
土曜日は左耳難聴の治療のため、埼玉県入間市から長野県須坂市まで往復しています。
昨日の帰路、軽井沢の追分宿にある、こちらのお店を訪れました。
この辺りには骨董屋や旧い雑貨屋インテリアのお店が5、6店あります。
全てを訪れてはいませんが、中には店主が高慢で、値段も所謂「ボッタクリ」に近い処もあります。
その店には二度と訪れていません。
こちらは、18号線の上りから追分宿に入る手前直ぐの左にあります。
何度か前を通り、18号線から見えるお店の佇まいから、SPレコードがあるかも…と思っていたのでした。
行き止まり式のさして広くない駐車場に車を入れて降りると、ご主人とおぼしき男性が、店先に置かれた陶器の狸を磨いていました。ボクにとっくに気付いているはずなのに、「いらっしゃいませ」もなく、全くの無言。
旧い木造平屋の店内には、ランプや陶器、人形、一見しただけでは使用目的がわからない道具類などが、ゴチャマンと置かれています。
こういうお店では、直球で来訪目的を告げるのが効率的です。
「すみません、昔のSPレコードはありますか?」
「うん、あっちの倉庫に一箱あるけど、大したモノはないと思うよ」
意外にも、ジェントルな反応。
ご主人に従い、奥左の倉庫に向かいました。
シャッター代わりのブルーシートを捲って入ると、奥の棚にSP用の箱がありました。
中には30枚ほど入っています。
外に出し地べたに置き、一枚ずつ確認しました。
浪曲や戦前の歌謡曲が大半。中にはオリンピツクの実況を収録した「前畑ガンバレ!」の5枚組も。残念ながら、ジャズやポピュラー等、ボク好みはなく収穫はゼロでした。
きちんと箱に納め、ご主人にお返ししました。
「折角出して戴きましたが、ボク好みがありませんでした」
「いいって。音楽ばかりは仕方がないよね」
イヤな顔を全く見せず、実にサバサバしています。
ふと足元を見ると、何やら大きな道具が。旧い電車の運転席にある、差し込み式のコントローラーのような形ですが、高さは約30センチ、横に伸びる棒状の部分は4、50センチほどもあります。土台部は木製ですが、メカ部分は見るからに重厚な鉄製。大時代的な道具は、現代の産品にはないオーラに似た美しさを放ちます。
「ご主人、これは何ですか?」
「ああ、これは今風に言えばウインチだよ。建物の位置を替える時に基礎から切り離し、こいつの柄に太い木の棒を差し込んで手前に引くと歯車が回り、歯が一つ回転するとノッチが噛んで停まる。棒を反対側に戻し、また手前に引くを繰り返し、少しずつワイヤーを巻き上げて持ち上げる仕掛けさ」
「へえー、初めて見ました。旧いメカには美しさが満ちていますね」
「わかるかい?こんな物、今では無用の長物だから持って帰るお客さんは居ないけれど、オレが気に入って置いているんだ」
それから暫く、店内の商品を眺めながら、あれやこれやと話し込んでしまいました。
入口左下を見ると、…何と、ボクの勘はまたしても当たりました。
フォノグラム製の蓄音機が。
「ちゃんと動くけれど、針がないんだ」
針なら沢山持っていますので、次回好みのレコードと針を持参で伺うことにしました。
「SPや蓄音機が好きなら、こいつはどうだい?」
見た途端に言いました。
「買います!!!!」
支払いを済ませ品物を受け取ると、ご主人が言いました。
「こっち側は主に旧い道具類を置いているけれど、向かいにはもうちょっと近代風なモノ、主に家具類を置いてあるよ。よかったら見て行きなよ」
全く気が付きませんでしたが、駐車場に向かう道を挟んだ反対側にもお店が。
ご主人に案内され、中に入ります。
「うわー、スゲー!」
いきなり出迎えてくれたのが、このライティングデスク。
どっしりとした風格に溢れています。
抽斗の取っ手がイイ!
写真を撮り忘れましたが、背後にはどっしりとした木製の両袖机が。更にその上には座机が。
「懐かしいですね。亡くなった親父は製紙会社のエンジニアで、こんな座机で烏口(からすぐち)を使い設計図を書いていましたよ」
「烏口とはねー。今じゃ見たこともない人が大半だし、大体その単語を知っている人が稀だよね」
こちらは八角の柱時計。
「ボクの両親は昭和35年に所帯を持ったので、我が家の時計は既に乾電池式でした。でも小学生時代、近所に三代が住む大きな米屋があり、其処の息子が同級生でした。一日に一度、脚立の上に乗りゼンマイを巻くのが彼の日課で、落ちるのが怖くてイヤだとこぼしていましたよ」
「オレもやらされたよ。当時はどこの家でも、ゼンマイ巻きは子供の仕事だったね。」
こっちは扇風機。
ウチにあったものとデザインが似ています。
青色が涼しげです。
乗っかっている木製の椅子は、幼稚園で使われていたものかも。
左下には石油ランプが見えます。
奥へ進むと、やっぱりこちらにも軽井沢式ストーブが。
「こいつは『売り物』じゃないよ(笑)」
個人的に気に入ったのが、この椅子。
「これ、いいですね!背もたれの左右の木枠は少し斜めになっているのに、中心部はほぼ垂直。実に凝ったデザインですネ!」
「おそらく、大正時代のものだと思う。当時の平均的な日本人の体格に合わせ、木枠の中に背中がスッポリ収まるように考えたものだと思うけれど、体格のいい人は痛かっただろうね。オレも、これは良い品物だと思うよ」
こちらは、懐かしい粉ミルクの缶。
「いやー、これは懐かしいですね!」
「お客さん、飲んでいたの、覚えているの?」
「それはムリですヨ!三歳下の妹に、お袋がこれを哺乳瓶に入れてお湯を注いで飲ませていたのですヨ!妹は今、55歳です」
「そうだよな、誰だってみんな、ちっちゃかったんだよな」
電気スタンドです。
店内で、ちょっと異彩を放っています。
赤と白のスイツチや蛍光灯のカバーのデザインが、実にアメリカ的です。
これが載せられている白い木箱はオーシャン・ウィスキーのもの。
木の浅い抽斗です。
何やら番号が沢山貼られています。
活版印刷機用の活字でも収められていたかのような雰囲気です。
その右下には「ベル」が。
船の舵のような形をしており、舵の握り部分に相当する位置に、ベルが取り付けられています。
廻すと「リンリン」鳴ります。
スコットランド製とのことです。
いやー、楽しいお店でした。
後から帰宅された奥様と、お二人で切り盛りされています。
あまりにも夢中になってしまい、写真を撮ることをつい忘れてしまいました。
特に、前半のSPレコード探しから蓄音機発見、ある物を買うまでは、1枚も撮影しておりません。
で、買い求めたものがこちらです。
そう、陶器製の「ニッパー」君、大小2体です。
ビクターのトレードマークとして有名な、蓄音機から流れる音を、不思議そうな表情で聴く犬。
この絵を描いた画家の愛犬ですが、元々は亡くなった彼の兄の犬。
生前に録音した兄の声を蓄音機で再生したところ、聞き入ってしまったシーンです。
SP愛好家には、これの蒐集をしている方も多く存在します。
ボクは5年ほど前、大井町のセコハンショップで2体発見したので、これで4つ目です。
大きい方の背中です。
縦にクラックが入っています。
小さい方です。
ちょっとピンボケですが、左足にクラックがあります。
お値段は「キズモノ」なので、一つ1000円でした。
総じて値段もリーズナブルで、とても良心的なお店です。
何よりも、ご主人と奥様のお人柄が最大の魅力。
この種のお店にはクセのある店主が珍しくありませんが、全くそんな心配は無用です。
旧いモノがお好きな方には、天国のような処です。
幾つか欲しい家具がありました。
老母をどう説得しようかと、思案中です(笑)
古雑貨アール
389-0115
長野県北佐久郡軽井沢町追分559
090-4132-5234
10時30分開店 木曜日定休