
この日は、前日にスカイラインのハイブリッドを借りられる情報を入手、会社の人と連れ立ってテストドライブに行ってまいりました。
スカイラインの歴史
私よりもはるかにお詳しい方が数多くいらっしゃること、既に語り尽くされている印象から、概略のみ書きます。
プリンス時代
初代は、フォーマルカーに対する小型セダン、そしてスポーティカーとして存在していました。庶民が車を持てる時代ではなかった上、高価格車であったために、一般オーナーカーの歴史の上でもそれほど影響があるものではありませんでした。
二代目は、2000GTが途中から追加されたモデルです。レースに勝つ車として、グロリアの6気筒エンジンを搭載する特別なモデルが計画されました。当初のエンジンルームには搭載できず、エンジンフードやフェンダーを延長して「顕著なロングノーズボデー」として2000GTが登場しました。この車が以後のスカイラインの道筋を決定しました。
日産時代
三代目は、ハコスカが相当します。この頃はまだ4気筒モデルが中心で、2000GTは特別なモデルだったようです。レーシング用エンジンをデチューンしたS20エンジンを搭載したのもこのモデルです。
四代目は「ケンメリ」です。内容は「ハコスカ」と同等ながらやや車重が増加したものの、アメリカンなスタイルを得たモデルです。当時の雑誌では「車重が増して走りが鈍くなった。スカイラインも軟派になったものだ」と書かれたものですが、多くの若者の憧れの車にもなりました。のちの初代ソアラのような扱いだったようです。が、モデル登場直後に排出ガス規制が施行、極端に性能が低下してしまいました。
五代目は、「ジャパン」です。「ケンメリ」で酷評された斜め後方の視界を改善させたモデルです。4気筒シリーズにもスポーティグレードが登場しました。6気筒シリーズの走行性能は「サッパリ」だったらしく、ファイナルギヤ比変更、ターボチャージャー搭載と、徐々に走りの性能を取り戻していきました。
6代目は、「鉄仮面」ではおかしいですね。それは別として、モデル途中から4気筒DOHC、DOHCターボエンジンを搭載したRSシリーズが登場したのが特徴でした。同士のブルーバードとともに、走りの日産を特徴づけた車でした。トヨタのソアラが「女子大生ホイホイ」などと軟派の最右翼だったのに対し、日産らしくスポーティーな印象でした。
7代目は、「都市工学」というのも変な話です。トヨタのマークⅡに似たボデーのセダンとハードトップ、やや遅れてクーペを用意し、「スカイラインよ、お前もか」と言われましたが、レース用のGTS-Rなどを追加し、途中から走りの性能を取り戻しました。
8代目は、「超感覚スカイライン」でしたっけ?シェイプアップされたボデーに素晴らしいエンジンで、名車の資格があると思います。が、GT-Rはともかく、GTS-tなども名車だと思うのですが、あまり見かません。
9代目は、「営業からトランク容量を増やせと言われて増やしたら、走りの性能が低下して売れ行きが落ちてしまった」スカイラインです。電子制御LSDや樹脂インペラーのターボチャージャーなど、あまり後年に伝わらなかった技術が投入されていました。マーケティングの悪い影響として、後年に名を残すことでしょう。
10代目は、8代目帰りをしたモデルです。しかし、日産の方針転換により、短命に終わってしまいました。
11代目は、新世代スカイラインの第一号です。まあ、別の車として企画されたそうですから、中身は違いますよね。
12代目は、ほとんどアメリカ仕様車として日本でも売っていただけの車でしたが、内容は決して悪くなかったと思います。
そして13代目は、基本的には11,12代目のコンセプトを受け継ぎながら、ハイブリッドとダイムラー製4気筒筒内噴射2000ccターボエンジンの二本立てで登場しました。
エンジン+モーター
VQ35HRエンジンを搭載しております。旧型スカイラインでは吸気バルブのリフト量で混合気量を調整する「VVEL(ブイベル)」を搭載しておりました。バルブリフトで吸気量を制御する方式は、低アクセル開度の時のポンピングロスを軽減する策であるため、低速走行時にはモーター走行になるハイブリッドでは不要と判断、その前のVQ35HRにしたのではないか、と推察されます。
エンジン単体での出力も非常に高く、306馬力を発揮します。なお、モーターは68馬力となり、車としての最高出力は374馬力にはなりません。エンジン、モーター、それぞれ最高出力を発揮する回転域が異なるため、もう少々低い値になるはずです。
エンジンは、VQエンジンの美点である、滑らかでスムーズな出力の出方をし、運転士を高揚させるV6エンジンらしい機関音も楽しめます。特に2500回転を超える辺りから機関音が高まり、アクセルペダルによく反応して出力を発揮します。
モーターはエンジンとトランスミッションの間に配置されております。モーター前後にクラッチが有り、それぞれ独立して結合、開放できます。発車時はエンジン側クラッチを開放、モーターの力のみをトランスミッションに伝達します。エンジンの効率が良くなる回転域になったり、アクセルペダル開度が大きくなったときはエンジン側クラッチも結合、滑らかにエンジンをクランキングするとともに始動、エンジン+モーターの力で走行します。定速走行状態になるとエンジン側クラッチを開放、タコメーターの指針が0回転を示すとともにモーターのみの走行へと移行します。
停車時はアイドルストップをしていますが、駆動バッテリーの蓄電量が減少すると停車時でもエンジンを始動しますが、その際にはトランスミッション側クラッチを解放してエンジンがモーターを回転させます。
このシステムはフーガハイブリッドで採用されたものですが、フーガでは「あ、忘れていました」とばかりにエンジン始動時の振動を感じたものですが、この車では振動などは全く感じません。もちろんクラッチを滑らせているからこそそのように振動がなくなるのでしょうが、制御が熟成されてきています。
日産が「世界最速」とうたっておりますが、その名に恥じない獰猛な加速と余裕ある運転を楽しめる車です。久しぶりに乗って楽しいパワーユニットが登場しました。トヨタのTHSがなんとなく余裕に欠ける運転感覚であるのに対し、「力みなぎる」という表現がぴったりです。
しかし、心配なのは電池の寿命です。日産リーフの説明ですと、5年で当初の70%に低下するのだったでしょうか?
電池は化学反応を利用する以上、徐々に性能が低下することは避けられませんが、この点だけが気にかかります。ハイブリッド車は、エンジン車のようにずっと性能を楽しむことができません。もちろん、電池を換装すればもとの性能を味わえます。
トランスミッション
日産縦置きトランスミッションとしてはお馴染みの、7速ATです。マニュアルモードを使わなくても走行状態に合わせた変速が自動的に行われますし、無用なシフトダウンが遅らされて、モーターが十分に性能を発揮できるよう、変速スケジュールが調整されています。
ステアリング
この車技術トピックがこの「ダイレクトアダプティブステアリング(ステアバイワイヤー、リモートコントロールステアリング)です。ステアリングホイールの操舵角をセンサーで感知、ステアリングギヤボックスは既になく、サスペンションサブフレームに二個ついている操舵アクチュエーターがタイロッドを動かして、車輪を操舵しています。
従来ステアリングの「重み」を演出するために、ステアリングシャフト部には重みを演出する「ステアリングフォースアクチュエーター」がついており、「車速感応パワーステアリング」のようなそうだ感を演出しています。
機構はセンサーで常に作動状態が監視され、万一動作に異常がみられた場合には、ステアリングシャフトに設けたクラッチを結合、従来の機械式ステアリングとして作動させています。
このシステムを用いることで、横滑り防止機構の補助、横風等の外乱の自動補正などをしており、「疲れないステアリング」を実現しています。自動運転への準備なのでしょうね。
印象としては、ステアリングホイールを動かしながら発車すると、まるでステアリングシャフトがねじれているような違和感を感じたり、あたかもタイヤがねじれているかのような「粘ついた」感じがすることがありますが、こと操舵感については違和感はありません。最初のシステムなのに、驚きの仕上がりです。これよりも出来が悪い電動パワーステアリングはいくらでもあります。
サスペンション
程よい硬さの、実にしっかりしたサスペンションになっています。微小な突起を乗り越えるときなどでもサスペンションがよく動き、ショックアブソーバーも減衰力を発揮しています。旧型のタイプSPはかなり固めでしたが、それよりは角が丸くなっています。
コーナーリング時にはBMWのように極端な前のめりの姿勢にはならず、程よい前傾姿勢のまま前後がロールしている印象です。
取り付け剛性も非常に高いようで、車体が震えるような不快な振動なく、路面が荒れた部分や突起を乗り越えていきます。ランフラットタイヤであるにもかかわらず、フラットで快適な乗り心地です。
ブレーキ
ブレーキペダルとマスターシリンダー液圧発生機構が連動していない、モーター+送りネジ+ピストン方式です。ペダルの踏みごたえは演出されたもので、回生ブレーキを優先するような制御とされています。すなわち、回生ブレーキ+摩擦ブレーキがブレーキペダル操作量に応じたものになるよう、摩擦ブレーキを弱めています。もちろん完全開放状態ではなく、「準備待機」として弱くは効かせていると思います。
フーガハイブリッドやフィットハイブリッドでは、ブレーキペダルを目一杯踏んだ際にはまるで板でも踏んでいるかのような「硬さ」を感じたものです。しかし、この部分も工夫され、普通車ブレーキの「リアクションディスク」に当たるような印象に調整されています。
ボデー
非常に高い剛性となっています。トランクスルー機構があったり、ストラットタワーバーが装着不能な形状であるにもかかわらず、それらの追加補強が不要に感じられるほどです。サスペンションの項目でも書きましたが、大入力があっても車体はビビリもしません。
着座位置は比較的低めで、スポーツセダンであることを主張しています。室内は比較的タイトで、決して広い方ではありません。しかし、「車を運転する席が運転席だ」ということがよく表れている室内設計で、運転していても変な緊張や疲れを感じることはありません。
仕立ても高級です。しかし、センターのインフォメーションディスプレイは上がナビゲーションで、下が各種操作系です。ナビゲーションは解像度がイマイチ、インフォメーションディスプレイも操作性がイマイチ、車のモード設定もここで行う、というのが理解に苦しみます。車のモードは、メカニカルスイッチで行うべきだと思います。
視界は非常に良く、右左折時でも緊張させられることはありません。ドライバーズカーというのは、視界が良くなければならないと思うのです。
まとめ
いやはや、ドライバーズセダンとして、非常に味が濃い車に仕上がっていました。操作系のタッチ、アクセルレスポンス、ブレーキペダル操作感、トランスミッションやハイブリッドの協調、いずれをとってもよくチューニングされたことがわかります。
しかし価格が500万円超!価格と性能は見合っていると思いますが、これでは買える人は少ないでしょう。ハイブリッドシステムが撤去され、ステアリングシステムが簡素化された車が300万円台前半なら、これは買いでしょうね。しかし、それでは先進性が全くない車となり、存在意義がなくなってしまいます。
お金に余裕がある紳士がスポーティーな運転を楽しめるという、ハコスカやケンメリスカイラインの頃のキャラクターが今でも受け継がれています。
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