私をスキーに連れてって ＃３

　
「ＭＨＮ、ＴＶＴから。席、確保したよ」

「了解。メニュー送れ」

「えー、サントリー缶ビール２５０ml、
　　あと、３５０，５００、１リットル。で、生が３５０と５００。
　　　　　あと、バドワイザーが３５０。カールスバーグが３５０。
　　　　　　　　　　　で、つまみはフライドチキンとフライドポテト」

「やだぁ～、ビールとつまみしかないのぉ」

「　ビール周辺しか見えないのかなぁ　」


無線からの真理子の声は、志賀高原プリンスホテルのレストランからだ。
矢野はサロットのアンケートの集約のために別に席をとった。
ゆり江がつまらなさそうに、アンケート用紙を覗き込む。


「なぁにぃ～、彼女だけ特別扱い？」

「あの娘、矢野君にふさわしくないよ。釣り合い悪い」

「お前らねぇ、善意ってないの？
　　あいつらがうまくいきゃあ、みんなカップル、プラス１万」

「プラス１万？」

「また、賭けてんだ」

「ふっ、くっつく方に、１万」

「ダメな方。あの口べたじゃ、すぐに飽きられる」

「けど、お前、あいつにスキーをやらせりゃ、まさにヒーロー。いただき、ね！」

「フッ！」


小杉は勝ったも同然というように笑顔を作る泉の顔に、タバコの煙を吹きかけた。


ビール中心の昼を済ませると、ゆり江を逆さに吊るして写真を撮るみんなを尻目に、矢野は真っ先にゲレンデに飛び出した。
早めに昼を済ませたスキーヤーと入れ替わるように、遅めの昼をとるスキーヤーたちがレストランに向かっているこの時間帯は、ゲレンデが空いていて滑りやすい。


「バーン！」

「あっ！」

「さっきは…」

「どうも…」


ペアリフトの隣に乗っていたのは、さっきの彼女だ。話しかけたいけど、何を話せばいいのか…


「ターンの時ねぇ、内足、持ち上げて引きつけてるだろ？
　　　　　　　　　　　　　　　　あの癖、やめた方が良いよ。
　　こうやって、足持ち上げて引きつけると、
　　腰が後ろに下がっちゃって、ポジションも後ろに行っちゃって、
　　　スピードが出たときに、コントロールできなくなっちゃうから。
　　　　　　　　　　　　だから、トップは持ち上げないようにして…」


矢野は、女の子に声をかける時に、こんなことしか話せない自分に呆れた。


「どうも…ありがとうございました」


リフトを降りると、彼女はそう言ってくれた。きっと彼女だって関心を持ってくれているに違いない。
でもリフト上ではつまらない話しかできなかったし…


「なぁに、ボケッと突っ立ってんだよ！１本行こうぜ」


後ろから抱きつくようにして言ったのは泉だ。仕方ない、行くか。


「止まんな、止まんな。遅いんだから先行っていいよ。
　　　　　　　　　　　　　おい、１２分の９のとこで待ってろよ」

「オッケー」

「おっ先に～」


「どうだい、悪くないだろ、ゆり江」

「おい！」

「お前、待てよ」

「分かるだろ？タイプじゃないんだよ」

「だよなぁ」

「おい、ちょっとお前、変な妨害入れんなよ。
　　　　　　矢野の奥手ぶり考えたら、
　　　　　　　　　　　　　ただでさえ、俺の方が不利なんだから」

「おい、不利とか、妨害って、何だよ」

「あっ、どうぞ、お先に」