2007年12月12日
シャア 「このコロニー、スウィート・ウォーターは、密閉型とオープン型を
繋ぎ合わせて建造された、きわめて不安定な物である。
それも、過去の宇宙戦争で生まれた
難民の為に急遽、建造された物だからだ。
しかも、地球連邦政府が難民に対して行った施策はここまでで、
入れ物さえ作ればよしとして、彼らは地球に引きこもり、
我々に地球を解放することはしなかったのである」
スウィート・ウォーターの港口には十隻近い艦艇が停泊し、各艦艇のモビルスーツ・デッキにはシャアの立体映像が投影されて、それを中心に上下左右に、パイロットやメカニック・マンたちが整列してシャアの演説を聞いていた。
シャア 「私の父、ジオン・ダイクンが宇宙移民者、すなわち
スペースノイドの自治権を地球に要求した時、
父ジオンはザビ家に暗殺された。
そしてそのザビ家一統はジオン公国を騙り、
地球に独立戦争を仕掛けたのである。
その結果は諸君らが知っている通り、ザビ家の敗北に終わった」
コロニー内の桟橋にもレウルーラ以下、三隻の艦艇が係留されて、その甲板にも、おびただしい数の兵員が、立体映像を見上げていた。
シャア 「それはいい。
しかしその結果、地球連邦政府は増長し、連邦軍の内部は腐敗し、
ティターンズのような反連邦政府運動を生み、
ザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁ともなった。
これが、難民を生んだ歴史である。
ここに至って私は、人類が今後、絶対に戦争を
繰り返さないようにすべきだと確信したのである。
それが、アクシズを地球に落とす作戦の真の目的である。
これによって、
地球圏の戦争の源である地球に居続ける人々を粛清する」
演台の背後には、高官たちの席があり、その中にはクェスもいた。
クェス 「あたし、みんな知っていたな」
ジオン兵達「おおーっ」
ジオン兵A「大佐ーっ」
ジオン兵B「スウィートウォーターの救世主だ」
ジオン兵達「ジーク、ジーク、ジーク、ジーク」
クェス 「ルナ2で武装解除するって話、嘘なのかな?」
シャアはその歓呼を軽く手で征して言葉を続けた。
シャア 「諸君、みずからの道を拓く為、
難民の為の政治を手に入れる為に、
あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい。
そして私は、
父ジオンのもとに召されるであろう 」
ジオン兵達「おおーっ」
シャアの最後の言葉に、再度、拍手と喚声が上がり、シャアはネオ・ジオン総帥のマントをなびかせて、演台を降りた。
* * *
ホルスト 「レウルーラですな。しかし、こんなダミーで騙せますか?」
シャア以下の高官たちは、港口が展望できるラウンジに立って、窓の外にあった岩のようなものがブブッと膨らみだすのを見ていた。その中の一つがシャアの旗艦であるレウルーラそっくりに膨らんだのを見て、ホルストが不安そうに言った。
シャア 「海軍の連中は、船の数が合っていれば安心するものさ」
ホルスト 「ダミー混じりの艦隊でルナ2を叩き、
その間に大佐御自身がアクシズに進攻なさる。
うまくすれば、ルナ2の核兵器まで使えますな」
シャア 「ああ、アクシズを加速するのにも、地球を汚染させるにもな」
シャアは出撃する艦隊に敬礼を送った。
Posted at 2007/12/12 08:06:05 | |
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2007年12月11日
パイロットの宿舎では出撃に備えて、気の早い祝勝パーティーが開かれていた。
ギュネイ「欲求不満のはけ口を、戦争に向けてるだけなんだ」
クェス 「何それ?」
ベランダのテーブルにギュネイとクェスが座っていた。
ギュネイ「大佐みたいなのが頭に来ると、コロニー潰しなんかやるんだよ。
そんな時に、大佐を止める力がいるだろ?
だから俺はニュータイプに強化してもらったんだ。
両親はコロニー潰しでやられちまったからな」
灯りを消した部屋の中から、男女の声が漏れてくる。
ギュネイ「スケベども」
クェス 「ふーん、エスパーになりたいんだ」
ギュネイ「ああ。だけど、ニュータイプ研究所の強化じゃ、
クェスみたいにはなれないってわかったよ。
だから俺、クェスと付き合ってクェスを研究させてもらう」
クェスは口にくわえていたストローを吹き出した。
クェス 「付き合いたいって事?」
ギュネイ「年が気になる?」
クェス 「ああ、あんた、あたしが大佐好きだからやきもち妬いてんだ」
ギュネイ「違うって、あっ、…クェス」
クェスはいつの間にか灯りのついた部屋の中に戻っていった。
* * *
ホンコンのスラム化した高層アパートのなかほどの階層に、紙包みを持ったミライが上ってきて、息をついた。アパートにはエレベーターもないらしい。下の方では、子供たちの声が聞こえる。
チェーミン「じゃあ、当分シャトルは出ないの?」
ミライ 「シャトルの会社はホンコンを逃げ出すって」
ミライは、買い物を入れた包みの中身を整理しながら、チェーミンに言った。
チェーミン「和平するってニュース、嘘なの?」
ミライ 「今度はホンコンが狙われているのよ」
チェーミン「隕石が落ちるの?」
ミライ 「シャアならやるわ。母さんも昔戦った事があるからわかるの。
地球の人は荒れるだけでしょ、シャアは純粋すぎる人よ」
そのシャアは、出撃に向けて、ネオ・ジオンの全艦隊とその将兵に対して、最後の訓示をしていた。
Posted at 2007/12/11 08:07:44 | |
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2007年12月10日
ナナイ 「アクシズを地球にぶつけるだけで、
地球は核の冬と同じ規模の被害を受けます。
それは、どんな独裁者でもやったことがない悪行ですよ」
ナナイはリビング・ルームのバーで酒の用意をしてくれたが、言葉は多かった。
ナナイ 「それでいいのですか?シャア大佐」
ナナイは、グラスをシャアの左のサイド・テーブルに置いて、自分のソファの肘掛けに腰をひっかけるようにして言った。
シャア 「いまさら説教はないぞ、ナナイ。
私は、空に出た人類の革新を信じている。
しかし、人類全体をニュータイプにする為には、
誰かが人類の業を背負わなければならない」
ナナイ 「それでいいのですか?」
ナナイは歩きながらシャアに背を向けたままで言った。
ナナイ 「大佐はあのアムロを見返したい為に、
今度の作戦を思いついたのでしょ?」
シャア 「私はそんなに小さい男か?」
ナナイ 「アムロ・レイは、やさしさが
ニュータイプの武器だと勘違いしている男です。
女性ならそんな男も許せますが、大佐はそんなアムロを許せない」
シャアはグラスの中の琥珀の液体を見つめて、ナナイの話は聞いていなかった。
シャア 『ジオン独立戦争の渦中、
私が目をかけていたパイロット、ララァ・スンは、
敵対するアムロの中に求めていたやさしさを見つけた。
あれがニュータイプ同士の共感だろうとはわかる』
シャアの見ている光景は、あの初期のプロト・タイプのガンダムと、緑色のモビルアーマー、エルメスが接触している光景だった。
シャア 「む?」
アムロ 「ララァ」
ララァ 「アムロ」
シャアは、攻撃し合うガンダムとエルメスの間に、パッと人のイメージが浮かぶのを見てしまった。ララァとアムロの姿だった。
シャア 「 ララァ、敵と戯れるなっ! 」
ララァ 「大佐、いけません」
シャア 「何?」
シャアは激し、赤いモビルスーツ、ゲルググをガンダムに向けた。その時、アルティシアの乗るコアファイターが二機の間に突入してきた。
シャア 『あの時、妹のアルティシアがいなければ』
シャアはゲルググを突進させ、エルメスが、ガンダムとゲルググの間に入る。そのためゲルググを攻撃しようとしたガンダムのビーム・サーベルが、エルメスのコックピットを貫通してしまった。
ララァ 「ああーっ」
アムロ 「しまった」
シャア 「ララァ」
ララァとアムロの絶叫がシャアの耳の中でからんで、閃光がそれらすべてを打ち消して宇宙に散った。
シャア 『ああ、私を導いて欲しかった。
なまじ、人の意思が感知できたばかりに』
琥珀を見つめながら、シャアは思った。
ナナイ 「どうなさいました?」
ナナイの胸元の肌がシャアの視界に広がっていた。
シャア 「似過ぎた者同士は憎みあうということさ」
ナナイ 「恋しさあまって憎さ百倍ですか?」
シャア 「ふん、まあな。明日の作戦は頼むぞ」
シャアは、ナナイの胸元に、手にしたグラスを触れさせた。
シャア 「私はアクシズに先行してお前を待つよ」
その冷たい感触に、ナナイは上体をチラッとふるわせてから、シャアのグラスを受けとった。
ナナイ 「クェス、よろしいんですね?」
立ち上がってドアに向かうシャアの背中にナナイが聞いた。
シャア 「あれ以上の強化は、必要ないと思うが?」
ナナイ 「はい。あの子はサイコフレームを使わなくとも、
ファンネルをコントロールできるニュータイプです」
シャア 「そうだろうな」
シャアはそう言い残して部屋から出て行った。ナナイは、手に残ったシャアのグラスを見つめた。
ナナイ 「…、ジオン・ダイクンの名前を受け継ぐ覚悟が、
大佐を変えたと思いたいが。くそっ」
ナナイは手にしたグラスを放り投げた。
ナナイ 「あんな小娘に気を取られて」
グラスは、残った氷と液体をまき散らして、たいした音も立てずに、厚い絨毯の上に転がった。
Posted at 2007/12/10 07:33:53 | |
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2007年12月08日
スウィート・ウォーターはすべてが昔のものの再生品か、急造のもので満ちていた。二十世紀的にいえば、プレハブ的というのが近い表現だろう。それでも港口からシリンダー内壁の山の部分には、自然らしさがあった。三輛の車両で編成されたリニアカーがその山の斜面を降下して、街の区画に滑り込んでいった。
男A 「総帥が乗っているって?」
男B 「前の方さ」
車両はかなり混んでいた
老婆 「お願いします」
男C 「ほら」
男D 「総帥にだよ」
そんな言葉にのって、小さな花束が、車両の客たちの手から手に移動していった。
男E 「総帥に」
その花束が行くところに、シャアがクェスとギュネイを伴って立っていた。周囲の客たちが席を譲ることはない。シャアの習慣であるからだ。
クェス 「大佐に?」
男E 「向こうから、総帥にと」
シャア 「ありがとう」
乗客たちは、車両の中央を開いて、シャアに花束を贈った中年の婦人をシャアに見えるようにした。
老婆 「ジーク・ジオン」
その婦人は、右手をあげて毅然としたコールを送ってくれた。それに和して乗客たちも声をあげた。
乗客達 「ジーク・ジオン、ジーク・ジオン、ジーク・ジオン」
シャアはスウィート・ウォーターに進駐すると同時に、リニアカーに乗る習慣を作った。多少見え透いていたが、このシャアの行動は、スウィート・ウォーターの難民に圧倒的に支持され、ネオ・ジオンの艦隊を短期間に、受け入れさせる素地になったのである。アコーディオンの伴奏で乗客たちが歌っている。
乗客達 「星の光に 思いをかけて 熱い銀河を
胸に抱けば 夢はいつしか この手に届く
Char's believing ours pray pray
Char's believing ours pray pray」
この単純で詩にもなっていないような歌が、このところ急速に流行して、今やネオ・ジオンの国歌的位置を占めようとしていた。リニアカーはスウィート・ウォーター唯一の高級住宅区の丘陵にさしかかり高架上の駅でシャアたちを降ろした。シャアは乗客たちに、微笑みと敬礼を返して、リニアカーの発車を見送った。
クェス 「ふふっ、大佐は格好だけじゃないんですね」
走るリムジンの窓から所々に灯りを見せる住宅を眺めていたクェスがシャアに向き直って言った。
シャア 「おかしいか?」
隣に座るシャアだ。
クェス 「いいえ。それで、地球を潰すんですか?」
シャア 「潰しはしない。地球にはちょっと休んでもらうのさ」
クェス 「ああ、そういうことですか」
クェスは、シャアのその表現をとても優しいと感じた。
シャア 「訓練で頭痛は出なかったのか?」
クェス 「ええ、勿論」
リムジンは、丸いガラス球の門灯を持った住宅の前で停車した。玄関までのストロークも長く、奥には闇しか見えない。
シャアは車から降りると、助手席のギュネイに声をかけた。
シャア 「ギュネイ、明日からの作戦を頼むぞ」
ギュネイ「はっ」
クェスはウィンドウを下げ、シャアを見上げた。
シャア 「大丈夫か?明日からの作戦は遊びじゃあない」
クェス 「勿論、あっ」
シャアが、窓から出ているクェスの手の甲にキスをした。
クェス 「大佐」
シャア 「今夜はよく休め。ゆけ」
シャアは車を見送ってから、玄関へ続く暗い道を歩んだ。
Posted at 2007/12/08 07:54:23 | |
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2007年12月07日
クェスの案内された総裁室は本物のベルベットが貼られ、本物の木組みの柱と腰回りで豪華に飾られていた。
シャア 「地球を嫌うとはよほど嫌な思い出があるんだな?クェス・エア」
クェスの身体が、部屋の中央あたりで横になって浮いていた。
シャア 「なんで、私に興味を持ったのだ?」
ワイシャツの上にガウンを羽織ったシャアが振り返って聞いた。
クェス 「あなた、人の魂は地球の重力に引かれるって言ったでしょ、
あれ、あたしに実感なんだ。でもさ、それがわかる人って
不幸な人じゃないかって、気になったの」
シャア 「私は信じる道を進んでいるつもりだ」
クェスは考え深げに、言葉を継いだ。
クェス 「あたし、白鳥が飛ぶのを見てアムロが叫んで、
あたしも叫んだわ。そうしたら、あなたが現れた」
シャア 「それでアムロ達を裏切ったのか?」
クェス 「あはは、あの人達とは偶然知り合っただけ。
まだ友達にもなっていなかったわ」
床にバウンドしたクェスが再び天井に向かった。
* * *
ジャンク屋「宇宙用の免許取るったって大変だぜ」
宿舎近くのジャンク屋の中庭で、ハサウェイはモビルスーツの小型版と言った感じのマシーン「メッド」に乗って、それを立たせたところだった。
ハサウェイ「コロニー公社に勤めりゃ、
コロニーの修理で食いっぱぐれないだろ。
実技に強くないと。んん、…わっ、いてっ」
開いていたキャノピーがハサウェイの頭に向かって閉まった。
ジャンク屋「ローンは50ヵ月でいいんだな?」
ハサウェイ「ええ?ああああっ」
ジャンプしたメッドが着地に失敗した。
ハサウェイ「うわっ、いてえ」
* * *
ハサウェイがそんな事をしていた頃、クェスはハサウェイが想像できないレベルでモビルスーツを操っていた。
シャア 「四、五回であれだ。本物だな」
ナナイ 「はい、クェスの脳波とサイコミュとの連動は完璧です」
ブリッジの後方に立つシャアにそう言ったナナイは正面のコンソール・パネルの方に向き直った。
ナナイ 「クェス、ターゲットはわかりますね?」
クェス 「はい」
ナナイ 「あとはファンネルが自動的に進入します」
クェス 「はい」
弾けるようなクェスの声がブリッジに響いた。
ナナイ 「ファンネル放出」
クェス 「はい」
クェスの返事と同時にクェスの乗るヤクト・ドーガから4個のファンネルが放出され、フラフラと浮遊した。
クェス 「あたしの脳波だけで、あれがコントロールできるの?」
ナナイ 「ターゲットをイメージしろ」
クェス 「イメージ?… 行け、ファンネル達 」
クェスの思い切ったかけ声に乗って、ファンネルは前方に疾駆しはじめた。
ナナイ 「あとはファンネル達に攻撃命令」
クェス 「ファンネル?」
両手を胸の前で組んだままのクェスの脳裏に、数本の閃光が走るイメージが飛び込んできた。
クェス 「あ、これ?」
クエスが叫んだ。
クェス 「ファンネル」
ファンネルがターゲットに向かって走り、一瞬にしてターゲットを撃破した。
クェス 「わあ」
ヤクト・ドーガの中のクェスの瞳が輝いた。
シャア 「 あの子と同じだ 」
ブリッジのシャアは独り呟いた。
Posted at 2007/12/07 07:45:05 | |
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