
この日までに、「うちの子にかぎって」のパート1と2を全話視聴しました。トレンディドラマなどを題材にし、ことあるごとにこのドラマ名を挙げてきましたが、ふと考えると、私はこの作品のことをほとんど知らないことに気づきました。知っていたには、
「1980年代の半ばか後半に放送されていたこと」
「田村正和が担任教師役で、生徒に翻弄される。妻が森下愛子、森下愛子が妊娠から出産する」
「生徒が思い思い発言し、お色気要素も入っている」
程度でした。
外出が制限される中、良い機会なので全話を視聴したのです。そこで分かったのは、以下のことです。
「放送時期は、1984年夏期と1985年春期から夏期、1986年春と1987年春にスペシャルを放送」
「田村正和演じる教師の私的環境は当たっていたが、物語を進行させるファシリテーターに相当する」
「生徒は思い思い発言していたが、お色気要素は非常に薄く、社会風刺の面が強い」
でした。
これまでも、日本テレビ系青春もの、金八先生シリーズ、熱中時代シリーズがありましたが、いずれも教師が生徒をまとめていく物語でした。このドラマは、「現代的でませている生徒を生き生き描く」ドラマとしていました。例えば、ある回では50m走のシーンがありました。比較的足が遅い男子同士が走っていると女子が、
「レベルの低い争いしてんじゃねーよ!」
とヤジを飛ばします。それに対して走っていた男子は、
「出場することに意義があるんだよ!」
と切り返します。
この回は徒競走が題材ではありませんので、この会話はストーリー進行上不要です。しかし、現実に学校にカメラが潜り込んでいたとしたら、あるいはこんな会話をカメラはとらえていたかもしれません。まさにその通りで、この作品は、「当時を生きる小学生を、生き生きと描いている」
ことに特徴があったのです、そのためこれを見た私は、
「これは都内のある小学校に現実的に起こった話なのではないか?」
とすら思ったほどだったことを思い出しました。
しかしながら、今回の全話視聴の前まで、話の一つも思い出せません。そこで放映データを見ると、何と放送日時は毎週金曜日の午後8時からでした。まさに「太陽にほえろ!」の裏番組であり、道理で私が見ることがないはずです。しかも学校が長期休みの期間以外は、月・火・水・金は学習塾に通っており、午後6時から9時は授業中です。まったく見られないはずです。一方、夏期講習期間中は帰宅時刻が早かったため、どちらかを見られたはずです。
太陽にほえろとの放送回対比は、以下の通りです。
1984年
8月17日 太陽:無口な男 うちの子:先生!ブスが好きなんですか
8月24日 太陽:怒れる狙撃者 うちの子:女のヨロコビってなあに?
8月31日 太陽:ヘッドハンター うちの子:禁じられたアソビ
9月7日 太陽:17才 うちの子:まさか!うちの親にかぎって
9月14日 太陽:相棒 うちの子:親よりお金
9月21日 太陽:カエルの子 うちの子:転校生はスーパーヒーロー?!
9月28日 太陽:ゴリさん、見ていてください うちの子:ちいさな恋のものがたり
8月17日は自信がありませんが、24日、31日、9月7日とも、太陽!側の話の記憶が残っています。学校は休みでしたので同級生と情報交換をする場はありませんでしたし、塾ではそういう話をする余裕はありませんでした。
2学期が始まってからは、物理的に見る時間がないのは前述の通りです。では、2学期が始まってからの学校ではどうだったか、ということを振り返ってみますと、一部のアイドル好き女子が話していたような気がします。何しろ、オープニングテーマも挿入音楽(劇半)もチェッカーズの曲でしたので、ファンにとってはぜひとも見たい番組だったことでしょう。
しかし、秋期になると新作が始まります。特にこの時期は、土曜日9時にて「スクールウォーズ」が、土曜日6時には「よろしくメカドック」が、平日4時には太陽にほえろの、スニーカー刑事登場時期回が再放送が放送されたため、学校の話題はこの二作品ばかりになったことは間違いありません。
ところが、1985年3月に私は学校の先生から劇の台本を書け、とだけ命じられたのです。私が書いた台本は、
「舞台は学校、花壇が荒らされる。主人公は聞き込み捜査などから、犯人と思しき人物を特定する。途中はよく覚えていませんが、最後は犯人を追い詰めて逮捕、しかし犯人はやむにやまれず犯行に及んだことを知る主人公。」
とかいうものだったと記憶しています。まったく場に合わない話ということで、先生にその場で破り捨てられました。
台本を破り捨てるような乱暴なことをせずに、話の進行がどのようなものを求めているのか、基本指針を言えばよかったのにね。先生のことはさておくと、この台本は単に太陽にほえろを学校に持ち込んだのではなく、「うちの子」との折衷になっているように見えます。うちの子の視聴率は非常によく、急造かつ子役中心の低人件費作品ながら、初回を除いて16%以上の成績を収めています。おそらく、再放送がすぐに行われたことでしょう。私はそれを見ていたのかもしれません。
そして「うちの子」は、1985年4月から早くもシリーズ2を始めます。
1985年
4月12日 太陽:ラガーの華麗なプレー うちの子:毎度おさわがせします!
4月19日 太陽:うそ うちの子:俗悪テレビ番組 文句あるなら云うてみい
4月26日 太陽:放送なし うちの子:あたし…オンナになっちゃった
5月3日 太陽:護送車強奪 うちの子:骨まで愛して
5月10日 太陽:検視官ドック うちの子:スチュワーデス物語
5月17日 太陽:ラストダンス うちの子:放送なし
5月24日 太陽:山村刑事左遷命令 うちの子:ボクらは少年探偵団
5月31日 太陽:放送なし うちの子:キャプテン翼物語
6月7日 太陽:号泣 うちの子:放送なし
6月14日 太陽:相続ゲーム うちの子:カネゴンの逆襲
6月21日 太陽:一枚のシール うちの子:転校少女にナニが起こったか?
6月28日 太陽:二度泣いた男 うちの子:放送なし
7月5日 太陽:左ききのラガー うちの子:エリマキトカゲはどこへ行った?
7月12日 太陽:放送なし うちの子:ニャンニャンしましょ♥
7月19日 太陽:いじめ うちの子:女心がわからないんです…
7月26日 太陽:ドックの敵は白バイ? うちの子:うちの子にかぎって…は永遠に不滅です!
この期間の太陽にほえろは、林間学校に行っていて見られなかった7月26日回を除き、すべて記憶があります。一方、野球で放送がなかった際には、うちの子を見たかもしれません。
ところが、一見好調だったうちの子にも、陰りがみられてきます。最初は第二話の4月19日です。この回は「俗悪テレビ番組」を揶揄するのですが、学校のシーンで生徒同士が本物の生卵を投げ合うシーンがあります。きっかけは特定の生徒同士のふざけあいで、結果、生徒すべてが投げ合い、先生は教卓に隠れてしまうシーンでした。CM明けでもちろん劇中でも問題とされますが、
「生徒はそのあと掃除が大変だったことで、自分たちがしたことは良くないことであることを知ったはずです。頭ごなしに教えるのではなく、自分たちがしたことの悪さをわからせることが教育です。」
と、校長先生に説明します。
これが朝日新聞の読者欄で批評されます。確か、食べ物を粗末にしている、ということだったと思います。また、私の組では担任が「この先生がやっていることは、生徒の個性や自主性を尊重しているのではない。単なる教育の放棄だ!」と、妙に怒っていました。
その次の回では、教師と特定の女子生徒が、夜の街を歩きます。生徒は父親を亡くしていて、母親が再婚しようとしたことにより自暴自棄になったのを止めるためとのことですが、個々の家庭に入り込みすぎですよね。これも批評されました。
この後、うちの子は軌道修正による健全化を図ります。当時は「トーンダウン」と感じましたが、今見ると、むしろ内容の深化が感じられます。
4話 老人の寿命と幸せ、恋
5話 家業と親子
6話 個人情報と秘密の取り扱い
7話 女子らしさとは何か
8話 シリーズ1の5話のセルフリメイク
9話 転校生を迎えての異色ラブストーリー
10話 流行と経済
11話 ペットとペット放棄問題
12話 女心は浮気しやすい?
13話 最終回
特に11話は秀逸でした。
ある生徒が通学路で猫を見つける。自宅で飼おうとするが、ペット禁止マンションなので飼えない。仕方なく学校へ持っていく。容認する先生だが、翌日から他の生徒が次々猫や犬や鳥を持ってきてしまう。このことをPTAが問題とし、PTA会長は保健所にこれらの動物を持って行くと宣言する。また、子供たちも餌代が高額だと、ペットに飽きてしまっていた。
PTA会長が強硬手段に出ようとした朝、動物たちは忽然と姿を消してしまう。ある生徒が、「このままここにいたら殺されるだろうから、逃げ出したんじゃない?」と言うだけであった。画面上には、年間殺傷動物数のテロップが出る。
非常に重厚なテーマ故、私は驚いてしまいました。そこには、当初この作品に抱いていた、「スチャラカさ」はみじんもありません。作品としては視聴率が下降気味だった時期でしたが、この作品にセリフのやり取りによる笑いのみを求めていた層が、作風の変化から離れたためだったのでしょう。
その後
この作品は、パート2終了後、2回のスペシャル版を放送して終了します。しかし、この作品は他の作品にエッセンスを与えていますので、むしろ発展的終了と言えます。
舞台を中学校にし、お色気要素を加えたもの:毎度おさわがせします
舞台を中学校にし、コミカル要素を強めたもの:オヨビでない奴
舞台を家庭にしたもの:子供が見てるでしょ!、パパはニュースキャスター、
パパは年中苦労する など
もちろん、他局でも同じような作品が溢れます。私がこの作品に感じていた、「小学校を舞台にしたお色気もの」というのは、どうやら他局の作品だったようです。
これだけ学園もの作品が溢れながら、真打ともいえる金八先生は、なかなか出てきませんでした。ようやく放送されたのは、1988年の秋期でした。ようやく「真打登場」という印象でしたが、第一回は「ウンコの旅」という、金八先生が排せつ物の大切さを説明する作品です。何と平和なことでしょう。当時は一時的にいじめ問題が落ち着き、不良はとうにいなくなっていました。そのため、平和な話題しかできなかったのだと思います。
これには多くの視聴者が落胆しました。結果、作品は3か月で一時終了し、恒例の卒業式は3月のスペシャル編で放送されたのでした。また、同時期にTBSで放送されていたやくざものドラマの長渕剛主演「とんぼ」が青少年の話題となりました。当時の朝日新聞では、「中年となって落ち着いた金八先生の後ろ姿に、もう「熱い教員は必要ないのかもしれない」」と、学校ものドラマの終焉を感じさせる記事を掲載していました。
この時期から「コミカルな学園もの」の勢いが低下し始め、学校もの作品の人気は「教師びんびん物語」などに移っていきました。ただし、「エキセントリックな女子が男子に絡んで始まる物語」は、形を変えて続きます。
1993.年「白鳥麗子でございます」
1994年「毎度ゴメンなさぁ~い」
1995年「毎度おジャマしまぁす」
一時休止し、
1999年「キッズウォー」
となりました。
しかし、キッズウォーは2003年に終了しています。以後、同様の作品は無くなりました。
いつの間にか、「キッズ、お色気コメディ」の元祖のような扱いになってしまった「うちの子にかぎって」ですが、実際には「大人の行動を巧妙に風刺した、単に子供が演じるという風刺もの」ということがわかりました。
当時の人気は過去のものになってしまい、今回のために調べたファンの方による検証サイトも、更新を終了しています。しかし、風刺もの作品であることが分かった今、ぜひ再評価してほしい作品となりました。
おまけ
この作品を主出すきっかけになったのは、現在のテレビトーク番組に田中美佐子さんが出演されたことによるものです。田中さんはこの作品には出演していませんが、「オヨビでない奴」に出演されていました。そこでは「磯崎亜紀子」さんという方と姉妹役でした。学校の生徒には故「高橋良明」さんという方がいて、それらの方の経歴を調べていたらたどり着いたのです。
磯崎亜紀子さん、子役としての芸歴が長いようで、「オヨビでない奴」放送当時、演技に見入ったものでした。
おまけ2
ファンの方のサイトを見ていたら、掲示板に当時の出演者の方の書き込みがありました。現在は別の仕事についていらっしゃるようですが、当時の芸歴を鼻にかけることもなく、といって、芸能人として活躍を続けられなかったことを恥じることもなく、当時のことを楽しそうに語っていらっしゃいました。とても良い経験が出来て、楽しかったということが伝わってきました。今さら無理なことですが、私もこんな経験をしてみたかったなあ。もちろん、刑事係(掲示係ではない)役で!