この日は日産の販売店にて、セレナのe-power仕様とNISMO仕様とを比較試乗しました。現行のセレナも販売は好調です。ただし、ノアとヴォクシーとエスクァイアを別の車種として取り扱った場合のことで、3車種総計では負けてしまっています。とはいえ、絶妙な価格設定とシリーズ展開により、トヨタ側には手ごわい相手になってきています。
それぞれの特徴
NISMO仕様は、MR20DD4気筒ガソリンエンジンとCVTを組み合わせた、
標準仕様と同等の車両です。ボデー剛性を向上させ、サスペンションを固めた、いわゆるツーリング仕様です。エンジン仕様は変更されていない模様です。
e-power仕様は先に登場しているノートのe-power仕様と同等のシステム構成です。エンジンもHR12DE、発電モーター・駆動モーターとも同様です。ノートと比較して車重が増しているために電池切れ、その結果発電の機会が多くなると考えたためか、エンジン出力がわずかながら向上されています。また、床上に電池を搭載しているために前席シート位置が高くなっていますが、サスペンション等は概ね同等です。
以下、項目ごとにNISMO仕様とe-power仕様の順序で書きます。
エンジン
NISMO仕様には、
標準車と同じMR20DDエンジンを搭載しています。専用コントロールユニットでチューニングされているとのことです。このエンジンは旧型から搭載され、本モデル搭載時の変更ははごくわずかです。専用コントロールユニットのためか小変更のためか、燃焼速度が増した模様で「ジリジリ、ザラザラ、ガサガサ」音が強まりました。音は耳よりも床下から振動として伝わって来るようで、不快に感じるほどです。標準モデルではもう少し振動が少なく、快適に感じた記憶があります。エンジン出力や燃費の向上には燃焼速度の向上は大切ですが、現代の車としてはうるさい部類に入ってしまったように感じます。
出力の上では十分であり、比較的大きな車体を普通に走らせます。強化されたサスペンションとボデーにはややパワー不足を感じるものの、多人数が乗車する全高が高い車両なら、この程度で十分なのでしょう。
e-power仕様は、HR12DEエンジンが搭載されています。3気筒エンジンは、振動がつきものです。ところが、エンジンの振動が駆動系統に伝達されないシステムであること、エンジンのマウントを振動を吸収するためだけに使えること、発電機によっても振動を吸収できることにより、振動は極めて小さくなっています。ノートの場合と全く同じで、
e-powerシステムのシリーズハイブリッド方式を生かしています。3気筒らしさは排気音による振動が少々聞こえるのみで、全く感じさせません。
e-powerシステムは、エンジンの出力が駆動軸に伝わることはなく、モーターで駆動する方式です。駆動は非常にスムーズかつ滑らかで力強く、2500ccエンジンはあろうかと感じさせます。電池に蓄えられた電力が低下すると、エンジンで発電を行いながらモーターで駆動します。一説によると、多人数乗車や連続登坂走行では電池充電分を使い尽くし、エンジンが高回転で発電をしつつ、走行速度が低下するとのことです。箱根ターンパイクや談合坂などが、これに該当する状況ではないかと推察されます。日光いろは坂などでは直線が少なく、速度が上がらない上にカーブ手前で減速するため、上記状態にはなりづらいと思います。
トランスミッション
nismo仕様は、
標準車と同様のCVTが採用されております。変速スケジュール等も変更されていない模様で、走行時の印象も標準車と同等です。CVT故にマニュアルモードを選択すればマニュアルトランスミッション似の変速は可能です。
nismoの名がついていると、トランスミッションも6速A/Tなどが採用されそうな期待をしてしまいますが、今やトランスミッションは排出ガスにも影響を及ぼすために、そう簡単には変更出来ない部品になっています。雰囲気を楽しむ車として、ここは割り切る必要があります。それにしても、CVTはフルードが過熱するとエンジン出力を制限してしまうために、山岳路を積極的に楽しめる時間は短くなっています。
e-power仕様は、エンジンの出力を発電機によって電力に変換し、車軸と連結されているモーターで駆動する方式を採用しています。アクセルペダルの踏み込み加減によってエンジン回転数を連動させる方式は採用しておらず、もっぱら電動駆動を主体としています。そのため、電池の充電状態が十分であれば、電気自動車として走行します。
前述の通りエンジンの遮音が行き届いているために、車速やアクセルペダル操作量とエンジン回転や吸気音が連動しなくとも、そう不快ではありませんでした。
サスペンション
nismo仕様は、専用ハイグリップタイヤの性能を生かしたり、剛性が向上された車体により、サスペンションが強化されています。とはいえ乗り心地が犠牲にされておらず、快適さの中にしっかりさを感じさせる調整がなされています。突起乗り越え時の横方向の揺れが少なくなっており、全高や地上高が高い車の不快感はありません。横揺れの少なさは乗り物酔いの軽減にもつながるでしょうから、ご家族に乗り物に弱い方がいる場合にも、この仕様はお勧め出来ます。
nismoの外観は嫌いだけど、この乗り心地は欲しい人は多数いると思います。現代の車は衝突被害軽減ブレーキ装置が装着されているために、サスペンションチューニングが公式的には出来なくなっている傾向にあります。結果、このしようを選ばなければならないというのは、何とも選択肢がないものです。
e-power仕様は
標準車と同等のはずですが、床上に電池を搭載していることなどから、
標準車とnismo仕様の中間程度の印象です。乗り心地は柔らかく、コーナーリング時のロールはややありますが、突起乗り越え時の横揺れは少なめに感じられます。しかし、nismo仕様に乗ってしまうと貧弱な印象で、乗用ミニバンらしさが出てしまっています。
ステアリング
いずれも電動パワーステアリングを採用しています。nismoは専用チューニングがなされているとのことで、若干手応えを感じさせる重さになっています。e-power仕様は
標準車と同様で、軽めの仕様となっています。
この種の車はCMの通り、女性の意見「だけ」を聞いてチューニングされている節があり、ただただ軽ければ良い、という設計がまかり通っています。残念なことに、女性のほとんど(男性も一部)は、ステアリングホイールはただただ回すだけのハンドルだと思っているのです。手応えを感じながら操作出来るのがnismo仕様、そうでないのがe-power仕様を含む標準車仕様と言えます。
ブレーキ
いずれも真空倍力装置付きの油圧ブレーキを採用しています。e-power仕様はノートと同様で、リーフが採用した、回生ブレーキだけでなく油圧ブレーキまでもが連動するシステムは採用されておりません。日産車の美点である、しっかりとした踏みごたえと、減速度を調整しやすい操作感は健在です。
一方、e-power仕様は回生ブレーキを優先させる「ワンペダル」制御が採用されており、ブレーキペダルに踏みかえることなく停車が可能です。このシステムは、スイッチ操作でワンペダル制御(アクセルペダルから足を離すと回生ブレーキを効かせる状態)と、擬似CVT制御(わずかな減速のみに下状態)とを切り替えられます。
ぜひステアリングコラム部に操作スイッチを設けて欲しいものです。市街地走行では、上記のどちらも使用したい場面があり、切り替えを頻繁に出来ると便利であるためです。鉄道でも、モーターに通電を続けて一定速度走行をすることは可能ですが、電力消費量低減の観点では、モーターに通電をする「力行」とモーターへの通電をやめた「惰行」を繰り返したほうが良いとのことです。
もっとも、惰行が有利なのは誘導モーターであり、この車を含めたハイブリッド/電気自動車が採用する同期モーターでは、引きずりトルクが発生するため、決して有利ではない模様です。
ボデー
nismo仕様はボデーの下部を中心に強化されており、突起乗り越え時にも車体がしっかりとしています。試乗コースではいわゆる「コーナーリング」を試せませんでしたので、実力のほどははっきりしません。乗用車との違いがごくわずかで、事情によってミニバンに乗らなければならなくなった方には、選択肢の一つとして挙げて良いと思います。
また、nismoのバケットシートが装着されていましたが、私の感覚ではこれはやりすぎで、シートは標準的なデザインの範疇のスポーツシートに抑えて欲しいと感じました。とはいえ、座り心地は快適ですので、スポーツシートならではの硬すぎる印象はありません。
e-power仕様は
標準車と大きくは変わりません。乗り心地が柔らかければ、車体剛性もほどほどで、ドライバーに走る気を起こさせません。また、電池が前席の床下にも及んでいますので、着座位置が高くなっています。
もっぱら乗用車の運転感覚に近づいたミニバンですが、これは全くの旧型ミニバンそのもの、日産ならラルゴ(W30型)やセレナ(C23型)に戻ってしまった印象です。この地上高の高さも走る気を起こさせない一因で、ゆったり走る車であることを感じます。
内装は、いずれも
標準車と大きく変わることはありませんでした。
まとめ
nismo仕様は、エンジニアが「ミニバンを感じさせないミニバンを、コストをあまり考えずに設計した」印象です。スポーツカーとは言えませんが、ツーリング系セダン程度の運転感覚でいられます。標準仕様でも違和感なく運転可能ですが、さらに乗りやすくなっています。
現在、国を挙げて自動運転の方向に向かっている結果、現在は「運転支援装置」の進化が著しくなっています。運転支援装置も良いのですが、車としての基本に立ち返り、運転しやすい車体、サスペンション、着座位置を十分に検討された車がより良いと感じました。
一方のe-power仕様は、静かさと振動の少なさが特筆されます。nismo側が、最近の車にしてはエンジンの振動が大きかったことも、さらにe-power仕様を新しく感じさせる一因になったのでしょう。3気筒エンジンの嫌な振動や音がほとんど感じられす、3気筒エンジン嫌いの私でも、「これならe-power仕様の方が良いかな。」と感じたほどです。
しかし、この着座位置の悪さは気になりました。全くバスそのもので、運転に若干の慣れを要します。
以上のことから、e-power仕様のnismo仕様が発売されると、きっと理想的な使用になるのではないか、と考えます。しかし、いろいろチューン具した結果。車両価格が400万円を超えるようになってくるのでしたら、素の仕様を我慢して乗るとか、nismoでもe-powerでも妥協して乗ることも考えます。
セレナ級のミニバンが難しいのは、結構予算に厳しい人が購入しており、コストをかけて上級仕様を設計しても、結局お客さまの予算から外れてしまうことです。また、数年を待たずして「幸せなミニバンファミリー」から、「養育費を捻出するためのタントやスペーシア」に変えられてしまう車でもあります。
また、日産リーフでも問題になっている、電池の劣化問題も気になります。化学変化を利用した電池ゆえ、永久に性能を保つことはありません。ノートと比較して電流の入出力が多くなるでしょうから、劣化も早く起こるのではないか、と推察されます。
そんなことから、普通の方にはe-powerを勧めて7年で一区切りをつけ、予算がある人はnismoも検討しても良い、ということにします。
参照して欲しい記事
トヨタ
ヴォクシー(初期型)
シエンタ
日産
セレナ(初期型)
ノート(e-power)
ノート(e-power nismo)