「働かないおじさん」「働かないお兄さん」と来たら、次は「働かないおばさん」となります。しかし、歴史的経緯から「おばさん」が働いているケースが少ないために割愛し、「働かないお姉さん」を語ることにしました。
このブログは、事実をもとにしたフィクションです。文中の団体や名称は、実在のものとは一切関係がありません。
今回は、登場人物が多いために冒頭に紹介します。
左官さん:下地大学の帰国子女。特殊金融団体QP金融機構に内定。
職長:その現場の職長。
野比さん:鉄腕女子大学。職務経験がやや長い模様。
三田村さん:鉄腕女子大学。同上。
貧乏さん:ホウセンカ大学男。精悍な方。
タクシーさん:ゾウさん大学。男性モデル的な人。
黄海さん:ゾウさん大学。職長と仲が良い。
南大阪さん:コーヒー大学。クールな顔立ちで良く働く。
山町さん:コーヒー大学。かわいらしくまじめ。
タバ子1:本所女子大学。喫煙者。仕事の進捗状況を聞くと、「やってます」と強い語気で言う。
タバ子2:同上。
タバ子3:大手町女子大学。タバ子1,2とは無関係な喫煙者
働かないお姉さん編
以前書いた、「矢崎さん」事件の直後に起こった事件だったように思います。矢崎さんの一件をきっかけに、職場内は「働かない人」のことが堰を切ったように出てきてしまいました。今思えば、不景気の始まりにより、上層部のピリピリとした雰囲気が、とうとう底辺にも降りて来た表れではないか、と思います。
矢崎さん事件の場に私がたまたまいたことから、矢崎さん退社後に職長は私に対して、
「moto('91)君に言ったんじゃないからね。」
と言いました。当然ですよ。私は緒距離便を昼食抜きでこなし、その後短距離便を片付けて帰って来たのですからね。
その場に黄海さんがやってきて、職長と黄海さんとで、「職場内の働かない人」について、話が始まりました。
それほど職場内で喫煙する人はいませんでした。女性の喫煙者は職長、野比さん程度だったのが、職員の増員に伴って煙く感じることが増えてきました。私がこっそりと「タバ子」、とあだ名していた、女性の喫煙者が増えていたためです。
タバ子たちは、一応仕事をすることはするのですが、ひどく手が遅く、職長はひそかに業を煮やしていたようです。また、喫煙しながら働く様子は、たまたま早い時間に帰社した私から見ても、決して気持ちが良いものではありませんでした。
当時は女性の喫煙者が増えていた時期だったように感じているのですが、どちらかというと、水商売的に派手目な女性が吹かす印象だったのです。
そんな環境の中、職長と黄海さんは、私にも話を振ってきました。
「この職場で、全然働かないのは誰だか知っている?」
出勤時間帯と退社時間帯後しか事務所にいない私のことですから、そもそも誰がいるのすら、あまり把握できていません。
悪者探しのような雰囲気になってしまい、悪い目立ち方をしていた「タバ子1、2、3」が頭に浮かんだ私は、
「タバ子ですか?」
と言いました。
すると職長は、
「タバ子も働かないね。「仕事やっている?」と聞くと「やってます!」と言い返すだけで、全然はかどらない。でも、もっと働かない子がいるんだよ。」
と言いました。
私は、当然当たると思っていた答えが外れてしまい、タバ子以上に働かないで職場にいられるのか、と、深い疑惑の念に駆られました。働かないといっても、居眠りをしている人はいませんでしたし、全然来なくなっていたキセルさんは無給状態でしたから、「働かない」には当たりません。
職長と黄海さんは、
「左官さんだよ」
と答えるのでした。
私は左官さんとは全く想像しておらず、これまで生きてきた人生の中でも、上から数えた方が早いくらい驚かされました。
とはいえ、思い当たる節もありました。
この半年前、私が事務所にいた際に、中級社員さんから私と左官さんに対して、計算書づくりを命ぜられました。計算書と言っても簡単なもので、暗算で出来てしまいそうな程度と予測されました。左官さんは、「一緒にしようよ」と言ってくれ、私はウキウキ気分で乗せられてしまうのでした。
左官さんは、年齢にしては少々老けた感じがしなくもないのですが、スカートは短めで足を組む癖があり、妙に男を引き付ける要素があったためです。
とはいえ、簡単な計算書を2人で作るというのはむしろ難しく、少々困惑する面もありながらの仕事でした。
そんな出来事が思い出され、「もしや」と思い直したのです。職長と黄海さんによると、左官さんに仕事を依頼しても、
「〇〇ちゃん(当日出勤している他の女子)と一緒にするね。」
と言い、確かに2人で仕事はするのですが、実質〇〇ちゃんだけが働いているような状況になっているとのことでした。何のことはない、左官さんは必ず誰かと一緒にいるだけで、自身はほとんど仕事をしていなかったのです。
その場に、野比さんと三田村さんと一緒にいた左官さんが、戻ってきました。職長が次の仕事を左官さんに依頼すると、また
「〇〇ちゃんと一緒にするね。」
と言って移動しようとしました。
今回ばかりは、と思ったのか、職長は
「その位のこと、一人で出来るでしょ?」
と強めに言い返すと、明らかに不愉快そうな表情になった左官さんは、
「じゃあ、明日〇×ちゃんとする。」
と言って、退社してしまいました。
その様子をして、職長と黄海さんは私と野比さん、三田村さんに、
「仕事しないでしょ。」
と確認するのでした。野比さんと三田村さんも、「状況を詳しく言わなくても、それはわかっている」という表情をしていました。私は、やりきれない残念さを感じるとともに、女性の難しさを感じるのでした。
さらに職長と黄海さんは、私にこう言います。
「moto('91)君が所属していたとかいう、学校の掃除部も同じだと思うよ。仕事なんだから、雰囲気が良いとか、周りに溶け込むとか、そんなことは全くいらない。仕事は、各個に分担をしてそれぞれが責任をもって、こなさなければならない。だから、左官さんのような子は、むしろ組織に要らないんだ。でも、何であんなのがQP金融機構に行くんだ?どうせ学校名と海外生活経験と顔だろ?」
と、何か恨みでもあるかのような言いっぷりです。
私は確かにヤマト産業大学というところの掃除部に所属していました。一見運動部に聞こえますが、実際は大会のみ皆がそこそこ協力をして、大会ではないときには各個に掃除の面白さを追求するクラブです。チームワークとか分担とか、そういったこととは無縁でした。
まあ、周囲の人は私が所属している学校やクラブを、良い方に誤解をしてくれていたことが明らかになったのですが、確かに何もしない人は集団では迷惑です。その場では納得するのでした。
この記憶は、以後私の中にわだかまりとして残っています。以後の職場でも、明らかに「雰囲気づくり要員」として採用されたであろう人を見たことがありましたし、全員が個別に成績向上だけを目指す職場というのも、何だかギスギスしたり不正が起こったりしそうな予感がします。
なお、左官さんはある種の男性に効くフェロモンを出すようでした。タクシーさんという人と貧乏さんという人に、上記のことを話しつつ左官さんに対する考えを聞いてみましたが、
「えー、個人としかかわるのなら、仕事なんかできなくったっていいじゃん。」
ということでした。
働くお姉さん編
南大阪さんと山町さんは、スーパーロボット体形だったり目鼻立ちくっきりだったりでしたが、それほど目立つ行動はありませんでした。しかし、まじめな仕事ぶりが評価されていました。職長や野比さん、三田村さんなど、皆、「一緒に組んで働くならこの二人のどちらかが良い」、と言っていました。しかもこの二人、仕事が終わって手が空くと、
「何か手伝うことはありませんか?」
と聞いて手を遊ばせなかったそうです。
年寄社員が良く、「手が空いたら、「先輩、何かお手伝いできることはありませんか?」と言うように。」と指導するものですが、なかなか言える言葉ではありません。この二人は私と同年齢だったのですが、私は、
「こういう女性が出てくると、男性も努力しないとやがて女性に男性が使われる世の中が来る。」
と、より一層努力しなければならないと思うのでした。
上記の左官さんの話題が出た後でしたが、この二人のことをそれとなく話題に出してみました。
この二人は、単に金を稼ぐ目的ではなく、より良い職に就くための勉強の一環としてこの職場に来ている、と聞かされました。学校でもテニス系サークル活動に所属していたけれども、「目的なく楽しむことをしているだけで、面白くない。」と辞めたとも聞かされました。
さぞかし評判も良いと思ったのですが、「仕事は良くするけど」と、言葉が濁されます。
黄海さんは、「目的なく楽しむことをしているだけ、と批判するのではなく、自分たちで面白くなることを探さなきゃ。仕事は、与えてもらうものではなくて、自分で探すものだよ。」
と厳しい評価をします。これを聞いていた野比さんや三田村さんも、納得の表情で聞いていました。
貧乏さんも、「クールな感じではあるわな。でも、何でもクールじゃねえ。」
と、芳しい返事ではありません。
タクシーさんも「まじめだよね」と言うだけです。
別の場ですが、他の人も「とらえどころがない」「つまらない」と、さんざんな評価です。まあ、時代背景を考えると、わからなくもありません。当時は、まじめで先輩に従順で、言われた事務仕事をこなすだけでは、働く女性が務まらなくなりはじめた時代だったように思います。
それに、多くの民間企業では、無駄ともいえるような商品を企画、製造し、利益を得ています。ましてや、エンターテインメント産業はお客さんを楽しませるもので、事務代行会社ではありません。自ら楽しめることを探しすことが求められます。まじめやクールでは、それらの産業で仕事は務まりません。黄海さんや貧乏さん、タクシーさん、野比さんに三田村さんは、その辺りのことが身に染みていたのでしょうね。
その後
その後、私はここに登場した人たち全員と会っておらず、どんな人生を送ったのか全く分かりません。その後私が所属した別の組織などを見ると、南大阪さんや山町さんのような人よりも、左官さんのような人の方が、おじさんや先輩、顧客などにも評判が良いような気もします。
しかし、そんな状況が続いていたら、いつまでも女性の「社内キャバクラ嬢枠採用」はなくならないと思うのです。皆さんは、左官さんと南大阪さんや山町さんの、どちらと仕事をしたいですか?