
この日は、カローラスポーツに試乗してまいりました。この日はM/T車に乗りましたが、先月9日にはCVT車に試乗しており、双方の比較試乗として記します。
カローラスポーツの位置づけ
カローラスポーツは、これまでオーリスとして展開していた車種の後継車として位置づけられます。歴史的展開は、オーリスRSグレードM/T車に試乗した際に記しておりますので、そちらをご覧下さい。
今回のモデルから、車名は再びカローラ系列に入りました。カローラ系列はまだ出揃っておりませんが、現行のカローラ(アクシオとフィールダー)はP130型ヴィッツの系列に近く、このカローラスポーツは現行プリウスの「TNGA」ボデーを採用した、3ナンバーボデーとなっています。
既に3ナンバーと5ナンバー車は一部のフェリー乗船料金に差がある程度で、自動車税等の課税は排気量に寄っています。そのため、同クラスの車はほとんどが国際的競争力を持つ3ナンバーボデーに移行しています。5ナンバーでないと困る人は、車庫に5ナンバー車しか入らない方と、課税を勘違いしている方です。ナンバー種別にこだわっている方(1990年頃に、マツダ クロノスなどに抵抗があった方)は、既に多くが生産年齢人口から外れ、主要消費者から外れています。
そしてこの車は、プリウスのスポーツハッチバックとしての位置に収まっています。といって現在のところはエンジンが特別スポーツではなく、ごく普通のハイブリッドシステムとターボエンジンになっています。
すなわち「スポーツ」とは、かつての「GTグレード」とは異なり、ビジネスを離れた日常用ということを強調するための名称になっています。「スポーツ」とつかないと営業車として買うユーザーが出て、車が営業用車としての性格を帯び、一般ユーザーが離れてしまうのです。
以上のことより、今回のカローラスポーツは、1976年に追加された「カローラリフトバック、スプリンターリフトバック」に近い、レジャーとほんのりスポーティーなドライブが可能なモデルとして位置づけられていると考えています。
エンジン
8NR-FTS型、1200ccのDOHC筒内噴射ターボ、かつ、アトキンソンサイクルを採用したエンジンです。世界的にダウンサイジングターボエンジンが流行している時の、旧型オーリスの後期型で追加されたものです。無過給領域ではアトキンソンサイクルで効率よくエンジンが回転し、過給領域ではパワーを補うエンジンです。現行日産ノートが採用した、HR12DDRスーパーチャージャーエンジンに近い性格で、これまでの1500cc自然吸気エンジンの置き換えと考えられるエンジンです。
CVTモデルでは変速比を車側が調整するために、過給圧力が上がってくると変速比を上げる制御をします。そのため、エンジンが低回転で回りながら大きな出力を発揮しているような印象になり、「低速トルクが非常に大きい」と感じられます。
一方、M/Tとの組み合わせでは変速比が固定されるために、上記ほどの制御は行われません。代わりにスロットルバルブ開度で調整している模様です。エンジンは、低回転時からほどほどの出力が発生し、過吸領域に到達しても大きな出力が発生されたようには感じず、あたかも自然吸気エンジンのような印象になります。
エンジンは5200回転から5600回転の間で最高出力の116馬力を、1500回転から4000回転の間で18.9kgf・mと、2000cc自然吸気エンジンに近い最大トルクを発生します。回転数を上げて大きな出力を維持したくなる性格のエンジンではありませんでした。一方、極低回転時から出力を発揮出来ないターボエンジンですので、クラッチミートには若干気を使います。
当然CVTと組み合わせたほうがエンジンに余裕を感じますが、M/Tとの組み合わせでは、出力をドライバー自身が制御して発生させる印象です。オーリスでは1度エンストをしてしまった私ですが、こちらのエンジンの方が低回転時に余裕を感じます。
車好きである私が書くのですから、当然M/T車をお勧めしたくなります。M/T食わず嫌いの方は、ぜひお乗りになってみてください。
トランスミッション
M/T車の1速は3.727とかなり比が低くなっていますが、最終減速比は3.944と比較的高めです。この最終減速比からしても、このM/Tはスポーツ走行用というよりは、普通の乗用車の性格であることが読めます。それなら5速M/Tでも十分ではないか、と思います。
オーリスの頃のギヤ比は覚えていないのですが、3速と4速の違いがほとんど感じられませんでした。むしろ腕を動かす数だけが多くなってしまっていました。この車ではギヤ比割りが改善されているようで、4速のギヤ比が少し高くなっているようです。
これは余談ですが、1速で発車した際には「ゴロゴロ」とエンジンの音が聞こえます。この音がE70型やAE86型などでも感じられた懐かしい音で、運転している気分を盛り上げます。最新の車をM/Tで操ることは、非常に楽しいです。
シフトフィーリングは、軽く操作できるものです。節度感はあまりなく、シフト操作完了はシフトを動かせたことによってのみ、感じられます。もう少しクリック感があったほうが良いでしょう。シフトストロークはやや多めで、セレクトストロークはやや少なめです。レバー倒れ角は、1速時にレバーが直立する、従来のトヨタ車のものとはちょっと変わったように感じます。
今回搭載された「i-MT」は、シフト操作とエンジン回転数合わせを連動させるものです。アクセル開度やエアコンとともに調整する「モード切替スイッチ」をSPORTにすると機能するとのことですが、SPORTモード自体がアクセルペダルに対してエンジン出力が先に出てくる印象で、決して扱いやすいものではありませんでした。
そもそもブレーキペダルとアクセルペダルの関係が「ヒール&トゥ」をしづらい位置であり、そもそもペダルの位置の方を改善してもらいたいものです。このシステムは、本末転倒だと思います。
CVTは、低い変速比で発車した後に「あたかも変速比を固定しているかのように」緩やかに変速し、一体感がある加速が楽しめます。
緩やかに再加速をする際には変速比を下げず、高い変速比のままで加速をします。この際、実際にはスロットルバルブ開度は増しているようで、あたかもエンジンが大きな出力を発揮しているように感じます。
アクセルペダルを急に大きく操作した際の印象は良くありません。エンジン出力を増すためにエンジン回転数(ターボチャージャーを回すための、排気ガスの量でもあります)を上げるために変速比を下げるのですが、アクセルペダルを踏んで待っている必要があります。ターボチャージャーの回転数が上がるためにも、待ち時間が必要です。
実際の使用場面でも、追い越し加速をする際などに対向車線の状況を確認し、アクセルペダルを踏んで待っている間に対向車が来てしまう場合もあることでしょう。トランスミッションを含めた「総合的アクセルレスポンス」に難があり、CVT車にはより排気量が大きい自然吸気エンジンを組み合わせた方が良いと感じました。
ブレーキ
ブレーキサーボが効きすぎ、ブレーキペダルを少し踏むとペダルが奥に吸い込まれるような印象です。微小ブレーキ開度の際には、制動力の調整が大変しづらいです。ブレーキペダルを戻しても制動力が減少せず、停車時に「カックンブレーキ」になりやすい傾向があります。
ペダル反力もスポンジーで、踏み応えがあまりありません。このことも、「ブレーキペダル踏み込みをどこで止めるか」調整しづらく、減速する際にはペダル操作に気を使ってしまいます。
このことは、トルクコンバーターがないM/T車ほど顕著でした。低回転時に出力が低下するエンジンの特性と相まって、停車時には若干気をつける必要を感じました。もう少しブレーキを改善しませんと、停車時の取り扱いに難があるように感じます。
ステアリング
電動パワーステアリングを採用しています。操作に必要な力は非常に少なく操作できますが、路面の状態をほとんど伝えず、「ただ軽い」だけの印象になっていました。直進性能は高く、路面の状態を掴めなくても影響はないのですが、カーブの際の取り扱いには、若干難を感じます。
TNGAシャシーを採用したことによる効果は、直進安定性にも操舵性にも及んでいます。今回は操舵性については十分に試すことはできませんでしたが、直進安定性はかなり高いと言えます。だからといって路面の状態を伝えなくても良い、ということにはなりません。ぜひ、操舵感はもっとしっかりと路面の状態を伝えるよう、改善を望みます。
サスペンション
この車の美点が、サスペンションです。路面の凹凸に対してサスペンションがしなやかに動き、路面の突起だけでなく、うねりやわずかな凹凸に対してもタイヤだけが上下に動き、車体に伝えないほどになっています。タイヤの扁平率が高く、路面の凹凸をタイヤが吸収しづらくなっているのですが、「現代のサスペンションは、路面からの大きな入力を十分に吸収する」ことを、強く感じさ得ます。
プリウス/プリウスPHVの場合には、うねりを乗り越えたあとに車の上下動が残っていました。この車では揺れが一発で収まり、車体を安定させています。硬すぎず柔らかすぎず、心地よいサスペンションです。
スポーツというサブネームだからといって、「スポーツ/サーキット走行」を目的としていない、ということが、このサスペンション設定からよくわかります。軽快に気軽に乗れる普通の乗用車のサスペンションです。
ボデー
TNGA車体構造採用の効果は如実で、二世代前のオーリスでは、突起を乗り越えるとフロントガラス部分がガタゴトと震えました。旧型オーリスでは、ガタゴトとした振動が、ミシミシ程度のひずみに軽減されました。そして今回のカローラスポーツでは、サスペンションから振動が伝わらないだけでなく、車体が振動を完全にいなしています。
車体前部だけでなく後部についても同じことがいえ、車の後ろに大きな開口部が空いている不利さを感じません。しっかりしたボデーは、しなやかな乗り心地に効いていますが、大きな安心感にもつながります。
一方、ボデー後方および斜め後方の視界は非常に悪く、以前ベンツGLAで感じた時そのものです。リヤハッチは、ハッチ自体の剛性を高めるためかガラス面積が狭くなっています。ボデー後部の剛性を高めるために、クオーターピラーが太くなっています。しかも、助手席シートバックも厚く、視界を悪化させます。すなわち、後方も斜め後方も、振り返ってもほとんど何も見えません。車庫入れ時にも左折時にも車線変更時等にも有効な視界を得られず、安全性に影響すると考えられます。
デザイン上、クオーターピラーを太くするとスタイル上の安定感が高まるのですが、このスタイルは運転に差し支えてしまいます。ここのところトヨタ車の視界は悪化する一方ですが、その中でも悪い方に属します。
内装は、新しさと従来が共存しており、プリウスPHVやクラウンほどの先進性は感じません。エアコン操作部はメカニカルスイッチとなっており、モニター等が故障してもエアコンを使用できるようになっています。ナビゲーションとエアコン操作パネルが手前に出てきており、シフトレバー奥は引っ込んでいますから、なんとなく運転席の左斜め前が迫っているようで、圧迫感があります。
前方の視界は、ダッシュボード上端が低くなっているために、旧型オーリスで感じた「ドライバーがアゴを上げて運転する感じ」がありません。これは、運転が楽に感じられるポイントです。
メーターは最新の「コンピューターのグラフィック」による描画で、最新性を感じます。奥行き感や精巧な感じはありませんが、メーターはどの方向に向かうのでしょうね。1980年代初めのデジタルメーターは、結局おもちゃ程度になってしまいました。現在はメーター内にいろいろな情報を表示する必要が出てきましたので、コンピューターグラフィック表示に分があるように感じます。その一方で、腕時計のようなデザイン性も求められるでしょうから、すぐに変わってしまうことはないでしょう。
内装は、ほとんど黒一色です。屋根も柱もイスもダッシュボードも、全部黒です。白内装が一部高級車になり、カフェラテ内装はファミリーカー用になり、グレー内装は営業車になり、青内装は絶滅とあっては、黒しかなかったのかもしれません。
まとめ
「この車は、カローラリフトバック/スプリンターリフトバック、ないしはカローラFX」である印象は変わりません。かつてカローラレビン/スプリンタートレノがインテグラタイプRと争ったころのスポーツではなく、レジャーや余暇を楽しむためのスポーツです。
「インプレッサやアクセラのハッチバックモデルがスポーツと名乗っているのも、営業車として購入する会社が、「スポーツ≒遊び」と名のついた車は選ばない。営業車にならなければ台数は伸びないが、一般ユーザーが仕事感覚を感じずに買ってくれる。」ことを狙ったと考えられます。
営業車にも使われず、サーキット走行を思わせるスポーツ感覚もない、という、普通の乗用車を狙った車としては、良い線を行っていると思います。アクセラがやや古く、ボデーに軽快感を感じさせる一方で剛性が今ひとつ、インプレッサは高級感を狙ったのか、若々しさや軽快感に欠ける、という仕上がりになっています。
そんな中、CMのように軽快感がよく出た、仕上がりの良い車になっています。スタイルも躍動感があり、持つ喜びを感じさせます。これまで続いたトヨタの「キーンルック」も緩和され、旧型オーリスを正常進化させたスタイルになっています。
気になるのは後方の視界で、軽快感とは正反対の、まるで「アナグラにこもったような」感じです。最近の車のスタイルは、1970年代前半のように、「外界から乗員を守る、包まれ感あるボデー」になってきているように感じられます。しかし、ボデー剛性が高くても、視界が悪いことは勘弁願いたいものです。視界の悪さが気になる方は、この車はやめた方がよいでしょう。
また、最近トヨタが展開している「GRシリーズ」なども気になるところです。実質は1500ccエンジン車程度の動力性能で、メーカーが打ち止めをしてくるとは思えません。2ZR-FAEスーパーチャージャーや、3ZR-FAEエンジンなどが適当なエンジンではないか、と思います。
購入時期を考える上で、走りが好きな人はもう少し待ってからの方が良いでしょう。普通の乗用車として使用したい人や、サーキット走行はしない人は、今購入されても良いと思います。
参考にして欲しい記事
トヨタ
オーリス(旧型前期RS)
オーリス(二世代前1800cc)
ブレイド(2400cc)
ブレイド(3500cc)
プリウス(短距離)
プリウス(長距離)
プリウスPHV
プリウスPHV(長距離)
カローラアクシオ(後期型)
ヴィッツ(中期型)
ヴィッツ(初期型)
日産
マーチ(ニスモ)
ノート(ニスモ)
ノート(スーパーチャージャー)
ノート(e-power)
ノート(e-powerニスモ)
シルフィ
本田
フィット(初期型RS)
フィット(初期型ハイブリッド短距離)
フィット(初期型ハイブリッド長距離)
フィット(初期型1300cc)
グレイス(前期型ハイブリッド)
シビック(後日記入)
マツダ
アクセラ(1500cc)
アクセラ(初期型2000cc)
アクセラ(ハイブリッド)
デミオ(初期型ガソリン/ディーゼル比較
デミオ(初期型中距離)
スバル
インプレッサ(スポーツ)
VW
ゴルフ(現行初期型)
メルセデス・ベンツ
GLA