
年末に通りかかった日産のお店に、ノートのニスモ仕様車が置いてあったことが気にかかり、この日偵察、試乗に至りました。
日産 ノートの歴史
ノートは、現在のモデルで二代目です。故に歴史と呼べるほどの歴史はありませんが、発売から10年が経過しました。
初代は、「コンパクトカーブームだが、マーチは乗用車で一番売れているホンダ フィットはステーションワゴンに分類される。ウチでも小型ステーションワゴンを作りなさい。」「わかりました。」「できました。」とでも表現できるくらい、既存の素材を利用して作られた車です。ティーダ用のHR15DEエンジンとCVT、このクラス共用の伸縮自在のシャシー、フィットを日産流に解釈したボデー、と、全く販売戦略だけで成り立った車でした。
しかし、日産の販売力、大型車からのダウンサイジングブームと相まって、なかなかの売れ行きを示した車でした。ティーダよりも若々しく、マーチほどガーリーでもない、という位置づけも効いたのでしょう。
その初代ノートは、モデル末期にどういうわけか、1600ccエンジンに5速MTを組み合わせた仕様を追加してきました。フィットのRS対策だったのか、その理由はわかりません。しかし、1500ccエンジンと大して変わらない最高出力や、特にスポーティーでもなかったため、全く注目されませんでした。
そして現在のノートは、エンジンが3気筒スーパーチャージャーエンジンと自然吸気エンジン、CVTと、全く車好きには響かない仕様となってしまいましたが、フリート需要をはじめとして、意外に売れている模様です。
そんなノートも登場から時間が経過し、マイナーチェンジを受けました。標準車はマイナーチェンジ前比で衝突軽減ブレーキ搭載、フロントグリル変更などと小変更のみで、あまり変わったとは言えません。主力市場が軽乗用車に移行しており、小型車でも売れなくなってきているのでしょうか。
基準車とは一線を画する仕様として、ニスモがチューニングを行ったモデルが追加されました。エンジンは、旧型1600ccエンジンをチューンナップ、圧縮比アップ、専用カムシャフト、専用コンピューターなどで強化、トランスミッションもMTとCVTとで選べ、車体各部にも剛性向上部品を装着、知る人ぞ知る仕様として存在を示しています。かつてのVZ-R N1のような競技志向モデルではなく、あくまでも日常の中のスポーティーとして、ホンダの「タイプS」のような位置づけとしている模様です。
今回は、MT仕様に試乗してまいりました。
エンジン
前述の通り、本体各部にまで手が入れられたエンジンを搭載しております。
最高出力は、旧モデル1600ccの約110馬力に対して140馬力と30馬力近いパワーアップを実現しております。もっとも、かつての4A-GE(後期AE92用ハイオクガソリン仕様)やB18B(インテグラSJ、オルティア、ドマーニ用)エンジンでも実現している最高出力ですが、そこは現代の排気ガス規制を受けて、なおもかつての最高出力を実現した、と、好意的に受けれる必要があります。
エンジンを始動すると、ニスモ仕様マフラーが、心地よい低音を響かせます。アフターパーツのマフラーにありがちなうるささは全くなく、エンジンらしい、なおかつ運転する気分を高揚させる音質です。排気音が最も聞こえるのはアイドリング時で、走行中はほんのり聞こえる程度です。
現代のエンジンの多くがAT、CVTと組み合わされるために極低速トルクのことは言われなくなりましたが、このエンジンは発進時に気を使う必要があります。やや注意深くクラッチペダルをリリースし、アクセルをじんわりと踏み込まなければなめらかな発進はできません。CR-Zよりは苦労しますが、オーリスと比較すると楽です。オーリスは振動低減のためか、おそらくフレキシブルフライホイールを採用しているであろう、駆動系等の「ねじれ」を感じるのに対して、こちらはソリッドにつながっている印象があります。
発車後のエンジン特性は、古典的な「エンジンの回転を上げると出力が出てくる」ものです。とはいえ、高回転までエンジン回転を上げられたわけではないのですが、1500回転以上に保たないと有効な出力が得られない特性となっております。おそらく最大トルクを発生する4800回転までこの性格が続き、その後最大出力を発生する6400回転までは緩やかにトルクが低下しつつ到達する特性ではないか、と考えられます。
エンジンを回した印象は、ほどほどにスポーツエンジンであり、それほど刺激的ではありません。毎日の足としても不快ではなく、休日は山を駆け巡る、双方を両立する使い方がぎりぎり成立する性格です。ちょうど、SR20DEの150馬力仕様エンジンに近い性格であるように感じました。
とはいえ、現代にあってはかなり特殊な性格のエンジンであるといえます。スポーティカー好きには十分お勧めできますが、「外観がかっこう良いから」という理由で手を出すのには、少々危険なエンジンであるように感じました。
CVTが一般的になって以降、「エンジンは、常用回転域で必要な力を出してくれればそれで良い」という風潮になってしまいましたが、スペシャルな性格をもった貴重なエンジンであるといえます。
トランスミッション
5速仕様を採用しています。これまでも、「6速MTは、市街地走行で4速ではギヤ比が低すぎ、5速では高すぎる」という悩みに常時襲われますので、私は5速仕様が望ましいと考えております。
ギヤ比の分割は概ね適正です。最終減速比は4.214とあまり聞かないギヤ比です。エンジンの出力特性を考えると、燃費を犠牲にしても構いませんからもう少し低いギヤ比であったほうが良いように感じました。
シフトフィーリングは、ケーブル式としてはまあ我慢できる印象です。それでも、トヨタはもう少しまともな、しっとりしてなおかつシフト後のレバー位置も安定しているシフトレバーを実現しているのですから、スペシャルな性格の車とあっては失格レベルです。レバーを左右に動かすと床に振動が伝わりますし、シフト時も引っかかるような印象があります。
シフトノブは、一体どうしたことでしょう。これはMTを操作したことがない人がデザインした、としか言い様のないノブです。1速から2速、3速から4速といった、前から後ろに引く動作の場合のみ確実で、レバーを前方向に動かす際には手が離れやすく、操作しづらいことこの上ありません。このデザインは、BMWのATのノブに似たデザインですが、単にそれを真似ただけ、というものです。このような「デザインのためのデザイン」は全くデザイナー失格です。シフトノブは、丸型、ないしは涙滴型以外のものは考えられません。
サスペンション
硬く締まったサスペンションです。タイヤも硬く、車に無駄な揺れを感じません。日常の足として普通の人が使うのには、全く適しません。いわば、快適性は重視されておりません。硬いは硬いのですが、角が取れた硬さであること、入力が安定してからの、ボデーが変位しているかのような「たわみ」を感じないのが救いです。このサスペンションは、コーナーリング時に車体を安定させることだけが考えられており、この車が特殊な仕様であることを示しております。標準車のサスペンションもよく減衰力が聴いているだけに、もう少し柔らかいしようがあっても良いように感じます。「日常のスポーティーモデル」であっても良いと感じました。
それにしても、同時期に試乗したデミオとは正反対の正確です。
ステアリング
電動パワーステアリングです。日産車の美点で、軽すぎず重すぎない、適度な介助力に徹しています。最近の車は、女性の意見を聞きすぎてか「切ろうとして力を込めると、ステアリングが勝手に切れようとする」仕様が多いものですが、本末転倒も良いところです。そんなステアリング仕様車に乗るから、いつまでたっても運転が上達しないのです。
走行中も路面の状態が良く伝わってきます。サスペンションの性格ゆえでしょうが、総合的に調整されているようで、総じて扱いやすいステアリングです。
ブレーキ
これも日産車の美点が出ています。ブレーキペダルの踏みごたえがしっかりしていて、踏み込んだ力の分だけ制動力が出るブレーキです。カタログの上では、ブレーキ系統には手を入れられていないようです。とはいえ、サーキット走行をするのでしたらブレーキには手を入れたほうが良いでしょう。
ボデー
ボデーは、「ロワアームバー」「追加トンネルステー」「トンネルエンドステーと、これとサスペンション取り付け部を連結するブレースバー」「テールエンドクロスバー」によって補強されています。補強により、ボデーはミシリとも言わず、硬いサスペンションにも充分耐えうるようになっています。ハッチバックにありがちな、ボデー後部のたわみ感もなく、ボデー屋根の変異も感じられません。
しかし、「補強、補強」は良いのですが、すると、「基準車は剛性が不足しているのか?」ということになってしまいます。
内装は、日産のスポーツモデルらしく「真っ黒」です。黒=スポーティーというのはなんとも判で押したような考えです。内外装のところどころにあしらわれている「赤」が気恥ずかしく、私はこういう「ワンポイントを超えたアンバランスデザイン」はやめてほしいと考えております。欧州車でもこの種のデザインはあっという間に廃れており、流行遅れになった今となっては、かえって恥ずかしいだけのように思います。なお、レカロシートはオプション扱いとなっており、28万円です。これを選択しないと220万円弱となり、リーズナブルな価格になってきます。私は、レカロシートは後述する「気恥かしさ」を助長するような気がするので、付けない方が良いと思います。
全体的に、「少し前のホットハッチ(バック車)」というデザインになってしまい、20歳代はおろか「いったい誰がこれで良いといった?」としか言い様のないデザインになってしまっています。
「ヘッドライトやテールライトに切れ込むボデーの鉄板部」「赤使い」「冷たさを感じさせる、シンプルライン」など、流行遅れ感満載です。これは日産車全体に言えています。
まとめ
プリメーラ(P10)やパルサー(N14)にお乗りだった皆さんに向けた車がようやく登場した、という感じです。また、「車がつまらない、車って何が楽しいの?」と言っている人は、「楽しい車に乗っていないからそんなことが言える」ということがわかる車です。
華道や茶道、書道には「級、段」があり、スポーツでは「○○大会」があるのは、「やりにくいことを乗り越える喜び」や、「生活上何の得のないことでも、競争になると力が入る」からこそです。車といえば、「乗りやすく使いやすく女性に優しく」ということをキーワードに、この20年間いろいろモデルチェンジが行われてきましたが、これは車を退廃させることにしか繋がらなかった、ということがわかる車です。
この車は、乗りこなすのには少々テクニックが必要で、乗りこなした時にはある種の喜びが生まれることでしょう。そういう、スペシャルな車です。となると、デザイン不在、あるいはデザイン流行遅れ、といったイメージで損をしています。今からでも遅くはありません。基準車と同じような色展開にすればよいだけのお話です。この、「幼稚なスポーティーカー」感を打ち消す変更を待っています。また、車としてノートを検討している皆さん、少々値は張りますが、この車を選ぶ価値は十分にありますよ!強いて言うならば、「少々使いにくくても、綺麗なバッグ」を買うようなものです。ぜひ、検討の一つに加えてみてください!
参照して欲しい記事
トヨタ
86(GT Limited AT仕様)
86(GT Limited MT仕様、TRDパーツ装着車)
アクア(前期型)
ヴィッツ(前期型)
ラクティス(前期型1500cc)
ラクティス(前期型1300cc)
オーリス(RS MTモデル)
日産
マーチ
ノート(前期型)
シルフィ
ホンダ
フィット(ガソリン1300cc)
フィット(ハイブリッド、短距離)
フィット(ハイブリッド、長距離)
CR-Z(前期型MT短距離、前期型CVT短距離)
CR-Z(前期型MT長距離)
CR-Z(前期型CVT長距離)
マツダ
デミオ(現行ガソリン、ディーゼル)
アクセラ(ハイブリッド、短距離)
アクセラ(ハイブリッド、長距離)
アクセラ(ハッチバック ガソリン、短距離)
スズキ
スイフト(初期型)
スイフト(デュアルジェットエンジン搭載車)
VW
UP!
ゴルフ(1400cc)
BMW
M235i
320i