
この日は、メルセデス・ベンツGLA180を選び、3人で白川郷へドライブに行きました。本当は私の友人を1人交え、プリウスとの2台で行く予定だったのですが、所要で来られませんでした。そのために、当該車両のみで行くことになりました。
メルセデス・ベンツGLA180の概要
Aクラスは、ベンツの最も小さなサイズとして設定されました。初代・二代目モデルは、背が高く幅が狭く全長が短く、街中で走りやすい「シティームーバー」として位置づけられた車でした。ちょうど、スズキのツインのような車であり、都市交通としては理想的とされたものでした。このような車は、排出ガスや省エネルギーが問題になるたびに、都市設計者が考えて絵や模型に組み入れるものです。
しかし、車として持つ喜びやスタイルを楽しむという、ファッション商品としての車の面を考えますと、幅と全長と全高が決められてしまうために、十分にデザイン出来なくなります。また、整備性の上でも、大抵難がある形状になってしまうものです。その結果、二代目のAクラスは、VWゴルフと同じクラスの、コンパクトハッチバック車にモデルチェンジされました。
このGLAシリーズは、Aクラスを世界的なクロスオーバー車のブームに乗せたモデルです。Aクラスに対して車高を上げて大きなタイヤを装着、多少の悪路も走行出来るボデーとしています。日本国内では、スーパーマリオが出てくるテレビコマーシャルが有名になりましたね。
Aクラスとして、エンジンには「ダウンサイジング・ターボエンジン」、トランスミッションには「ツインクラッチ・トランスミッション」を搭載しています。GLAは、さらに「クロスオーバーの要素」を追加し、経済誌的に「時流に乗った」といえる車がになっています。
エンジン
1600ccの筒内噴射ガソリンエンジンで、吸排気連続可変バルブタイミング機構付きDOHC、インタークーラー付きターボチャージャーを搭載しています。ダウンサイジングターボエンジンの定義は、排気量を落としてターボチャージャーを装着、これまでのモデルのより大きな排気量だったエンジンを置き換えるという形であるとされております。
そしてこのエンジンには、後述する理由で「アトキンソンサイクル化」していると考えられます。これにより、ターボ過給をしない領域でポンピングロスを軽減し、燃費を向上させています。また、燃焼圧力も低下するために、エンジンの燃焼音が低くなるために、定速走行時には静かになっていました。
最高出力は122馬力を5500回転で、最大トルクは20.6kgf・mを1250回転から4000回転の間で発揮することになっています。当初のダウンサイジングコンセプトが狙った通り、低回転で高い出力を発生する、あたかもディーゼルエンジンのような特性ということが、「カタログから」は読み取れます。余談ですが、家のブルーバードシルフィのQG18DEエンジンと、似たような出力特性となっています。なお、トルク発生特性は異なります。
しかし、実際に乗った印象では、2500回転未満では有効な出力を得られませんでした。有効な出力域は、2500回転から4500回転程度であり、この領域にエンジン回転数があると、力強い出力が得られるようになっています。また、トルク特性は「アクセルペダルの踏み込み速度」によっても変えられている模様で、アクセルペダルを速く踏み込むと大きなトルクが発生し、ゆっくりと大きめに踏み込んでいくと、過給が行われないような制御がなされているようです。
このアクセル踏み込み速度を出力制御にしている車というのは大変に運転しづらいものです。アクセルペダル角度を同じ量にしても、ペダルの踏み込み速度によって変わってしまうのですから、車の特性を運転士が飲み込み、同じ運転状態を再現することが困難になります。
なぜアクセルペダル踏み込み速度を取り入れると不自然かというと、自動車登場当初のキャブレターエンジンには、急なアクセルペダル操作が御法度であるためです。キャブレーターエンジンでは、出力が欲しい時にアクセルペダルを速く踏むと、加速ポンプから燃料が余分に噴射されます。この量が多過ぎるとスパークプラグが、「かぶり」を起こして失速してしまうものでした。これだけでなく、コーナーリングでタイヤのグリップを有効に引き出す観点からも、「アクセルペダルは、滑らかに操作する」ことが基本であり、踏み込み速度は「ゆっくり」にすることが基本なのでした。
また、トルク特性の数値の上から過給が困難な1250回転未満の領域では、トランスミッションのトルクコンバーターによるトルク増大効果もないために、ますます出力不足を感じてしまいます。さらに、自動変速システムによるクラッチ操作が意外にもゆっくり行われるために、発車はあまり鋭くありません。試しに空吹かしをしてみましたが、やはりアクセルペダル操作に対してもエンジンの反応を鈍くしている模様です。これらのことより、低速回転時は加速の鈍さや、出力の立ち上がりにもどかしさを感じることばかりでした。
エンジン音は、アクセルペダルを大きく操作した領域でも低く抑えられています。そのまま最高回転領域まで到達しますので、過給の盛り上がりや溢れる出力、という印象はありません。淡々と出力を発揮するエンジンであると言えます。これもアトキンソンサイクルからオットーサイクルへ切り替え運転をしていないためではないか、と推察されます。国産車の多くでは応答性が素早い電動バルブタイミング機構を採用し、加速時の出力を確保したり、エンジンブレーキの効きを従来車通りにしています。
日産HR12DDRエンジンのように、過給を行うことで吸気戻りを抑制、出力を確保していると考えられます。より本格的なダウンサイジングターボエンジンではありますが、面白いエンジンではありません。
アトキンソンサイクルは、最近のエンジンでは良く採用されています。吸気バルブをピストン下死点前で閉じる方式と、下死点後に吸気を戻す方式の二種類がありますが、一般的には後者の方式を採用します。筒内噴射方式ゆえ、吸い込むのは空気だけですから、過給気による排気ガスの掃気効果が期待できます。さらに無過給領域でも吸気管の気圧が大気圧に近づくために、「ポンピングロス」を大きく減らすことが出来ます。
このエンジンは、このアトキンソンサイクルのみ運転によるためか、エンジンブレーキが全く効きません。マニュアルモードでシフトダウンをしても、エンジン回転数が上がるのみです。エンジン回転は上がるにも関わらず減速が得られないのは、ポンピングロスがないことでもあり、アトキンソンサイクルであることにほかなりません。この結果、下り坂でシフトダウンをしても全く減速度が得られません。結果としてフットブレーキを多用することになり、意のままの運転が困難になるのでした。
以上のことより、アクセルペダルの微妙な操作を受け付けず、エンジンブレーキは機能せず、走らせづらい車であると感じられました。
トランスミッション
ツインクラッチ二軸式の、いわゆるAMT(DCT、DSG)方式の7速オートマチックトランスミッションを採用しています。この種のトランスミッション車に乗るのは
VWゴルフ、
フィットハイブリッドに続いて3回目で、このようなロングドライブでは初めてでした。
停車状態における、クラッチを切った状態から発車する場合は、なめらか、かつ、半クラッチに十分な期間を使って接続しています。その間は、当然ながらシステムによってエンジン回転数は一定に保たれるために、運転士はもどかしさを感じます。一旦発車してしまえば、その後のシフトアップとシフトダウンは素早く行われます。以前乗ったフィットハイブリッドのシフトダウンは、壊れたのかと思うほどシフトダウンが遅かったものですが、あれはハイブリッドによる回生ブレーキ制御を優先させるためだったのですね。
シフト操作は、最近性能が向上したトルクコンバーター式ATに追いつかれている印象ですが、低回転域でもエンジン動力が直結されているために、ダイレクト感は
マツダスカイアクティブドライブATをも上回っています。
トランスミッションとしての機能は良いと感じましたが、シフトレーバーやモード切替スイッチなどの操作性は、最低ランクにあると言えます。シフトレバーはステアリングコラムの右側にあります。レバーは上下のみの操作で、電子的に上からR、N、Dレンジを選択します。Dレンジ時にさらにDの方へレバーを下に操作すると、エコモードに移行します。
レバーの先端にはスイッチがあり、操作するとPレンジを選択できます。モード切替は、基本をエコモードとし、ダッシュボード中央のスイッチを操作すると、アクセル操作に対するエンジンの反応が鋭く、ギヤもローギヤを選択する、スポーツモード、シフト位置を固定できるマニュアルモードに切り替えられます。
また、ステアリングコラムにはマニュアルスイッチがあり、左側がシフトダウン、右側がシフトアップです。コラムに固定されていますので、転舵してもスイッチの位置は固定されます。マニュアルモードを選択せずにマニュアルスイッチを操作すると、しばらくの間マニュアルモードに移行します。
これまた、これまでの車の操作系の歴史を無視した、扱いづらい機構になっています。輸入車のレバーの位置が国産車と左右反対なのは理解できていますが、咄嗟に右手でシフト操作はできません。
モード切替スイッチを、わざわざ運転席から遠い位置にしていることも理解不能です。レバーは上下操作のみなのですが、どうして手前と奥に操作する動きを加えなかったのでしょうか?モード切替はシフトレバーを手前に引くようにすれば済む話です。基本をエコモードとし、ノーマルモードを設けなかったことも理解不能です。エコモードでは過給運転も避けられる模様で、さらに鈍い走りを助長しています。
そんな位置にシフトレバーが有り、これまでシフトレバーがあったセンターコンソール部分には、ナビゲーションコントロールダイヤルがあります。運転士が急病になった際に他席からシフトレバーが遠く、運転中にそれほど操作しないナビゲーションやオーディオコントロールをいつでも行えるようにする、自動車設計の基本をわかっているとは思えませんでした。
サスペンション
輸入車にはよくみられる、柔らかいサスペンションスプリングとしっかりしたダンパーを組み合わせた乗り心地でした。この効果により、うねりがない路面ではしなやかな乗り心地を味わえます。うねり路面では減衰力が不足する模様で、車は煽られて緩やかな上下動をしているのに、タイヤは路面に対して上下しているという、タイヤと車体がバラバラに動いているような印象になることがありました。
凹凸を乗り越えるときには、これはもう完全に減衰力不足でした。タイヤが激しく上下動を起こし、車体に大きなショックが伝わりました。
車体幅が1805mmもあるために、カーブでのロール角は小さいのですが、ロール量は結構あります。ロールによるアンダーステアは結構強めで、ロールに伴うステア角の補正が必要です。
サスペンションの形式は、フロントはストラット、リヤはダブルウイッシュボーン式のようです。独立懸架ならではの乗り心地の良さは出ており、トーションアクスル式にあるような横揺れがありません。リヤサスペンションの粘りは素晴らしく、普通のコーナーリングでは後輪タイヤが鳴き出すようなことはありませんでした。
素晴らしく安定感十分なサスペンションですが、車幅が広いことに助けられているような気もします。
ステアリング
電動パワーステアリングを採用しております。介助において不自然さはなく、輸入車によくあるような介助力不足による過剰な重さも感じられませんでした。
この車の直進安定性は素晴らしく、高速道路では操舵に対する応答性の良さと安定性を両立させています。
一方、屈曲路走行時の操作では、どうにも慣れない点がありました。以下のように変化をしてくのです。まず中央付近から転舵操作を始めると、遊びを感じることなく素早く車は向きを変えようとします。しかし、転舵角30度を超えると、急に操舵角に対する応答性が悪くなります。即ち、初期の応答性を期待して転舵を初めてコーナーリングを開始すると、コーナー中期に意外な程切り増しを求められます。
全くの予想ですが、前輪のキャスター角が強く、転舵時にはキャンバー角がネガティブになることによって外側前輪が路面に食いつき、大きなグリップ力を発揮します。コーナーリングが始まってロールを始めると、ロール量の大きさかロワーアームやタイロッドの関係により、キャンバー角がポジティブ方向に変化するか、車輪の舵角が抑制させられると考えられます。
これらのステア特性により、コーナーリング時に転舵量を一発で決めることが難しかったです。疲れました。初期の応答性が不自然に鋭いために、もう少し遊びを設けるか、キャスター角を立てると良いと感じます。
ブレーキ
ブレーキの効き具合は素晴らしいです。操作量に対する制動力の発生が比例的です。大きく踏み込んだ時の制動力も高く、ブレーキペダルの踏み応えもしっかりしています。「常にエンジンよりもシャシーが速い」とするメルセデス・ベンツの理念は、ブレーキに生きていました。
パーキングブレーキは、電動式になっています。操作スイッチは運転席右側にあり、
私が否定している方式です。しかも、国産車の多くがフードオープナーレバーを配置している、比較的下の位置にスイッチがあり、手前に引くとブレーキ、奥に押すと解除と、なぜか電動式なのに、操作と解除を別操作にしています。運転士は操作の旅に、頭を抱えることになります。なぜ、センターコンソールにスイッチを設けないのでしょうか?
ボデー
ボデー剛性は高く、ノーマルの状態でも補強の必要は感じませんでした。特にボデー後部の剛性は非常に高く、ハッチバックモデルでここまで確保することは大変困難であろうというレベルに到達していました。雑誌等の、安心感を感じさせるボデーというものを十二分に感じさせるのでした。しかし、幅が1805mm、重量が1500kgと重量級で、「ダウンサイジングエンジンの前に、すべきことがあるのではないか?」と、首をかしげるものでした。
一方、視界は最低ランクにあります。ルーフパネルはボデー後部に行くに従ってなだらかに下がり、クオーターピラーもかなり太くなっています。センターピラーも太く、前席シートの背もたれ部分も厚く大きくなっております。
そのために、斜め後方の視界は全くありません。車線変更のたびに大きなストレスを感じ、高速道路や左折二次は、毎回過剰な緊張感を持ってしまいます。疲れて仕方がありません。安全性を歌うメルセデス・ベンツは、視界のことは気にしていないようです。
CR-Zもひどく視界が悪い車でしたが、巻き込み確認をしない技術者もいるのでしょうね。
内装は凝っておりました。シートやドア内装は合成皮革で出来ており、ハリ、コシともしっかしています。やや固めの座り心地により、長時間ドライブでも疲れを感じませんでした。また、間接照明やライトブラウンを用いた色使いによる演出も凝っており、ベーシックなコンパクトカーとの違いを感じさせています。しかし、視界の悪さがすべてを打ち消しています。
ナビゲーションは、タブレット端末のような形状となっております。
最近性能が向上している国産車の純正・後付けナビゲーションと比較すると、ポータブル機程度の性能と考えたほうが良いでしょう。
エアコンは、今回の車はマニュアルエアコン仕様でした。マニュアルエアコンなのに温度調整ダイヤルに温度目盛があったり、エアミックスドア等のアクチュエーターは電動になっておるなど、何故前者オートエアコンにしなかったのか、少々理解に苦しみます。
何と、結構な価格の車であるのに、後部座席の騒音はかなりのものです。音源はタイヤのようで、高速道路では100km/hでも「ゴーゴー」とうるさくて仕方がありません。後席座面位置が比較的低く、前席シートバックは大きくされており、後席と前席はほとんど遮断されています。この社団と騒音により、後席乗員は孤独さと騒音に耐えなければならないという、ほとんど拷問状態になります。
まとめ
この車は、「買ってはいけない車」です。メルセデス・ベンツ故に高額でありながら、良いところが全くありません。この評価は、標準のAクラスやCLAクラスにも応用可能な内容であることでしょう。私はこれまで、メルセデス・ベンツ神話を信じておりました。しかし今回の試乗で、この期待を全く裏切られました。
エンジンに魅力なし、トランスミッションは操作系が悪く、ステアリングは不自然で、ボデーは自分だけが良ければ良い剛性重視主義、その一方で室内騒音はかなりのものと、ひどい点ばかりが目についてしまったからです。これが、メルセデス・ベンツの傲慢なのでしょうか。
この車を買うくらいなら、国産車を買った方が何倍も良いことでしょう。これより安くて良い車は、いくらでもあります。車は、乗ってみなければわかりません。
読んで欲しい記事
トヨタ
オーリス(RS、前期型)
カローラアクシオ(後期型、アトキンソンサイクル2KR-FKEエンジン搭載車)
アクア(前期型)
ヴィッツ(1300cc、前期型)
ヴィッツ(1300ccアトキンソンサイクルエンジン、後期型)
パッソ
カムリ(初期型)
日産
リーフ
ジューク(前期型)
ジューク(後期型)
エクストレイル(ガソリン)
エクストレイル(ハイブリッド)
ノート(DIG-S スーパーチャージャー付きアトキンソンサイクルエンジン車)
ノート(ニスモ)
マーチ(前期型)
マーチ(ニスモ)
シルフィ
ティアナ
スカイライン(ハイブリッド)
スカイライン(200GT-tダウンサイジングターボエンジン)
ホンダ
アコード(前期型)
グレイス(ハイブリッド)
フィット(ハイブリッド、初期型、短距離)
フィット(ハイブリッド、初期型、長距離)
フィット(RS、MT)
フィット(1300cc)
CR-Z(短距離)
CR-Z(CVT、長距離)
CR-Z(MT、長距離)
マツダ
CX5(前期型、2000ccガソリン、短距離)
同、長距離
CX5(前期型、ディーゼル、短距離)
同、長距離
CX3(初期型、短距離)
アクセラ(ハイブリッド、短距離)
アクセラ(ガソリン20S)
アテンザ(ディーゼル、初期型)
デミオ(ガソリン、中距離)
デミオ(ガソリン、ディーゼル比較)
デミオ(ディーゼル、短距離)
スバル
XVハイブリッド
レヴォーグ(1600cc、初期型)
WRX-S4
三菱
RVR
スズキ
イグニス
スイフト(後期型デュアルジェットエンジン)
輸入車
VW
ゴルフ(1.4TSIハイライン)
BMW
320i(前期型)
M235iクーペ(前期型)