
この日は、翌月で転勤になる会社の人と、ホンダS2000タイプVでドライブに行ってきました。本当はもう少し多人数で、プリウスPHVでドライブに行く予定でしたが、結局私と二人だけしか予定が空かなかったので、希少なスポーツカーを選択することにしました。
S2000が新型車だった頃、全盛期の後期を迎えていたビデオマガジンの「ベストモータリング」の中心的車種でした。9000回転も回るF20Cエンジンの獰猛な機関音に痺れ、真剣に購入を検討したほどです。しかし、経済的事情や家庭の事情を加味して購入を見送りました。その後も欲しい気持ちは変わりませんでしたが、中古車としても購入は難しいのでした。
そして今に至りましたが、「おもしろレンタカー」でS2000を借りることが可能になり、期待を持って望みました。
S2000について
S2000は、ホンダの創業周年記念、当時のホンダのエンジン技術の結晶、ホンダオープンスポーツの復活、後輪駆動ブームへのホンダの回答として企画された模様です。当初、’90年代半ばの東京モーターショーにて、「ホンダSSM」として出品されました。直列5気筒エンジン、ロングノーズ/ショートデッキボデー、後輪駆動でしたが、何と当時はA/Tと組み合わされ、グランドツーリングカーとしての性格を持たされていたようです。
そこから何年も経過した’99年に、4気筒2000cc、6速M/Tの後輪駆動として登場しました。2000ccの前期型と2200ccに排気量が拡大した後期型に分かれております。前期型の途中には、ステアリングのギヤ比が電子ギヤ比制御によって変えられる、「タイプV」が追加されています。
エンジン
2000ccの排気量ながら250馬力の高出力と、最高許容回転数は9000回転が実現されています。バルブ系は、可変バルブタイミング&リフト(連続可変バルブタイミングなし)であり、初代VTECエンジンの最後を飾るにふさわしい内容でした。S2000専用エンジンであり、他メーカーの車を含めても、この車でしか味わえない超高回転エンジンになっています。
エンジンは、街乗りや山岳路で法定速度や+アルファの領域でも、このエンジンらしさを味わうことは出来ません。唯一、高速道路の進入路でローギヤを選んでいる時のみ、このエンジンの性能を味わえます。VTEC切り替え機構が切り替えられるのは約6000回転で、これ以下では作動角やリフト量が低速向き、これ以上では高回転向きになっています。
VTECは、低回転と高回転を両立可能なシステムであると聞いておりましたが、高回転時に回転の上がりが素早くなるものの、低回転時もそれほど活発ではありませんでした。この点が、第二期VTECの、
K20Aエンジンなどのi-VTECと大きく異なっています。アクセルペダルを操作しても、ワイヤー式スロットルバルブながら、エンジンの反応は鈍めです。ワイヤースロットルですから、スロットルバルブはアクセルペダルに連動して開きます。にも関わらずアクセルレスポンスがやや鈍いということは、バルブオーバーラップが高回転向きになっているためであると推察しています。
そのようなアクセルレスポンスであるために、アクセルペダルを全開にしてもなかなか高回転側カムへの切り替えが起こりません。思いのほか待ち時間が必要で、2速ギヤでも感覚的には2-3秒ほど経過してから高回転側へ切り替わります。高回転側に切り替わりますと、9000回転を目指してエンジンの回転上昇速度が増します。この領域では速度も非常に高くなり、アクセルペダルは踏み込んだままです。多少のアクセルペダル操作に対して、エンジンの回転変動を感じることは困難でした。
このエンジンは、公道での走行よりも、サーキットで高回転側カム領域を維持しながら運転することが似合っているのだな、と感じました。低速側カムは、発進時や街中での走行も不自由しないようにするためのもので、おまけという見方もできます。
だからといって、この車やエンジンの魅力が消えるものではありません。このようなレーシングスペシャルエンジンを、それを必要としない公道で味わえるという、非常に贅沢な要素を持っていると言えます。例えて言うならば、「1kmの深さの深海でも水圧に耐える腕時計」とでも言いましょうか。高性能を所有する喜びだと思います。かつて某評論家は、VTECエンジンの高回転性能をして「VTECを味わうには、それこそ年中ローギヤでいなければならない」と評価していました。使う場面は限られていたとしても、「高い性能を所有する喜び」はあります。
トランスミッション
ホンダ唯一の「縦置き6速M/T」です。ギヤ音は、以前
スバルWRXで「ギヤノイズがサンバーのようだ」と評価しましたが、この車はアクティのようでした。
ギヤ比は6速仕様の常で、市街地では4速ではエンジン回転が上がりすぎ、5速ではエンジン回転が低すぎます。その時のシフト操作はストレート方向ではないために、結局我慢をして4速を選択することになります。
シフトレバーは、これもホンダの常で、セレクト方向(レバー横方向操作)にはストロークが短く、シフト操作(レバー前後方向操作)にはストロークが長い、というものです。また、シフトレバー位置が私の体格ではやや遠く、ニュートラル位置でも左斜め前方向に倒れています。レバー位置による現在シフト位置情報がつかみにくくなっています。
シフトフィーリングは硬質な印象です。レバー内部のゴムの量が少ないのか、シフト時に「ガチ」という衝撃が伝わる程です。なお、」ゴムの量が多いレバーですと、「ウニュ」と表現したくなる印象でシフト操作が終了します。一方で、無効操作区感である「遊び」はあり、シフトレバー操作が即、シフトセレクト機構に伝わっているわけではありませんでした。
この辺りのことは、縦置き後輪駆動車の経験がないメーカーゆえのことであると感じました。
ステアリング
この車の第二の特徴が、このステアリングです。ギヤ比が可変式になっており、車速や操作量に応じて自動でギヤ比が変わります。前述の「ベストモータリング」では、N氏がジムカーナで試験をしていました。後輪が横滑りを起こした時点で、カウンターステア操作をしようとしました。そこでN氏は、「わあ」と声を上げ、カウンターステアを出来ない状態に陥ってしまいました。N氏のこのステアリングシステムに対する評価は芳しいものではありませんでした。その理由は明らかにされませんでしたが、ようやくわかりました。
一般的に、ステアリングホイール操作量が多いのは、車速が低い時です。駐車場での切り返し操作や車庫入れなどです。一方、高速道路走行時などは、車線変更が中心ですから、ステアリングホイール操作量は少なくなります。
この基本に基づき、あらかじめ設定されたギヤ比になるよう、ステアリングホイール連動のピニオンギヤと、車輪側のラックギヤの間のアーム?ヨーク?位置が制御されます。しかし、車速に応じてステアリングホイールを操作していない時に変えられているのではなく、ステアリングホイールが操作された時に可変されます。また、ラックアシスト式電動パワーステアリング機構が付いていますが、どんなパワーアシスト機構があったとしても、ギヤ比が低ければ軽く、ギヤ比が高ければ重くなります。操舵開始後、操作量がその車速にしては多い時の最中にギヤ比の変速が行われ、高いギヤ比に移行されると重くなり、重くなると慌ててパワーアシストがアシスト力を増大されるという、全くスムーズでない操作系になっています。
道中の屈曲下り路で、以下のことが起こりました。九十九折の道でしたから、カーブでは普通の車の場合、操作する手の持ち替えが必要な状態でした。この車でも、操作開始直後はギヤ比が低いままですが、操舵量が多いとわかると、「ギヤ比をクイックにします」とばかりにステアリングホイールが重くなります。すると急に転舵が操作が困難になり、マニュアルステアリングで据え切りを行っているような印象になります。そこで遅れてパワーステアリングが機能するために、まるで見えない力が働いているが如く、急に転舵角が増し、ステアリングホイールは転舵方向に持って行かれます。同行者は、「霊が操作しているみたいだ!」と、怖がっていました。
すなわち、路面の状態と対話しながら操舵角を調整するなど全く不可能です。シャッターを開けるハンドルではないのですから、操作感を運転士に伝えるステアリングになっていなければなりません。これでは普及しないはずです。
サスペンション
四輪ダブルウイッシュボーン式サスペンションを採用しています。走行距離10万kmを超えていた車両であり、乗り心地などを評価する意味はありません。しかし、コーナーでは内輪の持ち上がりが少なく、安定していて乗り心地も悪くありませんでした。接地性も高いようで、現車に装着されていたグリップ力が期待できないタイヤでも、オーバーステアやアンダーステアは発生しませんでした。ただし、色々な文献を見ると、グリップから滑り領域へ移行する際の挙動がスムーズでないそうです。滑りを嫌った結果、滑った時に操作しづらいというのは、難しい問題です。
ブレーキ
ブレーキペダルのタッチは硬質で、制動力の調整はしやすくなっていました。近年では衝突被害軽減ブレーキばかりが注目されがちですが、絶対的な制動力や制動力制御が容易いブレーキはもっと大切だと思います。
ボデー
センタートンネル付近が強化され、前後左右輪を結ぶX型のフレーム構造を採用した車体です。当時はオープンボデー構造ながら高いボデー剛性を持つとされていました。マツダロードスター(NB型)やトヨタMR-Sと比較するとボデー剛性は高いと言えますが、ロードスターのNC型と比較すると低いと感じます。ボデー剛性は、新しい車ほど良いということに間違いは無いようです。
また、当時の二人乗り車として設計されておりますので、スマートフォンどころか携帯電話を置くスペースもありません。荷物は、室内ではシートの下に置くだけです。ドライブ中に「伸び」も出来ませんから、体中が痛くなります。二人乗りのバイクと考えたほうが良いでしょう。
ソフトトップを閉じた場合、時速100kmを超えるとルームミラー上部の幌がばたつきます。そのために室内騒音が急に高まり、隣の人との会話も困難化、声を張り上げる必要が出てきます。これも疲れを増す要素です。
内装は黒一色で、電子部品やメーターの意匠は、当時流行っていた「Gショック」や「スプーン」といった時計を思わせる印象です。
特にデジタルタコ/スピードメーターがその印象を強めています。こればかりは流行の要素が高いために、最もクラシカルな印象になっています。ああ、「SPEED」や「Every little thing」の曲がかかってきそうです。
まとめ
この車は、ホンダS600と同様、歴史的な記念になる車です。エンジンの低速トルクがどうとか、シフトレバーがどうとかいうことは、この車の立ち位置を考えると大したことはありません。そういったことも含めて、記念物としたいと思います。
ただし、ステアリングホイールだけは良くありません。普通のステアリング機構のものがよいでしょう。万一故障した際にも、このシステムであってもギヤ比固定で済むでしょうが、そもそも装着されていなければ故障もしません。標準ステアリング仕様がおすすめです。
それにしても、6000-9000回転域の、VTECならではの機関音は、うっとりするほどでした。4気筒エンジンの醍醐味を、十二分に味わいました。
ドライブ自体のお話
今回は、以下の行程でした。運転は約30分間で交代し、食事は約40分程度でした。それにしても距離が伸びず、6月はじめだというのに開通していない道路や低気温など、これを書いている7月半ばには考えられない天候でした。
常磐自動車道柏インターチェンジ-本来は勿来から那須に向かう予定でしたが、友部で北関東自動車道に乗り換え-宇都宮から那須まで東北自動車道-国道400号で塩原から会津の入口-シルバーラインへの道が閉鎖されていたために、只見から北側のルートを選択-小出から塩沢石打インターチェンジまで関越自動車道-津南村-奥志賀林道が冬期閉鎖のままであったために中野市へ-中野市から志賀高原-万座温泉-万座鹿口-渋川伊香保インターチェンジから練馬インターチェンジ-知人の家を経由し、自宅へ。
出発時はカラッと晴れた暑い夏の日でした。宇都宮から雲が出てきましたが、那須は晴れてさわやかな陽気でした。南会津付近から気温が下がり始め、遠くの方には発達した雲も見えてきました。只見の手前からは気温がさらに低下し、雨模様になりました。一時土砂降りになった区間もあります。新潟県内は概ね雨模様でしたが、津南辺は晴れたり曇ったりでした。志賀高原や万座は非常に寒く根雪もあり、気温は零下でした。
総走行距離は約760kmであり、私のドライブとしては標準的でしたが、30分交代制度にしたためか、むしろ短い印象でした。1時間交代の場合と運転時間は変わらないのですが、不思議なものです。もしかしたら、運転による疲労は、時間によって二次曲線的に高まるのではないか、と感じました。
参照して欲しい記事
おもしろレンタカー
インテグラ
インプレッサ
ランサー
ビート
上記を除くスポーティカー/スポーツカー
トヨタ
MR-S
86(A/T ノーマル仕様)
86(M/T TRDパーツ装着)
オーリス(RS 6速M/T 前期型)
日産
ノート(ニスモ仕様)
マーチ(ニスモ仕様)
フェアレディZ(ロードスター)
フェアレディZ(S30型 L20ツインキャブ)
スカイライン(ハイブリッド)
スカイライン(ターボ)
スカイライン(ER34)
スカイライン(S54B)
ホンダ
フィット(RS)
CR-Z(CVT)
CR-Z(M/T)
CR-Z(M/TとCVT比較)
マツダ
ロードスター(NCEC)
ロードスター(ND)
スバル
レヴォーグ(1600cc 初期型)
BMW
235iクーペ
320i