2008年04月15日
暖かいカフェの中は時間がゆっくり流れている。会話には気にならない大きさで聞こえているのはシャンソンのようだ。アールヌーヴォー調のインテリアと相まって、部屋の雰囲気を和ませている。
ずいぶんゆっくりしてしまった。頼んでおいたリングも仕上がっている頃だろう。
「 そろそろ、行ってみようか 」
「 うん、楽しみ 」
外はすっかり暗くなってしまった。クリスマスのイルミネーションはさっきよりも明るさを増して輝いている。降り積もった雪が、さまざまな音を包み込んでしまっている。あたりの静けさは、まるで別の世界にいるような錯覚を起こさせる。奇麗に雪の片付けられた店の玄関への階段を上がる。
「 いらっしゃいませ。できあがっていますよ 」
サイズを合わせてみる。ぴったりだ。
「 とても良くお似合いです 」
お世辞には聞こえない。
「 良く似合うよ 」
「 ありがとう 」
幻想的な森の中に建つアンティークな建物の中で、そのスワロフスキーは、このリングのためにカットされたかのような輝きを放ち、四ツ葉をかたどっている。
「 メリークリスマス 」
「 メリークリスマス 」
雪の軽井澤。二人のクリスマスが始まろうとしていた。
Posted at 2008/04/15 08:03:10 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記
2008年04月14日
「 奇麗だね。でも俺に? 」
「 そう。白いリンゴなら、コンピューターとお揃いでしょ? 」
確かに使っているコンピューターとはお揃いだ。
「 私はリングをいつもしてるから、
この白いリンゴをいつもそばに置いておいて 」
「 わかった、そうしよう 」
レジで精算を済ませ白いリンゴの入った包みを差し出してくれる。
「 メリークリスマス 」
「 ありがとう 」
店を出てアールヌーヴォー調のアンティークなインテリアが置いてあるカフェに入る。コーヒーの香りが漂っている。
「 今日のお楽しみの美味しいケーキだよ 」
「 ケーキのこと、忘れてた。今日は最高のクリスマスだわ 」
入口のすぐ左側のちょっと個室のようになった一角に席をとる。
「 ブレンド 」
「 私はダージリンとバナナケーキ 」
バナナケーキは自家製だ。運ばれて来たバナナケーキは生クリームがたっぷり添えられ、バナナの優しい香りがしている。ブレンドは苦みが強い。酸味はマイルドで嫌いな味ではない。
「 美味しい! 」
「 自家製のバナナケーキで評判らしいよ 」
窓の外は雪景色だ。避暑地としての軽井澤は、冬もまた、たくさんの人が訪れる。
Posted at 2008/04/14 08:11:33 | |
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軽井澤物語 (08/2/19~08/5/30) | 日記
2008年04月12日
柔らかい布の敷かれた箱には30個ほどの同じタイプの石が並んでいる。
「 このタイプのアンティークスワロフスキーは
もうこれしかないんですよ 」
現在では原料のガラスがないため、同じようなカットをしてもそれはアンティークのスワロフスキーではないらしい。それは現代スワロフスキーと呼ばれ、手頃な価格で購入することができると言う。一見同じようなスワロフスキーでもアンティークスワロフスキーとそうでないものとでは、まったく違うものになってしまう。
「 それじゃこの四つで 」
円錐を重ねたような四つのアンティークスワロフスキーを組合せ、四ツ葉のクローバーをかたどる。白いアンティークビーズでつなぎ、リングにする。サイズはビーズの数とラインの締め方で調節できるようだ。
「 少しお時間をいただくようになるんですが 」
すべてを手作業で行うため、1時間程度の時間がかかると言う。細かい作業だ。
「 カフェもございますし、現代スワロフスキーの店も別にありますので 」
できあがりを楽しみに、カフェに向かう。
「 もう一軒のお店にも行ってみたい 」
カフェの横を回り込むように小さな小道を入る。木々に縁取られた絵ハガキのように、林の中に白い壁の建物が見えて来る。ここが現代スワロフスキーの店のようだ。クリスタルパール、人気の商品らしいペンダントトップも飾られている。
「 これ、どう? 」
そこにはリンゴの形をしたペンダントトップがある。さっきの店にはなかったタイプだ。
Posted at 2008/04/12 08:22:59 | |
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2008年04月11日
「 いらっしゃいませ 」
店内のスワロフスキーの輝きに心を奪われる。どこかしら懐かしいような感じのする輝き。
「 こちらには、アンティークスワロフスキーを置いてございます。
ごゆっくりご覧下さい 」
アンティークスワロフスキーはビンテージスワロフスキーともオールドスワロフスキーとも呼ばれ、コンディションのよい素材は年々なくなっているそうだ。未使用で残っているものは少ない。国際的評価はきわめて高く、ガラスの森とも呼ばれるこの店では、スワロフスキーとヨーロッパのアンティークビーズをアクセサリーに組み上げている。使われているパーツは、すべて50年から100年前の素材ということになる。
「 これを探してたの 」
指差す先には四ツ葉のクローバーをかたどったリングが置かれている。
店内はそれほど広くないが、いろいろな種類のスワロフスキーが並べられている。
クリスタルガラスのクリスマスツリー。十字架をかたどったペンダント。さまざまな色、さまざまな形。
そのリングの前を動かない。ずっとそのリングを見つめている。
「 どうした? 」
「 これが欲しかったの 」
後ろから声をかけても、リングを見つめたままだ。少しも動かない。動けないのかもしれない。
「 ガラスを選んでいただいて、
同じタイプのリングをお作りする事もできますが… 」
店員に声をかけられて、初めて笑顔で振り返った。さっそく石選びが始まる。店の中を歩き、いくつかの候補の中からクリアのガラスの中に白と薄紫色の模様が入った石を選んだ。プレゼントのパシュミナのストールと同じ色だ。ただ、そこからが大変だった。石はすべて違っている。薄紫色の模様の入り方、白と薄紫色の模様のバランス。大きさも微妙に違う。
「 石、二つ選んで。もう二つは私が選ぶから 」
Posted at 2008/04/11 07:34:48 | |
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2008年04月08日
地下の駐車場は空きスペースが多くなってきている。渋滞をさけて帰ろうとするとこの時間帯になる。
あと30分もすれば帰りのラッシュの列に並ばなければならないだろう。
駐車場からは簡単には出られない。目の前のプリンス通りに出ることさえも大変なはずだ。
プリンス通りを北に向かう。まだ渋滞の前だが、交差点は混雑が始まっている。
新幹線としなの鉄道をアンダーパスし、新軽井沢の交差点を直進する。
道幅が狭くなり、あたりの雰囲気は一変する。助手席から心配そうな声が聞こえる。
「 これからどこへ? 」
「 どこだと思う? 」
「 ケーキ! 」
「 だけじゃないんだ、お楽しみに。 」
「 ? 」
以前来た時よりも雪が多い。あれから何度か降雪があったようだ。
モノクロームの写真を切り取ったような景色がフロントガラスに広がる。
「 さあ、着いたよ 」
車を駐車場に入れる。手前のレンガの建物を左に見て、車を奥に止める。
右奥の黒い壁の建物に向かう。階段を三段上り店の玄関へ。
ガラス張りのドアから建物の中の様子が分かる。
「 スワロフスキー? 見つかったの? 」
「 そう言えば、見つけたって話してなかったね 」
「 見つからなかったのかと思ってた 」
「 見つからなかったとは言ってなかっただろ? 」
「 見つけてくれたんだ。ありがと 」
唇が重なり合う。
「メリークリスマス 」
「 うん、メリークリスマス 」
Posted at 2008/04/08 08:11:24 | |
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