
昨日、川越スカラ座で、念願の映画を見て来ました。
去年発表された、インドとフランスの合作「あなたの名前を呼べたなら(原題:SIR)」です。
舞台はインドのムンバイ。
アメリカで学んだ建設会社の御曹司アシュヴィンが、独りで暮らす高級マンション。そこに貧しい村出身の若き未亡人ラトナがメイドとして住み込みます。
アシュヴィンは婚約を破棄され、傷心の身。ラトナはそんな彼を気遣い、懸命に身の回りの世話をします。
21世紀の現代にあっても、インドにはカーストに基づく階級が存在します。
独身男性の家に、未亡人とは言え若き女性が住み込みで働くとの設定に驚きましたが、厳格な階級が存在するインドでは、そう珍しいことではないのかも知れません。
そんな二人が、徐々に近づいてゆき、やがて別れが訪れます。
ところが…。
映画や推理小説の結末を暴くのは、最大のタブー。
これ以上詳細なことには触れませんが、幾つか感想をご紹介します。
監督はインド人女性でロヘナ・ゲラ。アメリカで教育を受けた方で、現代インドになお続く階級制を、欧米的かつ女性的な視点から問う作品です。アシュヴィンはマックのラップトップを携え、食事はナイフとフォーク。一方ラトナはキッチンの床に皿を置き、右手で食べます。
原題の「SIR」は、"Yes,sir."のsir。これ以上は「暴き」になってしまいますので書きませんが、これがこの作品の最大のポイントです。
最後の最後のラトナのひとこと…。
僅か1秒にも満たない彼女の言葉を聴くために、100分間観る作品です。
そして、インド映画に特有の「幕引き」。
人口が多く面積も広く、貧しい人々が多いインドでは、昔から映画は最大の娯楽。階級制もあり、人々は厳しい現実を逃れ、映画の世界へ入り込み堪能します。このため、最後はハッピーエンドが恒例。この作品にも、限りなくそれに近い「仕掛け」があります。ふたりのその先を観客が思い描けるカギが、ある場面に埋め込まれていました。
エンドロールが始まるのと同時に、涙が溢れ出ました。
余韻の大きさに、暫く席を立てませんでした。
他にも、鼻を啜る音が、あちこちから…。
終了後の売店。60間近のオッサンが目を真っ赤にし、震える声で「パンフレットを下さい」と呟くと、若い女性がにこやかに微笑み、何度も頷きながら手渡してくれました…。
「いやぁ、映画って、本当にいいものですね!」
…今は亡き映画評論家・水野晴郎さんの言葉が、即座に思い出されました。
「あなたの名前を呼べたなら(原題:SIR)」
2018年 インド・フランス合作
監督 ロヘナ・ゲラ
出演 ティロタマ・ショーム(ラトナ)
ヴィヴェーク・ゴーンバル(アシュヴィン)
2018カンヌ国際映画祭 批評家週間 GAN基金賞受賞
2018AFIフェスト 観客賞ノミネート
2018ブランシュヴァイク国際映画祭 最優秀作品賞受賞
2018カブールロマンティック映画祭 パノラマ部門 観客賞受賞
2018フィルム・バイ・ザ・シー映画祭 若手審査員賞部門 正式出品
2018ミルバレー映画祭 ワールドシネマ部門 観客賞受賞
2018フィルムズ・フロム・ザ・サウス映画祭 若手審査員部門 正式出品
2018サンパウロ国際映画祭 新人監督コンペ部門 正式出品
2018ワルシャワ国際映画祭 ディスカバリー部門 正式出品
2018ワールドシネマアムステルダム 観客賞受賞/最優秀作品賞ノミネート
2018ミンスク国際映画祭 新人監督コンペ部門 正式出品
2019ポーランド国際映画祭 観客賞 次点
Posted at 2019/11/17 10:51:36 | |
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