いのではないか、と思わせました。車体がねじられるような入力があった場合、ブルーバードシルフィでは後輪のストローク具合や突起の形状などの様子がわかるのですが、この車は若干曖昧さを感じました。もちろん、今時のハッチバック車と比較すると、かなり高い剛性を感じます。
おまけ2
「レーシングECO耐久」では、過去にフェアレディZなどの大排気量車も優勝しています。この車は、コーナーでの安定性が高く、多少の加速も1500回転までの領域で賄えてしまいますので、エンジンの効率が悪化する「エンジンの加速」をしなくて済みます。
最近は軽乗用車が「35.Xkm/リットル」などと歌っておりますが、おそらくこれを実現できる領域は非常に限られていると思います。そうなると、多少出力に余裕がある車両の方が、どんな時でもそれほど燃費が悪化することなく、平均的に使えるように思います。
参照して欲しい記事
トヨタ
クラウン(アスリート3.5、旧型)
マークX(現行前期型)
86(GT-Limited 6速AT)
日産
フーガハイブリッド
スカイライン(3700ccエンジン、旧型)
フェアレディZロードスター
マツダ
アテンザ(ディーゼル6速AT)
ホンダ
アコード(ハイブリッド)
BMW
現行3シリーズ4気筒ターボエンジン搭載車