私をスキーに連れてって ＃２

　
「あぁぁぁぁ…」

「危ねぇなぁ！」

「何、あいつ…」

「ちょっとぉ、大丈夫？」

「わざわざ転んで、損したぁ。
　　　　　普通、助け起こすくらいのことするわよねぇ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　何あいつシカトしちゃってさぁ」

「滑りに来たの？転びに来たの？」

「聞くだけ野暮。そもそもイブに女二人なんて泥沼よ。
　　　　　　　　　　　優ちゃんも急がないと、良いの取られちゃう」


今日は朝からピーカン。
優は昨日、同僚の恭世とスキーバスで志賀高原へ。
彼氏なんていらないとは思わないが、スキー場でそんな出会いがあるとも思えない。
急がないと、と言われても・・・


「良いのねぇ…」


ゲレンデを見渡しても・・・と思った瞬間、一人のスキーヤーの姿が、目の前のバーンに飛び込んできた。
ジャンプしてバランスを崩しても転ばない。それどころかスピードを上げて優の目の前を過ぎていく。


「　バーン！　」


彼は前のめりに転んだ。指で作ったピストルで転ぶはずはない。
まして彼くらい上手なら、こんなところで転ぶなんてことはありえない。


「なんだよ、お前。朝からどこ行ってたんだよ」

「とりあえず」


優の視線に気づいて、照れくさそうにする彼のもとに仲間が集まってくる。


「ステキー」

「どうした、ビンディング甘いのか？」


返事のない矢野の板を見て、泉が矢野に聞く。


「サロットって、何これ、板も出したの？」

「靴のメーカーだろ？え？」

「おい」


目の前を滑る彼女のターンを目で追う矢野には泉の声は聞こえていない。


「おい！」


泉が気がついた。


「よく見ろよ」

「何だこれ？」

「ウチのスポーツ部からモニター頼まれたんだ。
　　　　　　　　　　統一カラーコーディネート。世界初ってことだな」

「世界初は良いけど、売れそうもねぇな」

「はは、そうだよな。
　　　　フルセットもまとめて揃えなきゃ意味ないなら、
　　　　　　　初心者か、相当なミーハーにしか売れないもんな。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ま、先は見えてんな」

「でも、板がロシニョールで、ウェアがフェニックス。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　シブイはシブいな」

「うーん、素敵。そんなのあったらいいなぁ、って思ってたんだ」


ゆり江も話に加わるが、矢野はこのゆり江が、どうも苦手だ。


「矢野さんって、こっちの業界の方なんですか？」

「そうそう、だから仲良～くしておけば、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　来シーズンの板、履けるわけよ」

「おー、ラッキー！」


泉は都合の良いように話を作っている。


「こっちの業界ったって、
　　　　　　　面白いから、首突っ込んでるだけで、
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ホントは軽金属部っていう…」


泉が首を絞めるように、矢野の言葉を防いだ。


「うっ、うぅっ」