
昨日5月21日、土曜日。
朝から家の片付けを始め、土曜は半日だけ開いている市のクリーンセンターを2往復、ガラクタを持ち込みました。1階トイレ前、半間の収納を開けると、あるわ、あるわ…。鉄アレイやら、海外でも使える変圧式の湯沸かし、未開封のチャイナガウンや壁かけのソーラー時計…etc。いい加減、嫌になっておりますが、布団、親父が遺した大量の本、お袋が棚に「飾っていた」だけの食器類を除けば、ほぼ6割の処分が済みました。
という訳でクリーンセンターからの帰路、ランチを兼ねて至近の名所を訪ねました。
東京の西、西多摩郡瑞穂町にある「耕心館」。最寄り駅は八高線の箱根ヶ崎ですが、徒歩だと30分以上かかると思います。
こちらは嘗ての豪商、細渕家の屋敷。竣工は江戸末期から明治初期とされておりますが、どうも定かではない模様。現在は瑞穂町が買い取り、非営利の催事に使われています。キャプションにあるように、社会教育施設としてのスタンスで運営されています。
門を潜ります。
正面が母屋。イベントスペースやレストランがあります。
右側は事務所として使われていますが、嘗ては細渕家が製造した醤油の販売所だったとか。長野県須坂市の旧小田切家住宅にも、同様のものが存在したことを思い出しました。
玄関ホール。
剥きだしの無骨な梁と白い漆喰の対比が目に染みます。
正面の階段は、まるでフランスの宮殿のような意匠。江戸から明治の建築なのに、和洋折衷の不思議な空間です。
階段右奥は展示スペースで、展覧会などに使われます。この日は催しがなく、入ることは出来ませんでした。
嘗てはおそらく、上がり框だったのかも。大理石の段差を上がります。
シャンデリアが優しい光を放ちます。
ロココ調のカラフルなドレスを纏ったご婦人が、裾を持つ従者とともに降りて来そうな階段。ここで新郎新婦が記念写真を撮ると、一生ものになりそう…。
後ピンになってしまいましたが、手摺の先端。実に凝ったデザイン。製作はさぞ手が掛かったと思います。
右はレストラン。
こちらは後回しにし、先に2階を見学します。
2階から見下ろしたところ。
階段スペースの意匠は1階からここまで続きますが、
一転して「和」の空間が広がります。
天井は低く、三角屋根の構造。
嘗て細渕家はここで、養蚕を営んでいたのだとか。
窓際の正面は、所謂「バンドスタンド」、右端にはグランドピアノがあります。ここではコンサートや詩の朗読会が催されるのだとか。
大きな窓から庭が見えます。
その上には、こんなステンドグラスが。
細かなデザイン、ガラスの切削と嵌め込みに、とてつもない手間と時間が掛かったはず、と思いました。
窓際から階段の方向を振り返ったところ。
これはおそらく「大黒柱」。
1階の玄関スペースには見えなかったので、壁裏などに存在すると想像しました。
さて、1階へ降りレストランへ。
欧風カレーセット(1180円)に、食後のコーヒー(200円)をお願いしました。
食事が届くまで、見学しました。
庭を隔てる大ガラス窓の手前には、立派な鴨居。
嘗てここに障子があり、その向こうは廊下だった模様。
カーテンは、分厚く瀟洒なもの。まるで「緞帳」!
束ねる房も、実にゴージャス。
廊下の突き当りは「電話室」。
ガラスには特注で「電話七番」の文字。
当時、交換手に「7」を告げるだけで、こちらに掛かった時代…。携帯電話が消耗品となった現代とは、隔世の感があります。
電話機は昭和27年製ですが、寄贈とありますので、当時ここで使われていたものではなさそう。
ここにもステンドグラス。
電話室上の柱頭。洋風建築の味わい。
ガラスには樹木のようなデザインが施されています。
電話室扉の握り。
マイナス螺子が使われています。
廊下のカーテンレールは、太い金属パイプ製。あのカーテンはかなりの重量、こんなにしっかりとした真鍮の支えが必要と想像しました。
このレストラン空間には幾つもの鴨居が存在、和室として区切られていたものを改装、広い空間にした模様。昭和の末期にフランス料理店として開業したそうです。玄関周りや階段も、その頃に改装したと思われます。
各鴨居には、その金属製の飾りがあしらわれています。お店の方に何かをお訊きしましたが、わからないとの返答でした。
この鴨居だけは色合いが異なり、罅割れもありません。飾りもなし。
老朽化などのため、改装時にリプレイスした可能性があります。
個室がありました。
予約客などを通すのでしょうか。
個室裏には、離れの「書院」に繋がる廊下が。
靴を脱いで上がります。
突き当りには、風流な丸窓が。
書院の内部全景。
こうして見ると特段変わったことがなさそうですが、
これには驚かされました。
…これ、何と「障子」!
二枚に渡る木の細工、実に素晴らしい作品です。
こんなに手の込んだ障子、初めて見ました。
もう一つが「採光窓」!
八角形の開口部に、蜘蛛の巣状に切り嵌められた曇り硝子。
所謂ステンドグラスを、単色で作ったもののよう。
幾何学的なデザインは、和の雰囲気を壊さず、却って溶け込んでいます。
ここだけ切り取り、持ち帰りたくなりました。
さて、食事です。
カレー、サラダ、スープのセットで1180円。プラス200円でコーヒーもお願いしました。お味はごく普通。公共施設のレストランとしてはお高いとも言えますが、この建築物の維持管理には相当の経費がかかるのは明らか。文句は一つもありませんでした。
食後、外を見学しました。
庭から見たレストラン。
出桁造り的な様式。
1階の改装前の姿を見てみたかったナァ…。
小雨に、大きな花がしっとりの姿…。
土蔵がありました。
残念ながら、非公開でした。
酒造りに使われた釜とのこと。
細渕家とは、直接関係がないようです。
駐車場の隅には、煉瓦の煙突が残っています。
細渕家は戦後、煉瓦も製造していた時がありましたが、その名残とか。
日光街道沿いに、白い漆喰と下目張りの外壁。
のどかなこの地にあって、嘗ての栄華が偲ばれます。
細渕家が養蚕、醤油、煉瓦を生業としていたことは分かりましたが、その栄枯盛衰を時系列に紹介した展示や解説がないのが、唯一残念でした。
でも、ボクのように旧い建築に心惹かれる方には、お薦めの場所です。
耕心館
東京都西多摩郡瑞穂町大字駒形富士山317−1
042-568-1505
10:00〜21:00
休館は、第3月曜日(国民の祝日にあたるときは翌日休館)、年末年始
ブログ一覧 |
旧き良き建築 | 日記
Posted at
2022/05/22 09:26:46