
今日は日産のマーチニスモを試乗しようとしましたが、今日は試乗ができないようでしたのでホンダへ転進、グレイスを試乗してみたのでした。既にフィットハイブリッドは試乗済みでしたのでグレイスは試乗しなくても良いかな?と考えていたのですが、やはり「乗らなくてはわからない」ということがわかったのでした。
ハッチバックとセダンの関係
国産車のベーシックカーグレードは、セダンボデーとハッチバックボデーを両方用意することが多々ありました。特にシビックやファミリアは、ハッチバックボデーを中心として、派生車種としてセダンを用意していました。1300cc級ではそんなことはしなかったのですが、1988年にシャレードとカルタスが、それぞれソシアルとエスティームというサブネームを伴い、ハッチバックボデーの後ろにトランクを付けた形で登場してきました。
アジア地域ではセダンが好まれること、寒冷地では荷物室を開けて室内の暖気が逃げることが嫌われること、社用車等では内規でセダンと決められていること、などから、セダンが必須でした。
フィットもその例に漏れず、初代はタイからセダンボデーの「フィットアリア」を輸入して販売していました。当初はエンジンも含めてフィットと共通でしたが、後期には16バルブエンジンを追加してスポーツセダンに仕立て上げようとしていましたが、取ってつけたようなトランクで、スタイルはずんぐりむっくり、買う喜びを得られない車は売れないという不文律を忘れたのか、討ち死にしていました。
二代目フィットではセダンを省略していましたが、根強いセダン需要に応えるためか、3代目フィットのセダンとして、グレイスを追加しました。現在のところはハイブリッドのみですが、雑誌によるとガソリンを追加する予定があるとかないとか。ホンダ車を社用車に使わなければならない企業はありますが、商用バンのパートナーは既に討ち死に、アクティもすでに存在が忘れられています。
また、ホンダという企業についても「度重なるリコール問題」が発生するなど、車を設計する人たちを取り囲む状況に問題があるような状況になっています。
ホンダを取り囲む事情が厳しくなっている中、グレイスがどのような仕上がりで発売されたのか、フィットハイブリッドの元気な走りの印象が残っているうちに試してみるのでした。
エンジン+モーター
基本的なシステムは、フィットハイブリッドと同様です。LEB型、DOHC4バルブ筒内噴射エンジンです。モーターについても同様で、後述するトランスミッションの1速ギヤ部を介してアシストを行います。
フィットハイブリッドは、あたかもアクセルペダルとスロットルバルブが機械的に連動しているかのようなダイレクトな印象で、モーターはあくまでもアシストに徹している印象でした。エンジンは獰猛な旧排気音を立てて、速度の上昇とともに機関音を大きくし、運転する気持ちを高ぶらせたものでした。
しかし、全く同じシステムであるにもかかわらず、この車ではアクセルペダルの操作にほとんど反応しません。エコモードが過剰に効いていると考えてエコモードを解除するも、ほとんどレスポンスは改善されませんでした。まるで、トヨタのハイブリッドシステムをホンダのハイブリッドシステムで真似ているかのような印象で、モーターの回転で車速を上げようとしています。2速以降は必ずエンジンが始動するシステムですが、2速以上である時にもアクセルペダルを踏んでもエンジンは回転を上げようとしません。
エンジンと車軸は機械的に連結し、回転力が逃げる場や滑る箇所はないはずなのですが、エンジンの力がどこかに使われてしまったり、滑っているかのような印象の場合すらあります。この感覚を強めているのは、アクセルペダルに対するエンジン回転数制御の悪さが一番であり、シフトアップを急ぐ変速制御が第二です。
このエンジン系は、運転をしていて全く楽しくないシステムになってしまっています。フィットハイブリッドと全く同じシステムを採用しながら、全くレスポンスが悪いシステムにしてしまう理由は何でしょうか?
・セダンだから高齢者が運転する
・フィットハイブリッドにおける意見徴収と反省
・より高度な燃費対策
・トランスミッションに関わるリコール・改善対策
これらの理由が考えられますが、せめてエコモードスイッチを解除した時にはフィットハイブリッド並みにすべきです。これではアクセルペダルへの反応が悪すぎて、危険を感じます。運転していて全く気分が良くなく、運転の快楽さは全く感じられません。
ホンダ車を選ぶ方々は、かつてのシビックやクイントインテグラで「ホンダ車は走りが良い」ということに感化された方ばかりです。そんな方々を裏切るこのシステムに、全く疑問を感じます。
トランスミッション
フィットハイブリッドと全く同じです。市街地ゆえマニュアルモードは試せませんでした。オートモードの悪さはエンジン+モーターのところで書いた通り、全く魅力を感じません。
サスペンション
ストローク開始直後から減衰力を発揮します。縮みでも伸びでも十分な性能を発揮します。ロールも控えめで、おそらく乗り物酔いは起こさないことでしょう。ノーズダイブも少なく、セダンらしい安定した走行が可能です。
一方、ストロークはあまりさせない方針のサスペンションのようで、デミオとは全く性格が異なります。おそらく、評価をする人によっては「ストロークを拒む」「サスペンションストロークが足りない」という人がいることでしょう。しかし、サスペンションは路面の凹凸を全く感じさせないことが良いのではなく、角を丸めながら凹凸を乗員に伝えることの方が合うものです。かつてのバスのエアサスペンションは前述の状態になっていましたが、そうすると乗り物酔いを引き起こしてしまうことは、みなさんご存知のところです。この車のサスペンション(だけ?)は、ホンダらしい仕上がりになっています。
ステアリング
当然電動パワーステアリングです。最近の国産車にあっては介助力が弱めで、走行時に「座りが良く」感じられます。直進時に安定し、コーナーでも安定して操舵ができますので、軽いだけのステアリングよりもずっと運転しやすくなっています。こんなことは、自動車の運転に慣れた者なら誰でも知っているはずのことですが、どうして女性の意見だけでコロッと変えてしまうのでしょうね。
ブレーキ
フィットハイブリッドに対して大きく変更したそうです。この車のブレーキシステムは、ペダル操作量を電気的に検知、ピストン付きモーターを駆動してマスターシリンダーを操作し、液圧を各車輪のブレーキピストンへと伝達する、「電子制御電動液圧式ブレーキ」を採用しています。すなわち、回生ブレーキ作動時には、たとえ運転士がブレーキペダルを操作しても実際のマスターシリンダーピストンモーターは駆動されません。
踏み応えは、専用の液圧室で演出されております。フィットハイブリッドでは、ブレーキペダル操作中にペダルが壁に当たる印象になり、踏み増し操作がしにくくなっています。普通のエンジン車のマスターシリンダーには、「リアクションディスク」というゴムパッドが有り、ゴムパッドのたわみによって踏み増し操作を自然で楽なものにしています。
今回の変更は、普通のエンジン車のブレーキに近づける内容です。以前のものでも良いですし、今回のものでも十分ダイレクトな印象があります。しいて言えば、これまでの車で感じていた、「自然な印象」になりました。
追記
ただし、微低速域ではトヨタのハイブリッド車と同じ効き方、ちょっとペダルを踏むだけで急に制動力が立ち上がる印象です。これなら、フィットハイブリッドの頃の、硬い壁に当たるようなブレーキの方がましです。
ボデー
非常に剛性が高いボデーです。パーセルシェルフ(後席の人のヘッドレストの後ろの部分)が一段と盛り上げてまで補強部材を追加したり、トランクスルー部に、スルー面積を減らしてでも「ハの字ブレース」を追加しています。もちろん、フィットハイブリッドで追加された、サスペンション取り付け部を左右で連結するブレースも採用されています。
この高いボデー剛性により、路面の突起を乗り越えるときに素早くダンパーが効き始め、ステアリング操作に対しても忠実に反応します。
外装は、以外にフィットとの共通性は少なく、この種のセダンにありがちだった「寸づまり」感は少なくなっています。流行という点では、トランクが高いハイデッキスタイルは流行遅れだったりしますが、そう言う層は相手にしないのでしょう。
面白いことに、フィットでクレームが出たのかな、という変更点があります。フィットではドア側にウエザーストリップがなく、ドアロック部にレインガーターのようなゴムのみありました。こちらでは、上半分にウエザーストリップが追加されています。また、前後ドア間を塞ぐゴムはなかったのですが、リヤドア前部に追加されています。
内装はかなりタイトな印象で、ダッシュボードはフィットよりも高く感じます。後方視界は前述の補強部材の関係で、余り良くありません。斜め後方視界は、それほど悪くありません。
内装部材は高級感を感じさせるものですが、ヴェゼルほどではありません。これまでのホンダ車に感じられた、メッキによるギラギラ感が抑えられて、適度に未来的な感じもあり、好感触です。
まとめ
こんな短期間でシステムを改悪してしまうということは、おそらく役員の中に走りに関して全くセンスがない人がいるのでしょう。「トヨタに追従すべき」「トヨタに勝つにはトヨタを追いかけることだ」とでも主張しているのでしょう。自らの市場を守ったマツダやスバルが躍進し、それぞれ市場を伸ばしています。
自動車メーカーにもシンクタンクやコンサルタントがつき、あれこれ指導しているのではないでしょうかね。これは全くの想像ですが、2000年代半ばに言われたことを忠実に実行してしまったのがホンダだったのではないでしょうか。
すなわち、
「これからは、家庭で財布を握っている女性の意見が大切です」
「お客様は良い車を求めているのではない。車がある生活や、お店での好ましい接客や癒しを求めているのです」
「営業マンは、「あなたから買いたい」と言わせてこそ営業マンです。」
です。これらの言葉は、本屋にあるビジネス書にこれでもか、というほど書いてあります。また、世間の「セミナー会社」というのは、こういうことを連ねて会社に社員教育をさせて利益を得ています。的外れなので効果が出るはずもなく、会社はまたセミナー会社に社員を送る、というセミナー会社にとっては好循環、利用者にとっては悪循環が生じます。
この車は、そんなマーケティング戦略にまんまと引っかかり、ホンダブランドを忘れさせて成立した車、という他ありません。ホンダは現在、軽自動車こそ好調ですが登録車は全く不振です。「貧すれば?鈍する」のことわざの通りです。
それを社内の人が批判すれば「会社の批判を行う裏切り者」として飛ばされ、社外の人がそれを言っても、「貴重なご意見ありがとうございます」と無視し、ジャーナリストが批判すると「うちの試乗会にはお呼びできません」と仕事を干されることでしょう。結局、元凶の役員(?)がいなくなるまでこの傾向はなくならないことでしょう。
この車はホンダ車としても残念な仕上がりですし、たとえ高齢者向けの車としても操作性の上で危険きわまりありません。意のままに走れない車ほど危険な車はありません。残念ながら、今のチューニングではこの車はまったく勧められません。売る人も、こんな車を勧めてはいけません。ホンダは、自身の重病さにいつになったら気づくのでしょうね。
「ホンダ、クルマ作りの中でクルマ作りを忘れる」
参考にして欲しい記事
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アクア(前期型)
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ホンダ
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CR-Z(前期型MT短距離、前期型CVT短距離)
CR-Z(前期型MT長距離)
CR-Z(前期型CVT長距離)
アコード(ハイブリッド)
マツダ
デミオ(現行ガソリン、ディーゼル)
アクセラ(ハイブリッド、短距離)
アクセラ(ハイブリッド、長距離)
アクセラ(ハッチバック ガソリン、短距離)
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