
私は、旧型車乗りのはしくれとして、そこそこ旧型車の歴史などは知っているつもりでした。しかしみんカラでは、お友達の旧型車研究に感服させられてばかりです。そんな中でも触れられていないのは、1970年代後半のマツダ車です。タイトルの画像は、太陽にほえろ!「左利きのラガー」に登場したカペラです。路上に砂を撒いてある状態のようですが、適度に後輪を滑らせてコーナーを抜ける様子は、ロールのバランスの良さを表しています。
1970年代後半のマツダは、1970年代前半に計画していた、「世界の小型車をロータリーエンジン中心する「ロータリゼーション」計画」が頓挫し、深刻な経営難に陥っていました。在庫車が溢れてしまい、倒産寸前だったそうです。経営再建のためにフォードと業務提携を行い、車種の整理を行っていました。それまでは「ロータリーエンジン搭載グレードをトップに、全ての車種でロータリーエンジンを選べるようにする」ようにしていましたが、「車種を選択してロータリーエンジンを搭載する」方針に切り替えていました。そんな中で登場したのが、このカペラとファミリアです。中でもカペラは語る人が少ないために、今回はカペラの調査結果を書くことにしました。
登場当初は、ボア×ストローク 80.0mm×88.0mm 1800ccSOHCシングルキャブのVCエンジン、ボア×ストローク 78.0mm×83.0mm 1600ccSOHCシングルキャブのNAエンジンの二本立てで登場しました。NA型は90馬力/6000rpm、13.0kgf・m/3500rpmを、VC型は100馬力/6000rpm、15.2kgf・m/4000rpmとなっています。現在残っている動画などを視聴すると、まるでロータリーエンジンのような排気音を奏で、活発なエンジンであることが伺えます。アイドル回転中は、日産のZエンジンにもよく似ています。
他社と比較すると、当時のトヨタでは、1600ccOHVシングルキャブの12T-Uが90馬力、同1800ccの13T-Uが100馬力であることから、出力の上では標準的でした。1979年版の「間違いだらけのクルマ選び」誌によると、「額面通りにパワーが出ていて、再三レッドゾーンを超えようとする」と、かなり良い評価がされています。ただし後年になると「パンチがない」と評価が悪化することから、1970年代末から1980年代初めにかけて、各社のエンジン出力が向上していることもあわせて伺えます。
ちなみに、当時のマツダのレシプロエンジンは、命名規則がよくわかりません。後年と同様、アルファベットの一文字目で排気量を示していますが、二文字目は設計順序を示しているようです。後年のFE型「マグナムエンジン」頃から命名規則が整理され、覚えやすくなっています。
サスペンションは、前輪コイルスプリング/ストラット、後輪5リンクコイルスプリング/リジッドで構成されています。初代カペラと同様の構成のようで、当時の小型後輪駆動車では一般的なレイアウトです。他社の同仕様とは、後輪のリンク配置が異なっています。他社の4/5リンク式は、ロワリンクを車輪近くに、アッパリンクをディファレンシャルギヤ近くに配置していますが、マツダでは、ロワリンクもアッパリンクも車輪近くに配置しています。
徳大寺氏の評価によると、「5リンクリジッド式としては良いチューニングがなされており、特に滑り出しがスムーズで、コントロールしやすい」とされています。ブルーバードは超えていないものの、コロナよりもずっと良いとのことで、モデル末期の頃の評価では、「この車のテスター(テストドライバー)たちには、賞賛の声を上げたい。」とすら書いているほどです。
ボデーは、4ドアセダンと2ドアハードトップで構成されています。徳大寺有恒氏によると、フォード グラナダにも似たデザインとのことで、全体のラインは、同年に登場したT130コロナとよく似ています。サイドモールの配置とテールランプの形状は、E70カローラ/スプリンターのデザインにも似ています。フロントマスクは、日本国内では、最も早くスラントノーズを採用しています。とはいえヘッドランプは規格型二灯式ですから、実際のスラント化はスモールランプとラジエターグリル部分にとどまっています。
特徴的なのはヘッドランプ部分です。三菱ランサーなどと同様、エンジンフードが低く、ヘッドライト位置が盛り上がっています。同時期のサバンナRX7がリトラクタブルライトで登場していますが、これに近い雰囲気を持たせるための造形かもしれません。エンジンフードの前端中央高さが低くなるため、空力特性が良いことも特徴でした。
加えて特徴的なのは車幅で、当時の同クラス他車が1620-1640mmだったのに対し、1690mmもあります。他車が1690mm級に到達したのは、1980年代末から1990年代だったので、当時の車としてはかなり幅が広く見えます。
翌1979年2月には、MA型 ボア×ストローク 80.0mm×93.0mm 2000cc SOHCシングルキャブエンジンが追加されています。110馬力//5300rpm、17.0kgf・m/3000rpmを発揮し、大排気量仕様ではありますが、高級仕様でもスポーティー仕様でもない展開でした。他社ではエンジンの排気量を拡大する際にボアを広げますが、MAエンジンはNAエンジンのストロークをさらに伸ばしています。
ストロークを伸ばしたことによるエンジン全高の変化からなのか、あるいはヘッドランプ位置が目立つことを修正するためなのか、エンジンフード形状が変更されています。より一般的なグリル形状となり、スタイル上の特徴は大人しくなっています。このスタイルは徳大寺氏の好みには合わなかったようで、氏は1600/1800ccエンジン版を強く押しています。私にとっては2000cc版の方がバランスが良く感じられ、この辺は好みの違いかな、と思います。
1980年9月にはマイナーチェンジを受け、後期型になります。エンジンフードとグリルの形状が変更され、1600/1800cc版と2000cc版との違いがほとんどなくなります。エンジンフードはヘッドランプとの段差がなくなり、2000cc版はエンジンフードがより盛り上がっているだけになります。ヘッドライトは異型2灯化され、当時流の顔立ちになります。面白いことに、登場当初からスラントノーズで登場したためか、異型ヘッドライトにするだけで1981年らしいスタイルになっています。同時期のC31ローレルやX60マークⅡ/チェイサーにも近いスタイルで、これまた同時期にマイナーチェンジを行ったT130コロナにも酷似しています。
エンジンのラインナップは基本的に同一ですが、後期型で2000ccのMAエンジンの一部にEGI(マルチポイントインジェクション式)が搭載されています。出力は120馬力になり、日産のZ20Eエンジンなどと肩を並べる出力になりました。
そして1982年、カペラは他社に先駆けてFWD化され、エンジン、駆動系、サスペンションとも一新されましたが、この車はタクシー専用車として1985年まで製造された模様です。
他車のように、ターボやDOHCなどの高出力エンジンを設定せず、スラントノーズによる空力性能の向上とコントロール性が高いサスペンションなど、独自の道をゆくマツダの思想がよく現れているモデルです。以後のカペラも、次のモデルの途中からSOHCターボエンジン(グロス145馬力)を搭載しましたが、その次のモデルでは過給器付きエンジンは消滅しています。ファミリア4WDを際立たせるためなのか、本質的にターボエンジンを嫌うのか、マツダにおけるハイパワーモデルというのは、他社と異なる展開がなされています。
皆さんご存知のように、当時はブルーバードの一人勝ち状態でした。何しろ月に1万台以上も販売されていたのですから、このクラスでブルーバードとコロナ以外の方が少数派になってしまいます。それでもカペラは、ブルーバードの910型が登場するまでの期間(1978年末から1979年秋)は、新しい雰囲気の車として売れ行きが好調だったそうです。それもブルーバード登場以降は、他車と同様にジリ貧になっていったそうです。
当時の他車動向を見ると、以下のようです。
ギャランシグマは、シグマのサブネームをつけたモデルこそ優秀な販売成績を収めましたが、スポーティーモデルがなかったことなどから、これまたブルーバードの好調の前には敗れてしまったようです。シグマの二代目は、2000ccや1800ccにターボエンジンを追加していますが、初代シグマのお客さんは戻ってこなかったようです。
コロナはT140型の投入やカリーナA60型を交えての展開、そして3T-GTEUシリーズの展開によってブルーバードの勢いを抑制しようとしていますが、互角にしかなりませんでした。
トヨタですら防げなかったブルーバードの好調ぶりを、当時のマツダが防げるはずはありませんでした。その通りで、ブルーバードは良い車でした。私も当時の車から一台を選ぶのでしたら、間違いなくブルーバードを選びます。クリーンなスタイルとそこそこスポーティーなエンジンで、オーソドックスながら買い得感が高い車だと思います。現在の車ではそういう車がなくなってしまい、「買いたい車がない」と嘆く方が多いのでしょう。そんな「中型クラス」の車は、ブルーバードもコロナも既になく、プリウスを除くとアクセラとインプレッサが中心になっていることには、隔世の感を覚えます。
地味な存在だった二代目カペラですが、ヨーロッパでは高い評価を受けたようです。ブルーバードの陰に隠れてしまいましたが、性能は決して低かったわけではなく、ブルーバードと比較してほんの少しスタイルが古かったことが災いしたように思います。
車に限らず、歴史は「主な流れ」に目が向きがちですが、傍系の出来事にも目を向けることで、より深い理解につながるのではないか、と思います。
なお、二代目アコードはこのクラスのやや下になるのですが、カペラ以上に地味な一生だったようです。いずれ二代目アコードについても、歴史をまとめたいと思います。
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2017/09/17 23:01:49