
この日は、なかなか行けないスズキの販売店に行き、イグニスかヴァレーノを試乗しようと考えておりましたまさか2台とも試乗する訳にもいかず、1台のみになりました。
直前に2台の仕様を比較しましたが、ヴァレーノは2016年に新発売する車としては、機能の上で少々不十分であると感じました。イグニスも決して十分ではありませんが、キャラクター上でははっきりした個性があり、見所があるイグニスから市場することにしました。
エンジン
旧型スイフトで登場し、現行スイフトの途中で1気筒当たり2本のインジェクターを用いる方式に進化した、K12Cデュアルジェットエンジンが採用されています。最近では当然のごとく採用されている吸気側2バルブ方式ですが、1本のインジェクターですと二つの噴口がインテークマニホールドに対して斜めに噴射するため、燃料がインテークマニホールドの壁面に付着してしまいます。そのため、混合気が均一にならず、どうしてもやや濃い目の燃料になってしまいがちでした。
これを補正する目的でインジェクターを1バルブずつ用意し、噴射した燃料がインテークマニホールドの壁面に付着することなく、燃焼室内に吸引されるようにしています。この効果により、高圧燃料ポンプを使用している筒内噴射エンジンに近い効果を、高圧燃料ポンプを必要とせずに達成できます。
実際に乗った印象では、現行スイフト登場初期の印象よりも若干パワーが増したようで、低中回転域での走行性能が良くなっています。加速が楽になり、1200ccという低排気量を感じさせなくなっています。
さらに、騒音や振動も低減されているようで、特にアイドリング時の車体の揺れや騒音の低さは、燃焼状態の良さを示しているように感じます。燃焼サイクルごとの出力が安定しているのでしょう。ただし、今回は試乗路の都合により、急加速や高回転域の状態までは試験できませんでした。
ハイブリッドシステムは、Sエネチャージ同様、発電機をモーターとして使用するマイルドハイブリッド方式です。
発進時の転がり出しの際や、中間加速域などを中心にアシストを行います。何よりエンジンとはゴムベルトで連結されている方式ゆえ、構造上過大なアシストは期待できません。
これが、後述するCVT変速制御と相まって、運転士の意に介さない急発進や加速度の変化をもたらします。モータアシストとエンジン、トランスミッション制御が、全く調和することなくそれぞれが独立して運転しているかのような印象です。試乗中にアクセル操作にてなめらかな発進や加速を試みましたが、短い距離と時間ゆえ、ついに出来ませんでした。
なんとも完成度が低い仕上がりで、なめらかに運転することが出来ません。同様のことは現行スイフト登場時にも指摘しましたが、全く改善されないどころかハイブリッド制御が加わることで、特に低回転時の印象がさらに悪くなっています。
トランスミッション
スズキお得意の、副変速機構付きCVTを採用しています。もちろん、発車後にすぐにロックアップするトルクコンバーターも採用しています。
これらがエンジンのところで述べたように、運転士の意に介さない制御になってしまっています。何しろ、車速やアクセルペダル開度が同じなのに急にアシストをしたり、アシストがなかったり、変速比を下げる制御をしたりしなかったりと、滑らかに運転をしたいのに必ずそうならないようにしている、としか思えない制御をしています。
この車は、エンジンとトランスミッションの時点で熟成不足が露呈し、もはや選ぶ価値がないとすら言えます。現代の車でこれだけ乗りづらい車は、そうはありません。
ステアリング
現行スイフトが登場した時と同じ評価である、「あたかもステアリングシャフトがねじれている(厳密にはねじれて応力を発揮している)かのような印象」で、操舵と前輪の関係がはっきりと決まらない印象です。
現行スイフトは、小型のモーターでアシストするパワーステアリングを採用したことが特徴でした。コストという点では優れているのかもしれませんが、買う方には関係ありません。
メーカーでは個人のブログなど参考にも値しない、と考えているのかもしれませんが、操舵が気持ちよく決まらない車は疲れてしまうものです。この車はヨーロッパでも評価を受けているかのような報道がなされていますが、この操舵性が良いというのでしたら、ヨーロッパの人も・・・、という他ありません。
サスペンション
車高や地上高の高さに合わせたためか、ややコツコツと硬さを感じるサスペンションです。前輪側は車体側の剛性がやや負けているか、サスペンションの前後コンプライアンス熟成不足か、ゴトゴトと騒音と振動が伝わってきます。
一方、後輪の取り付け剛性は高いようで、後輪の状態を信頼しながらコーナーリングを行うことが可能です。もっともこれは、試乗したモデルが4輪駆動車であったためにリヤサスペンションがリジッドアクスル化、アクスルとしての剛性が上がったことによるかもしれません。
ロールはまずまずで、ロールスピード自体は遅くなっています。おそらくロール量も少ないのでしょうが、地上高が高いことや幅がやや狭いこと、タイヤの高さの都合などから、あまり少ないようには感じません。地上高の高さを感じにくくなっている、という程度です。
コツコツとした振動と、ゴトゴトという騒音ばかりが印象に残ってしまいました。
ブレーキ
ハイブリッドシステムによる、回生ブレーキとの連動は行われておりません。従来からの真空マスターバックに、油圧式ブレーキを組み合わせた方式です。
回生ブレーキの効き具合は強力で、トルクコンバーター車ゆえの空走感覚が全く無くなっているほどです。慣れるまで停車距離とブレーキ操作量の関係の調整が大変です。
極低速域では回生ブレーキを失効させるため、急に減速力が低下します。減速直前に車が前に這い出す印象で、前述の加速時の良くない印象と相まって、ますます「滑らかに運転できない車」感を強めています。
なお、ブレーキペダルの踏み応えは良い印象で、操作量に対する減速度の立ち上がりは良い関係で、さらに「ハイブリッドシステムは不要?」と思えてきます。
ボデー
サスペンションのところで書いたように、ボデー後部の剛性はまずまずと感じましたが、前部の剛性が今ひとつに感じます。スズキは長い間高張力鋼板を使用しない車体構造としていましたが、旧「アルトエコ」以降、急速に高張力鋼板を採用しています。軽量ボデーの恩恵に預かっているのは、現行アルトでしょう。しかし、この車ではまだまだ未完成のようで、アルト(のRS)程のしっかり感はないようです。
視界は、後席ドアの後部が持ち上がる構造である上、クオーターピラーが太めになっているために、あまり良くありません。左折時や合流時には、少々疲れるでしょう。後席ドア持ち上がり部分は、デザイン上のアクセントでは重要ながら、室内では鉄板張りとなっています。
車としての商品性を考えると重要な部分ではありますが、視界では悪くする要因となる、難しい問題です。
内装は、この種の車のユーザー層を考えたためか、若々しく簡潔で近代的、こざっぱりとした好ましい印象です。
金属調の硬質感が適当です。ちょうど初代イストのような雰囲気で、若い人向けの時計のような印象になっています。なんとなく男性向けのような感じではありますが、非ガーリー系の女性が乗っていても良い印象です。
ただ、こういう雰囲気はせいぜい30歳代前半の人までで、それ以上の年代になると「小うるさい」「落ち着かない」印象を持つかもしれません。
まとめ
この車は、「つるしのままの初代bBまたはイスト」であると感じます。車全体が女性を離れ、男性のものになりつつある現象の表れです。小粋で格好も甘さが少なく、活発な人に乗ってもらいたい印象の車です。ちょうど、パッソの対極にある車といえます。
車の性格という点では、シエンタもそうでしたが、ちょうどスポーツ用品のような印象です。初代bBのカスタマイズモデルが、ヤンキージャージやナイロンジャージであったところが、この車はアウトドア用やウオームアップ用ウェアのような位置づけでしょうか。若い人ならファッションに取り入れると爽やかな印象ですが、年齢を重ねると、少々厳しいでしょう。20歳代前半までの方にはぴったりでしょう。この点からも、ガーリーをやめてファミリーな印象になったパッソとは正反対です。
しかし、エンジン、トランスミッション、ステアリング、ブレーキの部分で書いたように、この車は操縦系統の熟成が全くなされていません。これでは実験車レベルです。こういう「未完成車」を他人に勧めることはできません。メーカーには、早急に熟成を図ったマイナーチェンジを行って欲しいものです。
参照して欲しい記事
トヨタ
シエンタ
スペイド
旧型パッソ
現行パッソ
カローラアクシオ(後期型ガソリンエンジン車)
ラクティス(現行初期型1500cc)
ラクティス(現行初期型1300cc)
アクア(初期型)
ヴィッツ(初期型)
ヴィッツ(後期型)
日産
ノート(初期型スーパーチャージャー仕様)
ノート(ニスモMT)
マーチ(初期型)
マーチ(ニスモ仕様MT)
ホンダ
フィット(1300cc)
フィット(ハイブリッド初期型、短距離)
フィット(ハイブリッド、長距離)
フィット(RS)
グレイス(ハイブリッド、短距離)
マツダ
デミオ(ガソリンエンジン、中距離)
デミオ(ディーゼルエンジン、短距離)
デミオ(ガソリン、ディーゼル比較、短距離)
CX3(短距離)
三菱
RVR
スズキ
スイフト(初期型)
スイフト(デュアルジェットエンジン)
VW
UP!
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試乗 | クルマ
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2016/06/13 20:45:52