2008年03月10日
店の中には軽い感じのジャズが流れている。
よく磨かれたブラウン系のフロアに、アンティークなテーブルが良く似合っていた。
それぞれのテーブルには小さなキャンドルが置かれ、ほの暗い部屋の中で暖かみを灯している。
部屋の隅には観葉植物がいくつか置かれ、テーブルごとの間仕切りの役目もはたしていた。
辺りを見回す彼女の想いを先取りするように彼は言った。
「 いい感じでしょ? 落ち着くんだ。 」
運ばれてきたのはカクテル。
「 お待たせしました。はい、ドライ・マティーニ。
彼女はマンハッタンで良かったよね? 」
「 ありがとうございます。どう? なかなかのチョイスでしょ? 」
「 渋いとこだね。カクテル、だいぶわかってきたんじゃない? 」
「 おかげさまで。 」
彼は年配のマスターに笑顔で答えるとマスターの背中を見送った。
彼女に向かってちょっとグラスを上げると彼はそのグラスを口に運んだ。
彼女のカクテルはマンハッタン。飲みやすいやさしい味だ。
「 いつもね、マスターにいろいろ教えてもらってるんだ。
この前は飲み過ぎだって怒られちゃった。 」
照れくさそうに、それでいてちょっとうれしそうに彼は話してくれた。
彼の話を聞いていると彼がマスターを慕っていることがよくわかる。
この店を見つけた時のこと。
マスターとの出会い。
「 お待たせしました。“結構”美味いパスタ、お持ちしました。 」
マスターも気さくな感じで好感が持てる。
それよりも彼とマスターとの、お互いに対する気持ちが彼女をうれしくさせた。
職場では見せない彼の暖かさが思いやりになって現れているような気がした。
あたしに気を遣ってくれているんだ。
Posted at 2008/03/10 08:02:33 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記
2008年03月09日
彼との待ち合わせの店は、繁華街からは少し離れた場所にあった。
きちんとワックスのかかった木製の階段を下りる。店は地階だ。
「 いらっしゃいませ。」
階段を下りるとそこは店の中、扉はない。
「 こんばんは。あたし、待ち合わせで…」
店の中を見回し彼の姿を探そうとしたその時、背中に彼の声が聞こえた。
「 ごめん、遅くなった。」
良かった、
「 いらっしゃい。ずいぶん久しぶりだね。奥の席、空いてるよ。 」
「 お久しぶりです。いろいろと忙しくて。」
彼はこの店のマスターとも顔なじみらしい。
スキップフロアを1段降りて、彼は彼女の前を隅のテーブルに向かった。
「 食事、まだだよね? ここのパスタ結構美味いんだよ。パスタは?」
「 大好きです。」
「 結構は余計ですよね? 」
彼女に向かってそう言いながら注文を取りにきたマスターに、
彼はメニューを見ずにいくつかの食べ物と飲み物を注文した。
「 よく来るんですか?」
「 ここ? 一人の時はいつもここだ。」
・・・一人でお酒…?・・・
今彼女は、彼女の知らない、彼のプライベートな部分の中に自分がいることに気がついた。
Posted at 2008/03/10 08:00:27 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記
2008年03月08日
メールを読んでくれる人がいるって
それだけでも嬉しいことなんです。
返事もらえるのは、もっと嬉しいです。
ありがとうございます。
彼女は彼からのメールの返事を打ち終えると手を止めた。
・・・これだけじゃ、あたしの想いは伝わらない・・・
彼女にとって彼はすでに、同じプロジェクトの主任という立場をはるかに越える存在になっていた。
・・・あなたの声が聞きたい・・・
・・・あなたに逢いたい・・・
・・・あなたが・・・
すべての自分の想いを伝えてしまいたかった。
自分のすべてをさらけだしてしまいたかった。
でもそれはしてはいけないような気がして、彼女は想いを飲み込んだ。
相談があります。
俺でよければ。
メールでうまく伝える自信はありません。
できれば逢って話がしたいのですがだめですか?
だめですか?って聞かれて、だめだとは言えないな。
明日はちょっと無理だけど、明後日の夜、都合は?
大丈夫です。
それじゃ、明後日。
ありがとうございます。おやすみなさい。
Posted at 2008/03/08 19:06:49 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記
2008年03月07日
彼との軽井澤は、彼女にとって大きすぎる出来事だった。
それからも彼とは毎日顔を合わせているが、彼の彼女に対する態度には何も変化はなかった。
それは彼女にとって、うれしいことでもあったが、不安なことでもあった。
軽井澤、楽しかったです。ありがとうございました。
彼女はもっと伝えたい気持ちがあるはずなのに、言葉にできないことがはがゆかった。
君が楽しかったのなら良かった。
心配してたんだ。退屈だったかもって。
それに最高の誕生日プレゼントまでもらっちゃって。
本当にうれしかったよ。
あれから彼の手首には彼女からの時計があった。
彼女がイメージしていたより、それは彼に似合っていた。
あたしからのメール、迷惑じゃないですか?
迷惑じゃない、という答えを期待して彼女はメールを送った。
迷惑だ。って言ったらメールして来ないの?
相手にとって迷惑か迷惑じゃないかということは、
送る側の単なる自己満足なんじゃないかと思うんだ。
相手に何か伝えたいって思うからメールするんじゃない?
相手にとって自分のメールがたとえ迷惑であっても、
メールは、相手に届けたいと思うその人の気持ちなんだと思うよ。
だから、
君からのメール、俺はうれしい。
彼女は彼からのメールを何度も何度も読み返した。
涙が出てきた。電話でなくて良かった。きっと声にならない。
Posted at 2008/03/07 08:10:22 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記
2008年03月06日
仕事は何とかなる。なんとかするよ。
今まで頑張ってきたんだから、一日くらいさぼろうよ。
さぼるなんて良い言い方じゃないけど、
だったら頑張ったご褒美っていうのは?
たまには、息抜きも、ご褒美もいいんじゃないか?
・・・彼の言っていることが正しい・・・
固く凍った気持ちが溶けていくようだった。
彼女はそう思えた自分がちょっぴりうれしかった。
彼女の頭の中が彼の言葉でいっぱいなのも彼女には心地良かった。
彼が自分を気にしてくれている。彼が自分のために大事な時間を使ってくれる。
自分のために…
あたしは、大丈夫です。
嬉しい気持ちを抑えて彼女はメールを送った。
そう、良かった。
それじゃ今度の休みに。
・・・この歳になってこんなにドキドキするなんて・・・
メールを送信した彼は大きくひとつ息を吐いた。
・・・軽井沢に行こう・・・
Posted at 2008/03/06 08:01:52 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記