
この日は再びモーターショーに行こうかと思っておりましたが、足が言うことを聞かないので家の近所で用事を済ますことにしました。そうしたら何と!、ブルーバードシルフィの鍵を置いてきてしまい、定期洗車でもできない有様でした。
そんなこともあり、4ヶ月ぶりにコロナのエンジンを始動、充電がてら用事を済ますのでした。いつものマツダの販売店の前を通ると、アクセラのハッチバックとセダンが置かれていました。これにはいてもたってもいられなくなり、試乗と相成りました。
今回試乗したのは、アクセラハイブリッドです。アクセラハイブリッドはセダンのみの設定となっております。
アクセラハイブリッドの成り立ち
アクセラハイブリッドは、既に報道されている通り、トヨタのハイブリッドシステムを搭載しています。そのトヨタのハイブリッドシステムは、途中何度かマイナーチェンジは受けているものの、基本的には初代プリウスから変更されていません。
ハイブリッドシステムのマイナーチェンジを簡単に説明すると、初代後期(NHW11)では電池の電圧を80V程昇圧し、モーターの出力を向上するとともに、エンジンの出力もパワーアップしています。これにより、初代前期型で問題となっていた、「ちょっと走るとすぐにカメ型警告灯(出力低下警告灯)」が点灯し、スピードが出なくなる、という欠点をだいぶ解消しました。
次の二代目(NHW20)では、電池電圧は初代前期と同様の約200Vに下げる一方で、電池とインバーター(直流の電気を交流に変換する装置)の間に、直流のまま電圧を向上させる昇圧コンバーターを敷設、さらにモーターの端子電圧を500Vに向上させて、最高出力を向上させています。また、エンジンもさらに出力を向上させ、ようやく普通の車と同様に走れるようになりました。なお、このモデルの後半に石油価格が高騰、一躍人気車になりました。
三代目では、昇圧コンバーターの性能をさらに向上させ、最大電圧は650Vにまで昇圧し、モーターも小型高速回転型を使用するようになりました。また、エンジンは1800ccの新エンジンに換装し、これまでの弱点であった高速走行時の余裕を増しました。
この他にも、内容はプリウス系と全く同じクラウンやレクサス系の後輪駆動ハイブリッド、初代エスティマハイブリッド・初代アルファードハイブリッドに組み合わされた、エンジンとモーターの出力をCVTで減速して用いるTHS-C、クラウンとクラウンセダンに採用された、アシスト方式によるマイルドハイブリッドシステム、ダイナやトヨエースなどに採用されている、これまたアシスト方式のハイブリッドなどがあります。
駆動系統は、エンジンと出力軸の間に「遊星歯車」を用いたギヤ列を使用、エンジンの出力は「プラネタリーギヤ」に、エンジン動力発電機兼変速比制御の「ジェネレーター」は「サンギヤ」に、工藤モーターと車輪はほぼ同軸に配置され、これを「リングギヤ」に接続しています。
モーターが回転すれば、すなわち車輪が回転し、走行できます。エンジンの出力はモーターをアシストする一方でジェネレーターを回転させ、発電をした電力をモーターへと回すことで走行力や加速力へと用いています。
よく雑誌などで書かれる「エンジンと加速の一体感のなさ」は、この駆動系統のなせる技ですが、エンジンが最も効率良く働く回転と負荷(仕事量)のところを使いますので、熱効率が高くなります。燃費のためなら運転士の一体感は捨てる、そんな制御になっています。
一方でブレーキは、「後輪遅れ込め制御付き電子油圧制御式」を採用しています。初代プリウスこそ横滑り防止装置の機能を使い、かけられた油圧を戻すことで「遅れ込め」としていましたが、二代目プリウスより、後輪のブレーキ油圧は完全な電子油圧制御となりました。
運転士のペダル操作感は、「ストロークシミュレーター」という、一種にダンパーで演出されたものであり、ホイールシリンダーを介してパッドやシューをディスクやドラムに押し付けている反力ではありません。
上記のように、「燃費のためなら運転士の満足感は捨てても良い」とまでは言わないものの、運転士の自由度をなくしたシステムが、トヨタのTHS方式です。「運転する喜びを!」と言いたい気持ちもわかりますが、これが仮にもう数年しか石油が出なくなったとしたら、そうも言っていられません。これはこれで評価しなくてはならないシステムです。
マツダでは、業務提携によってTHS方式の供給を受け、アクセラに搭載、ハイブリッド車をラインナップしたのでした。しかし、マツダといえば「走り」を重視するメーカーです。チューニングをいろいろ変更し、トヨタとは異なる運転感覚を得ることに成功しています。
また、私個人としてもまた出場したいと思っている「レーシングECO耐久」に、この車が参加するらしい情報をキャッチ!戦いはまず己と敵を知ること、とばかりに、調査・研究をするのでした。
エンジン+モーター
エンジンは既に登場しているPE-VPSエンジンを筒内噴射
からポート噴射化(?)(12/8修正 筒内噴射エンジンのアトキンソンサイクルでした)、アトキンソンサイクル化し、ポンピングロスと熱損失を低減し、トヨタの低燃費車系ハイブリッドのエンジン同様、「X(2ZR-FXEなどのX)」付き仕様としています。排気量は2000ccで、トヨタのハイブリッドにはない排気量としています。
駆動系統を介して連結されるモーターやジェネレーターも、どうやら現行プリウスと全く同じもののようです。エンジンの出力は、プリウスと同等の99馬力、モーターの出力を加えた「システム出力」も、プリウス同様の136馬力を発揮します。
ハイブリッドシステムの構成はプリウスと全く同じですが、走行時には「やや燃費の理想とは違った、従来エンジン車に近いエンジンと車速、出力の出方」の関係で運転されます。
走行開始時は、これはもうシステムの都合上、モーターの出力で発車します。車速が上昇し、エンジンでも効率が良い回転で走れる速度になるとエンジンを始動します。この時にエンジンの回転変動を吸収するため、エンジンのフライホイールの部分に「トランスアクスルダンパー」という、ねじれ機構があるのですが、プリウスの場合よりもはっきりとエンジンの振動を感じます。この時点で、+200ccの余裕を感じさせます。
エンジンがかかるとエンジンの出力とモーターの出力を合わせて走行します。エンジンは回転数が低すぎると効率良く出力を出せないため、プリウスではアクセルを踏むとエンジンの回転を先に上げておいて、発電した電気で加速する印象です。一方でこの車は、比較的回転数が低い領域での加速をしようとします。アクセルペダルを固定していてほぼ一定の加速をすると、速度の上昇に比例してエンジン回転が増していくようにされています。
もちろんエンジンの力で加速するのではなく、モーターの力で加速しているのでしょうが、モーターの出力を計算しつつ、エンジンの回転が「そうなる」ように演出していると考えられます。燃費重視ならばさっさと最も効率よく回転できる領域までエンジンの回転を上げれば良いのに、あえてそうはしていない印象です。
また、目標速度に達してアクセルペダルの踏み込み量を減らすと、あたかもシフトアップしたがごとく、エンジンの回転数だけが下がります。
再び、今度はちょっと急に加速すると、エンジンの回転数はそのままにモーターの出力を急増させ、「スロットルバルブが開いてエンジンの出力が急上昇」したような力を感じさせたあと、速度の上昇に比例してエンジンの回転数を上げていきます。すなわち、プリウスでは先にエンジンの回転数を上げておいてから加速があとから付いてくる印象であったのに対して、この車ではモーターによる加速とエンジンの回転数上昇を「演出」しているように思えるのです。
いやはや、このエンジン+モーター作動プログラムをした方は、よほどTHSシステムの走行感覚が嫌なのでしょう。システムを変更せずに、走りの印象だけを従来エンジン+トルクコンバーターATのように演出しています。この制御ですと、おそらく燃費は少々理想的ではないかもしれませんが、トヨタのハイブリッドらしからぬ走行感覚を得られます。
実際の走行感覚も、プリウスでは顕著な「パワーが控えられている」感覚が少なく、アコードハイブリッドほどではないにしろ、電気自動車らしい力強い加速が、「あたかもエンジンが発揮しているかのような」音の高まりとともに楽しめます。
ただ、注意しなければならないのは「トヨタのハイブリッド車と比較してダイレクトな感じがする」ということであり、フィットハイブリッドやマツダのエンジン車と比較すると、これはもう「スリップ感」を感じます。そんなこともあり、「エンジン+トルクコンバーターAT程度」としました。
サスペンション
マツダお得意の、フロントストラット+リヤマルチリンク方式のサスペンションが採用されています。以前、
オーリスと
ブレイドの乗り比べで感じた、リヤサスペンションがトーションアクスル方式であることと独立式であることの差を感じます。具体的には、突起乗り越えじに横方向に揺れる感じが極めて少ないこと、微振動が少ないことが挙げられます。
乗り心地そのものは、最近珍しい60%扁平タイヤを採用するものの、明らかに硬めです。ショックアブソーバーの動き出しや減衰力の立ち上がりは素早く滑らかなのですが、いかんせん、サスペンションスプリングが硬い印象です。ほんの少しではありますが「角」を感じることがあります。
以前のホンダ車のようにストローク中に急に硬さを増すような印象ではないのですが、「ちょっと硬いなあ」と思わせる印象です。
この辺りは、「走って楽しいマツダ車」ではあるのですが、この楽しいのは連続運転6時間程度までのことであり、それ以上になるとこの硬さが苦痛になることもあります。あまり多くのグレードが展開できないお家事情ではあると思いますが、一般的なセダンとしてはもう少し柔らかくても良いように思います。最近、減衰力を増しつつある日産車と比較するとその反対、スプリングが強く、減衰力が弱いのでしょうか??
また、操舵性能についてはまたあとで述べますが、レーンチェンジ時の後輪のヨーの収束が非常に穏やかで、安定感に溢れています。この辺が、後輪が独立懸架であることの良さであると思います。
ステアリング
旧型では、操舵時にのみ油圧モーターを駆動する「電動油圧パワーステアリング」を採用していましたが、今回から電動パワーステアリングに変更されました。時代の流れから致し方ないのかもしれません。旧型後期型で感じた、若干ダルな印象は姿を消していますが、全体的に軽さが増しています。他メーカーほど「ただ軽い」印象ではありませんが、路面の様子はあまり伝えません。
操舵に対する車両の姿勢は、「俊敏すぎずダル過ぎず」といったところになっています。日産車に比べると俊敏で、ホンダ車と同じ程度、6年くらい前のマツダ車と比較すると、随分おとなしくなって扱いやすくなりました。ただ、やはり「遊び」は少なめで、6時間以上連続運転をした場合の「疲れ」は、少々心配です。
ブレーキ
エンジン+モーター以上に、この部分が気になっていました。
トヨタのブレーキシステムは、とにかくペダルの操作で減速力を調整することが困難で、上手にブレーキングをしないと「カックンブレーキ」になってしまいます。また、ブレーキペダルの操作感は、それこそゲームセンターのゲーム筐体であり、曖昧な反力のペダルを、体に感じる減速度とペダルの操作量で調整しなければならないものでした。
このブレーキは、システムこそ変更をしていないでしょうが、まずペダルの操作感がしっかりしています。少しペダルを踏んだだけでも、反力が得られます。回生ブレーキを含む減速力の立ち上がりは概ね自然で、このブレーキシステムで初めて「調整できる」ブレーキになりました。おそらく、ストロークシミュレーターを調整したのでしょう。
こちらもエンジン系と同様、「トヨタのシステムと比較すると」というお話で、エンジン車の普通のブレーキ、
フィットハイブリッドのブレーキと比較すると、スポンジーな踏みごたえであることは否めません。
ボデー
現代の車として、非常にしっかりしたボデー剛性を持っています。BMWや私の家のブルーバードシルフィほどではないような印象です。突起などに対して対抗している感じではなく、乗員にはわからないようにうまくしならせているような印象です。
もちろん、ガタやミシミシといった音は皆無です。旧型アテンザを設計する際、マツダでは「軽量ながら剛性が高く感じられるボデー」のノウハウを掴んだそうで、この効果によるのかもしれません。
しかしそんなことは些細なことであり、一般的には「剛性が高いボデー」を味わえます。
内装は
合成皮革?(12/8修正 本革+部分的に合成皮革でした)を使ったシートに、ピアノブラックのガーニッシュ、艶を抑えたシルバー加飾などで、控えめながら高級な印象を演出しています。マークXの頃は「シラギラ」したシルバーも、最近の流行はヘアライン仕上げ風となっています。
セダンとしてはシート位置が低いために前方、後方視界はまずまずですが、斜め後方の視界は悪くありません。
新しい(?)装備として、スピードメーターがありつつ、フロントガラスに車速がデジタル表示で示される、ヘッドアップディスプレイ」が採用されています。見やすくて良いのですが、その反面、目の前の「実メーター」が目に入りにくくなっているような印象があります。特にハイブリッド車では気にする人もいるであろう、「パワーインジケーター」が、全く目に入りづらくなっています。「運転中にそんなものと相談されてアクセルペダルを操作されたのでは危なくて仕方がない」という方もいらっしゃるでしょうね。でも、見にくいです。
ライセンス上の問題もあるのでしょうが、これはもう簡単に、ホンダのようにスピードメーターの周りを覆うグラフ状にしてしまうのが良いのではないでしょうか?
その他、内装は仕上げがよく、また、「従来の車」感が強くなっています。プリウスはその性格上、「近未来感」を演出しており、冷たい印象が拭えませんが、この車ではどこか安心する感じがします。
ただ、少々天井の高さが低く感じられ、内装色の点からも閉鎖感があるのは否めません。
まとめ
この車の要は、「THSの演出とブレーキペダルの踏み応え」にあります。THSは、ダイレクト感が得られないという運転上のつまらなさがありましたが、この演出によって「ダイレクト「感」」が味わえるようになりました。もちろん、本当にダイレクトなフィットハイブリッドほどではありませんが、「これなら乗っても良い」という方が出てくるのではないでしょうか?
自動車評論家さんの中には、「これからは共通のシステムを使い、演出で差別化を図る」ということをおっしゃる方がいますが、今回、初めて実感ができました。この傾向は、もし仮に今後、電池や水素をエネルギー源として、モーターで駆動する車両の時代になるとさらに重要視されることでしょう。私としては、国鉄103系のようなMT54、東武5000系のような吊り掛け駆動のような音を立ててくれると嬉しいですね。
さて、この車ですが、「マツダのエンジン車」と比較してはなりません。あくまでもプリウスなどのトヨタのハイブリッド車と比較される車です。ただし、ダイレクトさではフィットハイブリッドやエンジン車にはかないませんので、自身が「ハイブリッド車で、走りの性能が良い車」を欲しいのか、「ダイレクトドライブを楽しみたいのか」を、試乗をしつつ、自分の気持ちよさと相談しながら選ぶとよいでしょう。
なお、カムリやSAIと比較すると、明らかにドライバーズカーになっています。スタイルは好みでしょうが、私同様、カムリの自動車らしくコンベンショナルなデザインに後ろ髪引かれる方もいるのではないかな、と思います。
また、フィットハイブリッドはよりダイレクトであること、価格が安いことなどから、非常に悩ましい存在です。ただ、内装などの満足感では、アクセラには敵いません。
ということで、この車は「プリウスにしようよ」という奥様などを説得し、運転を楽しみたい旦那様の車になるのではないか、と思います。充分、その期待に応える車ですよ!
わかる人にはわかるおまけ
「整備モード」に移行する手順は、プリウスと同じでした。
ブレーキ油交換時の「ブレーキ制御禁止モード」は試せませんでしたが、おそらくこれもプリウスと同様であると考えられます。
参考にして欲しい記事
トヨタ
カムリ
SAI(前期型)
オーリス
ヴィッツ
アクア
プリウス(初代)
プリウス(二代目)
プリウス(現行、第一回)
プリウス(現行、第二回)
プリウス(現行、第三回)
日産
フーガハイブリッド
シルフィ
ノート
リーフ
ホンダ
アコードハイブリッド
フィットハイブリッド
CR-Z(前期型、CVT)
CR-Z(前期型、MT)
インサイト
マツダ
アテンザ(現行、ディーゼルAT)
アクセラ(旧型、前期)
アクセラ(旧型、前期、第二回)
アクセラ(旧型、後期、第一回)
アクセラ(旧型、後期、第二回)
プレマシー(前期型)
プレマシー(後期型)
デミオ(前期型、1300cc)
CX-5(ガソリン2000cc)
CX-5(ディーゼル)
旧型車
ファミリア(最終型)
デミオ(初代)
スズキ
スイフト(前期型1200cc)
スバル
XVハイブリッド
VW
ゴルフTSIトレンドライン(旧型)
この動画をご覧ください。
ニトロを噴射、エンジン回転と出力が増し、なんとテールパイプから出る排気ガスの効果音として、ガッチャマンのゴッドフェニックスのロケット噴射音があてがわれています。そして急な加速と、非常に力強い演出がなされています。
これこそまさにトルコンATないしはシリーズハイブリッドないしはTHSⅡの加速感ですが、実際にこうなると「ダイレクトな感じ」がなくなるとは、当時全く思いもよりませんでした。