欧州フォードが商品構成の完全電動化へ舵を切りました。新たにケルンに電動化の開発拠点を立ち上げて、パセンジャーカーについては2023年に欧州市場向けの専用開発BEVを投入し、その後2026年までにはラインナップをPHEVとBEVのみとする。そして2030年には全ラインナップのBEV化を達成するとのステートメントが示されました(ちなみに商用車は2030年時点でPHEVとBEVでの構成とする)。特にイギリス市場でのシェア占有率が高い欧州フォードだけに、同国の2030年までに国内でのエンジン駆動車の新車販売をやめると表明した方針などが大きく影響したと考えられますが、つい先だって全車種のBEV化によるブランド再構築を表明したジャガーのように、小規模で顧客セグメントが明確なメーカーならいざ知らず、フォードのような規模と広範な顧客層を対象とするメーカーが完全電動車化の方針を明確に打ち出したことは、欧州市場における電動車化の急速なペースを実感させます。
あと10年足らずで、欧州フォードが販売する個人向け乗用車は全車が完全にEVとなり、エンジンを使って動く車種は1台もなくなる-思わず、いろんなことを考えたくなります。これまで日本において欧州フォード車を多く愛用してきた私が、もしこれからも同じようにそうし続けるとしたら、まずは今のフィエスタにもうしばらくは乗り続けて、その次に乗り替える車種は何になるかわかりませんが、そこまではまだ日本国内で流通しているエンジン駆動車で事足りそうです。問題はそのあと、さらに引き続き欧州フォード車を選ぶとしたら・・おそらくその頃の、国内での欧州フォード中古車の流通量は相当限られてくる一方で、BEVの新車が日本へ入って来るようなこともほぼ考えにくそうです。オペルがPSAの一員となったのを機に日本市場へカムバックするように、やがてフォードも戻ってくるかも?今後の情勢次第ではそれもなくはないとはいえ、ほとんど現実的ではないでしょう。
こうなると、ちょうど欧州フォードが完全電動化を果たした頃、私は還暦は過ぎていても免許返納まではまだもうしばらくあるタイミングだから、変わらずステアリングは握っているはずですが、私自身が日本でなおも欧州フォード車を乗っていられるのか?まったく想像がつきませんね。
私は車のことは好きであっても、メカニズムへの執着はなく、ましてやモリゾウ社長のように「ガソリン臭くてうるさい車が好き」といった性向もないから、動力源がエンジンだろうとモーターだろうと、自分が楽しくて、余計な気を使わず、信頼の置ける走りができるならそれで十分です。その意味ではEVへのアレルギーもありませんし、普段の車の使い方や使用環境も仮にBEVになったとしても大きな支障がなさそうなものです。だからもし仮に、欧州フォードのEVが日本でも問題なく使える商品内容であるなら、喜んで乗りたいです。ただし、いまのマスタング マックEのような内容だとしたらあまり乗りたくないです。あと2年後に登場するという欧州向け専用BEVに興味が湧きますが、この開発スケジュール感からすると、完全なゼロベースの新設計車ではなく、現行フィエスタやピューマあたりがベースか、もしくはアライアンス先のVWとEVプラットフォームを共用するものと想像しています。
その上で、ここからは私自身のEVに関する私見です。いま日本で進んでいる車の電動化に向けたロードマップは、明らかに性急で、社会に大きな構造の変革をもたらす動きとして適正さを欠くものだと考えています。
東京都が国の方針をさらに前倒すかたちで、2030年までに内燃機関のみの新車販売を禁じるとしたのは、東京都というインフラ面でも風土面でも生活文化面でも「大都市」としての特性を十分に備えたエリアだからこそぶち上げられる(それにしたって、島しょ部や奥多摩エリアはどうなのよ?とは思いますが)部分があり、それと同じような感覚で全国への電動化の波及を目論むことが、果たして適切でしょうか?
例えば、日本固有のモビリティとして社会に定着している軽自動車、それを一律の尺度で電動化の対象とした場合、購入価格や維持管理のコストと手間が大幅に増して困る人が増えるのではないでしょうか。
また、電源確保の面で他の国とは事情が大きく異なる日本ゆえの不安があります。つい先だっても、寒気の影響を受けて日本海沿岸地域での電力供給が綱渡りになったばかりですし、夏だって例年、特に甲子園大会が開かれる時期の電力供給事情などは際どいことになっています。発電用の原資の多くを海外に依存し、しかし安定した電気の供給が可能な新電源の確保が国内に覚束ない中で、時限を切ってまで、新たな電力消費量の急増をもたらす施策を導入することが賢明なのでしょうか。
やはり先だっての北陸エリアにおける豪雪での交通障害発生は、EVがあのような状況下に直面した際のキャパシティについて多くの人に不安を抱かせたはずです。
その一方で、充電や水素充填に必要なインフラの整備に関しては、これは律儀な日本のことだから、今後着実に進められて一定の利便性は確保されるのでしょう。同様に、充電池の性能やユーザビリティの向上も国際的に強力に推し進められるはずです。
そうであるにしても、純粋な電動車たるBEVは、特に個人ユースを主目的とするパセンジャーカーとしては、日本ではまだ適応範囲は限られていて、広い国土のどこででもあまねく受け入れられる対象ではないように思っています。
私は、いまのところのパセンジャー向けBEVは、『必ずしも車がなくても生存していける立場の人』が進んで選べばよい車だと考えます。つまり、自動車以外に移動の手段が確保でき、自動車を使用することが自己の生存の上で絶対不可欠ではない(生業として自動車を用いるといった境遇にない)、その上でなお自動車を欲するような人は、BEVの特性を理解して積極的に受け入れればよいし、そうした人をEV選択へと仕向けるような施策も有効です。ちなみに、一部で言われるような、BEVは都市部在住の所得に余裕がある層のものといった理解はしたくありません。それはEVに誤ったレッテルを貼り、その有用性や可能性を不当に狭めることになります。
一方で、『車がないと生存を脅かされる立場の人』には、BEV以外の選択肢があって然るべきです。収入を得るための手段として自動車を使う人や、移動が不便な地域に居住し自家用車がなければ日常生活に支障を来す人など、自らが生物的にも文化的にも適正に生存していく上で車が不可欠な立場に対しては、当面は内燃機関車であっても選べるようにしておくことが、生存権を保証することにもなるのではないでしょうか。
車の電動化は、自然環境の保全という大目的に応える一方で、国土や風土の特性を鑑み、かつ生活慣習や産業構造、文化風習といった「社会環境」との整合を取りながら着実に進めることが必須だと思います。日本も欧米に倣って・・というべき性質のものではありません。
(今回はトップ画像をネットから借用しました。2000年に発表されたEVのコンセプトモデルであったe-KAです)
Posted at 2021/02/21 09:31:50 | |
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