
19日の土曜日午後。
地元至近の埼玉県飯能市を訪れました。
第一の目的は飯能河原に近いアンティーク・ショップの訪問でしたが、明治の時代、飯能が嘗ては西川材を筏にして江戸に送る拠点として栄え、当時の花街の面影が残る建築と町並みが現存することを知り、散策してみたくなったことです。
有料駐車場にロードスターを停め、傘とカメラを手に飯能のメインストリートだけでなく、横町を縦横無尽に散策しました。「びっくり」と「感動」の連続でしたが、そんな道すがら、こちらのお店が現れました。
おそらくは明治期、いや、江戸時代の建物の可能性があります(※後述)。
2階の閉じられた雨戸はトタンではなく、木張り。横一線に連なる手摺は一部が損壊しているものの、大変に凝った意匠です。
1階の左半分は閉じたままですが、右には灯りが。どうやら、お店として機能している様子です。
前の写真を撮り終えて道を渡ります。
お店の前には、こんな物が。
全て鉄製の小物です。
恐る恐る中を覗くと、薄暗い奥の右側で人が動く気配がし、こちらを覗うのが見えました。
「すみませーん。通りすがりの者ですが、こちらはお店ですかー?」
「はーい」
綺麗なメゾソプラノの声がし、痩身の女性が出ていらっしゃいました。
「どうぞー。何もありませんが、ご覧になって下さいネー」
導かれるまま、店内にお邪魔しました。
撮り忘れましたが、玄関の敷居は太い材木製で、一段飛び出たもの。
こんな建物、すっかり珍しくなったよナー、と妙に感動しながら、心の中でヨッコラショと呟いて跨ぎました。
お店の中央部には、こちらのテーブルが。
上には鉄製の製品が並びます。
どうやら「鍋敷き」のよう。
「うちは、主人が鍛冶職人で、この種のものを造っております。この建物は、私の祖父が酒店をやっていたそうです。先祖代々から受け継がれたものです。隣半分は店子に貸していたのだそうです。相続で私が引き受けることになりましたが、空気の入れ替えも兼ねて、週末だけ主人の作品を販売する店として、私が開けております」
いやー、お話しぶりが立て板に水で、とても頭脳明晰な方です。
しかも、ちっとも大上段ではなく、とってもチャーミング。
ご主人が羨ましくなりました。
洋館の壁際に鎮座するような、暖炉を模した飾り棚の上には、沢山の鉄製品が。3連のハンガーフツクを手に取りましたが、重厚で貫録に満ちたものでした。失礼ながら奥様にお値段を訊きました。
…ここだけのハナシ、驚くほどの「お勉強」デシタ!
昭和の時代を彷彿するランプシェード!
今ではすっかり珍しくなりました。
西洋建築ばかりをコラージュしたリトグラフが飾られていました。
この建築にこのセンス、脱帽です。
白い西洋建築風のドアは仕切りとして存在し、その奥はお店の事務スペース。更にその奥はガラスが嵌められた引き戸で、奥へと延びる通路の右は、一段高い畳敷きになっているのが見えました。言葉足らずで申し訳ありませんが、左側は「土間」になっていて、右側は50センチくらい高い居間としての設計なのかも知れません。
…とっても、入ってみたかったー…。
個人的に、最も欲しかったのが、このランプシェード!
勿論、ご主人の作品だそうです。
笹や紅葉を彷彿させる複雑な切込みが施され、しかも表面を敢えて「錆」で覆ったもの。赤い錆面が反射する白熱灯の色は、この上もなく優しいものでした。
こういう作品を制作されるご主人。
先祖代々の旧いお店で販売される奥様。
インテリジェンスに富んだ、素敵な生き方をされています。
お手本にしたいと思いました。
ちなみに、「江州屋」の屋号は「ごうしゅうや」と読むそうです。
江州とは、今の滋賀県、近江のあたりを指すそうです。
江戸の人々は「近江」と呼びましたが、関西や長州など、当時の近江より西の地方では「ごうしゅう」と呼んだのだそうです。
59年近く生きてきて、初めて知りました。
いつもクルマやバイクで素通りしていました。
徒歩での散策では、こういう発見もあるのですネー。
ロードスターやWに乗るのとは、別の楽しみが味わえます。
奥様、「売らんかな」の態度は全くありません。
とっても優しく、素敵な女性です。
こういうオブジェがお好きな方には、太鼓判でお薦めさせて戴きます。
オマケ
飯能には、実に魅力的な旧い建物が現存します。
沢山撮影しましたが、今日は少しだけご紹介します。
お蕎麦屋さん「時」です。
蔵をそのままお店にしています。
うどん屋さんの「古久や」さん。
江戸時代の建築と聞きました。
この時、既に看板で、店内ではスタッフの方々が遅い賄いを食べていらっしゃいました。お食事中にお客でもないのに撮影は遠慮しましたが、店内のは造作は江州屋さんの奥とそっくり!
こちらは、元「住田屋」さん。
数年前に閉店してしまいましたが、おいしい「ラーメン」と「つけそば」を食べたものでした。
「つけそば」は今風の「つけめん」とは異なりました。
今もこのあたりでは、薄い塩味で豚肉と玉ねぎを煮込んで抽出したスープにつれてうどんを食べますが、それを中華麺で出して下さいました。
閉店は、ボクにはとてもショックでしたっけ…。
その住田屋さんに残る「料亭」の札。
この辺りが花街として機能した当時の名残です…。
江州屋(ごうしゅうや)
357-0032
埼玉県飯能市本町2-8
090-6958-7282
※週末に開けるそうですが、確実に訪れたい時は電話で確認して下さいとのことでした。
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Posted at
2019/10/22 16:08:08