
この日は、CH-Rに引き続き、フリード+ハイブリッドにも試乗してきました。既にフィットハイブリッドやグレイスにも試乗済みであり、同じエンジンとハイブリッドシステムを持つ車に乗る意味があるのかどうか、と感じましたが、売れ行きが良い車であり、評価をすることは社会的にも意義があることである、と考えて史上を行いました。
フリードの位置づけ
乗用車を基準としたトールカーとして、既に何代にもわたって設定されています。事実上の初代は「キャパ」でした。当時の「ロゴ」を基準としたトールカーでしたが、バランスが悪いスタイルと細部の処理などから、話題になることはありませんでした。
二代目は初代フィットを基準とした、「モビリオ」「モビリオスパイク」でした。欧州の路面電車を題材にした、ウエストラインが低いスタイルが特徴的でした。やや車離れをしたスタイルで当初は話題になりましたが、すぐに人気が落ち着いた記憶があります。一方で「スパイク」仕様は、トヨタbBを思わせるスタイルとワル顔が受けた結果、そこそこの人気を博しました。
三代目は、二代目フィットを基準とした、「フリード」「フリードスパイク」です。旧モデルの雰囲気が残った、比較的角ばったボデーと搭載性や取り回しの良さ、モデル途中で追加されたハイブリッドの存在などから大人気になり、モデル末期でもかなりの台数を販売していました。
そしてこの四代目です。イメージはよりフィットに寄り、丸みを帯びたスタイルとなりました。二代目のスパイク仕様のいかつさは完全に払拭され、いわゆる「マイルドヤンキー」から完全に脱却しました。一方、同社の軽自動車はマイルドヤンキーを意識した仕様があり、スズキもスペーシアに同様の仕様を追加するなど、本モデルとは反対の方向に向かう傾向にあります。販売を意識するとマイルドヤンキー仕様はある方が良いと思います。しかし、新興住宅地やマンション族からすると、マイルドヤンキー味は、むしろ嫌がられる傾向かもしれません。同じ市場にあるトヨタ シエンタにもマイルドヤンキー仕様がないことから、同じく市場の探り合いであると感じています。
エンジン+モーター
フィットのハイブリッド仕様と同じ1500ccエンジンですが、こちらはヴェゼルハイブリッドと同様のオットーサイクル仕様となっています。吸入空気量が多めになるために、エンジン出力・トルクともより大きくなっています。一方で、燃費は低下する傾向にあります。燃費の良し悪しは別として、走行性能には大きな余裕が生まれています。エンジン+モーターの力で走行し、エンジンが不得意な部分はモーターが補うはずのハイブリッドですが、エンジンの力が大きくなることはやはり走行性能の向上をもたらしました。エンジンのみの車に例えると、200cc程度の排気量が増大したような印象です。
アクセルペダル操作に対するレスポンスは悪くないという程度です。ハイブリッドシステムゆえ、エンジンの出力を高めて加速するようでは、燃費の上昇は望めません。モーターアシストを中心として加速をしていると考えられますが、エンジン音が高まらない効果なのか、このような印象となりました。フィットハイブリッドではエンジン車であることを印象付けており、回転の上昇とともに音、振動とも抑制の上で聞かせ、伝わらせている印象でした。この車でも基本は変わらないはずですが、いずれもかなり抑制が効いています。
しかしながら、トヨタのハイブリッドシステムとは印象がかなり異なり、エンジンによって走行している感覚が伝わってきます。このダイレクト感はトヨタのシステムでは得られない気持ちよさで、車速や加速のコントロールの楽しみが得られます。スポーティーカーのような感覚を出すことも十分に可能だと考えられ、フィットハイブリッドRSやグレイスハイブリッドにRSを追加するならば、このエンジンですればよいのに、と思えました。
グレイスハイブリッドではトヨタのハイブリッドシステムのような感じを演出してどうなるのか、と思いましたが、ホンダは自身の立ち位置を再確認をしたのだと思います。
トランスミッション
i-DCD7速ツインクラッチ方式のオートマチックトランスミッションを採用しております。変速ショックはさらに抑制され、変速を体感することは難しくなっています。これもアクセルレスポンスを鈍く感じさせる一つの要因でしょうが、この車の性格には合っていると思います。
前述の通り、この車は性能や持つ喜びを感じさせるのではなく、子供が生まれた家族が、そのまま子供が増えなければ7年位使って買い換えられる車ですから、マニュアルモードを含めて操縦性能を高める必要はありません。私の希望とは全く異なりますが、変速ショックを情報と受け止めず、不要な振動と考えるのであれば、このトランスミッションは目的を果たしています。
サスペンション
柔らかい乗り心地ですが、ショックアブソーバーの効きは悪くないようで、うねり路面を乗り越えても無駄な車の動きはありません。路面の突起に対するサスペンションの動きも良く、高級で上質な印象すら味わえます。乗り心地の良さは特筆もので、助手席や後席に乗る家族は、心地よいドライブが楽しめることでしょう。
ボデーの形状から曲がりくねった道でのロールが心配ですが、この車はどうやらロールセンター(ロール軸の中心)を高めることでロールを感じにくくしているような印象を持ちました。私が「ロールが大きい、ひどい」と書いている車は、ロールセンターが低く、カーブの内側の車輪が持ち上がり、大げさに天井が傾く印象でした。
しかしこの車は、まるでセンターコンソール辺りにロールセンターがあるかのような印象で、車全体が沈み込むような印象でロールします。ロールに対する恐怖心は感じにくくなりますが、タイヤのコーナーリング限界は変わりません。コーナーが続く道ではタイヤの限界を見誤る可能性がありますが、そんなことは目的にない車、ロールセンターの高さの良さだけを享受出来ると考えられます。
ステアリング
それほどシャープな印象ではなく、どちらかというと路面の状態はあまり伝えない方だと思います。ギヤ比も低い印象で、車高が高いことによる転舵時の急激なロールを抑制しています。ハンドリングの良さは前述のロールセンターの高さによって充分高く「感じ」させられますので、ホンダ車らしい運転手優先の感じは十分味わえます。
ブレーキ
ホンダの現在のハイブリッドモデルに採用されている、電動マスターシリンダー方式を採用しています。ブレーキペダルの踏み応えは「ブレーキフィールシミュレーター」によって演出されているだけに過ぎません。グレイスハイブリッドでは、粘っこく操作性が悪い印象でしたが、この車ではしっかりとした踏み応えに変えられています。ペダル踏力に対する制動力の立ち上がり、回生ブレーキとの連動も上手く出来ており、踏み応えが演出によるものであることに気づかない方も多いと思います。
ボデー
フィットをベースにしている車体ですが、遮音性能が大幅に高められています。これまでのホンダ車の弱点であった、車内へ容赦なく伝わるロードノイズがかなり抑制されています。また、ガラスの遮音性能も高い模様で、対向車のロードノイズもかなり抑制されています。このことからダイレクトなドライブ感覚が若干阻害されているものの、ファミリーカーとしての能力が大幅に向上しているどころか、高級感すら感じさせることにつながっています。
車体剛性は比較的高く感じられ、開口部が大きいことによる車体の微小振動「ドラミング」は全く感じられなくなっています。トヨタのTNGA程ではありませんが、新しい時代のボデーの素晴らしさを感じます。
内装は若干退屈な印象で、この点でも「脱マイルドヤンキー」を強く感じさせます。しかし、デザインソースはメッキ部品を多用していた頃のもののままであり、どこか安定感に欠ける内装です。
一つにメーターの位置が高いこと、なぜかその手前に棚のような部分があり、どうも理解に苦しむところがあります。視界のためならメーターの位置を下げた方が良いと感じます。視界の中に外の風景、メーター、棚が入ってきて、常に視野における「区切り線」が多く、これが「ごちゃごちゃ」していると感じさせるのかもしれません。
それ以外の内装は、良さが十分に現れています。シートはクッションの肉厚も十分、かつ脇がしっかりしており、コーナーでも運転士の姿勢が崩れにくくなっています。視界も良好で、曲がり角での巻き込み確認もしやすい方です。
外装は好みですが、フィットの雰囲気を強く感じさせるスタイルに変更されました。かつてのモビリオスパイクには特定のファンがいたり、初代トヨタbBも末期は「角ばったワゴン車が欲しいお年寄り」に支持されていた事を考えると、シエンタの向こうを張って角張ったものにしたほうが良かったように思います。現在のスタイルは、CMのキャラクターやCMの雰囲気同様、没個性の極みのようなスタイルで、持つ喜びは全く感じられないのではないでしょうか。
まとめ
私がこの車に感じるのは、「没個性、無性格、日用品」です。車の雰囲気の流行では、必ず何年かに一度「車道具論」とともにこの種の車が出てきますが、キャパとモビリオで失敗、モビリオスパイクで回復したことをホンダは忘れているように感じます。道具としては良いのですが、「つまらない」と感じてしまいます。
最近はクロスオーバー車がもてはやされていますが、ミニバンやミニミニバンは流行遅れの車になってきた、ということでしょう。買って使い倒す、ということに徹していることしか伝わってきません。
車好きが生活環境の都合上ミニバンを購入することになり、その人がホンダを訪れた場合に期待するのは、「ホンダらしさ」ではないでしょうか?この車には、やはりホンダに何年か一回に訪れる「脱ホンダ」が感じられてしまうのです。
なお、車としては良い出来だと思います。ステップワゴンはいらなくなってしまうのではないでしょうか。この点でも、ホンダは自社のスパイラルにはまってしまっています。
参照して欲しい記事
トヨタ
シエンタ
スペイド
ルーミー
日産
キューブ(初期型)
ノート(前期型スーパーチャージャーエンジン車)
ノート(後期型e-power)
ホンダ
フィット(1300cc)
フィットハイブリッド(初期型 短距離)
フィットハイブリッド(初期型 長距離)
フィット(RS MT)
グレイスハイブリッド
フリードハイブリッド(旧型)
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試乗 | クルマ
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2017/03/05 00:03:08