先週の西日本豪雨は、ひどい被害が発生しました。この豪雨の前には、気象庁が気象災害が発生する恐れがあることを警戒する記者会見を行うなど、異例とも言える展開から始まっていました。
今週になり、気象庁からは今回の経緯に関する発表がなされています。
災害に至る原因はいろいろあり、これも自然現象の一つといえばそうなのですが、いくつかの言い習わしや、気象記号に関わる誤認も一つの原因ではないか、と考えています。このブログを読んだ方が、今後の人生で気象情報を正しく利用し、寿命が縮まることがないように、いくつかのポイントを書いてみることにしました。
1.今回の雨の原因
週の初めに沖縄地方を通過した台風7号は、日本海側へ抜けて温帯低気圧へとかわりました。台風(熱帯低気圧)と温帯低気圧は、低気圧として発達する仕組みが異なるのみです。台風は、台風へ吹き込む風の中の水蒸気が結露する際に放出する熱(潜熱)によって中心付近が熱くなり、その熱によってさらに上昇気流が強められることが発達のエネルギー源です。
一方で温帯低気圧は、東方で暖気が寒気に乗り上げ(温暖前線)、西南方で寒気が暖気を押し上げる(寒冷前線)、偏西風の蛇行に伴った大気の循環に伴う現象です。
台風が温帯低気圧に変わる際には、台風の中心から西側に乾いた冷たい空気が流入してきます。一方で台風が通ってきた進路からは熱帯の暖かい空気が流れ込み、暖湿気流があります。日本付近を台風が通過する際には、台風は太平洋高気圧の縁を通ってきますので、台風通過後は暖湿気流がもたらされます。
台風の北側には移動性の高気圧があり、南からの湿った気流は日本を南西から北東に横断する形で流れていました。この暖湿気流と移動性高気圧の寒気の間に前線が出来ましたが、暖気と寒気が釣り合ったまま移動しませんでしたので、停滞前線となっていました。
1.地理的要因
これまで、瀬戸内地域は「温暖で穏やかな気候」と、地理の教科書などでは書かれています。意外に雪が降る山陰地方と、台風による風雨の被害が発生する高知県と比較し、山に囲まれていることが穏やかになる原因です。
その考え方で行けば上記の暖湿気流は四国山地で雲になり、高知県側は雨で瀬戸内は雨が降らずにフェーン現象になったはずでした。しかし暖湿気流が強かったために四国山地を超え、中国山地でも雲が連続的に発生しました。
このことより、今後は「山の南側では雨、北側ではフェーン現象となるとは限らない」、と考える必要が出てきましたので、瀬戸内が安全という根拠はなくなりました。
2.気象記号がもたらす誤認
1.「温帯低気圧よりも台風の方が強い」
2.「前線を伴わない低気圧よりも、前線を伴う低気圧の方が強い」
3.「温暖前線や停滞前線付近で降る雨は、寒冷前線付近の雨よりも弱く降る」
という誤認がありませんか?特に3の項目は、小中学生の理科の教科書にも書かれており、学校の試験の上では間違っていません。
台風の構造
温帯低気圧と前線の構造
しかし、前線は寒気と暖気の移動について示しているだけで、雨の強弱は述べていません。実際に温暖前線付近の暖気域内では、暖湿気流に伴う強い積乱雲の「テーパリングクラウド(にんじん雲)が現れることがあり、雨が弱いとは限らなくなりました。
一方、停滞前線は東西に延びることが多く、上州流が弱いことがほとんどです。しかし今回は、湿り具合が高く、風速も強(約20m/s)かったことから、「どの方向にも移動しないだけで、暖気と寒気がその場で拮抗する領域」になっていました。
3.雲頂高度と雨の強さ
今回の雨をもたらした雲の雲頂高度(雲の上端の高さ)は、約7kmだったそうです。雲は成層圏の下でしか発達できず、強い積乱雲は圏界面まで雲頂が到達し、夏ですと約15kmまでにも到達することがあります。雲は圏界面で横に広がるために、雲頂が平らになった状態が積乱雲です。
雲頂高度6km程度の雄大積雲
しかし7kmですと圏界面まで到達していません。雲の分類では「雄大積雲」の状態です。雄大積雲もいわゆる土砂降りをもたらしますが、雄大積雲が連続して同じ場所で発生しては移動することを繰り返せば、豪雨になることを表した件でした。積乱雲ではないから大丈夫、は、全く通用しなくなりました。
4.警戒水位や土砂災害警戒情報と降水
河川によって、堤防等が決壊する恐れが有る警戒水位が定められています。また、24時間積算雨量がある量に到達すると、土砂災害警戒情報が発表されます。
どちらもある基準点があるのですが、基準点に対して現在の推移や雨量がゆっくり到達しつつある場合と急速に到達しようとしている場合とで、状況が異なります。
車の速度に例えると、時速100km制限の道路で、発車から毎秒20km/hずつ加速している場合と毎秒3km/hずつ加速している車両を比較すると、前者の方は制限速度を超えるおそれが非常に高く、後者は制限速度以内に収まる可能性があります。
すなわち河川の増水や土砂災害は、現在までに降っている雨の量の積算と、現在降っている雨の量と、これから降りそうな雨の状況(≒雲の状態≒風や温度の分布)によって、発生の危険度を予測しなければなりません。
現在、河川の管理や土砂災害発生などは、気象庁と河川管理事務所、都道府県知事や市町村長の間でやりとりがありますが、特に市町村長は上記に鑑み、雨と雲の状況から災害の発生を予測しなければならない、と感じています。
以上のことから、「低気圧や前線だから大丈夫」などといった、素人判断や言い伝えを捨て、これからの時代の「身の守り方」を考えなければならない、と思っています。
Posted at 2018/07/14 15:35:43 | |
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気象 | 日記