
ホンダのリコール騒動が、まだまだ収まる気配を見せませんね。一般ユーザーからは、「何回も何回もリコールが出て、いつまでたっても直る気がしない。」などの話も聞きます。ホンダ社内にも、「曰く付きになったフィットの名前は、今回限りにすべきだ。」という意見も出ているのだとか!?
技術的欠陥と、新しい技術への挑戦には、難しい関係があります。「一般の人も使う車だからリコールになるような自体はあってはならない」という意見もありますし、「少々の不都合があっても、果敢に技術に挑戦するくらいでないと、技術の進化はない」という意見もあり、どちらも共感できます。
他社はもっと新技術には慎重です。
トヨタはアクティブサスペンションを発売する上で、セリカに「アクティブスポーツ」という、アクティブサスペンションに革内装を抱き合わせ、セリカGT-FOURを上回る価格設定のグレードを展開、購入層を自動的に制限して、「実験台」を作りました。
スバルは、アイサイト展開前に3代目レガシィのランカスターに、「ランカスターADA」なるグレードを、6気筒エンジン本格展開前に、ランカスターのみに搭載したことがあります。
一方でホンダは、出来た技術をすぐに展開する傾向にあります。CVCCしかり、5気筒エンジンしかり、縦置きV6エンジンしかりです。
フィットやヴェゼルは、「発車をモーターで行うことを目的とし、トヨタのTHSⅡ方式トランスミッションの特許に抵触しない、ないしは全く違う方法でアプローチするには、どうしたらよいか。」という視点で考え出されたのではないか、と思っております。私は8月にロングドライブを行っているのですが、まだ試乗記を書けておりません。乗ってみた印象は、「ダイレクトに駆動力が車輪に伝わる感覚があり、楽しいドライブフィーリングを実現した新しい方式」と、好印象のものでした。なお、トランスミッション自体は、海外のトランスミッションメーカーから供給を受けているようです。
それよりも問題としたいのは、いつの時だか、ホンダの経営幹部が人材育成論として発表していた以下のことです。
「技術者を伸ばすためには、技術が完成する前に公式発表をすることだ。技術者にはしごを使って二階へ登らせ、そしてはしごを外す。こうしないと人は伸びない。」
という内容だったと記憶しています。
昔から人材育成論を論じる上でよく例えに出されることわざ、格言に類するものに、「ライオンは子供を崖から落とし、這い上がってきたものだけを育てる」という内容のものがあります。私はものを論じるときに、ことわざや格言を引用しません。なぜなら、いくら言い習わされたとはいっても、「誰が言ったのか責任者不在」ですし、そもそも、今自分の前に起こっていることと、ことわざや格言で言われた場面とが等しいかどうか、証明のしようがないためです。それに、他人の尻馬に乗るような感覚も嫌なんですよ~。公式は、自分で導き出したい派です。
さて、当のホンダでは、きっと上で紹介した人材育成論のような形で、i-DCD方式のハイブリッドの開発が進められたのでしょうね。追い詰められた開発現場では、「これでいいや」「大丈夫大丈夫!」と、やっつけ仕事になってしまった様子が目に浮かびます。この種の、車本来とは全く関係ない論を持ち込むと、必ずおかしなことが起こります。
古い話ですが、フォードの経営が安定していた頃、「ロバート・マクナマラ」なる、統計的手法を経営に持ち込んだ経営学の人を迎え入れました。そして彼は、当時画期的だった「市場調査」と「統計的手法」を用いて、「エドセル」という車両を発売させます。
しかし、統計的手法で得た値が車を発売する時期になると古くなってしまい、そのデザインの強烈な個性発揮ぶりもあって、全く売れなかったそうです。
そのマクナマラ氏、手腕を買われて(?)、アメリカ国防省へと入省しました。その時に起こっていたベトナム戦争を有利に進めるために、ここにも「統計的手法」と「目標管理制度」を導入したそうです。すなわち、第一線で殺す敵の数を目標数値とし、達成度を報告させて戦争を計画的にすすめる、というものです。
一見、画期的な手法のように見えますが、「上が数値で縛れば、下は嘘の数値で反抗する」という、おそらく、人間が持って生まれた本能に近い特性が出たのでしょう、初めからうまくいきませんでした。結果、殺した敵の数は上へ上へと報告されるたびに水増しされ、最終的にはベトナム地域の住民の数を上回っても、第一線には敵がいる、という事態になってしまったそうです。結果、戦争は泥沼化、アメリカが巨額の赤字を抱えることになってしまいました。
という事態、皆さんの会社にもありませんか??ほとんどのビジネス論はこのように人間の特性を無視しているため、理論値とはかけ離れか結果しか産まないか、現場の離反が生じるとか、誰も幸福にしないのです。
さて、再びホンダの話に戻ります。ホンダは、名前こそ表には出ませんが、その時の重役の顔ぶれによって方針が右に左に変わる会社だそうです。タイプRやVTECが全盛だった頃の役員は既におらず、その次の役員の中には、「かたくなに」タイプRを目の敵にし、次々と廃止させてミニバン戦略を唱えた人がいるそうです。そして今や、ホンダびいきのユーザーはどんどんスバルやマツダへと流出し、ホンダびいきの人はステップワゴン→フリード→NBOXと、同じお店の中でダウンサイジングを実行、結果、お店もメーカーも売上が低下する事態に、ホンダが技術で他社を引き離すメーカーという風潮やイメージもなく、走りのイメージも遠い過去のものになってしまいました。
役員といえど有限責任社員でしょうから、退職したあとのことに責任はありません。しかし、あるときの決断は十数年経ってからボディーブローのように効いてくることがあります。テレビドラマも、2000年頃にフジテレビの役員が、「片手間でも見られる、わかりやすい作品作りをすべきだ」と言った結果、軽々しく無内容なドラマばかりが増えて、結果、「家でドラマを見る」習慣すらなくしてしまいました。
そんなわけで、安易にビジネス書の意見を取り入れたり、ことわざや格言を持ち出したりしてはならない、と思うのです。
Posted at 2014/11/04 14:38:01 | |
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