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2019年09月09日

北斎館(長野県上高井郡小布施町)

北斎館(長野県上高井郡小布施町)  今朝未明、関東地方を台風が駆け抜けました。
 ボクが住む埼玉県西南部は午前4時頃が、雨と風のピークでした。現在はどんよりとしてはいるものの、風はおさまりました。これから暑くなるようです。

 今日は月曜日ですが、ボクは代休です。

 先週の土曜日、月に一度の難聴治療のため、長野県須坂市を訪れました。
 この4月まで1年間は、毎週土曜日に通っていました。治療費の他、交通費(高速料金・ガソリン代)の負担が大きく、毎回、往路は未明に家を出て高速で向かい、午前8時に終了すると、節約目的で下道を5,6時間かけて帰宅しました。そのため、折角須坂を訪れても観光らしき事が全く出来ませんでした。
 この日は復路も高速を使うことに決め、念願だった須坂市の北に位置する小布施町を訪れました。最大の目的は、浮世絵師、葛飾北斎の作品を収蔵した「北斎館」の訪問です。



 玄関を潜ったところです。
 北斎の斎の字の右横に「画狂人」とありますが、これは75歳の時に名乗った画号で、所謂「芸名」のようなもの。ちなみに「北斎」も画号で、本名は川村鉄蔵、幼名は時太郎だったそうです。
 ちなみに北斎は、この画号の変更と引っ越しが頻繁で、画号変更は約30回、転居は生涯に93回だったそうです。

 江戸の著名な浮世絵師・北斎の美術館が、何故信州の小布施に存在するのでしょうか…。

 小布施出身で、酒造を生業とした豪商で、陽明学にも通じた高井鴻山なる人物が、江戸に遊学の際、北斎と知り合ったことが契機とされています。北斎が83歳の天保13年、鴻山は小布施に北斎を呼び寄せ、碧漪軒(へきいけん)というアトリエを提供、生活を庇護したのだそうです。既に芸術家として晩年を迎えていた北斎ですが、以後も85、86、89歳の時に小布施を訪れています。
 80歳を過ぎてから、北斎は肉筆画を手掛けるに至ります。
 版画たる浮世絵は大量に流布が可能ですが、肉筆画は地上に唯一のもの。
 
 つまり、小布施には、天才絵師の「オンリー・ワン」が沢山存在するのです。
 そして「画狂人」を名乗った時代は、まさしく小布施で活動した頃です。



 自画像です。
 玄関にも肖像がありましたが、こちらは「好々爺」的な味わいです。

 北斎は天才にありがちな奇行が多く、また激情家でもあったそうです。頻繁な転居は、生活の全て、時間の全てを制作に注いだ結果、掃除ということを一切しなかったため、家が現代に言う「ゴミ屋敷」と化してしまったからとされています。この自画像からは、そんな一面は見えません。



 廊下です。
 幽玄な趣です。



 「北斎から学ぶ! 植物・動物の描き方」という企画展を開催中でした。



 「きんぎょ」。
 頭が下の腹側からのアングルです。



 脚注がありませんが「はな」。
 コスモスっぽいかな…。



 これにもありませんが、明らかに「たこ」。
 実にリアルな描写です。



 「たらのこ」に「あんこう」。
 深海魚のあんこうを、ここまでリアルに描ける腕はさすがです。
 何しろ、釣り上げると目は飛び出てしまいますし、体はヌルヌル、デロンデロンの状態。まともに観察する人は、そう滅多にはいないと思います。



 「かえる」。
 水かきがあるので、アマガエルでしょうか。
 その部分は、多少デフォルメされた印象です。





 これらは全て「北斎漫画」と名付けられた、スケッチ集かに収蔵されています。これは、その現品です。
 北斎漫画は、動植物、人間、風俗、妖怪に至る迄、膨大なスケッチが収められています。中には座頭や瞽女といった、当時の視覚障害者の表情ばかりを集めた章があります。現代では差別と一刀両断されること間違いなしですが、リアリズムの極致を追求した結果だと思います。



 壁面に、その拡大版が展示されていました。



 これは「富嶽三十六景」の中でも、とりわけ有名な「神奈川沖浪裏」です。
 その名の通り、漁舟を翻弄する相模湾の荒波の裏側を描いた作品。「北斎漫画」に描かれたリアリズムの精神が、この風景画にも如何なく発揮されています。
 この作品が、どのようにして刷られたのか、その技法の解説がされたコーナーがありました。ちょっと複雑ですが、ご紹介します。



 上左は作品紹介するキャプション、上右は摺り手順の解説です。
 下の右は1版目『最初の藍線の輪郭の一色』。
 下の左は、その版木。当然ですが左右が逆です。



 上左は2版目『漁舟を平面的に黄色で摺る』。
 上右は重ねた結果です(以下、同じ)。
 下左は3版目『空に薄い紅を平面的に摺る』。



 上左は4版目『水平線から上方へ薄墨のぼかしがかけられる』
 下左は5版目『4版目と同じ板で更に濃いぼかしがかけられる』



 上左は6版目、下左は7版目『更に同じ板で富士の周辺だけ特に濃くぼかす』



 上左は8版目『波の部分を最初は派手な藍を薄く平面的に摺る』
 下左は9版目『次に地味な藍を摺って並の水色に濃淡をつける』



 上左は10版目『平面的に黄色で摺った漁舟にねずみ色の影をつける』
 下左は11版目『波の影に更に濃い藍をかけ、並の色を複雑にする』

 …何と、完成までに11回もの重ね摺りを要しています。
 印刷機など存在しない江戸時代に、浮世絵はこれだけの手間と時間を掛けて生み出されことを改めて知り、大いに感動しました。
 そして、北斎を筆頭とする浮世絵は大量に摺られ、江戸の人々に娯楽をもたらしました。
 一方、当時貴重な輸出品だった陶磁器の緩衝剤として使用されました。これがオランダに届くと、ヨーロッパの人々は陶磁器には見向きもせず、それらを包んでいた浮世絵に驚異の眼差しを向けたそうです。
 最も有名なのはゴッホ。
 赤貧の彼は浮世絵に魅せられ、絵が売れると嬉嬉として画商から購入したそうです。浮世絵に描かれた遥か東洋の小国に思いを馳せ、遂には「北斎に会う」ことを夢見るに至ったとか。実際、彼の描いた作品の背景には、有名な浮世絵が何点も描かれています。





 先ほども触れましたが、北斎の小布施での制作活動の中心は「肉筆画」。これらは一点限りの存在で、こちらでしか眺めることは出来ません。
 
 『椿と鮭の切り身』。
 シュールな表現もさることながら、この二者を組み合わせて描こうとする発想は、天才にしか出来ない芸当です。





 『鴨』。
 動きが伝わって来ます。水面の変化も見事に捉えています。





 『巌上の大鷲』。
 晩年の北斎の肉筆画では、最も著名な作品です。
 力強さとダイナミズムに満ち溢れ、空の王者たる存在を描いています。これ程の作品を80を過ぎて完成させているのですから驚異的です。



 さて、最後の展示室です。
 主役は2台の祭り屋台です。





 小布施に伝わる江戸時代の祭屋台のひとつ、東町祭屋台です。
 北斎はこの屋台に2枚の天井絵を描きました。
 『龍図』と『鳳凰図』です。




 
 リアリズムにこだわり続けた北斎。
 そんな巨匠が想像上の生き物を描いています。
 まるで、本当に存在するような気がして来ます。





 奥にはもう一台、屋台が。
 上町祭り屋台です。
 こちらにも2枚の天井絵が
 『男浪』と『女浪』です。




 
 『神奈川沖浪裏』に通じる大波の表現です。
 砕け散り飛沫に転じる寸前を描いたもの。
 自然現象を切り取り2枚の組作品にすることは、表現者として大変な辛苦を味わうことだったと思います。全く違うもの同士では組作品としての意味がなくなります。かと言い『似てて非なるもの』の組み合わせは、見る者からすると違和感がつきまといます。タイトルを『男浪』と『女浪』としたのは、まさしくそれを意識したように思います。『女浪』の描く円形のカーブに女性らしい美しさを感じるのは、ボクだけでしょうか?(笑)

 いやー、初めての訪問でしたが、素晴らしい作品がぎっしり詰まっていました。特に最後の屋台には圧倒されて頭が真っ白になってしまい、売店で『北斎漫画』の本を買うつもりだったのに、すっかり忘れてしまいました。

 再訪問は必至です。

北斎館

381-0201
長野県上高井郡小布施町大字小布施485
026-247-5206

9:00-17:00





 
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Posted at 2019/09/09 14:07:25

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