私をスキーに連れてって ＃６

　
「まだ、内足持ち上げて引きつけてる。
　　　　　だから、こうゆう風に自然に引きつけなきゃ。
　　　　　　　　　　　　いいかい、じゃ、先行くから、着いて来て」

「おい！矢野！」


「ゆり江も、内足のつけ方教えてくれってさ。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　ほっといちゃ可愛そうだろ？」

「そうよ、あたし、ブッキーなんだから」

「恋人に淋しい思いさせていいのかぁ？」

「おぉい！」

「ふられちまうぞ」


矢野は困ったように優を見るが、優だって困る。


「あたし、ひとりで練習してますから」

「矢野！」

「行こうよ、行こ」

「じゃあ、すぐ戻るから」


三人を見送り、一人になった優のところに恭世が滑って来た。


「あっ、バイバイ」

「ねぇねぇ、今の人」

「あの人は？」

「あ～、大バツ。
　　スキー場で下手な奴って、牧場の魚よ。　あれだもん」


さっきまで恭世と一緒にいた青年は、その短いゲレンデを降りきる前になんでもないところで転んだ。


「それよりさぁ、今の人、いいじゃない。知り合い？」

「知り合いは知り合いだけど…」

「なぁんだ、女いるわけ？残念…」


そのゆり江と恭世は、どうも馬が合うようだ。
優も恭世も一緒に、写真に収まっている。


「先帰るぞ～」

「じゃあなぁ」

「それじゃあ、あたしたち、こっちだから。お世話になりました」

「あっ、ねぇねぇ恭世ちゃん。ちょっと。
　　　　　　　　　　　　あのさぁ、東京帰ったら、連絡ちょうだい」

「連絡する」


優はゆり江と話をしている恭世を残して、先に帰路についた。


「あたしが聞いてあげても良いんだけどさぁ。
　　　　人づてじゃあ、逆効果ってこともあるからね。
　　　　　　　　アプローチされて嬉しくない女の子なんていないよ」

「そうそう」

「さ、行って！」

「うまくいくと良いね」


このくらい言わないと奥手の矢野はアプローチできないだろう。
意を決したように矢野は優を追った。


「　待って！　」


優が驚いたようにブレーキをかけた。


「あのぉ…ねぇ…。良かったら、教えてもらえないかな。電話」


優は振り返って、恭世の様子を伺った。


「会いたいんだ、東京で。だって、写真渡さなきゃいけないし、それに…」

「つまり、もう一度会いたい。いいかなぁ」


仕方なく優はうなずいた。