旧い野球ファンだったら、その昔「空白の一日」と言われる事件があった事をご存じかと思いますが……
1月11日は、ソフトバンク関係者にとって「混乱の一日」だったと思います。
元西武の山川穂高内野手のFA移籍に伴う人的補償を巡る騒動は、日刊スポーツの朝刊で ”和田毅投手” の名が報じられたものの、夕方になると一転 甲斐野央投手の西武移籍が発表されました。
元々、知人女性への暴行が報じられた山川選手の獲得は、チームの戦力強化を求めるソフトバンクファンからも否定的な意見が多く、FA宣言時の西武への義理を欠いたコメントや、ソフトバンク入団会見時の髭面での記者会見などもあり、「山川の犠牲になる選手が可哀想」という流れにさえなっていました。
そんな中、名前が出てきたのが、ソフトバンクの、いや ダイエー時代からのホークスの大功労者にして、チーム内外から慕われる人徳者である 和田毅投手だったから、ネット上では大混乱となりました。
まぁ、私はソフトバンク・ファンではないので、詳しい状況は分かりませんが、SNSなどではそこかしこで大炎上だったようですね。
いや、その気持ちは分かりますよ。
正直、
「ありえない」です。
もう、適切な例え話も思いつきませんが、強いて言うなら AKBの総選挙で1位になった娘に「明日からキミはももクロに移籍ね」って言う様なもの……って違うか。(汗)
和田投手は、2002年のドラフトで 当時の福岡ダイエーホークスに指名され、入団しました。
すると、一年目から14勝(5敗)を挙げ、新人王のタイトルを満票で獲得。
以後、メジャー挑戦を除き、国内ではホークス一筋という、チームの顔、レジェンドと言っていい選手です。
和田投手は1981年2月21日生まれで現在42歳、つまり来季は43歳でシーズンを迎えます。
和田は大学(早大)からのプロ入りですが、同学年には松坂がいた 所謂『松坂世代』の最後の現役選手。
普通なら、あと何年現役でいられるか分からない大ベテランであり、しかも推定年俸2億円なんていう選手をわざわざ獲得しになんていかないでしょう。
しかし、和田に関しては 2022年に 41歳にして自己最速となる149km/hを記録しましたし、2023年シーズンもローテーション入りし、有原(10勝)に次ぐ 8勝とチーム2位となる成績も上げており、充分戦力になっているのです。
さらに、和田の場合はチームに与える影響が大きく、若手へのアドバイスを惜しまないなど、人柄を慕う選手も多いです。
っていうか、長崎で行っている自主トレには他球団からも多くの選手(16人)が参加しているのです。
西武にとっては、和田が獲得できれば、和田一人の成績もさることながら、若い投手陣の見本になる和田が加われば、二倍三倍の相乗効果が期待できます。
プロテクトされていなければ獲りに行くでしょう!
さて、前述の通り、和田投手の名前が出てからというもの SNSなどは大混乱に陥りました。
ソフトバンクのフロントは、「和田は取りに来ないだろう」という自らの読みの甘さが原因とはいえ、「ファンからの非難の大合唱」に急遽方針を変更します。
人的補償は 和田毅投手 から 甲斐野央投手 に変わりました。
報道では、「西武が抑え投手に方針変更」した事になっていましたが……
ソフトバンクが和田を諦めてもらう代わりに、甲斐野を差し出したとしか思えないんですよね。
甲斐野投手は 2019年のドラフト1位で、最速160キロの剛腕投手です。
故障上がりとはいえまだ27歳と若く、2023年の防御率 2.53 を上回る成績も期待できます。
和田のプロテクト漏れもあり得ないが、戦力的には
甲斐野のプロテクト漏れの方があり得ない!
ホークスの顔である和田投手の流出が避けられたとはいえ、”あの”山川の代わりに甲斐野が持っていかれるという事に、ホークスファンは納得できませんよね。
その恨み節は、相手の西武に向けられたりしてますが……西武側は決められたルールに従って、プロテクトされていない和田を指名しただけです。
悪いのは「和田のプロテクトをしなかったソフトバンクのフロント」です。
そして、その悪役であるフロントとしてファンが名前を挙げているのが 王会長なのですが…
正直、今回の和田のプロテクト漏れは、王さんは絡んでないと思うんですよね。
ソフトバンクファンの主張は、1月5日の仕事始めの日に 山川問題のコメントを求められた際
「野球界で生きていく力を持っている人が、その世界で生きられないような世界を作っちゃいけないと思う。社会的な制裁も受けて本人もかなり反省していることですし、やはり挽回するチャンスを与えてやるべきだと思います」
とコメントした事に納得がいっていない様子なのですが…。
王会長は
”挽回するチャンス” と言っているだけで、大金を支払って契約する事を正当化したコメントではないと思います。
そもそも、王さんは球界でも1,2を争う人格者だと思いますし、そして優しい方です。
元福岡ダイエー・ホークスの藤井将雄投手をご存じでしょうか?
1999年、ホークス悲願の初優勝に貢献した中継ぎのエースで、その年のパリーグ最多ホールド賞を獲得した投手です。
しかし 同11月10日、藤井投手に肺がんが見つかります。
「半年もつかどうか…早くて余命3ヵ月」
藤井投手の家族は「野球が出来なくなると分かったら生きる希望を失う」と本人への告知はせず、当時の王監督にこう頼み込みました。
「もって半年、来シーズンはもう無理です。だからクビで構いません。でも残りの人生 生きる希望を失ってほしくないんです。嘘でいいので契約更改をして頂けないでしょうか? 形だけでいんです。お願いします」
これに対し、王監督は
「何も心配しなくていいですよ。契約更改は必ずします」
と返しました。
12月4日、藤井投手は正式に契約更新、なんと年俸は倍増でした。
11月に余命3ヵ月と言われた藤井投手は 5月18日、2軍ではありましたが 半年ぶりの実践登板を果たします。
末期がんを患っている投手が投げた球は最速139キロ。
それを見たスタッフは、最後に1軍で投げさせてあげようと、1軍昇格を指示するも、藤井投手は「いやまだ2軍で成績残していないから」と断ってしまいました。
2000年10月7日、ダイエーは見事2連覇。
王監督胴上げの時、そこには藤井の代わりに背番号15をつけたマスコットが写っていました。
しかし……
6日後、藤井選手は息を引き取りました。(享年31歳)
余命3ヵ月の選手を年俸倍増で契約するなんて、勝負師としてはあり得ないです。
しかし、それが王貞治という人なのです。
だから、女性問題を起こした山川にも、野球をする場だけは与えてあげようと思ったのだと思います。
そんな人が、球団の大功労者を見捨てるなんてあり得ないと思うのですよ。
人格者の王さんがバッシングされる……それだけでも異様な事です。
こんな状況を作ったソフトバンクのフロントには猛省を促したいです。