
この日は散髪のあと、少々時間に余裕が出来たために試乗をしてまいりました。最近は自動車ディーラーも従業員の満足度を重視してきたためか、GWの半分を休むようになりましたね。
パッソの歴史
ダイハツが独自にシャレードを開発していた時期、とある雑誌に操縦安定性が不十分であることを指摘され、大問題になりました。普通に運転している分には大きな問題は発生しない領域であるとはいえ、シャレードの寿命は尽きてしまいました。当時ha「業務提携」関係にあったトヨタでは、以後のシャレードは共同開発で臨む、と発表しました。
次のモデルは、トヨタはデュエット、ダイハツはストーリアの名前で発表されました。当時1000cc以上級をになっていた初代ヴィッツの、さらに下のモデルとして展開されました。当初は3気筒エンジンのみでしたが、途中で4気筒1300ccエンジンも追加され、ハイパワーEJ-VE2エンジン搭載グレード、JC-DET4気筒ターボエンジンも登場するなど、モデル展開にも力が入れられました。
さらに次のモデルがパッソ/ブーンとして発売されました。トヨタがOEMを受ける形だったストーリア/デュエットに対し、トヨタが主導して開発、製造をダイハツが行うかのような発表がなされました。1KR-FE 3気筒1000ccと3SZ-VE 4気筒1300ccの二本立てで展開されましたが、パッソにはエアロパーツを装着した「RACY(レーシー)」が、ブーンには再度ハイパワー4WDモデルの「X4」が設定されました。
このモデルでは、パッソには「プチトヨタ」のキャッチコピーがつけられ、赤いボデーとプチトマトを掛け合わせて、女性用の安価なモデルである展開がなされ、レーシーやX4だけでなく、やや大型になってしまったヴィッツすら危うくなるほどの好調な販売状況になりました。
二代目パッソ/ブーンは、初代末期の傾向を継承し、エンジンこそ3気筒1000ccの1KR-FEと4気筒1300ccの1NR-FE(後期は1NR-FKE)が搭載されたものの、はじめから女性専用車としての販売展開が行われました。「女子大入学直後編」、「小豆島編」など、車そのものよりは告知やお笑いを中心としたCMがあり、ますます男性の手から離れるようになりました。内装も、当時軽自動車に流行していたガーリーな雰囲気がそのまま移植され、顔違いのグレードとして、「+HANA」なるものも展開されました。
しかし、走行性能等は初代からほとんど進化がなく、「路面の状態を全く伝えないステアリング」、「減衰力が弱いだけでロールスピードが速くて怖いサスペンション」、「そこそこのボデー剛性」、「制動力の調整という言葉がないスポンジーなブレーキ」と、まったく勧められない仕上がり具合になっていました。これをして、「私たち女性には、これでジュウブン!」と書く記事すらあったのですから、自動車に関するインターネット記事は、ひどいものだと思ったものです。
なお、モデル上のつながりはほとんどない「
パッソセッテ、ブーンルミナス」がありましたが、一足先に廃止されております。
新型パッソの概要
ほぼ女性専用車となったパッソ/ブーンでしたが、今回のモデルではトヨタの社長の意向を受けてか、男性でも乗れるユニセックスな雰囲気に仕立て上げられています。まずボデーカラーにおいても、色合いなどによっては小型ファミリーカーとしても使用できるような性格付けがなされています。
エンジンは3気筒1000ccのみになってしまいましたが、カローラハッチバックへと上級移行したヴィッツのあとを受け継ぐ小型車になっています。キャラクターとしても、かつては小型ファミリーカーであった、「EP71型スターレット5ドア」に近い性格になったと言えます。
エンジン
3代にわたって採用されている、3気筒1000cc 1KR-FEエンジンのみになっています。型式上は同じエンジンですが、旧型の途中の2014年5月よりアトキンソンサイクル化されているとのことです。同じくアトキンソンサイクル化したNRエンジンなどでは「1NR-FKE」と、Kの記号を付与しています。単にKRエンジンにはその命名規則は当てはめないか、アトキンソンサイクル度が弱いものと推察されます。
エンジンは3気筒故の振動は伴うものの、アイドル回転数とマウント類の改善によって極めて小さく抑えられています。また、アイドルストップ機能の採用や、CVT変速制御との協調により、振動を発する時期そのものが減らされていたり、振動を発生しやすい回転数(2000-3500回転域?)が避けられたりしています。すなわち、アクセルペダル操作と連携した、固定された変速比でのリニアな加速感は全く味わうことは出来ませんが、3気筒らしさを感じずに運転をすることが可能です。
具体的には、発車加速ではエンジン回転が先に上がり、一定回転になった上で車速が伸びていきます。そしてアクセルペダル踏み込み量に応じた車速に到達すると、素早く変速比が下げられ、低い回転数での定速走行へ移行します。低速状態からゆっくりと車速を上げるような、アクセルペダル操作量が少ない状態では、なんとエンジン回転数はそのままに、車速だけが上昇していきます。
即ち、アクセルペダル操作量に対して「リニアに加速力は得られる」ようになっています。3気筒エンジンの振動を避けつつ、エンジンは出力源として仕事をさせるようになっております。変速比を自由に変えられるCVTの特性を最大限に発揮させていることになりますが、エンジン回転数の上昇と車速の上昇は全く繋がらないために、特にMT派の方への評判は悪くなるでしょう。
前述の通りに、3気筒らしい振動を発生する回転域が避けられています故に、見かけのエンジン振動は減少しています。アクセルペダルを大きく踏み込んだ時の加速もマイルドなもので、街の流れをリードすることも出来ません。あくまでも、必要最小限のエンジンになっています。
アトキンソンサイクル化の効果はなかなかもので、定速走行時のエンジン出力が減少するために、エンジン振動・騒音とも抑制されています。加えて、可変バルブタイミング応答速度の向上やCVTとの連携により、再加速も素早く行われます。このことより、4気筒エンジンから乗り換えた際の失望感も「まあ少ない」ことでしょう。
遮音はかなり念入りに行われているようで、アイドル時の騒音・振動とも驚くほど抑制されています。エンジンマウントにかなり技術を投入しているようです。しかし、日産のHR12DEエンジンなどと比較すると加速時の振動が大きく、全体的には他社から遅れたエンジンである印象は拭えませんでした。廉価車種であることが新技術投入対象になっていないことになるのかもしれませんが、この点からも「自動車用エンジンは4気筒から」と感じます。追金してでも4気筒エンジン車から選んだほうが得策だと感じます。今回のモデルチェンジで1NRエンジンが搭載されなくなりましたが、改めて4気筒エンジンの搭載を望みます。
トランスミッション
前述の通り、CVTが採用されています。これまでのトヨタ車では、「定速走行に到達するかしないかの時期に、「あれよあれよ」とばかりにどんどん高い変速比へ移行」されてしまう印象は少なくなりました。概ね、エコカー減税導入前程度の日産車のように、「定速走行に移行したことを見届けてから、だんだんと高い変速比へ移行させる」変速制御になっています。
アクセルペダルを大きく踏み込んだ際のレスポンスも良い方で、エンジン出力の低さを補っています。一方で、アクセルペダル「追加」踏み込み量が浅い領域での、エンジン回転数を一定にしておく変速制御は、もう少し議論が必要になりそうです。今回のモデルチェンジではエンジンの振動抑制が優先され、加速における一体感は全く無くされていました。これまでの車ではその反対の、「一体感が重視され、3気筒らしい振動は顕著に発生」となっていました。
この点も、3気筒エンジンをやめるだけで解決してしまう議論であることがわかります。
ステアリング
旧型では、「フラフラして中心が定まらない上に、操舵をしても車が無反応なステアリング」でしたが、あまり変わっておりませんでした。中心付近が甘くなっており、「真っ直ぐ走っているのにステアリングホイールはどちらかに角度がついたまま」状態が目立ちます。どうやら全体的に摩擦が大きいようで、パワーステアリングのモーターのブラシか、ステアリングコラムに問題の原因があるのかもしれません。いずれにせよ、「ラック&ピニオンギヤ式ステアリングの常識を覆す」甘いステアリングであることに変わりはありませんでした。
一方、転舵した際の応答性は、初期の反応を除いて軽快でした。エンジンが3気筒であり、前軸の荷重が小さいことがよく出ているためでしょう。転舵操作をし、車が曲がり出してからの曲がりやすさはなかなかのものです。
ステアリングホイールもよく切れ、狭くて曲がりくねった市街地などの取り回しは、かなり楽だと予想されます。これも3気筒故の、エンジンの全長が短いことの利点でしょうね。
サスペンション
だいぶ改善され、減衰力が上げられたように感じます。いわゆる「スプリングは柔らかめで、減衰力は高め」のサスペンションの良さが出ており、うねった路面でもフラットな乗り心地になっています。減衰力が中心とされた硬さであることからか、トヨタ車では一時感じなくなっていた、「微小突起乗り越え時に、サスペンションのフリクションが強いような、プルプルとした変動」は、復活してしまっています。
また、減衰力は高くてもスプリングは柔らかいので、この乗り心地では山道でのロールは深いでしょう。それでも前輪にスタビライザーが装着されているために、「盛大にロールしてしまう」ことや、「ロールスピードが速くて酔いやすい」ことはないでしょう。
全体的に市街地での性能を中心に考えられているために、当然ながら山道でのスポーティードライブなどは全く期待できません。それでもステアリングのところで述べたように、「3気筒故の軽さ」がサスペンションにもよく作用しており、軽快さとフラットさが現れています。
ブレーキ
今回のモデルチェンジで、大幅に改善された部分がブレーキです。ブレーキペダルの操作量に応じて制動力が確実に発生し、ブレーキペダルを踏んでいる最中のペダル剛性が高くなりました。マスターシリンダーの容量が増大されたことが要因でしょうか。衝突軽減ブレーキもあわせて採用されたことによる、ブレーキ系統の見直しが功を操作いたのでしょう。この点では、日産・ホンダ車のレベルに到達しています。
この種の車にも衝突軽減ブレーキが採用されたことは、特筆に値します。安い車だから安全装備も安く、ということは当てはまりません。この種の装置は、全車で標準装備にして欲しいものです。
ボデー
「ガーリーな印象」は、この部分で大幅に抑制されています。CMで流されている紫色を除き、ダークな色が主体となっています。
色の流行の上でもビタミンカラーは後退してしまっていることが一因でしょう。もう少し軽快な色があっても良いと思います。
塗装は塗膜が薄いような印象で、色合いに深みがないことが気になります。
スタイルは、かつてのエッセの流れを汲む「標準系」と、キャストによく似た「MODA」に二分されています。
+HANAに替えてMODAですから、女性の志向もユニセックス化していることが伺えます。MODAは高級版として設定されているようですが、この種のSUVルックは一時的な流行ゆえ、ファミリカーとして長く乗りたい方には標準系をおすすめします。
ボデーの剛性はまずまずです。前輪が車輪を通じて受ける変位はリニアに伝達されている印象ですが、後輪の変位を感じづらくなっています。ボデーがねじれているような印象こそありませんが、路面に対して取り付け位置が常に変化をしている印象です。もちろん、トレーリングアームの根元にブッシュが有り、コンプライアンスを有して取り付けられているのですが、それでも曖昧さを感じるサスペンション取り付けになっています。ボデー自体はしっかりしていますので、安心して乗ることはできます。
内装は、素材こそ薄肉化やリサイクル性を加味した構造になっておりますが、「シボ」を工夫することで安っぽさが緩和されています。旧型で不評だった「縦シボ」は廃止され、車でよく使われるシボ模様に戻りました。
内装色は、黒、灰、カフェラテ色が組み合わされ、シンプルかつ中性的な仕上がりになっています。これなら男性が運転していても恥ずかしくありません。そもそも車に女性感覚を持ち込むと、「かわいこちゃんカバン」のようになり、大人の女性にも恥ずかしい仕上がりになってしまうものです。そういう点では、デザインの健全化が進んだと言えます。
着座位置は高めで、ミニバンやクロスオーバーとスポーティーモデルの中間にあります。シートのサイドサポートは良くありませんが、車の性格とサスペンション、ユーザー層を加味すると、この方が良いでしょう。
室内は開放的で、とても広く感じます。スポーツカーなどと比較すると、とてもリラックスして運転、乗車をすることが可能です。この室内感覚は、運転において鎮静効果をもたらします。
まとめ
私は、最後の「室内の感じ」が最も気に入りました。乗用車としての機能が十分に現れています。車をスポーティードライブ目的として使うことが、あたかも子供っぽいことに感じられてしまうほどでした。
ボデー色、内装色とも色合いが大人向きになったことも好ましく感じられます。小型車ならではのがっかりした感じがありません。この感じは、かつてのシャレード、ストーリアにも感じられた点です。
反面、エンジンやステアリング、サスペンションなどの車としての走らせる機能はもうひとつ高くなく、運転好きな方には不満を感じることでしょう。運転好きでない人を運転好きにすることもないでしょう。
ということで、車のキャラクターにおいて勧められるものの、シャシー性能にはまだまだ、追金してデミオなどの他のの車を買った方が総じて満足感は高いと思います。せっかく広い室内を有した希少なボデーを持っているのですから、改善を望みます。
おまけ
CMキャラクターにマツコデラックス氏が採用されています。このことは、車両の性格が男性よりにされたことを暗に示しているのでしょうかね?また、一緒に出ている成海璃子に似た女性、かわいいと思うのですが、声が人前に出る人向きではなく、ちょっと残念です。
参照して欲しい記事
トヨタ
ヴィッツ(現行初期型)
ヴィッツ(現行後期型)
カローラアクシオ(現行後期型、エンジン車)
スペイド(エンジン車)
シエンタ(エンジン車)
ラクティス(初期型1500cc)
ラクティス(初期型1300cc)
パッソ+HANA(旧型)
パッソセッテ
iQ(長距離)
iQ(短距離)
日産
マーチ(現行初期型)
マーチ(ニスモ仕様)
キューブ(現行初期型長距離)
キューブ(現行初期型短距離)
ノート(現行初期型)
ノート(ニスモ仕様)
ホンダ
フィット(現行初期型1300cc)
フィット(現行初期型ハイブリッド、短距離)
フィット(現行初期型ハイブリッド、長距離)
フィット(現行RS)
グレイス(現行初期型ハイブリッド)
マツダ
デミオ(ガソリン、ディーゼル短距離)
デミオ(ディーゼルエンジン短距離)
デミオ(ガソリン、中距離)
CX3(短距離)
スズキ
スイフト(標準初期型)
スイフト(標準後期型デュアルジェットエンジン)
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