2007年12月06日
月を背景にした暗唱空域には、破壊されたコロニーの残骸やら宇宙戦争のゴミがたまっていた。
シャアの乗るランチに被いかぶさるよう載っていたハイザックのモノ・アイが灯った。ランチとハイザックをつなぐチューブの中を、クェスが私服のまま、ハイザックのコックピットへ流れ、ギュネイの膝の上に座った。
ギュネイ 「閉じるぞ」
ギュネイはコックピットのハッチを閉じるとハイザックをランチから離した。全視モニターに離れていくランチを見せた。
クェス 「…浮いている」
ギュネイ 「これで」
クェス 「知っている。なんかジェガンより古いけど、わかるわ」
ギュネイ 「ほんとか?」
クェス 「こうでしょ?」
クェスの華奢な手が、左右のレバーを掴んで動かしてみせた。
クェス 「わあー」
ギュネイ 「ランチを正面に入れてみろ」
クェス 「ん」
と、突然クェスはレバーを引いた。機体にGがかかり、周囲のディスプレーの光景がスーッと流れた。
ギュネイ 「ほんとに操縦初めてか?」
さすがにギュネイは、感嘆した。
クェス 「そーれ、トンボ返りー」
そのトンボ返りをするハイザックが、ランチのコックピットの正面に見えた。
パイロット「あ、あれ」
ホルスト 「クェスですか?」
シャア 「ああ、才能があるようだな」
シャアは自分自身でも確認するようにホルストに言った。
パイロット「出迎えのムサカです」
パイロットのコールに、一同が一方を見ると、ネオ・ジオンの艦艇ムサカが、ストロボ発光をしているのが見えた。ハイザックがドーッとテール・ノズルの光を大きくして、その方向に向かった。
クェス 「ぎゅーん」
ギュネイ 「よ、よせ」
後ろに座るギュネイは慌てたが、クェスは自分の操縦するハイサックをムサカに突進させて、そのブリッジをかすめさせた。
クルー 「なんだ?」
クェスは、ハイザックを急速ターンさせると、サイドムサカのブリッジに急接近した。
ギュネイ 「許可があるまではもう近づくな」
クェス 「いいの」
堪らずにギュネイはクェスの腕を掴んで、操縦レバーから引き離した。
ギュネイ 「勘弁してくれよ。そうでなくても俺は、
ニュータイプ研究所出身だってやっかまれてるんだからさ」
クェス 「…、あたしがいるじゃない、ふふっ」
ランチは戻ったハイザックとともに、ムサカに収容された。
Posted at 2007/12/06 07:55:33 | |
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2007年12月05日
工業用ブロックにギュネイの操るハイザックが入って来た。
メカニック「いい趣味してるじゃないか。いくらなら売る?」
ギュネイ 「冗談言わないでくれよ、ちょっと売れないね」
本気で聞く監視員にギュネイは愛想よく答えた。
パイロット「いらっしゃいました」
ホルスト 「間に合ったか」
無重力の工業区画を過ぎたビルにランチが待っていた。ランチのハッチを開いて待っていたホルストが,いかにも安堵したという声で迎えた。
シャア 「我々は空に出るが、どうするね?クェス・エア」
上体をかがませたハイザックのマニュピレーターの上で、シャアは、クェスが自己紹介した名字が嘘なのを承知で呼んでやった。
シャア 「軍の動きはどうか?」
パイロット「まだありません」
その時になってやっとクェスが返事をした。
クェス 「ラー・カイラムには嫌な女がいるんです」
シャア 「そうなのか。じゃ」
マニュピレーターを蹴ってシャアがランチに向かって流れると、クェスも、それに続いていった。ギュネイは、ハイザックをランチ後部のコンテナの上に接触させると、コックピットとコンテナのハッチの間をチューブでつないだ。そして、鉱物搬出入ハッチのエア・ロックが開くと、ハイザックを背負ったランチが、宇宙に滑り出した。ランチとハイザックのテール・ノズルが同時に噴射すると、彼等はロンデニオンから離脱していった。
* * *
アデナウアーは巡洋艦クラップに登るタラップのリフト・グリップを掴んで登りはじめた。ブライトもワイヤー・リフトを使って、クラップの舷側にワイヤーの先端を吸着させると、アデナウアーより先に甲板にあがった。
アデナウアー「なんだ?」
ブライト 「あなたはシャアの本性がわかっていませんよ」
アデナウアー「隕石のアクシズを売った金で
連邦政府の福祉政策が充実するんだぞ。
でなければ、シャアはコロニー潰しをかけると言ったんだ」
アデナウアーは激して、必要以上の大きなジェスチャーでブライトに向かって喚いた。
ブライト 「シャアはコロニー潰しはしません、
地球に残ったあなた達を潰すだけです」
アデナウアーは参謀本部の席に座るのが仕事だと思っている男である。それが久しぶりに交渉事をしたのである。たまの仕事に、自信を持つのは当然だった。ブライトごとき一艦長に意見されるのは、なんとしても我慢ならなかった。
アデナウアー「私はルナ2に行って武装解除の受け入れ準備をさせる」
ブライト 「艦隊の武装解除?
なんで我々ロンド・ベルにやらせないんです?」
甲板を蹴ってブリッジに流れたアデナウアーは、案の定バランスを崩し、士官の手を借りるはめになった。
アデナウアー「ああああっ…」
士官 「お気をつけて」
アデナウアー「…、あ、電話、借りられんか?」
助けてもらっておいて、アデナウアーは壁のインターカムを見つけると士官に礼も言わずにそう言った。
アデナウアー「コロニーの近くにシャアの艦隊は呼べんよ」
ブライト 「ではロンド・ベルは、独自の行動を取らせていただきます」
ブライトは、受話器を耳に当てたアデナウアーにかぶせて言った。
アデナウアー「当たり前だ。貴官らが地球の危機と判断したらいつでも動け」
そして困ったように付け加えた。
アデナウアー「クェスはなんでホテルにおらん?
艦長、伝言を頼む、数日ホテルで待っているようにと」
ブライト 「はい」
どんなに呆れても、ブライトは敬礼だけは忘れなかった。
Posted at 2007/12/05 07:39:35 | |
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2007年12月04日
アムロ 「シャア」
ハサウェイ「クェス」
クェスは走った。背中でアムロやハサウェイの声がしたが、クェスは一緒に走っている人が、シャアであるという事実に感動して、アムロやハサウェイのことを忘れた。突然、強圧的にモビルスーツの音が迫るのが聞こえた。
ギュネイ 「大佐」
シャアとアムロの間に、マニア用の派手な塗装をしたハイザックが降下してきた。革の飛行帽とガラス製のゴーグルをして、いかにもマニアという風に変装したギュネイ・ガスがコックピットにいた。
ハサウェイ「うわっ」
アムロ 「うわっ」
ハサウェイ「クェス」
ハイザックのマニュピレーターが、シャアとクェスをすくうようにして、アムロとハサウェイの前で、テール・ノズルを噴かした。
クェス 「ハサウェイ」
ハイザックの出す排気ガスの直撃で、アムロの身体が浮き、ハサウェイの身体が飛んだ。
アムロ 「シャア」
アムロの声はハイザックの音響にかき消された。
* * *
カムラン 「お忙しいところを」
ブライト 「やっぱりあなたですか、カムランさん」
カムラン 「どうも」
ブライトは部屋に入ると、来客があのカムラン・ブルームだと知って、手を差し伸べていった。固い握手だった。
ブライト 「会計監査局のあなたが、なんでしょう?」
カムラン 「ミライ、ああいえ、奥様はお元気でしょうか?」
ブライト 「この半年ほど会っていません。彼女はずっと地球なのです」
カムラン 「そうですか」
カムランは、まだ、説明するための言葉を見つけていないようだった。
ブライト 「何か?」
カムラン 「どなたにお話をしたらよいか迷いましたが、
シャアがこのコロニーにいるのです」
今度は、ブライトが息を呑む番だった。
ブライト 「…なんです?」
カムラン 「シャア・アズナブルがこのコロニーで、
連邦政府の高官と会ったのです」
ブライト 「アデナウアー・パラヤにですか?」
カムラン 「彼だけではありません、ほかにも数人。
連中はシャアと和平が成立したと考えているのです」
ブライトは立ち上がって言った。
ブライト 「そりゃあ」
Posted at 2007/12/04 07:31:30 | |
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2007年12月03日
シャアは興奮した馬を宥めながらも、その馬首をめぐらした。アムロは一度踏んだブレーキを離すと、アクセルを踏みつけた。
側近 「どうなさいました?」
シャア 「ギュネイを呼べ」
側近 「はっ」
シャアに並進する側近はすぐに右手に下っていった。出足の悪いエレカに苛立ちながら、アムロはシャアを追った。
アムロ 「なんでここにいるんだ?」
シャア 「私はお前と違って、パイロットだけをやっているわけにはいかん」
アムロ 「なんだと」
シャアの馬は牧場の小川にかかる橋を、飛び越えるように渡った。小川に突っ込みそうになったエレカにバックをかけ、アムロたちの乗るエレカはシャアの後を追って橋を渡った。アムロは全速でエレカを走らせたが、密生した林の中のシャアには近づけない。迂回せざるを得なかった。
クェス 『 あれが、シャア 』
クェスは木々の間に見え隠れする青年の姿に見とれた。
アムロ 「俺達と一緒に戦った男が、なんで地球潰しを?」
シャア 「地球に残っている連中は地球を汚染しているだけの、
重力に魂を縛られている人々だ 」
シャアの声が林の木々の間に聞こえた。
クェス 『…、だから夫婦でもいがみあっていられるんだ。あっ』
クェスはシャアの言葉に探していた解答が見つかった思いがして、胸が一杯になった。と、突然林が切れて、移動する牛の群れにシャアの馬が突入した。馬がいななき、牛の激しい鳴き声が、エレカの前に広がった。アムロがエレカを牛の群れに突っ込ませると牛の群れは左に流れた。アムロのエレカがシャアに追いついた。
アムロ 「シャア!」
シャア 「うっ」
アムロが、そう叫んで、エレカから馬上のシャアに飛びついた。ハサウェイはあわてて空になったハンドルを掴もうと乗り出したが、クェスは、牧草地に転がった二人の男たちの方に気を取られていた。
シャア 「ええい」
アムロ 「…なんで…」
シャア 「おっ」
二人の男の身体が、芝の上に転がってもみ合った。上に乗られたアムロのパンチで、シャアのサングラスが飛んだ。
シャア 「 世界は、人間のエゴ全部は飲み込めやしない 」
アムロ 「 人間の知恵はそんなもんだって乗り越えられる 」
シャア 「 …ならば、今すぐ愚民どもすべてに
英知を授けてみせろ 」
クェスは、二人の殴り合いを見つめながら、シャアの言葉に同調していた。
クェス 「そうだわ、それができないから…」
アムロは、見事にシャアを投げ飛ばして、立ち上がるや腰にした拳銃を抜こうとした。クェスにはそれがわかった。だから、飛び出した。
アムロ 「…、貴様をやってからそうさせてもらう」
クェスは走った。
クェス 「ええい」
クェスは走りながら、拳銃を抜いたアムロの手を払い、アムロの手から飛び出したその銃を拾ってアムロに向き直った。
アムロ 「あっ」
クェス 「アムロ、あんたちょっとせこいよ」
アムロ 「クェス」
アムロに銃を向けたクェスの手を、シャアの柔らかい手が包んだ。
シャア 「 行くかい? 」
クェス 「えっ?」
クェスの息が、そう返事をさせた。
Posted at 2007/12/03 07:53:26 | |
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2007年12月02日
シャア 「 俗物どもが 」
シャアはホテルの私室から、アデナウアー・パラヤたちのリムジンの列が出るのを見下ろして言った。
シャア 「しかし、ここに我々がいるのを
ロンド・ベルの連中が知ったら、ただじゃすまないな」
ホルスト 「左様ですな」
シャアは部屋の右手に見える牧場を見ながら、ティ・テーブルの上のサングラスを手に取った。
シャア 『 アムロ、私はあこぎな事をやっている、
近くにいるのならこの私を感じてみろ 』
ふと懐かしい男の名前を口にして、シャアは隣の部屋へ向かった。
シャア 「街を行くのはやめるぞ」
ホルスト 「はっ」
隣の部屋に待機していた数人のネオ・ジオン軍の高官たちがドッと立ち上がって、シャアに敬礼をして、一斉に和した。
ジオン高官達「ジーク・ジオン」
シャアも敬礼を返して、彼等の間を歩みながら、返礼した。
シャア 「ジーク・ジオン」
* * *
クェス 「すごーい」
ハサウェイ「わあーっ」
ドレーク・ホテルでクェスを乗せたアムロはエレカを山の方に向けた。百を越える湖の鳥たちが、エレカの足下から飛びたつと、ハサウェイとクェスは歓声をあげた。
クェス 「あの白鳥を追いかけて、アムロ」
アムロ 「ん?」
アムロたちのエレカが、白鳥の飛ぶ湖にさしかかったのは、偶然ではないだろう。アムロはその白鳥の親子の姿の中にララァの面影を見た。
ララァ 『ふふふふふ、ふふふふっ』
アムロは、子供たちの歓声に乗って山の中腹までエレカを進めた。
クェス 「きゃあ、あはははっ、あはは」
エレカがジャンプし、牧草に滑った。エレカが前方の繁みに迫った時、飛び出した騎馬が竿立ちになった。アムロがブレーキを踏むとその拍子にハロが草の上に飛んだ。クェスの身体がハサウェイの方によろめき、ハサウェイが抱くように支えた。
アムロ 「貴様」
いななく馬に跨がっていたのはシャアその人だった。
Posted at 2007/12/02 08:26:51 | |
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