
この日はエクストレイル(ハイブリッド)に加えて、ロードスターにも試乗してまいりました。夕暮れが進んでいましたので画像は暗いのですが、車の性格を知るのには十分でした。
ロードスターの歴史
数々の本や多くの方が説明をしておりますので、今さら私が説明できることも少ないので、重要な点のみ説明します。
初代(NA型登場前)
フェアレディZ(S30型)以前にあった、英国型ライトウェイトスポーツカーはオープンカーで成立していました。しかし、エアコンはなく、幌も簡易的なもので快適性はありませんでした。それ以上に多くの人は4人が乗れることが大切で、屋根が開いて流れる風を感じながら車に乗ることが贅沢そのものでした。そのため、一部のお金持ちのための車であったということが真実だと思います。
それらのオープンスポーツカーは、屋根が閉じて快適性を兼ね備えたグランドツーリングカー的な性格が強い、フェアレディZにことごとく販売で負け、絶滅してしまいました。
しかし、昭和52年になると、各社が「サンルーフ」を備えて、屋根が開くことの快適性や、換気が良いことの快適性が知られるようになりました。
また、日本に限りますが、昭和58年頃にホンダがシティにカブリオレモデルを、翌年にはフェアレディZとMR2がTバールーフという、屋根の中央に柱と屋根後部が残る構造のモデルを追加し、屋根が大きく開くことの快適性が認められ始めました。
そして昭和61年頃になると、いすゞジェミニ、マツダファミリア、フェスティバなどが、屋根が大きく開く「キャンバストップ」を追加、エアコンに頼らずに空気を感じる感覚が味わえるようになりました。ただし、同時に言われ始めた「車体剛性」の点ではやや不利で、走り方がおとなしい女性を主眼においていたようです。
初代登場時
直前に、RX-7(FC型)に、カブリオレが追加されていました。買われた台数はそれほどではなくても、アメリカンな雰囲気のオープンスポーツカーということで、注目の車種となりました。しかし、高額であること、スポーツカーとしての性能ではクローズドボデー車に対して劣ることなどから、それこそ「セカンドカー、サードカー」としての買われ方であったようです。そして、オープンスポーツカーの需要が十分確認されたことで、より安価なオープンスポーツカーとして初代は登場しました。
当初よりメディア対抗耐久レースが行われたり、各雑誌が比較用として取り入れたり、お祭りムードが盛り上がっていました。また、スポーツカーとしての性能よりは、デートカーとしての資質の高さが注目されました。
しかし、現実には2年程度でデートカーとしての評価は下がりました。「注目されて恥ずかしい」「髪の毛が埃っぽくなる」ことがその理由だそうです。当時の20歳代の女性は、今の女性よりも潔癖度が高かったのです。
そんな状況もあり、モデル途中からはマニアにも受けるようなカラーリングや内装を備えたモデルが追加されていきました。また、より一般的な需要にも耐えられるようにATが追加されたり、安全装備追加による重量増加を補うために1800cc化されたりしました。「エンジンの吹け上がりが重くなった」と評価が下がると、エンジン制御コンピューターを変えたり、フライホイール重量を下げたりするなど、メーカーも常に市況を読んでいました。
二代目登場
1998年にモデルは二代目へと移行しました。1600ccモデルの復活、リヤウインドーのガラス化などが行われました。固定ライト化が目立った変更ですが、ボデー剛性が上げられたり、コストダウンが進められたり(?)とありますが、基本的には初代の路線がそのまま引き継がれました。
モデル途中にはホンダのS2000やトヨタのMR-Sが登場するなど、各社とも似たような性格のオープンモデルを発売してきました。中でもS2000のスポーツカーとしての性能は本格的でした。市場の動向や「連続可変バルブタイミング技術」が安価に導入できるような状況になってきたために1800ccモデルが変更を受け、160馬力化されましたが、数値ほどの出力向上はなかった、ということが定説のようです。
三代目登場
S2000の影響が強かったのか、車体が大型化、高剛性化、エンジンの高出力化が行われました。モデル途中には、リトラクタブルハードトップ仕様も追加されるなど、スポーツ性能と快適性の両立が図られるなど、贅沢品としてのスポーツカーの性能も満たすようになりました。ただし、登場後まもなく「原油高騰をきっかけとしたエコカー需要の拡大」「リーマンショックによる景気減速からくる、高性能車需要の減少」などがあり、市場での注目度は低くなってしまっていました。
とはいえ、スポーツ性能を重視するマツダの旗艦として、生き残ってきました。
四代目
「初代回帰」として、小さく見えるボデー(小型化度合いは、ほんの少し)、1500cc化などの変更が行われました。3代目で大きく変わってしまったコンセプトを引き戻すことが狙いでしょうね。
エンジン
P5-VPスカイアクティブ1500ccガソリンエンジンが採用されています。現行デミオの1300ccエンジンに近い性格ですが、より高回転化が図られています。現行デミオも旧型から高回転化を進めるような変更が行われました。
全くの想像ですが、デミオはCVTから6速ATに変更され、エンジン回転の上昇に伴って車速が上昇する、マツダが言う「気持ちが良い走り」を実現するための変更だと考えられます。具体的には、アトキンソンサイクルをやめたために吸気側可変バルブタイミング機構の油圧駆動化、圧縮比の低下、おそらくバルブタイミングの変更もあることでしょう。
エンジンは、かつての直噴ガソリンエンジンの振動や音が嘘のようになくなり、やや硬質な音を発します。低回転では雑味がないシャープな音を発し、高回転域になると4気筒らしいビートを伴った快音が、マフラーより発せられます。この音は演出されたものとのことです。なお、日産MRエンジンのなめらかな印象とは全く異なります。
フライホイールが軽量化されているためか、発車時には若干出力不足は感じるものの、低回転から中回転域まで、必要十分な出力を発します。最近の中低回転域を重視しているCVT車と比較すると余裕はありませんが、ダイレクトな走行感を感じます。
アイドル回転数付近から再加速できるフレキシビリティさは兼ね備えられており、シフトチェンジを頻繁に行わなければならないような状態にはなりません。エンジン回転の上がり方はシャープで、アクセルペダル操作に対する反応は概ね自然です。ただし、アクセルペダル操作速度によるスロットル開度の演出が行われてしまっているようです。アクセルペダル操作速度を速くするとスロットルバルブも大きく開くようです。これは大変操作しづらいです。足の操作角で加速感やエンジン回転数・車速を予測できません。
多くの記事では、「これで十分」派と「ちょっと出力不足」派に分かれるようですが、私は前者派です。スポーツカーの楽しみは、性能を全開にしても余裕があること、運転士がすべての性能を引き出して走るとようやく速くなること、などです。マツダのVTECのような超高回転高出力性能はありませんし、ターボチャージャー付きエンジンほどのトルクもありませんが、素直で使い易いエンジンだと思います。アクセルペダルとスロットルバルブの関係は、要再検討です。
トランスミッション
今回はMT車に乗りました。スカイアクティブMTです。操作感を軽くし、トランスミッション自体も軽量化したことが最大の特徴です。
シフトフィーリングは、この数日前に座った広報モデルではシフトゲートははっきりし、レバー倒れ角や操作距離は程よいものの、クリック感が少なくてシフト完了を知らせない印象でした。しかし、この日に乗った車では若干のクリック感が感じられました。
この車が気になる方はトヨタ86も気になるでしょうが、トヨタとマツダの考え方の違いを強く感じます。86が「操作したこと、完了したことを強く印象づける」ものであるのに対し、こちらは「軽く」にとらわれすぎている様に感じます。この車は、レーサーが1秒を惜しんでシフト操作を行うのではありませんから、私は86式の方が良いように感じます。
ギヤとしての性能は良く、ギヤノイズがほとんど聞こえません。また、4速が若干低すぎるように感じるのは6速MTに共通するものですが、シフトアップをした際のエンジン回転低下が適当で、シフト操作と運転の楽しみを十二分に味わうことができます。
やはり、シフト終了時のクリック感不足が残念に感じられます。
ステアリング
操作感は当然電動パワーステアリングです。かつての油圧パワーステアリング感覚が良く再現されている、若干粘っこさを感じる制御がなされています。
操舵に対する応答性は適度にダルで、中央付近の座り(安定)具合も良いです。ステアリングをそのダルな区間を越えて操作すると、車の前部が素早く向きを変えようとします。車両後部は意外に安定しており、前部の軽快感とは少し印象が異なります。すなわち車としては安定していて、急なステアリング操作やアクセル操作に対しても、寛容に反応すると考えられます。
サスペンション
突起に対してはコツコツと反応し、乗用車のような柔らかさは感じられません。おそらくスプリングが少し固められていることによると思いますが、街中では少々快適性が削がれています。もう少し減衰力を上げることでコツコツ感が控えられるのではないかと思います。
ボデー剛性は十分だと感じられるのですが、左前輪が突起に乗り上げた際に、ボデーが少しねじれるのか、若干位相の変異を感じました。少なくとも突起の感覚を正確に伝えないかのような印象になったことがあり、オープンボデーの難しさを感じました。
ブレーキ
マツダの美点である、しっかりした踏み応えと踏み込み力に応じた制動力の発生があります。また、ブレーキペダル操作中も、制動力は踏み込み力の調整によって可能です。絶対的な制動力は不明ですが、スポーツカーというのはエンジン性能だけではなく、止める性能も扱いやすく、高くなっています。この辺りの考え方が、背が高い軽自動車のターボエンジンスポーツモデルとの決定的な違いです。
ボデー
剛性が高く、オープンボデーの欠点は前述の疑問を除いて感じられません。ボデーは小ぶりに見えますが、フェンダーの張り出しが大きく、初代や二代目のようなスマートな感じではありません。そこが、初代の小ささとこのモデルのスタイル上の演出の違いです。

なお、カタログのこの写真には重りが積まれており、実際の地上高はこれよりも高くなります。
オープンカーの場合、決まって開放感を唄いますが、旧型に私が乗った感覚としては、風は全くと言って良いほど入ってきません。多少の雨ならば、走行していれば入って来ないほどです。冬場なら、ヒーターを足元吹き出しにして寒さを感じずにいることも可能です。
また、後席スペースはなく、壁になっています。すなわち、車内の容積が小さくなっていること、シートを目一杯リクライニングさせても、寝ることはおろか伸びすら難しいという状態で、これが狭苦しさを感じさせる要因です。
屋根は空いても自分がいるところは狭い、穴から空を眺めているような印象で、閉所恐怖症等、向き不向きがあります。また、自転車やバイクに乗る人なら、屋根が空いたくらいで開放感、というのは大げさということになるでしょう。
車重も努力して軽量化されており、130馬力程度でも十分に軽快さを感じることができます。前述の通り、フェンダーの張り出しが大きいゆえに、狭い場所では取り回しに苦労する場合があるでしょう。オーバーハングは短いために、狭い道の曲がり角では、大きく切れるステアリングと相まって、意外に楽かもしれません。
内装は黒一色で、暗さを感じてしまいます。
高級感は既に旧型の頃から注意が払われており、車両価格に対して相応の仕上がりになっています。グレードによっては合成皮革シートが選べます。オープンカーの場合にはどうしても空気中のホコリの吸着がありますので、皮にする価値はありそうです。予算に余裕があればどうぞ!
まとめ
出力を増してボデーを補強して派手なエアロパーツをつけて、となると、車はオタク路線まっしぐら、車そのものの楽しさは消えてしまいます。顔つきがシャープすぎて、若干その路線は感じるのですが、「こわもて」が人気の昨今にあっては、意外に普通に見えます。
エンジンは、高い技術が投入された「普通に感じる」エンジンで、このままの状態で楽しむのが良いでしょう。雑味の少なさが一番のポイントです。しかし、86の水平対向エンジン程の存在感はないために、中高回転までエンジン回転を上げて走るような楽しみは、86ほどではありません。シフトフィーリングも同様、操縦感覚では少々乏しく、ステアリングホイールに伝わる路面の情報もやや少ないように感じました。
すなわち、ロードスターは運転士と一体化=合身(がっしん、UFO戦士ダイアポロンにて、主人公が主役ロボットと一体化する際の掛け声)することで運転をし、86はあくまでも機械、人間はそれを操作することで運転をする、というものです。
同じUFOでもこちらはUFOロボグレンダイザー、シュートインの描写にゾクゾクする人はこちらです。
車をたっぷり味わいたい方にはおすすめしたい車ですが、後席部の容積のなさがどうしても気になります。そこがまたトヨタ86の存在意義でして、両者で悩むポイントでもあります。私は、運転間隔を味わうのであれば86を、スポーツドライビングをひとつのスポーツとして捉え、車をその道具として考える場合や、空気を感じながら普段のドライブをも楽しみたいのでしたら、ロードスターを勧めます。
両者には、静かになるようにされた車内にいながら運転することと、空気を通じてエンジンや車外と交わりながら運転することの違いはあります。その他の目的も考えながら選びませんと、せっかく買ったのに短期間で手放してしまうことにもなりかねません。じっくりと、体に合う方を選択してください。
なお、この車はスポーツドライビングの基礎を学ぶ基礎として最適な選択です。練習をして運転を上達させたい人、腕を落としたくない人にも良いでしょう。オープンであること以外にも魅力が詰まっている車です。とはいえ、家庭の状況や荷物の運搬の有無、ほかの車の所有状況もあるでしょう。この車は、それらをすべてかなぐり捨てて選ぶ、たいへん贅沢な車です。そんな理由から、スポーツカー、スポーティーカー以外との比較は無意味です。
個人的な感想
それほど軽くなくても、室内が広くなくても構いません。この運転間隔を持った4ドア車が理想です。
参照して欲しい記事
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ノート(ニスモ仕様)
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ロードスター(NC型1期)