
この日はインテグラに続き、インプレッサにも乗りました。FWD軽量スポーティーカーと4WD重量級?スポーツと、全く異なる性格の車を比較することにしました。
インプレッサの歴史
インプレッサの歴史は、その他の本に詳しいところですので、私が説明するまでもありません。中型セダンのレガシィ(初代)がレオーネに対して大きくなったため、レオーネに相当するサイズの車を企画、さらにレガシィでも十分なパワーを発揮していたターボエンジンを搭載しました。日産がパルサーGTi-Rで築いた小型ハイパワー4WD市場に参入、ほぼ同時期に登場したランサーのGSR/RSエボリューションとともに、長く続く4WDウォーズの時代を作ったのでした。
初代インプレッサは、小型軽量テールが出やすい性格を生かし、まだAYCを装着していなかったランサーに操縦性の点で優位に経つのでした。中でも、スイッチ操作によってセンターLSDのロック率を変えられる、ドライバーズコントロールセンターデフは画期的で、ドリフトも自在なフリーから、トラクション優先のロックまで、操縦性の性格まで変えられるのでした。
二代目は、当時欧州で人気があった丸型ヘッドライトで登場しました。しかし、ランサーの進化が早く、頑固なアンダーステアが目立つようになってしまったインプレッサは窮地に立たされました。自慢の「ハイドロフォーミングサスペンションメンバー」を廃し、その他軽量化に努めたスペックCを発売するも、ランサーに付いていくのがやっとでした。
モデル途中で、ヘッドライトを異型角形タレ目で構成された「二型」でようやくインプレッサらしい走りが蘇りました。しかし、初代の軽快さよりも安定性を狙った操縦性へと変わっていったようです。
スタイルは当時のスバルが推し進めようとしていた「飛行機型グリル?」へとチェンジ、三型へと移行しました。この頃になると競技ベースというよりは、車重を高出力で走らせる車へと性格を変えていき猿。
三代目は、SIシャシーと称する、新世代シャシーへとチェンジしました。リヤサスペンションもマルチリンク化され、サスペンションを固くして対処するのではなく、柔らかめのサスペンションで接地性を良くする方向へ変わっていった模様です。ボデーも当初は5ドアハッチバックで登場し、途中でセダンを追加しています。この代では高級感を増し、ハイグレードスポーツ4WDの性格が強まり、グランドツーリングカー的性格になりました。
エンジン
EJ20系水平対向DOHCターボチャージャーエンジンを搭載しています。初代から型式は変わっていませんが、登場当初は最高出力220馬力(レガシィ用)が304馬力に、最大トルクは27kgf・mから43kgf・mにも達するようになりました。
一般に、インプレッサは高回転型、ランサーはトルク型とされてきましたが、高出力重視ターボエンジンゆえ、4000回転以下では十分な過給圧に達さず、アクセルレスポンスの鈍さすら感じます。もちろん、その辺りの乗用車とは比べ物にならない出力を発揮しているのでしょうが、かったるさを感じます。4000回転から過給圧が本格的に高まり、アクセルレスポンスが良くなり、エンジンの回転上昇が一段と速くなります。その鋭さは6000回転を超えると鈍り出し、最高回転に到達します。
これまでインプレッサには、初代の中期以降のモデルに乗りましたが、過給圧が本格的に高まる前の領域でも高まってからも、パンチが今ひとつのように感じます。これはギヤ比が高いことに起因するのか、それとも車重が重くなったことによるのかは不明ですが、304馬力という高出力はあまり感じませんでした。しかし、最高回転に近い領域での車速はかなりのもので、「鈍いなあ」などと言いながらスピードメーターを見ないでいると、コーナーでは危険なことになります。
全体的にターボエンジンらしい過給遅れは強く感じられ、エンジンの出力をうまく引き出すためには、シフト操作をこまめにして4000-6000回転域を保たなくてはなりません。とはいえ公道上でそんな運転をすることは不可能、すなわち、3000回転までの領域でやや鈍さを感じながら、のろのろと走ることになってしまいます。
加速時過給遅れも強く、過給領域を外れてから過給領域に戻すためには、アクセルペダルを大きく踏んでエンジンの回転が上がり、排気ガスの量が増えてターボチャージャーが速く回るのを待っていなければなりません。VTECの場合には回転数が上がって高出力カム域に到達するのを待ち、ターボエンジンの場合は過給圧の上昇を待つ、結局いずれも待ち時間が必要であることがわかりました。
等長等爆排気マニホールドとツインエントリーターボチャージャーを採用した結果、エンジン音は普通の直列4気筒エンジンに近づきましたが、それでもどこか水平対向エンジンらしいビートを感じるもので、個性豊かなエンジンです。個性があって、回す楽しみを感じます。スペックほど高回転側特性ではありませんが、大トルク域をシフトしながら保つ、というのもこの車に乗る楽しみだと言えます。
SIスイッチについて
Iモード、Sモード、S#モードの3モードを選択できますが、MT車ゆえスロットルバルブ制御と下級厚制御のみに作用します。Iモードは、街中の加速時ですら着いて行くのが大変なありさまで、郊外の空いた道を一台で走行するか、加速を終えてから巡航時に使うようにしたほうが良いでしょう。過給も正圧にしないようで、エコドライブ強制モードです。アクセルペダルを踏んでもスロットルバルブが開かないために吹け上がりは悪いですが、燃費は悪くありません。試していませんが、おそらくアクセルペダルを全開にすると標準状態にはなることでしょう。
S#は、もうこれはアクセルペダルを踏むとスロットルバルブが大きく開くだけで、それこそ方程式のY=AX+BのBを大きくしただけの状態です。リニアなエンジン出力特性を味わうどころではないため、まさにゲーム感覚のモードです。普通の人はもちろん、運転上級者にも不要です。
結局、Sモードを選んで走るのがオールラウンドで良いでしょう。リニアなスロットル特性で、扱いやすい状態です。アクセルペダルをあまり踏まなければエコ状態、大きく踏めば大きな出力を得られますので、結局はこの状態固定で使うとよいでしょう。
トランスミッション
ドライバーズコントロールセンターデフ付き6速MTです。これまで何度もシフトフィーリング調査に挙げていますが、シフト方向への操作量が不足気味で、手の動きが余ります。もう少しセレクトストロークを増やした方が、自然に操作出来ることでしょう。これまで何度も書き続けてきた、シフト時のレバーのプルプルとした反力も、シフトしてからのレバーの遊びも気になり、私の好みには合いませんでした。
ギヤ比は意外にワイドで、シフトアップした時の回転数の落ち幅が適正です。ターボエンジンの場合は特にクロスミッションは効果がなく、シフトアップをしたら過給圧が高まる回転の下限にならないと使いにくいです。この点では使いやすい6速MTでした。
また、面白いことにギヤノイズがサンバーやヴィヴィオなどの軽自動車のものとそっくりです。特にローで加速するときの音がそっくりで、メーカーごとのノイズに対する考え方がよく分かりました。
ドライバーズコントロールデフはフリーからロックまでマニュアルスイッチで調整できる他、走行状態に応じて自動調整してくれるオートモードも追加されています。フリーの場合の前後トルク配分は忘れましたが、40%:60%程度であったと記憶しています。ロックでは50%:50%、差動機構なしですが、電磁的結合ゆえやや滑りはあり、パートタイム4WDの状態のようなタイトコーナーブレーキング現象は感じません。せいぜい、「パーキングブレーキをかけたまま走ったかな」程度の引き摺り具合です。
中速コーナーに侵入した際の挙動変化は意外にあり、フリーでは4WDらしい、車輪が路面に吸い付くような走りはそのままに車は軽快に向きを変え、加速をすると少々後輪駆動のような挙動を見せます。ロックではより路面に吸い付く感じがあり、加速ではプッシングアンダーを感じながらコーナーを立ち上がる印象です。
全体的な印象では、ターンイン時にはフリーが良く、コーナー脱出時にはロックの方が安定感が強く感じられます。オートモードでは、アクセル操作とブレーキ操作、ステアリング操作によってそれらの制御を勝手に行ってくれるため、運転に集中できます。手が三本あればマニュアルモードの方が良いですが、二本しかないゆえにオートモードが便利です。
ステアリング
ギヤ比はクイックな印象ですが、FWDベースでフロントオーバーハングにエンジンを搭載する4輪駆動ゆえに、ステアリング操作に対する車の挙動の変化は穏やかです。駆動輪と操舵輪が同じですと、どうしても駆動力変化に対するコーナーリングフォースの変化が感じられてしまいます。
路面の状況はあまり伝えないステアリングであり、操舵に対する車の挙動変化は車に任せるような印象です。シャープな運動性能を味わう印象ではありませんでした。どんなアクセル、ステアリング操作をしても、車は基本的には安定している方向の動きになり、なかなか危険にはなりにくいです。しかし、それはほとんどの動作がステアリング操作だけで終わってしまうことでもあり、この車で強いアンダーステアが発生するような状態では、もう万事休す、運を天に任せるしかない、ということでもあります。意のままに操縦できるか、というところでは、若干面白みがないかもしれません。
水平対向エンジンの特徴は大きく出ています。ステアリング切り始めのロールが少なく、車の前の部分が向きを変えるのが速いです。コーナー後半はさすがにフロントオーバーハングにエンジンがあるゆえ、若干車は外側に出ていこうとしますが、直列エンジン車で感じる、フロントの重さはあまり感じません。「水平対向エンジン車に乗ると他の車に乗れなくなる」という普通の人に何人かあったことがありますが、この感覚がそうさせるのでしょう。車好きではなくても、普通の人も結構敏感です。
ブレーキ
しっかりした踏み応えで、投力を増せば増すほど制動力が比例して高まる印象です。安っぽいブレーキですと、踏力を増していくと途中から制動力の増加が鈍くなり、とにかくペダルを強く踏みつけるしかありません。ペダルを踏みつける状態でコントロールなどおぼつきません。その領域でコントロール出来るか出来ないかが、安いブレーキと高いブレーキの違いです。
安心感あふれるブレーキで、ABSが付いていなかったとしても十分なコントロール可能なブレーキです。
サスペンション
SIシャシーの売りが、「しっかりした車体にやや柔らかく路面追従性優れたサスペンション」でした。ボデーはハッチバックながら曲げ、ねじり剛性が高く、軋みや変位は感じられません。サスペンションはしなやかで、日常での使用でも気持ちよさを感じます。「ちょっと硬いかな?」位の硬さで、路面の凹凸をよく吸収します。スポーツ走行でも、もう少しロールスピードは抑えても良いかもしれない位でした。絶対的なロール角はさほどでもなく、コーナーリング中の姿勢は安定しています。
一方で、リヤサスペンションがマルチリンク化された弊害があり、ロールが深まる最中やうねりを乗り越える際に妙なキャンバー?トー角変化らしきものを感じることがあります。その変位によって後輪が不安定に感じられる事があり、速度領域が高くなることもあるだけに怖さを感じます。
ボデー
しっかりしたボデーで、突起乗り越え時などにもきしみや変位を感じません。インテグラが2000年頃の車なら、この車は2000年代後半に差し掛かった頃のもの。その7年程度の間の技術の進化を感じます。それならばさらに7年程度たった現在のボデーは、さらに剛性が上げられたことでしょう。
内装もこの代になって高級化が進み、人工皮革のボデーやステアリングには、車を持つ喜びを感じさせます。視界もまあまあ良い方で、疲れにくい車です。
一方で、重さはかなりのもので、1.5tに達しています。初代モデルが1.3tでしたから、やはり車重の上では結局レガシィ級になってしまっています。どうりで、初代の軽快さを感じないはずです。高級感と高剛性と軽快さ、すべてをレベルアップするのは難しいようです。
5ドアハッチバックスタイルは好みによるでしょうが、剛性を考えると4ドアセダンが有利、「丸いお尻」の好き嫌いはあるでしょうが、私ならセダンを選びます。
まとめ
当初は軽量小型なボデーに高出力エンジンを搭載した競技志向モデルでしたが、徐々に「高級ロードカー」としての性格を強めたのは、インプレッサもランサーも同じです。世界的に見ても前者のような車は消滅し、商品性からも後者のような性格を強めました。「持つ喜び」を考えると当然ながら、軽快さが失われたのは残念なところです。4速2000回転からでもややフレキシブルに加速していた初代が、このモデルは待てないくらい遅さを感じます。
そんなことで、私としては初代インプレッサの性格は薄まり、かつてのレガシィGT、現在のWRX-S4の性格を持った車がこのインプレッサであると感じました。真面目に競技をするのにはお金がかかりますが、普段の車を持つ喜びとドライブとたまのサーキット走行なら、大きな満足を得られると思う車です。
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