アクセラに続き、「ダイハツ ミライース」にも試乗してきました。
背景
軽自動車が、乗っていると恥ずかしいと言われた時代ははるか彼方です。いわゆる「ボンヴァン(ボンネットバンの略)」が物品税対策で売れていた頃だと思います。軽自動車は、公共交通機関がない地域の女性が、結婚までの間や子供が手を離れて働き始める時期の車と言われていました。
アルト、ミラ、レックス、ミニカがその主役でした。ホンダがトゥデイで軽自動車市場に復活する頃には、各社とも「かわいらしい」女性仕様が続々登場しました。
一方で、高出力競争が勃発、最高出力が64馬力に規制されると、セルボモードなどの高級仕様が出てきました。そうこうするうちにバブル景気が終了し、「清貧の時代」になりました。たまたま市場のニーズと合ったとしか思えない「ワゴンR」が新しい(?)コンセプトで登場、ここで軽自動車の時代が、「コンパクトセダン」としての軽自動車から、「中は広々、荷物も積める」、貨物兼用車の時代が始まりました。
そして時代は、「低CO2排出」の時代になり、軽乗用車と貨物兼用車の折衷ではありますが、燃費の良さと乗用車としての実用性をバランスした軽乗用車、「ミライース」が登場しました。
エンジン
確か旧型ムーヴの新発売時に登場したKFエンジンを搭載しています。エンジン形式は同じながら、不要部分の性能削減などを施したエンジンとされています。何と、昨年登場したムーヴからも変更されているそうです。具体的には、エンジンオイルポンプ小型化、タイミングチェーン細幅化(?)などがその内容のようです。
ムーヴの時には、「出足が鈍く、吹け上がりももっさり。CVT制御と相まってぎりぎりの走り」という意味のことを書きましたが、この車ではびっくりするくらい出足が良くなっています。エンジン自体の絶対パワーは小さいのですが、軽やかに吹け上がります。いかにもフリクションが小さい印象です。
1G-GZEエンジンとは大違いです。
実際に発車する際は、アクセルペダルの操作に気を付けないと急発進をするほどです。
スズキの軽自動車のように二段式CVTを採用していないのに、低速側の変速比が低い印象です。スロットル開度も、加速時はポンピングロスを減らすために大きく開き、定速走行に素早く移行させる印象です。
再加速時にはアクセルレスポンスが鈍るようで、ちょっとやそっとアクセルペダルを踏み増しても、ほとんど加速しません。
ダイハツでも燃費チャレンジのようなキャンペーンを行っているため、あまりエンジン回転を上げませんでした。エンジンパワーは52馬力で、現代の軽自動車エンジンとしてはふつうですが、軽い車重には余裕すら感じます。
エンジンの騒音、振動は、
ムーヴと比べるとなぜか大きく感じます。遮音・吸音材だけでなく、制振材も省略されている印象です。ムーヴでは、「コンパクトカーも脅かす高級な仕上がり」という意味のことを書きましたが、この車の印象は、並みかそれ以下と言えます。あくまでも、軽自動車らしく乗る車とのことでしょう。
アイドルストップ機能もついており、アイドルストップから始動までの印象は
ムーヴと同じですが、アイドルストップから発車までとなると、軽い走り出しのこの車は、より俊敏にエンジンがかかっている印象を抱きます。
CVT
変速スケジュールは、まさしくトヨタと同じ考えで作られています。発車時は低い変速比で発車し、加速度が鈍る(=アクセル開度と車速が釣り合う)と、あれよあれよという間に高い変速比に移行し、加速が打ち切られます。その後は、アクセルペダルを踏み増しても変速比を低くせず、なるべく高い変速比のまま走らせようとします。
再加速時の変速レスポンスはあまりよくなく、アクセルペダルを大きく踏んでも素早く低い変速比に移行できず、一呼吸必要な印象です。
ムーヴではこの印象が強く現れ、街中を走っているとなんとも余裕がない走行となってしまいました。
しかしこの車は、軽い車重が上記の点を補い、高い変速比のままでも結構活発に加速します。エコモードスイッチはついていませんが、もう少しレスポンスを絞っても構わないとすら思えます。燃費の点で、レスポンスを鈍らせると燃費が悪化する場合もあるでしょうが、加速性能の点で不満はありません。
サスペンション
ムーヴの場合は、
マーチや
ヴィッツを脅かすほどの乗り心地と書きましたが、この車の乗り心地はよくありません。どうもタイヤの当たりが固いような気がします。ショックアブソーバーも、あまり減衰力を発揮していないようにも感じます。
デミオのスカイアクティブ仕様にも通じる乗り心地です。しかも、突起を乗り越えると固い突き上げを感じます。この乗り心地でもロールはごく普通にするのですから、やはりサスペンションのチューニングが今一歩、と考えられます。
軽い車の乗り心地チューニングは難しいのですが、この乗り心地では長距離の移動は疲れます。なんとなくタイヤがバタバタと上下し、車体に上下動を伝える印象です。
ステアリング
現行ムーヴ登場時に、フロントサスペンションメンバーが大型化されました。この車も同じサスペンションメンバーを採用していますので、コーナーリング時の踏ん張りは良く感じられます。
しかし、主なユーザーを女性としているため、ステアリング操舵力が驚くほど軽いです。どのくらい軽いかというと、指一本でも回せるほどの物です。路面からの反力もほとんど伝わらず、力が弱い方でも疲れないのでしょうが、タイヤのグリップ力を感じられないため、どうにも落ち着きません。直進時のステアリングの「座り」もあまり良いとは感じられず、なんとなく不安な感じがします。
しかし、
スイフトのようにパワーステアリングの介助力が常に変化している印象はなく、一定して軽いこと、
ゴルフと違って操舵した角度の感じはやや伝わるため、操舵時に不安を感じることはありません。
ブレーキ
基本的な印象は
ムーヴや
パッソと同じですが、車重が軽いため、
パッソはもちろん、
ムーヴよりもずっと良くなっています。しかし、それはあくまでも「車重が軽いため、必要な制動力を得るためにブレーキを踏む量が小さいので、スポンジーに感じる割合が少ない」だけの話で、スポンジーであることに変わりはありません。この点も、車重の軽さが欠点を補っています。
ボデー
視界は良好で、運転姿勢も乗用車らしいです。頭上空間も余裕がありますが、もう少し低くても構わないような気がします。しかし、ムーヴからの代替を考えると、いきなり低車高の車は企画できないでしょう。
コーナーリング時は、やや頭上の重さを感じます。
メーターは、「らくらくフォン」を思わせるシンプルな表示です。タコメーターは欲しいなあ。燃費が良い走行モードではメーターの照明が緑になり、視点を景色からメーターに移さなくても、現在の走り方の良しあしがわかります。
内装はほぼ若い男性を無視した仕様となっています。しかし、何とかカスタムのけばけばしい内装とは異なった、シンプルな印象です。すっきりとも感じますし、ちょっとさびしいとも感じます。
視界は良好で、見晴らしが良いです。後席の広さも十分で、100km位なら快適に移動できそうです。
まとめ
ミライースはミラーイースであり、従来のミラ、ミラカスタムも併売されています。が、この低CO2の雰囲気が強い世の中で、堂々とお天道様の下を走れる車と言えます。この車を選ぶ人は、そのあたりの時代感覚を強く感じられる方なのかもしれません。
また、値段も結構安く、売れ筋グレードにナビゲーション以外の必要なオプションをつけると、108万円で乗り出せるとのことなので、なかなか買い得感が高いのも手伝っていると思います。なにより、車重が軽いもので730kgと、近年にない軽い車に仕上がっています。この軽さが乗り心地以外の車の印象を良くし、燃費が良いのに走っていて不愉快にならない、というのも良いです。
そうそう、この私がいつもの市内試乗コースを1周走った際の、燃費計上の平均燃費は、21.2km/リットル でした。近所をうろうろ、時折ちょっと我慢しながら遠距離ドライブという使い方がぴったりです。
ただ、道具としては非常に良いと思うこの車、もうちょっと色気が欲しいように感じます。「無印良品」で腕時計を売っているかどうかわかりませんが、仮ににそこで腕時計を買ったとして、「所有欲」を満たせるかどうか???買って愛車として長期間満足できるかどうか、という点で少々考えさせられました。
しかし、現在考えられるうえで、最上の燃費を記録しているエンジン車です。機能美という点で、絶賛したいと思います。
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試乗 | クルマ
Posted at
2011/11/09 22:31:00