この日は、本当はアトキンソンサイクルエンジンを搭載したヴィッツかパッソに試乗をしに行ったのですが、あれだけ宣伝をしながら試乗車はないとのことで、そのお店にあった「ヴォクシー」に乗ってまいりました。
ヴォクシーの経緯
そもそも、1970年代半ばにさかのぼります。排ガス規制やオイルショックで、各車は出力が大幅に低下していました。暴走族問題や公害問題とも関連し、自動車はスピード性能から多用途性をうたうようになりました。カローラやスプリンターに追加されたリフトバック、ルーチェのワゴンなどに、その傾向が見られます。
この時期まで、大人数や荷物と一緒に出かけるときには、「ベンチシート、コラムシフト、ワゴン」が定番になっていました。私の不得意な分野なのでよくわからないのですが、今のように箱型の車を個人の家庭が使う例は、ほとんどなかったようです。そこへ、マツダのボンゴがワゴンモデルを、トヨタがライトエースの上級乗用版として、タウンエースを発売しました。
タウンエースは一定の市場を得ることに成功しました。1982年?の次のモデルでは、車内で寝られる仕様が登場したり、ムーンルーフやアルミホイールといった、乗用車並みの装備を選択できるようになり、大家族の乗用車として本格的に展開が始まりました。途中から兄弟車として加わったマスターエースには、レジャー色を強めた「サーフ仕様」も登場しました。
その後、エスティマなどの乗用ミニバンが展開され始め、マスターエースを廃止しました。衝突安全性などの点から、この種の車は不利とされ、やがて廃止される、と唱えた評論家もいました。しかし、この種の箱型車には根強いファンがいること、仕事用と家庭用をかねている家庭もあるなどのことから、廃止には至りませんでした。
流石に衝突安全性やエアバッグと運転士の関係などから、この種の車は、徐々に「鼻」を付ける傾向になってきました。タウンエース・ライトエースもその例に漏れず、1996年には乗用モデルに「ノア」のサブネームをつけて展開を始めました。なお、商用モデルもあり、そちらはボデー形状はそのままに、ノアの名前がつきません。このモデルは、イプサム、ガイアなどとともに、トヨタの中型ミニバンのヒット車となり、これからも箱型車が生き残る道筋をつけました。
その後、一番のライバル車であったステップワゴンは、「カスタマイズ」の種車として発売したはずの「SMX」を差し置いてヒットするなど、若者の車としても注目されました。トヨタがそれを放っておくはずもなく、次のモデルはより角張った形状で登場、ファミリー向けの「ノア」、若者向けの「ヴォクシー」に分割して展開されました。
この車が、より大型の「bB」として当時の若者に大ヒットしました。それほど荷物を積むわけでもないのに大きな室内をもち、中にはオーディオや照明、内装などに大金を叩くものも現れるようになりました。同時期にモデルチェンジしたエスティマも当初は人気がありましたが、若者風俗はすっかりヴォクシー寄りになりました。
なお、セレナはハイウェイスターを、ステップワゴンはスパーダを登場させて臨みましたが、この種の車は服やブランド品と同様、ある種の「記号」なので、いくら似ていてもそれでなければダメなのだそうです。初代ノア、ヴォクシーは、その後CVTやLEDテールランプに変更されるなどの、モデル途中としては大きな変更を受けるなどし、トヨタのドル箱車であることを示しました。
二代目のノア、ヴォクシーは、いろいろあったエンジンである「1ZA-FSE」を捨てて、バルブマチックエンジン「3ZR-FAE」と、ノーマルバルブの「3ZR-FE」の二本建てで登場しましたが、途中で3ZR-FAEのみになっています。この頃になると、若者風俗としてのこの車の傾向は、だいぶ薄くなってきました。中学、高校がそれぞれ3年であることから、流行の基本的周期も3年なのですよね。
この時期、日産のセレナは「5ナンバーサーズミニバン販売台数1位」をうたっていますが、ノア、ヴォクシーを別にしたこと、ノア、ヴォクシーにはエアロパーツなどで3ナンバー登録になるモデルもあることから、やや「数字のマジック」のように感じます。しかしながら、ファミリカーとしてのこの種の車の傾向として、ノア、ヴォクシーの力が弱ってきたことの表れでもありました。
ステップワゴンも、現在のひとつ前のモデルで「低重心コンセプト」を売りにしたかと思えば、今のモデルでは初代帰りをし、かと思えば自社内でフリードを経由してN BOXへど代替される現象も起こっています。
どうにも、あまり良い話がないこの種の車ですが、それでも根強いファンがいること、家庭の都合で多人数が乗れる車が必要な人がいることなどから、今回もモデルチェンジを受けました。
エンジン
今回のモデルは、大きく「ノア」、「ヴォクシー」、「それぞれの走りの性能を重視したG's」、「それぞれのハイブリッド」の、計6種で成り立っています。ハイブリッドは基本がプリウスであるため、エンジンは2ZR-FXE」となっています。今回試乗したエンジンモデルは、旧型のキャリーオーバーである「3ZR-FAE」を搭載しております。
一部の雑誌ではアトキンソンサイクル化されたとありましたが、そういう話は聞いておりません。乗った感じも、出力の切り替えが行われているようには感じませんでした。
このエンジン、登場した頃には「スムーズでなめらかなエンジン」と高く評価しました。しかし、他社のエンジンがかなり改善されており、現在となっては「並」とせざるを得ません。むしろ、他社エンジンと比較して、振動が大きめに感じられます。
前モデルが発売された頃に乗った印象とは明らかに異なり、低速域での出力が大幅に不足しています。と言ってアクセル開度を増しても、CVT制御の上で変速比が低い領域を長く維持しているだけの印象です。すなわち、エンジン回転の上限が高くなるだけで、かったるい印象に変わりはありません。渋滞路や徐行を求められる道では普通に走れますが、少しでも流れが良い道では、発車の度にかったるさを感じてしまうので、少々の試乗でも痛痒さを感じてしまいます。
同じ印象を
オーリスRSでも感じましたので、おそらくエンジンの特性として低回転時の出力が低いのであると思われます。というのも、バルブマチックのように、「バルブの開度でエンジンが吸引する混合気の量を制御するエンジン」は、低バルブ開度時にバルブリフト量が揃わないため、結局スロットルバルブを備えています。スロットルバルブでも吸気バルブでも開度が少ない結果、吸気抵抗が大きくなっているのでしょうか?
なお、エコモードスイッチは装備されていないとのことなので、アクセル操作で自動判定しているのではないか、と思います。出力を得るためにはアクセルペダルを大きく操作し、しかも回転を上げ気味にしなければならず、気分のよい運転は望めません。
結局のところ、前モデルからエンジンをそのままにした結果、セレナやステップワゴンに水を開けられてしまった印象です。というより、トヨタとしてはこの種の車は、この先売れ行きが低下していく、という予想をしているのではないか、という印象です。
いずれにせよ、この車を考えている人はもはや「ヴォクシーでなければ」という人は少ないでしょうから、セレナやステップワゴン、最近スカイアクティブエンジンに乾燥されたビアンテにも乗ってみるとよいでしょう。特にセレナの滑らかさは特筆ものです。
トランスミッション
旧型と比較し、特に変更はなされていないようです。旧型モデルの頃のCVTにはよくあった、「定速運転になると、あれよあれよと変速比が高められてしまう」「再加速の時に、変速レスポンスが悪い」は、かなり改善されています。しかし、エンジン低回転時の出力不足はいかんともしがたく、CVTを以てしても包み隠すにはいたっていません。
ブレーキ
普通に運転する際には、全く普通に停車できます。若干ペダル不感帯が大きいような印象で、制動力の立ち上がりが唐突かな、とも思えますが、ブレーキアシストが搭載され始めた頃のような不自然な印象はありません。
ステアリング
何と、ステアリングを少しでも切ろうものならアシスト用モーターが回り始めてしまう、という仕上がりになっています。路面の状態も全く伝えず、電動パワーステアリングが搭載され始めた頃のような印象です。
この改悪は「女性の意見を聞いた」ためだそうですが、いくら女性の意見でも操縦系に「車を知らない女性の意見」を入れてしまうことには反対です。車は商品ではありますが、その気になれば時速100km以上の速度で走れること、直進状態やステアリングの切れ角を、反力で知らせる必要があること、緊急時には緊急回避運転をしなければならないこと、などの理由があります。
トヨタのブラシレスモーターによる「アシストマップ付きパワーステアリング」に良い仕上がりのものはないのですが、中でもこの車の仕上がりはよくありません。
サスペンション
こちらも旧型とは大きく変わっていません。旧型の際には若干動きの渋さ、減衰力の不足を感じました。今回のモデルでは動きの渋さは完全に解消され、乗り心地が良くなっています。おそらく、セレナをターゲットにしたような印象です。
そこで顔を出してきたのが、「サスペンションが柔らかすぎる」ことです。ショックアブソーバーでしっかりした印象を出していて、一部の評論家が褒めそうな乗り心地になっているのですが、これは間違いなく「山道で酔う」サスペンションです。すなわち、街中の交差点などではそこそこのロールしか感じないので運転士は「うーん、しっかりしていて乗り心地も良い」と思うのでしょう。しかし、曲がっている時間が長くなる「山道などのカーブ」では、間違いなくロール角が深くなり、運転士は恐怖を、後席では乗り物酔いを感じることが予想されます。
おそらく、調査などで「この種のユーザーは、家と駅、ショッピングモールなどを往復する使い方がほとんどで、山へ観光には行かない」という結果が出たのでしょう。よりハードな乗り心地を求める場合は、ノアに対してヴォクシーを選ぶのではなく、それぞれの「G's」仕様を選ぶ必要があるとのことです。ヴォクシーは「いかつい外観」を持つのですが、見掛け倒しになっていたんですね。。。
なお、停車中にお尻の位置を変えるべく、お尻を持ち上げては椅子に落とすことを、私も横に乗ったセールスマンもしたのですが、その度に車が結構揺れました。「旧車」のノーマルサスペンション車に見られる動きですが、これがサスペンションの柔らかさの証拠です。
また、この種のサスペンションでは「いざという時の緊急回避性能」にも不安が出るはずです。横滑り防止装置はついているものの、それはあくまでも「ひどいアンダー(オーバー)ステアを軽減する、ブレーキの上での努力」をするだけのもので、ボデーそのものの動きを抑制することはできません。
この車で高速道路で障害物を発見、ブレーキを踏みながらステアリング切った際には、「サスペンションストロークを使い切って前輪はひどいアンダーステア傾向、障害物を回避できたらオメデトウっていうところだな」と、ガンダムのリュウさんのセリフを思い出しながら待つしかありません。
ボデー
旧型の頃も「しっかりしたボデーだ」と評価しました。今のモデルはさらに改善され、突起乗り越え時などにボデーが震えることはありません。もっとも、サスペンションからの入力が小さくなっていますので、一概には言えません。
今モデルから、サードシートを横にリフトアップする方式になりました。が、こうすると斜め後方の視界がほとんどなくなり、カーブなどではかなり注意が必要です。最近、自動車メーカーは「バックモニターをつければ、後方視界を気にせずにボデースタイルを決められる」とする傾向がありますが、どういう神経なのでしょうかね?この種の車(セレナも含む)に乗る人は、くれぐれも斜め後方に注意しながら右左折をしてください。
また、メーターなどは確か旧型はオレンジ色の照明を使っていたと思いますが、視認性に優れた、白系統になっています。メッキパーツも控えめになっており、他社に一時見られた「ギンギンギラギラ」は、控えめになっています。
まとめ
自動車の設計は、「3代目になると初代の精神が失われる」ようです。ヴォクシーはこれで3代目になりますが、女性、それもいわゆるやんちゃだった女性の意見を聞きすぎたかな?という印象です。さもありなん、タウンエース・ライトエースのノアが女性の意見を重視して、それまでの箱車を改良して登場しただけに、女性の意見を聞くのがこの車の歴史になっているのでしょう。サスペンション、ステアリングなどに、強く疑問を感じました。
また、G’sには乗っていないのですが、ボデー剛性の向上も含めた走りのチューニングがなされているそうです。箱車に走りの性能というのも変な話ですが、G'sを引き立たせるために、標準系の性能が落とされているのでは?と、勘ぐってしまいます。
この種の車には「乗っても我慢できるな」となっていた私ですが、久しぶりに「この種の車には乗りたくないな」と感じました。モデルとしては折り返し点を過ぎ、そろそろ末期になっているセレナにようやく追いついた印象であり、走りの性能はビアンテやステップワゴンに劣ってしまうことも考えられます。
この車、「(仕事や下取りや気持ちの上で)どうしてもトヨタの車でなければならない」という人以外には、お勧めできません。この種の車に乗る人は試乗をしないらしいのですが、セレナ、ステップワゴンはもちろん、ビアンテにも乗って、体への馴染みを検討してください。
おまけ
商品の企画手順の一つとして、「競合製品を徹底的に研究する」があります。また、車のゲームやレースでは、ライバル車の後ろに着くと、ライバルの運転に引きずられてしまい、実力以上の速度でコーナーへ進入、あえなくコーナーを飛び出してしまう、という現象があります。この車を見ていると、セレナを研究しすぎてついに車として破綻した、ということが頭に浮かびます。
参照して欲しい記事
トヨタ
アルファード
ノア(旧型前期型、バルブマチックエンジン車)
ウイッシュ(現行前期型)
プリウスα
スペイド
日産
エルグランド(2500cc車)
セレナ(アイドルストップ)
セレナ(Sハイブリッド)
ラフェスタハイウェイスター
キューブ(市街地)
キューブ(山岳路)
NV350キャラバン
ホンダ
ステップワゴン(アイドルストップ搭載前)
フリードハイブリッド
N BOX
マツダ
ビアンテ(非スカイアクティブ)
プレマシー(現行)
三菱
デリカD5(2400ccガソリンエンジン搭載車)
デリカD5(4N14 クリーンディーゼルエンジン搭載車)
ヴォクシー(旧型)とセレナ(アイドルストップ)とステップワゴン(アイドルストップ搭載前)、ビアンテ(非スカイアクティブ)