
2週間前。
久し振りに川越スカラ座で「あなたの名前を呼べたなら」を見た時のことはご報告済ですが、その時にこの映画が掛かることを知り、楽しみにしていました。今日12月1日、10時30分の上映に行って来ました。
この映画は、ジャズ・ピアニストとして最も有名な一人、ビル・エヴァンスの人生の、光と影を綴ったノン・フィクション。既に故人ですので、ドキュメンタリーのカテゴリーには属さないように思います。
ジャズと言えば、アメリカのアフロ・アフリカン、平たく言えば黒人の音楽。勿論、ヨーロッパや日本にも多くのジャズメンとマニアが存在しますが、本国アメリカでは嘗て(そして水面下では今も)人種差別が半ば「制度」の如く存在しました。そんな時代に、白人の彼はジャズに魅せられ、ひたすら音楽を愛し、生涯美しき演奏を続けました。
※左からコルトレーン、アダリー、(マイルス)デイビス、エヴァンス
彼が一躍ジャズ界で脚光を浴びることとなったのが、マイルス・デイビス・クインテットへの参加でした。あの帝王マイルスが、何と若くてハンサム、何処か学者のような容貌の白人を、ピアニストとして採用したことです。マイルスを筆頭に、ジョン・コルトレーンやキャノンボール・アダリーなど、他の4人は全員黒人。そんなクインテットでツアーに出れば、逗留地では当然、黒人客を相手のバーに入ることになります。ビルが飲んでいると、心無い客が「お、白い小鳥がこんな店にいるぞ!」的な嫌味を浴びせられたとか。ところが、コルトレーンやポール・チェンバースが「彼はマイルスが認めたからここに居る」と庇ってくれたとか。ある意味「逆差別」ですが、ビルが凄いピアニストと、他の黒人ばかりのメンバーが認めていたからだと思います。
彼はマイルスのクインテットを脱退しますが、その半年後。
マイルス「親分」から電話が入り、レコーディングに呼び出されます。
帰宅し、探したら出て来ました。
おそらく、ジャズ史上最も有名なレコード、マイルスの「カインド・オブ・ブルー」。
この映画では、このレコードについても、さらっと触れています。
マイルス名義の作品、ビルはレコーディングに雇われたピアニストに過ぎませんが、ジャズの「帝王」マイルスと、理論派・理知派・耽美派たるビルとの「対話」と言うに相応しいものです。ビ・バップやハード・バップとは一線を引いた、「美」と「即興」の祭典!ボクも大好きな作品です。
ちなみに、英文のライナー・ノートは、マイルス名義の作品なのに、何とビルが執筆しています。しかも出出しが「日本には水墨画というものがあり…」。
マイルスは、肌の色に強烈なコンプレックスを持っていたそうです。
実際、同じ黒人のミュージシャンと映った写真を見ると、かなり濃く思います。ところが、音楽に関しては黒人も白人も全く関係なく、逸早くビルの才能を見抜いて起用したのですからさすがです。しかも、ライナーまで書かせました。如何に信頼していたかがわかります。
これは、「カインド・オブ・ブルーの真実」という書籍。
この作品には、実に多くの「謎」があります。
それを解き明かしていくストーリーです。
創作ではないので「事実は小説よりも奇なり」そのものです。
例によって、その内容は「ナイショ!」(笑)
閑話休題。
そんなビルですが、私生活は「メチャクチャ!」
酷いジャンキー(麻薬中毒)だったことは知っていましたが、そんな彼を支え続けた女性への裏切り…。そして、その死。精神的支柱だった兄と、その病気と死。盟友のベーシスト、スコット・ラファロの突然の死…。
ちっぽけで無名のボクにも、これまでの人生には、それなりの辛苦や悲しみがありました。
こんなに有名なピアニストでも、例外ではないと知りました。
デュオでレコーディングした、ヴォーカリストのトニー・ベネット。
ビルが亡くなる前の、最後の電話での会話。
こう、言われたそうです。
「『美』と『自分』だけを追求するのだ。
それ以外は、全て忘れろ」
…こんな凡人のボク。
でも最近、つくづく思います。
「他人の人生に勝る『宝石箱』はあらず」!
「製作費ウン十億円!」を謳う超大作映画とは全く異なり、観る者自身にその人生を再考させる映画です。ジャズにご興味がない方でも、苦痛や違和感なく観ることが出来ます。
なお、「映画」を観ての記事ですが、敢えて「ジャズ」のカテゴリーとしました。
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Posted at
2019/12/01 16:34:22