私をスキーに連れてって ＃９

　
「馬鹿やろう、だから検算しろって言っただろうが」


　矢野は申し訳なさそうな顔をして、課長の前で小さくなっていた。


「またスキーに行っただろぅ、この暮れのクソ忙しい時に。
　　　　　　　　　　　おかげで私は常務に呼び出されているんだよ」


　課長はタバコをくわえたが、手元にはライターも見当たらない。


「どうしてくれるんだぁ？」

「すいません」


　矢野が小さく頭を下げたとき、後ろから声がした。


「矢野ちゃん、お世話になったねぇ」

「はい？」

「サロットの発表会の企画だよ」


　課長が所崎を見上げる。


「しかし、たいしたもんだよ。
　　　　　　軽金属部の仕事ちゃんとこなした上で、
　　　　　　　　　　スポーツ部にまで、力貸してくれるんだからなぁ」


　課長は、所崎の言った事は本当か？という目を矢野に向けた。


「だけど、スポーツ部にとっちゃ、いい迷惑なんだよ。
　サロットなんて時代遅れだろ？田山さんさえこだわらなければさぁ、
　　あんなものは切っちゃった方が業績上がるんだから。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　発表会か…あ～あ～、プッ！」


　所崎が立ち去るのを追うように、課長が矢野の前に立ち上がった。


「すいません」

「まったく…。来い！」


　矢野は先を歩く課長を追って、歩きはじめた。


「矢野さん、電話。３番」


　矢野は課長に頭を下げ、受話器を取った。


「もしもし、矢野ですが」

「女だよ女」


　声は泉だ。きっとまたろくでもない事だろう。


「急ぐから切るぞ」

「待てよ、今夜７時、ゼファー・イン。女紹介するよ」

「そんな気分じゃないよ」

「　会ってから言えよ、聖心だぞ　」

「　聖心が俺に惚れるか？
　　　　もういいよ、もう決めた。
　　　　　　俺もう一生独身で通すわ、じゃあな　」


　怒ったように受話器を置くと、待っていた課長に知らん顔で矢野は歩きはじめた。


「そうとう、応えてんなぁ」


　泉は外科手術中だった。