少し前に、現行
ワゴンRの自然吸気エンジン搭載車に乗車しました。ワゴンRの大まかな姿は理解できたものの、フラッグシップモデルであるスティングレイのターボエンジン車にも乗ってみたくなったこと、同日にVW UP!に試乗し、対局的な存在である国産軽乗用車のハイパワーエンジン車の実像が気になったため、その足で試乗に行きました。
軽乗用車背高ワゴンのターボエンジン車について
軽自動車は、法的に定義が決められています。排気量や車体サイズなどです。このため、大昔からハイパワー競争が起こりやすく、過去何度も同じことがありました。
第一次石油ショック、排ガス規制前には、ツインキャブを搭載するなどし、当時の排気量の上限である360ccながら、36馬力も発生していました。
石油ショックからの省エネ志向や、排ガス規制を2ストロークエンジンで乗り切ることが難しいことから、急速に流行が廃れ、「軽自動車は登録車(普通車)を買えない人が買う車」というイメージになってしまいました。
1979年からターボエンジンが解禁され、軽自動車にも徐々に過給器付きエンジンが広まっていきました。当初は「クーラーを付けても坂道を登れる仕様」位にしか考えられていませんでした。5500ccエンジン第二期辺りで、「アルトワークス」「ミラTR-XX」「レックススーパーチャージャー」辺りで「軽カーターボ」が注目され始め、各車次のモデルで、本格的なスポーツ志向になっていきました。一番最後のミニカでは、「DOHC5バルブターボエンジン」が搭載され、ハイパワーウォーズの頂点を極め(?)ました。
その後、1994年にスズキがワゴンRを発売しました。前回のブログで大まかな歴史は書きましたが、「荷物を搭載しても十分に走るためのターボ」として、流行が始まってからターボエンジンが搭載されました。やがてダイハツ ムーヴとの戦いが始まるとK6A DOHCターボエンジンが搭載され、以後、背高ワゴンにもパワーウォーズが勃発しました。
なお、スバルはプレオにDOHCターボエンジンを搭載していましたが、みなさんもご存知のように現在では自社開発を終了しています。三菱もトッポBJを販売していますが、現在のところワゴンRとムーヴの戦いからは外れています。
エンジン
一見すると旧型との違いがわからないといえる本モデルですが、今回から「R06A」エンジンに変更されました。前任のK6Aエンジンは、1990年代の設計した。現行の普通車のエンジンは、2000年代初頭に発表されたエンジンですら、既に引退が始まっていたりします。それだけエンジンに対する解析が進んだこと、燃費規制がさらに強化されたことなどから、さらに無駄をそぎ落とす傾向にあるからと思われます。
スティングレイシリーズでは、ターボエンジン車と自然吸気エンジン車がありますが、今回はターボエンジン車に乗ってみました。軽自動車のターボエンジン仕様は、最近では
N ONEに乗っています。N ONEは「ジェントルで余裕あふれる走り」でしたが、こちらのエンジンはまさに「ベビーギャング」といった吹け上がりを見せます。
後述する副変速機付きCVTの効果もありますが、発進時に若干鈍く感じるところがあるのみで、過給が始まると強烈な加速が始まります。発進時も、副変速機の効果によるローギヤ化により、ごくわずかの鈍さを感じるだけです。おそらく、人によっては感じないかもしれません。
過給が始まると、恐ろしい勢いで加速が始まります。エンジンの最高出力は64馬力、最大トルクは9.7kgf・mを発揮します。トルク特性などは示されておりませんでしたが、N ONEと比較すると本格的に過給圧が高まる回転域は若干高く、トルクも回転数が上がるほど(といっても限度はありますが)に高まっていく特性ではないか、と考えられます。
いくら荷物をたくさん詰める車とは言え、ここまで出力が高いと持て余し気味になってしまいます。もともとは「余裕のためのターボ」だったのが、若者向けスポーツモデルがアルトからKeiに、そしてワゴンRに移ってきているからだと思うのですが、これまた後述する、「着座位置」や「ボデー形状」から出られる競技もなく、やや使い道に困るかもしれません。しかし、「ハイパワー=競技」というのもちょっと偏った思考ですね。。。
そんなびっくりするほどの吹け上がりを見せるエンジンですので、市街地走行ではフルスロットルにはできませんでした。
アイドルストップ機能について
いま普及期にあるアイドルストップを、ワゴンRではターボエンジン車にも搭載しました。詳しい仕様についてはわかりませんでしたが、スターターモーターはタンデム方式かと思われます。普通のスターターモーターですと、ピニオン飛び込みと作動開始が一工程でしか行えないことから、原則中からの再始動は不可能です。
この車では、時速12km時でもアイドルストップが始まります。ブレーキペダルから足を離すとすぐさま始動されますが、要する時間は0.35秒程度のようでした。普通スターターモーターの0.4秒とは、明らかに時間が違います。
減速中にエンジンを止めるということは、軽いブレーキペダル操作量でもエンジンが止まり、止まり続けることを意味します。そのまま軽いブレーキ操作量でもエンジンは止まり続けますが、ほんの少しブレーキペダルを戻すだけで、すぐにエンジンがかかります。しかし困ったことに、完全にペダルを緩める前にもエンジンがかかってしまいます。すると、副変速機の効果によって「車輪トルク」が強いため、発車しようとしてしまいます。気をつけていないと、渋滞路などでは前車に衝突してしまうかもしれません。
このアイドルストップ・エンジン始動機能は、「エネチャージ」によって実現されています。減速時に、車の運動エネルギーを電気エネルギーへと変換、リチウムイオンバッテリーに充電、発車時などはその電気によってエンジンを始動します。気をつけて減速すると、「ちょっとエンジンブレーキが強いかな?」と感じることがあります。
このシンプルな機構で十分なアイドルストップを実現しているのですから、ハイブリッド車が普及するまでの間、この方式によるアイドルストップ車が増えるのではないか、と考えられます。
トランスミッション
スズキお得意の、副変速機付きCVTが搭載されています。副変速機により、発車時は低い変速比にして素早い発車が可能となり、定速領域では高い変速比にして、低いエンジン回転による静けさと低燃費を実現しています。しかも、それぞれの変速比でCVTとしての変速も可能です。
CVTは、その名前から「幅広い領域で自由な変速比を実現できる」と思われがちですが、最も低い変速人高い変速比の幅が狭く」、多くの車では低い変速比側を諦めています。
スズキは、CVTと直列に二段式の変速機を設け、ローギヤとハイギヤを自動で選択出来るようにしています。このため、発車時は低い変速比で発車、定速域ではハイギヤとしています。この効果はどのエンジンと組み合わせても如実で、特に自然吸気エンジン車では他社の同程度の車と比較しても、走りが活発になっています。
ターボエンジンと組み合わされた仕様には初めて乗ったのですが、ターボエンジン特有の無過給領域の鈍さを、ほとんど感じない程度にまで軽減しています。このCVTを採用するだけで、他車の性能を大きく凌駕します。街中走行などでは特に効果が高く、排気量のハンデを全く感じない俊敏な走りが可能です。
ブレーキ
バキュームサーボを組み合わせる過給器付きエンジンの軽自動車は、どうしてもサーボの効き具合が悪くなるため、ブレーキペダルがやや硬くなる上に、ブレーキ自体の効きも悪化しがちです。
この車では、やはりややスポンジーなペダルフィーリングが気になりましたが、それでもダイハツのものと比べるとはるかにまともです。しかし、同日試乗したUP!と比べると、ペダル踏み込み量と制動力の高まりの関係、ペダル操作感のしっかりさなどでは、「ああ、やはり輸入車は優れているな」と感じられました。
この原因は、おそらくマスターシリンダーの設定によるものでしょうが、国産車のブレーキは「スイッチのように操作して停車するためだけのブレーキ」になってしまっています。ブレーキパッドを変えることである程度対処できるとは考えられますが、「気になって車をおすすめするのに戸惑うほど」ではありません。しかし、スポーツモデルを名乗り、ハイパワーエンジンを搭載し、車体も重いことから、ブレーキの強化を望みます。
ステアリング
お馴染みの電動パワーステアリングを搭載しています。操作感は軽く仕上がっています。もう少し路面の状態を伝えて欲しいと思いますが、スイフトで感じたような違和感はありません。
この車は車高や地上高、着座位置が高く、急な操舵では横転も考えられる(?)ため、コーナーではやや恐怖を感じます。もちろんメーカーでは十分な試験をし、横滑り防止装置も協調するでしょうから普通の運転では横転はしないでしょう。しかし、もう少しステアリングを重く設定し、急な操舵を控えさせるような設定でも良いと思います。
サスペンション
自然吸気仕様で感じた、サスペンションが突起に乗り上げると「ドコドコ」と車体全体がたわむような振動は、この車ではかなり軽減されていました。となると、自然吸気エンジン仕様車で感じた振動の原因は、車体というよりはサスペンションやショックアブソーバーにあったのではないか、と考えられます。
サスペンション自体はかなり硬く、少しの突起でもかなり突き上げられます。ショックアブソーバーよりもスプリングが勝ったような印象で、ストロークそのものもかなり少なくされているようです。横転を防ぐ意味もあったのでしょうが、乗り心地はお世辞にも良いとは言えません。突起の手前では運転しながらも構えてしまうほどです。
コーナーリング時には、外輪のサスペンションが突っ張る印象で、横転に対する対処は十分です。しかし、なんとなくつま先立ちでコーナーリングをしている印象で、安定感は今ひとつです。しかし、他のフロントスタビライザーを省略しているモデルと比較すると、はるかに安心です。これを解消するためにはボデー形状を変えるしかありません。ワゴンRの難しい点です。
4人が十分に乗れる車ですが、後席に乗ってロングドライブというのはちょっとゴメンです。かつてのスターレットなどの、「ホットハッチ」を思わせる設定です。この点からも、N ONEなどとは対象としている客層が全く違うのでしょう。
ボデー
スズキはこれまで高張力鋼板をあまり採用してきませんでしたが、最近は積極的に展開しています。このモデルでも採用部分が増大し、剛性はそのままに車重を減らしています。軽快な走りは、車重軽減の結果とも言えます。

内装は、このスティングレイグレードでは「ピアノ調ブラック」「黒銀の組み合わせによる、シルバーアクセサリー感」が強められています。今の女性(30-40歳代)は、こういう内装が好きなんだそうですね。女性女性したノーマル仕様のような内装は、むしろ嫌われるそうです。スバルのR1,R2は、そのあたりの調査が甘く、女性から総スカンを喰らいました。

この車は、いわゆるスポーティーな内装になっています。ちょっと黒すぎやしないか、と思うのですが、これも流行なのでしょうね。
地上高、着座位置とも充分高く、乗用車として使いやすいものです。その一方で、コーナーリングでは不安感を感じてしまいます。荷物や人をたくさん載せて余裕で走れるけど、カーブでは怖い、そんな印象です。ボデー剛性は前述のとおり、前回私が感じた「たわみ」は誤りで、十分あると言えます。
四角いボデーと広いガラス面積から、視界は十分です。斜め後方の視界も良好です。安全運転には視界、良い傾向です。
ところで、鉄道関係の書物で読んだのですが、運転士の前の窓が大きいと、走行中に動く部分の面積が広すぎ、疲労に影響するのだそうです。目は無意識に動く部分を追うのですから、最もな説です。
この車の視界は非常に良く、走行中に動いて見える部分が多いことから、上記のことが思い出されました。
まとめ
自動車評論的な表現をすると、「日本の法規制が生み出したガラパゴス車」とでもなるのでしょう。おっと、この「紋切り表現」も、そろそろ流行遅れですかね。
しかし、地域ごとに違った運転状況に合わせた進化形態とも言えます。坂道と渋滞が多く、地域によっては一人車一台となることから、ハイパワーで時には多くの人と荷物を積めて、というのは、なかなか便利な車と思います。
内装がなかなか若々しく、しかもセンス良くまとまっているのは良いです。ダテにCMにファッションモデルを使っていません。そのモデルさん達の年代層もやや高く、子育て中の「まだ老けたくない」女性の心を掴んでいます。車自体もそれに応える仕上がりになっています。
一方で、この車のネガティブな点は、乗り心地とコーナーでの安定感にあると思えます。特にN ONEと比べると随分と悪く感じます。いくら室内の容積が広くて使いやすくても、車は車、走行性能をおろそかにすることはできません。その点にお金をかけるのはホンダで、省略するのがスズキ、そんなことを思いました。
従って、この車が気になっている人は、必ず他車(ムーヴ)には試乗し、若干背が低くて対象から外していても、N ONEには乗ってみてください。
この車は、上記走行性能の件を除くと、「ちょっと元気な女子、男子」、「まだ未婚に見られたい女性」におすすめです。
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ホンダ N-BOX
ホンダ N-ONE
スズキ ワゴンR(旧型、試乗)
スズキ ワゴンR(旧型、乗車)
スズキ ワゴンR(FX、現行)
VW UP!